「……武さん、これを」
「サンキュー霞、みんなはどんな感じになったかなぁ……」
「……水代少佐達のXM3の熟練度はヴァルキリーズに匹敵するぐらいになっています。中でも七瀬少尉は凄いです」
「そっか」
「……武さんの教え方が良かったんでしょうね」
「いや、もともとの素質だよ。若い分だけ飲み込みが早いし、それにただ意識を向ける方向が間違っていただけさ、もう大丈夫だ」
「……その言い方、おじさんっぽいです」
「ぐあっ、そ、そうか?」
「……はい」
「とにかく、先に練度を上げた彼女たちがいるだけでも違うはずだ。不測の事態が起きる可能性があるからな」
「……先日のBETA侵攻ですね?」
「ああ、予定の前倒しや予想外の事が起きるかもしれないから、霞も注意するんだぞ」
「……はい、ところで武さん」
「んあ?」
「……婚前旅行がアラスカだって聞いたんですけど?」
「はあっ!?」
「……香月博士が二人で行ってきなさいって……なんか、嬉しいです」
「全然懲りてないんだな、先生は……」
「……武さん?」
「いや、なんでもない。まあ、寒いから風邪引かないようにしないとな」
「……そうですか、でも約束守れそうです」
「あ、あれか」
「……はい」
「白銀、ここがどこだか忘れてなにイイ雰囲気作っちゃってるのよ」
「そうだそうだっ! わたしもつれてけーっ!」
「武様と旅行なんて羨ましいですわ、そう思いませんか月詠?」
「わ、わたしはそのっ、任務が有りますので……」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 48 −2000.9 新設、第133独立部隊アオイ・エンジェルズ−




2000年 9月3日 10:05 横浜基地 第一演習場

いろいろとどたばたした事が多かった横浜基地だけど、一番活気に溢れているのはこの基地だと断言出来るだろう。
イスミ・ヴァルキリーズの本拠地でもあり、極東国連軍の中で一番の実力を持った武の存在が、今まで暗かった世界の情勢を明るく
前向きに照らしているからと誰もが思っている。
そんな中で訓練を積んだ葵達は、確実に自分の力を鍛え蓄えることが出来ていた。
だから今こうして、武を相手に善戦している。

「ちぃ、水代少佐たちの連携はすげーなぁ……ととっ」

XM3搭載の撃震四機で、同じ仕様の撃震で戦う武を追い込んでくる実力は成長の証だった。
しかも自分が教えた七瀬の戦い方が似ていて、思い切りよく突っ込んでは武がひやっとする場面が増えてきていた。
それと葵の判断力はさすがみちるの先輩と言う所かリーダーの資質を持ち合わせているので、的確な指示は見事だった。

「照子、そのまま追い込んでっ」
「了解っ」
「翠子、相手がジャンプしたら頭を押さえて」
「り、了解っ」
「凛、次で仕留めるわよっ」
「了解です」

致命傷は与えられていないが武の機体は所々ペイント弾の塗料が付着していて、回避している方もぎりぎりで効果的な反撃に
武は出られないでいた。

「くっ、撃震も悪くないんだけど、不知火やラプターに比べると反応は鈍いな……でも、このままってわけにも行かないから
いっちょやりますかっ」

今まで回避のみに費やしていた武は、反転すると全力で葵達の間に飛び込んでくる。
弾を避けてちょうど斜線が交差する場所で照子と翠子の射撃が僅かに戸惑った隙を狙って、頭の葵に狙いを絞る。
撃震とは思えない程の機動を見せて葵に迫っていく武を、チャンスと七瀬が背後から斬りかかろうと模擬刀を手にした時、
葵の叫びが響く。

「だめよ、凛っ! それは罠っ……」
「えっ」

ニヤリと口元を歪ませて武は機体を着地させた直後に、ブーストを使ってバク転しながら七瀬の機体を見下ろしながら模擬刀を
頭部に叩き付けてそのまま止まらずに突撃砲を撃ち、七瀬は頭部と動力部破壊判定されて行動不能になる。

「ああっ!?」

七瀬の事で連携が崩れた隙を見逃す武ではなく、体勢を立て直す前に支援砲撃の二人に狙いを絞って武は機体を向かわせる。
後ろから性格に砲撃をしてくる葵を利用して武は技と直線的に動いて、正面から斜線がぶつかることを見越して相手の攻撃も
有る程度コントロールしながら、距離を詰めると狼狽えていた二機を仕留める。

「ああ〜っ!?」
「ううっ……」

そして追いついてきた葵に向かって機体を振り向かせながら大きく横滑りをさせて直撃されないように距離を取ると見せかけて、
今度は機体を側転させるなんて葵に言わせればメチャクチャな動きで突撃砲を撃ちまくり動きを牽制する。

「そんな動きっ!?」

挙げ句の果てに撃ち尽くした突撃砲や手頃な瓦礫を手当たり次第に投げてくる武に遊ばれているのかと一瞬むっとするが、これが
誘いだってすぐに理解した葵は冷静になって模擬刀を手にして勝負を掛ける。

「さすがに引っかからないか、速瀬中尉ならバカみたいに一直線に向かってくるけどなぁ……」

そう呟き武は葵と正面からぶつかり合い、久しぶりに斬り合いに集中する。
月詠には及ばないものの、葵の技量は素晴らしく洗練されていて、XM3の熟練度がさらに研ぎ澄ましているのか息するのを忘れる
ぐらいに打ち合う時間が長くなっていく。
しかし日頃時間を作って月詠との鍛錬をしている成果が、葵の模擬刀を鍔迫り合いから剃らして地面に叩き付けさせると、それを
足で踏みつけて動きを封じた直後に武の模擬刀がコクピットの上をなぞって終了となった。

「ジュリエット隊、全機撃破されました。みなさんおつかれさまです」
「イリーナ中尉もお疲れ様、各機ハンガーへ戻って休憩だ」

通信から聞こえるまだまだ元気な武の声を聞いて、ハンガーに向かう途中で葵達が呟き始める。

「なんか自信なくしちゃうなぁ〜、後一歩なのにいつもこうなっちゃうし」
「詰めが甘いのでしょうか、水代少佐はどう思いますか?」
「そうね、照子も翠子も不安になっているみたいだけど、凛は違うみたいね」
「あ、いえ、ただ何が足りないんだろうなぁって、照子さんの言う通り後少しなんですけどそれが解らなくて……」

そこで照子が何かを思いついたのか、ぱんと手を叩いて叫んだ。

「解ったわっ、わたしたちに足りない物ってきっとアレよ。そう、浪漫よっ!」
「えっと……」
「照子、あなたねぇ……」
「なんで浪漫が関係しているんですかっ!」
「だって白銀少佐にあってわたし達に無い物って言ったら、それぐらい?」
「何がそれぐらいだっ!」

さすがに変な事を言われて黙っていられなくなった武が、みんなの会話に割り込んできて抗議を始める。

「オレはんなこといってねーよっ、それを言うんだったら正樹大尉とか孝之中尉たちだろっ。そもそもオレに恋人はいないぞ」
「またまた〜、今更嘘付かなくてもいいじゃないですか〜」
「あのなぁ……」
「どうなんですか、ピアティフ中尉〜」
「え、わたしですかっ!?」

と、いきなり話しかけられてびっくりしたピアティフは、しどろもどろになって答える顔は少し赤い。
その表情にぴーんときてニヤリと笑った照子は、ここが勝負所と突っ込んでくる。

「え、えっと、それはその……あの……」
「白銀少佐は否定しているけど、その辺はどうなのかしら、ピアティフ中尉?」
「変な事を聞くなよ、イリーナ中尉に失礼だろ」
「さあさあ、どうなのかしら?」
「そのわたしは……わたしは全然OKですっ」
「へっ?」
「はっ!? い、いい今のは何でもないですっ、忘れてくださいっ」

武も見たことがないぐらいの驚きを見せて、一生懸命今の言葉否定しようとするが、すでに遅くモニターの向こうでは
大歓声と拍手が起こっていた。
周りにいたオペレーターたちからピアティフは拍手と歓声ではやし立てられて、更に真っ赤になって俯いてしまう。
こうなってしまっては、武も恥ずかしさがこみ上げてきて、頬もやや赤くなってしまう。

「と、言う事みたいですが、白銀少佐?」
「と、とにかくっ、ハンガーに戻ってブリーフィングルームに集合っ」
「あー、誤魔化した〜」

照子の追求を強引に終わらせると、先にハンガーの中に入っていく武は通信機をオフにしてしまった。
やったねーとVサインして勝ち誇る照子の姿に、葵と翠子はやれやれと言った感じだが、七瀬だけは武をからかったからなのか
どこか面白く無い表情を浮かべていた。
機体をハンガーに戻してシャワーを浴びて着替えてから葵達がブリーフィングルームにやってくると、先に上がったヴァルキリーズ
のメンバーも揃っていた。

「お疲れ様でした、先輩。その様子では良い所までいったみたいですね?」
「伊隅、残念ながら私達の負けよ。後一歩及ばずね」
「そうですか」
「でもねみちる、最後には勝ったから〜」
「照子、どういう意味?」

にひひと嫌らしい笑いを浮かべてみちるに近づいた照子は、武がまだ来てないからとピアティフとのやりとりを事細かに説明して
あげる。

「なんだそれは……」
「まあ、ピアティフ中尉はぞっこんラヴなのは解ったんだけど、白銀少佐って本当に恋人がいないの?」
「本当のところは解らないわ、周りで盛り上がっていると言った方がしっくりくるんだけど……」
「そう言うことなのね……」
「先輩?」

みちる達の話を聞いていた葵は、なんとなくだが武の様子で気になっていたことが解ったみたいである。

「白銀少佐って基本的には八方美人に見えるけど、裏を返せば一線を引いている様にも見えるわ」
「それって本気じゃないって事?」
「本気になれない理由があるのかもしれないわ、そしてそれはとても重い物なのかも……」
「ふーん、葵がそこまで言うのなら信憑性がありそうね」
「確かに白銀は人の事には敏感なくせに、自分の事となると鈍感かと思っていたけど、そう考える方が正しい様に思えるか……」

そこでみちるも自分が武の事を何も知らないと気づいて、少しだけ知りたいと思う気持ちがこの時生まれていた。
やがて武が夕呼を連れて中に入ってきて、ブリーフィングを始める前に葵達を呼び寄せると手に持っていた書類を手渡した。

「これは?」
「悠陽殿下直筆の辞令です、水代少佐たちのこれからについて書いてあります」
「え、悠陽殿下からですかっ!?」
「間違いないですよ、夕呼先生が本人から預かっていたそうです」
「そうよ〜、殿下の期待に応えて上げてね〜」

ふふふと笑う夕呼の言葉にプレッシャーを感じて指先が震えた葵だが、軽く深呼吸すると手にした書類を見つめる。
封筒から取り出した紙には、普通の辞令と違って達筆な文字で詳細が書いてあり、最後に『煌武院 悠陽』の名が印されていた。
そしてその書類に書かれていた内容に葵は驚き、それを見て照子も翠子も七瀬も覗き込むとぽかんと口を開けて固まってしまった。

『―――本日を以て、帝国陸軍第133連隊は第133独立部隊として発足となる』

武の意見と自分の考えを合わせて判断した悠陽が、この際だから作っちゃいましょうとかなりな職権乱用っぽい気があったが、
望む未来の為に必要だと思いがそうさせていた。
国連軍にヴァルキリーズが有るならば日本独自の特殊部隊を作り、来るクーデターへの牽制の意味を含ませた。
これが後の帝国陸軍の要となる部隊、通称『アオイ・エンジェルズ』の創設となった日だった。






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