「タケルちゃんのすけべー」
「純夏、いきなりなに言ってやがる」
「わたしなんてからかうことしかしないのに、七瀬さんにはつきっきりで手取り足取り腰取りじゃないのさーっ」
「なんだよ腰取りって……それに凛はいつまでもいられる訳じゃないからそうなるだろ」
「ふんだっ、それじゃわたしにも優しく教えろよーっ」
「純夏に? 優しく? ぷっ」
「あー、笑ったなーっ! タケルちゃんのばかーっ!」
「誰がバカだ、だいたい体力だってまだ人並みに毛が生えた程度で、何を教えろって言うんだよ?」
「だから、いろいろだよー」
「手取り足取り腰取りでか?」
「えっ」
「だーかーらー、純夏はオレにそうやって教えて欲しいのか?」
「ええーっ!? そ、そそそんなのはダメに決まってるじゃんっ!!」
「我が侭な奴だなぁ、なあ霞?」
「……純夏さん」
「な、なに?」
「……今日から一緒に寝ましょう、武さんと一緒に」
「「はあっ!?」」
「……抱き枕になればいいんです、手取り足取り腰取りです」
「だ、だだだきまくらっ!?」
「か、霞っ、ちょ、待てっ」
「……武さん」
「は、はい?」
「……男の甲斐性を見せる時です」
「頼む霞っ、もう何も言わないでくれ〜」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 45 −2000.8 守りたいもの、ありますか?−




2000年 8月26日 10:20 横浜基地 第二演習場

第一演習場ではヴァルキリーズが葵たち三人相手に実機による模擬戦を行い、武は七瀬を連れて第二演習場で復座の不知火・改を
使って自分の技術を体感させながら覚え込ませていた。
シミュレーターでの操作に関しては若い分飲み込みも早くて、これならまりもに教えた時と同じで習うより慣れろ方式で
交互に機体を操作して七瀬は武の技術を吸収させていく。

「よし、良い感じだ。でもオレのは我流だからな、自分に合わせて調整はするんだぞ」
「はいっ」
「しかし飲み込みが早くて教えるのが楽だなぁ……」
「そんなことありません、それにこのOSのお陰です。機体の違いもありますが、なによりこの思った通りに動かせる事が
凄いです」
「そうか、まあ礼なら霞に言ってくれ。組んだのはあいつだからな」
「ええっ、そうなんですかっ!?」
「ああ、明星作戦の前日まで徹夜してくれて、お陰で死なずに済んだよ。ホント、いい子だよ」
「そうみたいですね」
「じゃあもう一度最初からだ」
「はいっ」

ここ一週間付きっきりで訓練の成果は武の予想以上の仕上がりで、七瀬の実力は目に見えて高まっていた。
精神的な事もあるが、生きる為の目標がはっきりしたから迷いがない事も後押ししているらしい。
今の返事をした時の表情は武が見ていても気持ちがいい爽やかさがあり、自分らしさを出しているぐらい落ちつていると感じて
ほっとしている武だった。
そうして午前中の訓練は終わり、ハンガーに機体を戻して別れる時に七瀬の頭を撫でて上げるが日課になりつつあった。

「じゃあ、また後でな」
「ありがとうございましたっ」

去っていく武の後ろ姿を見つめる七瀬の視線は尊敬に近い物があったが、それとは別の物が一緒になっている事に自覚がない。
そんな七瀬の肩を叩くのは、同じくヴァルキリーズとの訓練を終えた葵だった。

「あ、お疲れ様です、葵少佐」
「良い顔になったわね、七瀬」
「えっ、そうですか?」
「以前の様に張り詰めた悲壮感が無いから、瞳にも力があるわ。白銀少佐のお陰ね」
「はい」
「ふ〜ん、なんか女の顔になったのかなぁ……」
「止めてください、照子さん?」

翠子と一緒に現れていきなり意味ありげにニヤニヤした笑顔でほっぺたを突く照子に、七瀬はその指を掴んで降ろさせる。

「拙いよ葵、先超されちゃうよ?」
「照子、人の事は言えないんじゃないかしら?」
「そうですね、まずは自分からどうにかした方が宜しいと思います」
「な、なかなかに厳しい突っ込みありがとう、そう言う翠子はどうなのよ?」
「ノーコメントです」
「くっ」
「照子の負けね、さあ汗を流したら食事しましょう」

PXに向かいながら葵も表情が晴れやかで、速く帝国軍にもXM3が普及してくれる事を願っていた。
この後、帝国軍内で初のXM3評価部隊としての命令が悠陽を通して葵たちに下されて、佐渡島ハイヴ攻略戦において多大な
戦果を上げる事になる。
前回の記憶を持つ者が最前を求めて動いている事で、良い方向に向かって可能性が広がっていく。
少なくても武に関わった者達の心には、BETAに滅ぼされるなんて考えは無くなり始めている。
意志が力なのか力が意志なのか、どちらにせよ武達の蒔いた沢山の種が芽を出しているのは間違いないようだった。

「え、タケルちゃんなら来てないよ?」
「そうですか、先に行ったので来ているかと思ったんですけど……」

シャワー浴びてから身だしなみを整えてPXに来た七瀬だが、純夏たち207隊とヴァルキリーズはいるのだけど、武と霞の姿は
そこになかった。

「タケルちゃんも霞ちゃんも夕呼先生からあれこれ言われて忙しいから、急用でも入ったんじゃないかなぁ……」
「そうかもしれませんね、お食事中失礼しました」
「ううん、気にしてないよ〜」

純夏と話しを終えて葵たちの所に戻ってきた七瀬は、少しだけ冴えない表情になるが静かに食べ始める。
その様子が気になった照子は、ごくんとご飯を飲み込んでから遠慮無く聞いてみる。

「あれ、白銀少佐いないの?」
「はい、急用みたいです」
「そう言えば社少尉もいないね」
「はい」
「七瀬少尉、白銀と霞は香月博士から直接任務を受ける事が多いからなあまり気にしなくてもいい」
「そーそー、間違っても二人でいけないことしてる訳じゃないよ」
「水月、白銀くんはそう言う人じゃないよ、ねえ孝之くん」
「あ、ああ、そうだな」
「なによ遙ったら自分だけ良い子ちゃんぶってさー」
「そ、そんなことないよ」
「孝之、遙は怖いから騙されたらダメよ」
「み、水月っ」
「こらお前ら、騒ぐのは食べ終わってからにしろ」

一緒に食べていたヴァルキリーズからも言われて納得したのか、七瀬も食べている間は表情が明るくなっていた。
で、いろいろ好き勝手に言われていた武と霞が何をしていたのかと言うと、夕呼の執務室でちょっとした会談をしていた。
相手は悠陽に紅蓮大将、そして武に呼ばれた月詠は驚きながらも参加していた。

「紅蓮閣下、これはどういう事なのですか?」
「ふむ、私も白銀少佐から折り入っての内密な話しとしか聞かされておらん」
「もしかして悠陽、説明してないのか?」
「当事者とは言え、わたくしだけの話しでは信憑性に欠けます。ならばそれを知っている者達がいれば滞りなく進むと思い、
こうして武さまと香月博士、社さんにまで来て頂きました」
「理に叶っているけどさ、でもオレは説明下手だから夕呼先生に任せちゃいましょう」
「なによそれ?」
「え、だって科学者って説明好きがお約束だし」
「言ってくれるわね、やっぱりアンタ用の新型にドリル付けちゃうわよ」
「んがっ」
「……そろそろ本題に入りましょう、月詠中尉が困っています」

そんな霞の一言に逸れていた話しを元に戻そうと夕呼は腕を組むと、月詠に向かって話し始める。

「月詠中尉、帝都にてクーデターが発生すると知っていたらどうする?」
「香月副司令、その話は誠ですかっ!?」
「だから今の所は仮定に過ぎないんだけど、2001年12月5日に帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊の沙霧尚哉大尉を中心として
クーデターが起きると知っていたらどうする?」
「待ってください、何故そうも具体的に断言出来るのですか?」
「だから仮定の話だって」
「いや、わざわざ嘘の話を聞かせる為に私をここまで連れてきたりはしないはずです。ならばそこにはいくつかの真実が含まれている
はずです」
「香月副司令、それは私も聞きたい。それはどこからの情報なのですか?」

さすがに紅蓮も内容が嘘や冗談ではなく真実を匂わせていると、武人の直感で夕呼の話を聞き入って口を挟む。
しかも悠陽も霞も武も同様に夕呼の言葉を表情で肯定しているのが伺えるから、紅蓮は確信を持って求める返事を待つ。
そこで夕呼は楽しげに悠陽に話を振るが、受けた方も楽しそうに微笑んでいる

「そうねぇ……どうします、悠陽殿下?」
「困りましたわ、何か良い言葉は何でしょうか、社少尉?」
「……武さんにお任せしましょう」
「おいっ! 揃いも揃って人に押しつけるなよっ!」

思わず叫んだ武に三人は申し合わせたかのように微笑んで、それぞれ意見を言い始める。

「だってぇ〜、月詠中尉に協力を頼みたいって言ったのは白銀だしぃ〜」
「ぬおっ」
「そうでしたわ、いくら月詠がお気に入りだとは言っても、すこしは相手の気持ちにもなって欲しいものです」
「うぐっ」
「……武さん、甲斐性の見せ所です」
「あが〜」

結局オレかよと口の中でぶつぶつ言ってはいるが、このメンバーの中で一番ループした記憶を持っているのは武であり、あーもーと
唸りながら月詠に向き直ると、覚悟を決めて口を開く。

「その話は本当ですよ、ただしオレが経験した記憶に過ぎませんが」
「白銀少佐、それはどう言う意味ですか?」
「荒唐無稽な話なんですが聞いてくれますか、月詠さん」
「聞かせてください、でなければ何の判断も出来ません」

月詠の真剣な表情にちょっと見惚れてしまったが、武は自分の秘密を少しだけ打ち明けた。
自分は何回もループを繰り返し何度も同じ体験をしている事、そして前回のクーデターにおいての結末を話し始める。
あまり上手に説明出来た自信がない武だったが、そこに嘘は一切交えないで本気を言葉に込めて語った。
前回あり得なかったBETAの襲撃で、これから起きる事が自分の知っている通りに起きる確信が無くなったので、
味方は多い方が良いと武の意見を霞と夕呼と悠陽が認めたからである。

「と、まあこう言う話なんですけど、信じられないでしょう?」
「信じましょう」
「えっ!?」
「これでやっと解りました、何故白銀少佐がそんな目をしているか。何故そこまで強い心を持っているのか……一体どれだけの悲しみ
を抱え込めばそうなるのか私には想像すら出来ない」
「月詠さん……」
「その辛さが解るとは言いません、ですが力になりたい思いは変わらず私の胸にあります」
「ありがとう、信じてくれて嬉しい」
「私の力が必要ならば、喜んでお貸ししましょう」
「月詠さん……」

武の差し出した手をぎゅっと握りしめる月詠の瞳は、愛する男性を支えようとするそんな優しさに満ち溢れていた。
実に良い雰囲気である、どっからどう見ても思いを一つにして手を取って立ち向かう姿はヒーローとヒロインに見えたりするが、
面白くないのは置いてきぼりにされたこの部屋にいる女性達である。

「お邪魔みたいねぇ……」
「武様って年上に弱いようですね」
「……まりもさんと月詠さんは特にお気に入りですから」
「「あっ」」
「悠陽殿下、お茶にしましょうか」
「そうですね、お二人の話は長くなりそうですから」
「……そう思って羊羹も用意しておきました。紅蓮大将さんもどうぞ」
「これはどうも、それではご相伴に預かりましょう」

どこからか出してきたちゃぶ台をいつの間にか用意してあった畳の上に出して、そこに座ると霞がお茶を入れて羊羹を摘み始める。
その様子にどうリアクションして良いのか解らない武と月詠は、あたふたとそこに近づくと話を続けようとする提案をさらっと
ながされて世間話を止めようとしなくて、説得するのに霞が羊羹を二切れ食べる間を必要とした。






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