「ねえ、白銀ってMなの?」
「は?」
「違うよ夕呼先生〜、タケルちゃんはSだよ、ぜったいっ」
「何の話しだ?」
「ほら、よくまりもや月詠中尉や鑑に責められてばっかりじゃない、つまりそうなのかなーって」
「でも、タケルちゃんって優しくないし、わたしの頭をぽんぽん叩くし、ぜーったいSだよ」
「SでもMでもないっ、まったく……くだらない事聞くなっ」
「やさぐれてるわねぇ〜」
「タケルちゃん、なんか変だよ?」
「なんでもねぇよ、ちょっと七瀬の事でいろいろ考えているだけだ」
「ふーん、新しい彼女の事か……」
「ほらっ、やっぱりタケルちゃんはハーレム作る気あるんじゃない」
「だ・か・ら、なんでそっちの方に話しが展開するんだよっ!」
「……武さん」
「霞、お前からも何か言ってやれよ」
「……香月博士、純夏さん。武さんはHです」
「「H?」」
「……はい、Hです」
「「なるほどっ」」
「何がなるほどでHってなんなんだーっ!?」
「白銀、Hだもんね〜」
「うんうん、タケルちゃんはえっちっちー」
「そっちかよっ!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 42 −2000.8 七瀬の横浜基地滞在記2−




2000年 8月18日 9:00 横浜基地、ブリーフィングルーム

前日に夕呼を通じて帝国軍へ演習と言う名目で葵たちジュリエット隊を借り受けて、本日からXM3の教習を行うと言う事で
正式に認めさせた。
わざわざ悠陽を通して白銀武の名を付けて申請したものだから、何の問題もなく葵たちは暫く横浜基地に滞在する事になった
のだが、それを知った武はただただ笑い続けていた。
用意された国連軍の強化服を身に纏い武を待っている中で、七瀬は期待に胸膨らませて今日の朝を迎えていた。

「しかしあっさり無茶な話しが通ったわねぇ〜」
「たぶん、香月副司令と悠陽殿下が関係しているのではないでしょうか?」
「翠子の言う通りかもしれないわね」
「葵もそう思ってるんだ。で、七瀬はやる気満々だと」
「照子さん、何か不満でもあるんですか?」
「別に……」
「ならいいじゃないですか、これでBETAに復讐できるんですから……」
「七瀬……」

誰もがBETAに対して憎しみを持っているのはおかしくは無いのだが、それしか心に無い七瀬の事を葵は心配していた。
だから例えここで武の戦い方を学んだとしても、この先に待っているのは明るくない未来を予想してしまい、顔には出さないが
心の中でいつも七瀬を救えない無力感を噛み締めていた。
言葉で言うのは簡単だが、それが相手に伝わって理解して貰える自信が無い……それで葵は言い出せなかった。
でもそうも言ってられなかった……先日の戦闘で武が来なければ間違いなく七瀬はここにいなくて、そう思ったら七瀬の意見を
認めようと決めていた。
もしかしたら武ならばなんとかしてくれるんじゃないかと、自分には出来ない事を押しつけるのは心苦しいが、救って欲しい
自分の気持ちも一緒に託した。
そこに武がいつもと変わらない様子でみちると霞を連れて現れた。

「お待たせしました、それじゃ七瀬少尉以外はみちる大尉と一緒に訓練に参加して貰います。昨日シミュレーターに乗ったそう
ですから、今日は実機でその機動性を確かめてください」
「え、もう乗せてくれるんですか?」
「こちらには復座型の不知火・改あるので、それにそっちの方が退屈しないでしょう」
「楽しみね、それじゃみちる、よろしくね〜」
「落ち着きなさい照子、それじゃお願いするわ、伊隅大尉」
「どうぞ、こちらに」

また後でと言ってみちるに着いていった三人がいなくなると、残った七瀬に武は真面目な顔で話し始める。

「始める前に一つ言っておく、オレのやり方に不満があるのなら止めてもいいからな」
「いいえ、どんなことだってやってみせます」
「よし、それじゃついて来い」
「はい」

返事をした後に武の後を付いていく七瀬は、どんなことを教えてくれるのか、それを考えると体に力が入って握り拳を作っていた。
だけど、着いた場所で呆然として力が抜けていった。

「白銀少佐、ここは……」
「PXだ」
「見れば解ります、ここが訓練に何の関係があるんですか?」
「おばちゃ〜ん」
「ああ、待ってたよ武に霞ちゃん、その娘かい?」
「ええ、よろしくお願いします」
「任せておきな」
「七瀬少尉、今日一日は京塚曹長の指示に従え、以上だ」
「白銀少佐っ!?」
「言ったはずだ、不満があるなら止めてもいいぞ」

七瀬にそう告げて武はこの場を去ってしまい、ここに残された七瀬と霞は調理場の中に連れ込まれた。
そこで京塚のおばちゃんから手渡されたのはエプロンで、案内されたのは汚れた食器が山積みの洗い場だった。

「あ、あの、これは一体……」
「アンタの仕事だよ、皿洗いやったことないのかい?」
「は、はい……」
「とにかく割らずに洗えばいいさ、さあ速くしないと昼になっちまうよ」

それだけ言って京塚のおばちゃんは、自分の仕事でもある仕込みを始めてしまい、霞はスポンジを手に取って洗い始めるが、
残された七瀬はそこで呆然としていた。

「なんで皿洗いなんか……」
「……七瀬少尉、嫌なら止めても構いません」
「社少尉?」
「……どうしますか?」
「や、やりますっ、皿洗いぐらい出来ますっ」

七瀬は霞に言われスポンジを掴むと、泡立つシンクの中にある皿をごしごしと力を込めて洗い始める。
その様子を横で見つめながら霞も黙々と皿を洗っていく。
しかし、その制服にエプロン姿の霞と強化服にエプロンの七瀬の姿に、調理場にいた男達はどうにも落ち着かず京塚のおばちゃん
が怒鳴る場面が数回有ったらしい。
そんなこんなで午前中の仕事は皿洗いと調理場の清掃の費やされかなり疲れていたようだったが、武が何故こんな事をさせるのか
理解に苦しんでいた七瀬は次に会った時には聞いてみようと考えていた。

「あー、霞ちゃん。なにしてるのー?」
「……お手伝いです」
「そっかー、てっきりタケルちゃんの趣味でそんな格好しているのかと思っちゃったよー……っていたっ!?」
「何アホな事言ってんだよ」
「う〜、いきなり叩くなーっ!」
「あ、霞、鯖味噌定食大盛りで〜」
「……はい」
「ムキーッ! 無視するなーっ!」

訓練を終えた純夏たち207隊が現れた後ろから、手加減しないチョップを叩き込んだ武は、そのままカウンターにいた霞に
いつものメニューを頼んだ。
そして武が現れるのを待っていた七瀬は、霞と入れ替わりに武へ詰め寄った。

「白銀少佐、お話がありますっ」
「後にしてくれよ、メシの時間だし」
「むっ……解りました。それでは食べ終わるの待っています」
「ああ」

ちょっとふらふらとしながら注文の鯖味噌を持ってきた霞から受け取った武は、らしくないぐらいそっけない返事をして
空いている席に座るともぐもぐと食べ始める。
その横に純夏と207隊が集まってきて、それぞれ食べ始めると我慢出来なくなったのか純夏は武に話しかけてくる。

「ねえタケルちゃん」
「んあ?」
「なんか変だよ、タケルちゃんらしくないって言うかそんな感じがするよ」
「そうか……」
「それだけ?」
「純夏が言うのならそうなんだろ」
「タケルちゃん……」

なんか話しかけられない雰囲気の二人に会話もせずに気にしていた207隊の中で、冥夜は思い切って問いかける。

「タケル、そなた何を考えている?」
「んー、ごちそうさま」
「タケルっ」
「冥夜、生きるってなんだと思う?」
「えっ……」

呟きながらトレイ持って立ち上がった武はそれをカウンターで自分を見ていた霞に渡すと、待っていた七瀬を連れてPXを
後にした。
207隊のみんなも食べるのを忘れて呆然と二人を見送る中、純夏がやっと解ったかのように呟いた。

「タケルちゃん、怒ってるんだ……」

あまり見た事無い表情だったから思い出すのが遅くなったけど、幼なじみならではの経験から武が本当に怒っているんだと
純夏は心配そうに出入り口の方を見つめていた。
無言で歩き続ける武の後を七瀬も黙ってその大きな背中を見つめながら歩いていく。
そして建物から外に出て足を止めた場所は、純夏たちいる訓練校のグラウンドだった
だけど、武は振り向かずそのまま話し始める。

「七瀬少尉」
「は、はい……」
「なんで皿洗いさせたか解るか?」
「え、わ、解りません。それを聞きたいのはわたしの方です」
「そうか……」
「わたしが知りたいのはあんなことじゃなくて、白銀少佐の戦い方ですっ!」
「……オレの戦い方だって?」

そこで振り返った武の顔を見て、七瀬は驚いて固まってしまった。
鋭い光を漲らせ睨みつけるその目はそれだけで相手を殺せそうなぐらいの強さで、体からは殺気が溢れ出していた。
今まで感じた事がない恐怖でがくがくと足が震える七瀬に、武は低い声で話し始める。

「教えるだけ無駄だ」
「えっ……」
「BETAに復讐だって? そんなくだらない事の為に仲間を巻き込む奴に、何を教えろって言うんだ?」
「そ、そんなっ……」
「お前は兄貴を殺された復讐の為に戦術機に乗ってBETAを倒しているから満足だろう、だけどそれに付き合わされる
仲間の事を考えた事があるのか?」
「ちが……う……」
「何が違う? あの時オレが来なかったら仲間の誰かが身を犠牲にしてお前を救っていたかもしれないぞ。もしそうだったと
してもお前は気にしないんだな?」
「ちがう……ちがうっ……」
「くだらねぇんだよ、いつまで死んだ奴の事を引きずってんだよっ」

二人しかいないグラウンドに乾いた音が響いて、武を叩いたままの格好で七瀬は泣きながら叫んだ。

「あ、あなたなんかにお兄様の何が解るって言うんですかっ!!」
「解るわけ無いだろ、オレはお前の兄貴じゃねぇ」
「くっ……」
「じゃあ聞くがな……どんだけBETAを倒せば復讐が終わるんだよ?」
「そんなの……解らないっ」
「巫山戯るなっ!」

武の怒鳴り声とさっきより重い音と同時に地面に崩れ落ちた七瀬は、叩かれた頬を押さえて武を見上げる。
冷たく冷めた目が七瀬の体を貫き無意識に体が後ずさるが、武は一歩踏みだし見下ろしながら呟く。

「お前の所為で仲間が犠牲になる前に、オレが兄貴の所に送ってやるよ……」

そう言って武は普段は付けていない腰のホルスターから銃を引き抜くと、スライドを引いてから七瀬の顔に突き付けた。






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