「タケルちゃんタケルちゃんタケルちゃんっ!」
「うるさいぞ純夏、なんだよ?」
「また女の人の膝枕で甘えていたって本当なのっ!?」
「……はぁ」
「まったくもうっ、一体何人の女の子に手を出せば満足するのさーっ!」
「……はぁ」
「あり? タケルちゃん?」
「なあ、純夏よぉ……」
「なになに?」
「オレ、ハーレム作らないとダメなのか?」
「タケルちゃん……そんなの今更だよ。それに法律も変わっちゃってるし、タケルちゃんには願ったり叶ったりでしょ」
「……純夏はいいのか、それで?」
「ね、タケルちゃん。こっちと向こうの世界でいいのかな……向こうじゃ一人しか選べないでしょ?」
「ああ、そうだな」
「タケルちゃんに選ばれなかった女の子は、みんな泣いちゃうと思うの。だけどこっちならみんなを幸せにできるんだよ?」
「純夏……」
「誰にも文句は言われないし、後ろめたい思いをする人なんていないよ」
「だけどなぁ……」
「それとも自信がないの? タケルちゃんがへタレだってみんな知ってるから大丈夫だよ」
「誰がヘタレだっ」
「ねぇ、タケルちゃんって霞ちゃんの事好きでしょ? わたしの事も好きだって知ってるし、それじゃあどっちを選ぶの?」
「そんなの選べるかよ」
「普通はそこで悩むよね、でも今は悠陽さんのお陰で悩まなくても良いんだよ。大体タケルちゃんはスケベで欲張りなのに
遠慮なんて似合わないよ」
「ほっとけよっ!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 41 −2000.8 七瀬の横浜基地滞在記−




2000年 8月17日 13:00 横浜基地、ハンガー

PXの一件で心身共に疲れた武は昼飯を食べた後一人ハンガーまで来て、ラプターのコクピットに座ってシステムのチェックと
微調整に集中する事で、余計な事を考えないようにしていた。

「ふぅ……さすがに最新鋭だし最強だって言われるだけの出力も機動性もあるけど、ちょっと大味と言うか繊細さに欠けると
言うか、コンセプトの違いかなぁ……」

吹雪や不知火や武御雷は純国産製って事もあり、国民性というか思想が刀をメインとしての接近戦が主体の様に感じている分、
米国は銃を使った砲撃戦をメインとした作りが武の中で違和感となっていた。
それに何と言ってもBETAよりも対戦術機を視野に入れた思想がありありの設計が、武には好きになれない部分でもあった。

「まあ、タマとかはこっちの方が相性が良いかもしれないなぁ……あ、そうだ、あのOTHキャノンを今から改良出来れば
ハイヴ攻略戦で使えるかもしれないぞ。よし、後で夕呼先生に言っておくか……」

まだ一年先とは言え今回のBETA襲撃の事もあり、前の事と同じと思うのは危険だと武は思いだして、今できる事ならなんでも
やってみようと考えていた。
こうして女性問題以外では結構がんばっている武なのだが、こういう評価はなかなか表に出にくいので武の評判に影響はあまり
無かったりするのが残念かもしれない。
そして武ががんばっている頃、せっかくだからとみちるは葵たちを連れて横浜基地を案内した後、夕呼の許可を貰ってXM3の
シミュレーターを使わせて今のOSとの違いを体験して貰っていた。

「伊隅、こんなに遊びがないなんて思わなかったわ」
「はい、我々も最初は驚きましたがそれが【XM3】の特徴と言えます。とにかく以前のOSと違ってこちらの要求に戦術機が
追従してくれるので嬉しい限りです」
「これが実装されたら間違いなく死ぬ衛士が減る、それは断言出来るわ」
「我々もそう願っています」
「でも、白銀少佐がしていたあの立体機動はちょっと変わっていたわね?」
「OS以上に驚きましたが、香月博士の話だと白銀の動きはハイヴ内の戦闘において有効だと言っていました」
「伊隅、白銀少佐はハイヴ攻略戦の経験があるのかしら?」
「その……」
「あ、機密に触れるなら構わないわ」
「いえ、我々も知らないのです」
「そう……」

稼働しているシミュレーターを見つめながらみちると葵の心の中では、同じ思いが沸き立っていた。
自分たちより若い武の卓越した戦闘能力は解らないでもないが、戦い方に至ってはハイヴ攻略戦の経験がなければ不可能だと
思わせる部分が在る事に疑問を持たずにはいられなかった。
なにより今までやっていたオリジナルハイヴ攻略シミュレーションが二人の意見を肯定だと物語っていた。
実際はオリジナルハイヴまで突入している経験があるので、それが正しい考えなのだがみちるたちには思いつかない。
そんな事を漠然と考えている所に、シミュレーターを終えた照子、七瀬、翠子が二人の元にふらふらになりながらやって来た。
かなり疲れているようだったが、照子と翠子に関して言えば嬉しそうに笑っていた。

「どうだった、照子?」
「ねえみちる、あのOS……XM3だっけ? いつからこっちに回してくれるの?」
「私には判断出来ないわ。その顔じゃかなり気に入ったようね」
「当たり前よ、ウサギとカメじゃないけど今までなんだったのと言いたくなるぐらいすいすい動くんだもん」
「それは同感です、もしあの時このOSが実装されていたら、凛ちゃんを助けにいけました」
「そうね……七瀬はどうだった?」
「…………」

そこで話しを振った葵は言葉を聞いてないのか、七瀬は俯いて黙り込んでいた。
初めてのXM3でのシミュレーションで、体調でも崩したのかもしれないと、葵とみちるが歩み寄る。

「七瀬?」
「は、はいっ」
「大丈夫?」
「気分でも悪くなったのなら医務室まで案内するけど?」
「だ、大丈夫です、葵少佐。すみません、伊隅大尉……」
「七瀬、そんなに驚いたの?」

その葵の言葉に答えないで、みちるに向かって七瀬は問いかける。

「あ、あのっ、白銀少佐はどこにいますかっ?」
「白銀?」
「はいっ」
「少し待って」

七瀬に断ってから端末に近づいたみちるは、霞に連絡を取ってみた。
その間に照子は七瀬に近づいて話しかける。

「白銀少佐がどうかしたの?」
「その、話しがしたくて……それに失礼な事を言っちゃったから……」
「んんっ? ん〜」
「な、何ですかっ」
「もしかして一目惚れ?」
「ち、違いますっ!」
「隠さなくったっていいじゃない、命の恩人だしね〜」
「そうじゃありませんっ、もう照子さんは……人の事より自分の事を心配してくださいっ」
「うっ……い、言うじゃない」

そこには今までのシリアスな空気は無くなり、七瀬と照子の睨み合いが微笑ましいのか、葵と翠子は笑ってみているだけだった。
ただ、少し思い詰めた表情の七瀬の事は気になっていたのか、葵は目には心配そうな思いが宿っていた。

「七瀬少尉、白銀なら今ハンガーにいるそうだ。案内しよう」
「ありがとうございます、伊隅大尉っ」

深々とお辞儀をする七瀬に気にしなくていいと言って先に歩き出すみちるの後を、慌てて追い掛ける七瀬の後に葵たちも続く。
やがてヴァルキリーズがメインで使っている第一ハンガーに着くと、みちるは整備員に声を掛けてから一番奥にある銀色のラプター
の前まで歩いていく。
それを見て唖然とする葵たちの中で、照子が一番始めに声を上げる。

「これってF−22Aっ!?」
「そうよ、先日の戦いで白銀の不知火・改は使用不能になってしまって、今はこれが白銀の機体になっているわ」
「米国の最新鋭じゃない、しかもこれ新品でしょ?」
「照子、塗り直されているのによく解るな」
「メインカメラとか細かい部分が綺麗過ぎるからね、それに可動部分の擦り後が全くないし」
「白銀に言わせれば米国らしく、砲撃戦向きだそうだ」
「やっぱり、そんな感じの顔してるし」

照子の言葉に釣られて顔を上げたみんなは、ラプターの頭を見つめていると、コクピットのハッチが開いて中から武が顔を
覗かせて目が合った。
女性達のじっと見つめる視線に多少腰が引けた武だが、下からは見えなかったので内心でほっとしながら話しかける。

「あれ、みちる大尉、どうしたんですか?」
「忙しいか?」
「いえ、ちょうど終わった所です。今降りますね」

ラップトップのノートを抱えて降りてきた武は、ラフな作業着姿でみんなの前に立つと、みちるが話し始める。

「七瀬少尉が話しがあるそうだ」
「オレに?」
「は、はいっ、お時間が宜しければお願いしたいのですが……」
「ちょっと待ってて」
「はい」

近くの整備員にノートを渡して何かを話すと、その整備員は何故かガッツポーズをして意気揚々とハンガーをでて行きかけるが、
出入り口で他の整備員達に捕まりそこでいきなりじゃんけん大会が始まってしまった。
その様子に葵たちは驚くが武やみちるにはその理由がよく解っているので、軽いため息しか出なかった。
なにしろ武が頼んだ用事が霞がらみだからで、整備員たちは男のプライドを掛けてその用事を我が手にと熱い戦いを続けていた。
まあ、その戦いの間に霞がハンガーまで来てしまい、整備班長からノートを受け取って落ちが付いたらしい。

「それで話しって何かな?」
「は、はい、あの……」

七瀬から二人きりで話したい事があると聞いた武だが、余計な詮索をされてまたまりもと月詠のお仕置きは勘弁だと思って、
PXの端の方にして貰った。
一応、近くには誰もいなくて、みちるや葵たちはかなり離れた所に座って雑談をしているようだった。

「あの、さっきは失礼な事を言ってすいませんでした」
「うん?」
「その、女性を手込めにとか……」
「あ、ああ、気にしてないよ、ははっ」
「そ、そうですか……それで個人的なお願いが有るのですが、聞いて貰えますか?」
「あー、内容によるけど話してみてくれ」
「はい……」

そこでがばっとテーブルにぶつけるぐらいの勢いで頭を下げた七瀬が、その姿勢のままで武に願いを言った。

「お願いします、わたしに戦い方を教えてくださいっ!」
「えっ?」
「無理な事を言ってるのは解っています、でもあのOSと白銀少佐の戦い方を覚えられたらお兄様を殺したBETAに復讐
出来ますっ! ですからっ……」
「…………」
「お願いします、どんな事でもしますからっ!」

頭を下げたままの七瀬には解らなかったが、最初驚いた表情を浮かべていた武だが、今は少し険しい顔で七瀬を睨んでいた。
少しだけ時間が流れた後、幾分低い声で武は七瀬に答えた。

「……どんな事でもか?」
「は、はいっ」
「解った、ついでと言っては失礼だけど、水代少佐たちにも覚えていって貰おう」
「白銀少佐っ」

そこで顔を上げた七瀬が見た武の表情はいつもの飄々とした感じだったので、自分の願いを聞き入れてくれたんだとこの時は
感謝していた。
だが、翌日から武の取った行動は七瀬の期待を裏切る物だった。






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