「ううっ」
「何泣いてるのよ、白銀」
「なにって……夕呼先生がいいますかっ」
「あたしの所為にしないでよ、実行したのは白銀でしょ?」
「うぐっ」
「別に良いじゃない、まさか伊隅たちも狙っている訳じゃないんでしょ?」
「当たり前でっ……か、霞?」
「(じーーーーーーーーーっ)」
「誤解するなよ、先生の出任せだからな、なっ」
「諦めなさい白銀……あんたは恋愛原子核なんだから」
「余計な事言わないでくださいよっ……って、何故それをっ!?」
「そっか、世界を救うとかなんとかより、ハーレム作るのが目的なのね」
「夕呼せんせーっ!」
「解ったわ白銀、このあたしに任せなさいっ」
「余計な事しないでさっさとオルタネイティヴ4を進めてくださいよー」
「…………不潔」
「ぎゃおーーーーーーーっ!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 04 −1999.8 明星作戦after−







1999年8月10日 09:00 有明臨時戦略ベース

ブリーフィングルームは微妙な空気が支配していた。
呼び出されてやって来た武は霞をお姫さまだっこのまま入り口に立ちつくしてしまい、
そこに突き刺さるみちるの冷たい視線に目を合わせないように霞を立たせると、扉を閉めて中に入った。

「し、白銀武です。階級は少佐だけど、砕けた感じで接してくれると嬉しいかな、ははっ。この娘は
社霞、階級は少尉で俺の妹みたいな感じかな、ほら霞っ」
「…………社霞です、よろしくお願いします」
「二人共々、今後ともよろしくっ」

妹と言う言葉にかなりご立腹なのか挨拶の間も、武の頭の中は霞からの一緒にお風呂の意志を示す
明確なプロジェクションを受け続けていた。
冷や汗を流しながらもなんとか平静を保とうとする武だが、霞の見つめる目に陥落間近なその様子を笑いから
復帰して涙目で見ていた夕呼は、武を睨んでいるみちるに声を掛ける。

「ほら伊隅、あんたたちも自己紹介しなさいよ」
「はい……私がヴァルキリーズの隊長、伊隅みちるです。階級は大尉になります、よろしくお願いします」
「速瀬水月です、階級は少尉です。今後ともよろしくお願いします」
「涼宮遙です、階級は少尉になります、よろしくお願いします」
「鳴海孝之です、階級は少尉です。よろしくお願いします」
「で、みんなが知りたがっていたこれがブレイズ1よ。実力は見た通りの凄腕だから頼りになるわ。それと社は
あたしのサポートをしているので、戦術機には乗らないわ」
「これはないでしょ、夕呼先生……」
「はいはい、それじゃあたしは用事があるから行くけど、今後の予定は白銀に伝えてあるからみんなは
それに従って頂戴、じゃ〜ね〜」

一通り微妙な空気の中で自己紹介が終わると、言う事だけ言ってさっさと出て行ってしまった。
そんな中で水月と遙を見ていた武は胸の内でほっとため息をついた……ひとつは遙の怪我の事だった。
前回の記憶から総合評価演習で事故が起きる事は解っていたので、前もって夕呼が危険を排除していたので
大怪我もすることなく、無事に合格していた為に任官はスムーズにいっていた。
それはともかくまったくとため息をつきながら、武はみんなとのコミュニケーションを取る為にみちるに話しかける。
まずは良い関係を築かないと今後の作戦に不安が残ると真面目に考えた武だった。

「まあ、最初は少しみんなと話そうと思う、なにやら誤解されたっぽい気がしてならないからな……」
「別に少佐がその……幼女趣味でも……」
「みちる大尉、それがすでに誤解だ。オレはあくまで普通……それにさっきのは霞に対するご褒美というかそんな
ところだ」
「ご褒美ですか?」
「ああ、徹夜で新型OSを仕上げてくれたお礼にな」
「新型OS?」
「そうだ、ほぼ完成しているが、これは夕呼先生の研究の一環でもあるから、今後ヴァルキリーズでも
これを使用していく事になる」
「それであの戦闘機動が可能に……」
「まあ、発案者はオレだけどな」
「ええっ!?」

驚いたみちるに変わって、興味があるのか水月が詰め寄ってくる。

「と、言う事はこれからするのは新型OSでシミュレーションなのっ!?」
「ああ、ここには筐体は無いから、今ハンガーで不知火に搭載しているのでそれで行う」
「それは素早いですね」
「一日でも早く慣れさせたいからな、それに部隊の再編成もしないといけないし、これを機会に夕呼先生と
相談してそうなった」
「でも少佐、座学も無しでするんですか?」
「習うより慣れろだ、それにみんなの実力は前の戦闘で見させて貰ったから一秒でも早くそうした方が
いいだろう……って言うのは建前で、本音はオレが座学が苦手なんだよ」
「うーん、それはそれでいいかも……なんだか白銀少佐とは気が合いそうだわ」
「はははっ、お手柔らかに」
「もう水月……」
「いいんだ涼宮少尉、仲間内で堅苦しいの苦手でさ……それにみんなより年下なんだから」
「えっ?」
「と、言う訳で年下に敬語とかいらないし、まあ気軽にしてほしいかな」

そこまで話して一人話に入ってこない孝之の何か言いたそうな顔を見た武は、二人に断って近づいていく。

「鳴海少尉」
「は、はい」
「悪かったな、馬鹿野郎だなんて言って」
「あ、いえ、少佐は別に……」
「そうか、でもこれだけは解って欲しい。あそこで死んでも誰も喜ばない、なんとしても生き延びる事を
忘れないで欲しい。でなければ何も守れない」
「……少佐」

そこまで言って孝之の肩をぽんぽんと叩くと、振り返ってみんなに宣言する。

「と、堅いのは苦手なので、もう少し仲良く行きたいんだが……そうだな、オレの事は白銀でも武でも
好きなように呼んでくれ。もちろん敬語なんて無くても良いからな」
「しかし、少佐……」

一応、階級が上の武を呼び捨てするのは抵抗があるのか、みちるは少し言いよどむ。
ここで武は以前に佐渡島に向かっている戦術機母艦の甲板で、恋愛談義をしたことを思い出して
みちるに反論する。

「だめだなぁみちる大尉、そんな事では好きな人がいたら、他の人に取られちゃいますよ? もっと柔軟に臨機応変に
行きましょう」
「んなっ!?」
「うわあ、大尉が真っ赤っかだ」
「み、水月、見ちゃダメだよ」
「伊隅大尉が……」
「えーっとですね、オレの知り合いで自分を含めた四人の女性が同じ男性を好きになった話を相談された事があったんですが、
その男性はかなりの鈍感なので間接的なアピールでは気持ちが伝わらないからどうしたらいいのかって。
まあそれでオレのアドバイスを実行してみたらそれで成功したと喜ばれまして……」
「白銀っ」
「は、はいっ!?」

もの凄く具体的な話をした武に、みちるは食って掛かるように詰め寄り、その両肩を掴んでがくがくと揺らす。

「それはどんな方法なのっ?」
「えっと」
「そこまで話して黙る事無いでしょっ!」
「ですから……」
「私には言えないって言うのっ?」
「た、大尉……」
「なによっ、教えてくれたっていいじゃないっ……あ」

そこまで言って取り乱していたみちるは、自分が何をしていたのか解り顔が真っ赤に染まった。
しかし、これを切っ掛けにブリーフィングルームの空気は、どことなく軽くなった。

「ふむ……大尉には好きな人がいると」
「すみません大尉、なんだかその可愛く見えてしまって……」
「え、えーっと、その、がんばってください」
「ーーーーっ!?」

硬直して全身ゆでタコ状態のみちるを見ながら、武はどこか嬉しかった。
自分に取っては過去の出来事でも、みちるにはこれから起きる未来の話なのだから……。
だから思う、思いを告げられず佐渡島と共に消えていったあの姿を二度と見ない為にも、自分は
持てる力を出すしかないと。
それはさておき、今はさっきの話をして上げないと可哀想だなと、みちるを部屋の隅に連れ行き
耳元で囁いた。

「その方法はですね、一緒にお風呂に入って気持ちを伝えたんですよ」
「っ!?」
「がんばってください大尉、何事も先手必勝です」
「しょ、少佐っ」
「白銀ですよ」
「う、うん、解った。ありがとう、白銀」
「いえいえ」

その後、武から何を聞かれたのかみんなに追求されたみちるの狼狽えた姿がますます可愛くなり、
暫くからかわれ続けるが、みちるの顔にはどこか笑顔が浮かんでいた。
楽しげな様子を、霞の側に行って一緒に見守る武に、こちらも嬉しそうな声が聞こえた。

「……優しいですね、武さん」
「ずいぶん世話になったからな、応援してもばちは当たらないだろう」
「……そうですね」
「ああ」
「……それではお願いします」
「え?」
「……一緒にお風呂です」
「マジですか?」
「……マジです」
「とほほ……」
「……(ピース)」






ちなみに二人の風呂上がりを偶然目撃したみちるは、密かに霞に詳細を聞きに行くのだがそれは
女の子同士の秘密となり、連帯感と共に深い友情が芽生えたらしい。






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