「酷いものね」
「ヴァルキリーズの被害をもう少し押さえられたら良かったんですけど……」
「まともに動けるのは伊隅に速瀬に涼宮と鳴海だけなんて、再編成が大変だわ」
「その事で話が……スカウトして欲しい人物が帝国軍にいるんですが?」
「あんた知り合い居たの?」
「いえ、オレじゃないんですが……」
「いいわ、どっちしろ人手は必要だしね。事後処理の後で教えて頂戴」
「すいません……極々個人的なんだけどな」
「白銀、何か言った?」
「夕呼先生が優しいなって」
「な……馬鹿な事言ってないで機体の整備でもしなさいっ」
「へーい」
「ふぅ、まったくもう……年下は認識圏外なんだけど、アイツ中身はあたしより年上なの
よねぇ……って、何言ってるのよあたしは」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 03 −1999.8 明星作戦after−







1999年 8月10日 08:30 有明臨時戦略ベース

国連軍用に有明に構築した臨時戦略ベースのハンガーは朝から人の動きが激しい。
G弾使用作戦終了後、横浜ハイヴの事は他の部隊に任せてヴァルキリーズの機体は、
オーバーホール並の整備に大忙しだった。
一個中隊で大隊と同じ以上の働きをしたお陰で、機体にも無理が掛かり最新鋭の不知火と
言っても、不調が発生するのは仕方がない事だった。
整備員が走り回る様子を、自分の機体のコクピットを調整しながら、眺めていた。

「んー、OSはこれでいいけど、CPUの換装は無理だったのか……まあ、これは時間の
問題だろう。それよりもやっぱり霞は凄いな……これであの時以上の動きを再現できるなんてな」

わざわざ強化服を着てデータを再検証をしていたら、以前の世界より反応が上がっているのに
武自身も驚いていた。
これでCPUが換装されれば、プラスになること間違いなしと、思わず拳を握ってしまう。
そう思っていたら、視界の下に見慣れたウサ耳が見えたので身を乗り出す。

「おはよう霞、よく眠れたか」
「…………」
「え、えーっと霞?」
「…………」

何故か無言のまま、コクピットまで乗り込んでくると、そのまま武を押し戻して座らせると
膝の上に乗ってしまう。

「もしかして、怒ってる?」
「…………部屋に居ませんでした」
「い、いや、いたぞ。ただ霞がぐっすり寝てたし起こすの悪いかなって……」
「それはいいです」
「へ?」
「…………何か忘れていませんか?」
「何かって……あ、もしかしてあれか?」
「…………」

そこでやっと霞の怒っている理由に察しが付いた、過去に鈍感だの朴念仁だの言われ続ければ
さすがに少しは気が回るようになっている辺り、成長したっぽい武だった。
ぽんっと霞の頭に手を載せなでなでを始めると、納得したのかそのまま背中を預けて目を閉じて
赤く染まった頬と笑顔でご満悦になったようである。

「ありがとう霞、XM3のお陰で生き延びられたよ」
「……はい」
「よーし、お礼に霞のしたいこと、なんでも一つだけ叶えちゃうぞ」
「……な、なんでも?」
「うん、まあお金はないけどな、オレに出来る事ならなんでもいいぞ」

霞の後ろにいる武は気が付かなかった……彼女の頬が赤くなっている事に。
そして自分の言った事を思い返して、武は慌てたようにわたわたと何か言おうとしたが、霞の
方が早かった。

「……一緒にお風呂、入ってください」
「なんですとーっ!?」
「なんでもって言いました」
「う、それは」
「言いました」

そこで空いていた武の手を自分の胸元に引き寄せてぎゅっと握りしめて、自分の意志をはっきりと
伝える。
これはこの時代に戻ってきた霞の取る行動の一つで、こうなると霞は自分の意見を引っ込めない。
武ははぁ〜っとため息をつくと、自分の失言を呪いつつ霞の頭を撫でながら全面降伏した。

「……先手必勝です」

霞のその小さな口からこぼれた呟きは、周りの音で武の耳には届かなかった。

「白銀、いるんでしょ……って、お邪魔だったかしら?」

そこに武を呼び出す声が聞こえたので回線を開くと、映し出されたのは夕呼である。

「だ、大丈夫です、それで?」
「そう……ならブリーフィングルームまで来て頂戴、伊隅たちに紹介するから」
「いいんですか?」
「今度はちょっと変えていこうと思うのよ、いろいろとね」
「そうですか、今向かいますね」
「そうそう、みんなとは久しぶりの再会なんだから、インパクトのある登場を期待しているわ」
「あはは、じゃあ霞をお姫さまだっこでもしていきましょうか?」
「いいわね、それ」
「冗談ですよ。それじゃ」

そう言ってから武は膝の上にいる振り返った霞と目が合って、またも自分の失言に後悔した。
頬を赤く染めて期待した霞の眼差しは、武の顔を捉えて離さない。

「え、えっと、それじゃ下に降りるから、霞から先に……」
「…………」
「ちょっとまてっ、まさか霞っ!?」
「(コク)」
「さっきのあれはちょっとした冗談なんだ、なっ?」
「(フルフル)」
「お願いします霞さん、再考をっ……」
「(フルフルフルフル)」
「だからあーゆーのはな、そのなんだあれだっ」
「……お嫁さん?」
「あー、オレの馬鹿っ、何想像してんだーっ!?」

自分の能力を認めている霞は、ちょっとだけその力を……主に武だけに発揮して状況を有利にしていく。
それから少しの問答の結果、先の一緒にお風呂は無しと霞が妥協したので、その代わりお姫さまだっこで夕呼の所
まで行く事を了承させられた。






「あははは〜っ、やっぱり最高だわ、白銀」






「はうあうあ〜」






「…………♪」






部屋に入った武を待っていたヴァルキリーズの視線は、それはもう心にぐさぐさと激しく痛かった。
特に隊長のみちるの冷めた目に睨まれた時は、武は冷や汗と共に戦慄を覚えた。
つまり、第一印象最悪な再会だった。






ちなみに、お姫さまだっこはハンガーにいたすべての整備員から警備兵までに見られ、暫く武はすれ違う
女性兵士から避けられる状態が続いた。
これも霞の作戦の内だとすれば、かなりのアドバンテージを得た事になっただろう。






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