「どうしました武様、そんなに怖い顔をして?」
「まったく、お見合いなんて手の込んだ事して……」
「その方が面白いからと香月副司令が仰いましたので」
「夕呼先生ーっ!」
「……いません」
「霞、どこに行ったか知ってるのか?」
「……仮縫いだと言ってました」
「何やってんだあの人は……それどころじゃないだろうっ、オルタネイティヴ計画はどうしたんだよっ!?」
「……準備は終わったから暇だそうです」
「だからか、最近の悪巧みが止まらないのは……」
「なんにせよ、宜しい事ではありませんか。時間的余裕は人に精神の安定をもたらします」
「オレの精神が全然安定しないのはいいのかっ!?」
「……悠陽殿下、冥夜さんが落ちるのは時間の問題です」
「まあ、さすがです武様、女性の心を掴む術は戦術機の操縦に負けず劣らずですわ」
「スルーされた上にそんな誉め方されて素直に喜べるかーっ!!」
「……武さん、落ち着いてください」
「くっ、この状況でどう落ち付けって言うんだ?」
「……果報は寝て待てです」
「霞さん、名言ですわ」
「それ違うぞ霞……あと寝てたらもっととんでもない事になりそうだ、主にオレの人生がな……」





マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 29 −2000.7 お茶と羊羹と−






2000年7月7日 14:30 横浜基地 ハンガー前

お互いを名前で呼び合うようになった所で不知火・改を動かしてみんなの所に戻ってきた武を出迎えたのは、ジト目で睨む
まりもとどこか落ち着かない207隊に普通にお帰りなさいと出迎える霞だった。
冥夜を支えながらコクピットから降りて、自分たちの前に来るまでずっと睨んでいるまりもを見ながら、なんかしたかなと
思った武に整備班長がニヤニヤしながらその理由をさくっとばらす。

「白銀よ、データリンクの意味、忘れてるのか?」
「え、あっ……」
「訓練兵は強化服だろ、それならもうちっと考えて話せや……神宮司軍曹は途中から聞いていたけどな」
「な、なんでっ!?」
「霞嬢ちゃんがインカム渡してたぞ」
「霞〜」
「……神宮司軍曹も当事者ですから」
「はぁ……それでか、でも変な事言ったつもりはないぞ?」
「……無自覚って罪ですね、そう思いませんか御剣さん?」
「社少尉、それは自分からなんとも言えません」
「……頬が赤くなっています」
「こ、これはっ」
「……お見合い上手くいったようですね、悠陽殿下に伝えておきます」
「「はあ?」」

霞の言葉に武と冥夜は素っ頓狂な声を出してしまったが、嫌な予感が一気に膨れ上がった武は霞に詰め寄る。

「霞、まさかとは思うがまたなのか?」
「……はい、悠陽殿下からお茶のお誘いが武さんにありました」
「オレは聞いてないんだが?」
「……わたしがお返事しておきました」
「な、なんて?」
「……お茶と羊羹を用意してお待ちしています」
「それ、誰の入れ知恵だか解った……霞、頼むから純真なままでいてくれ〜」

がっくりと項垂れて落ち込む武はマジ泣きなりそうで顔を押さえていたが、今は授業中だったなと思い出してなんとか気を
取り直すが顔を上げて207隊を見たらみんなが自分を横目にひそひそ呟いていた。

「噂って本当だったんだね〜」
「ちょっと晴子、聞こえちゃうわよ」
「そうよ、仮にも上官に向かって変な事言わないの」
「……無理すんな、自分だって言いたいくせに」
「榊さん、真面目だからねぇ〜」
「ボク、英雄色を好むって初めて見たよ」
「よ、鎧衣さんっ、そんな本当の事言っちゃダメだよっ」
「…………」

泣くか笑うかどっちが良いのか武は海に行ってバカヤローって叫びたい気持ちを何と抑えて、まりもが無言で睨むのを気に
しながらも、賢明に自分を奮い立たせるとそれを聞かなかった事にして話しかける。

「さあ、私語はその辺にして、次は誰だ?」
『…………』
「立候補がいないならこっちから指名するけど、それでいいか」
『っ!!』
「そこで何で驚くかな?」
「えっと、それは次の相手を白銀少佐が選ぶという事かなぁとみんな気にしているようです」
「…………はい?」

さっと手上げてみんなの心情を代表して、晴子がのんきに説明して上げると、間抜け面をさらして武は固まってしまう。
更に追い打ちを掛ける晴子の顔は思いっきりいい笑顔で、もう一度分かり易く教えて上げる。

「ですから、御剣のお見合いが終わったので、次の番なんですよね?」
「…………なんで?」
「だってこれは授業の名を借りた白銀少佐とわたしたちのお見合いなんですよね?」
「だ、誰がそんな事をっ!?」
「社少尉です」
「か、霞ーっ、冥夜とだけじゃなかったのかっ!?」
「……皆さん誤解していますけど、結果は同じだと思うので訂正しませんでした」
「訂正してください霞さん、マジでお願いしますっ」

しかし、武の意見は例のごとくあっさり流されて、結局授業の名を借りたお見合いと信じ込まれたまま進んでいった。

「光栄です白銀少佐、噂のご本人と会えるだけじゃなくってお見合い出来たなんて自慢しちゃいます」
「柏木、お前なぁ〜」
「晴子でいいですよ、少佐」
「言うかーっ」
「えー、フレンドリーって言ったじゃないですか〜」
「人の揚げ足を取るんじゃないっ」
「あははっ」

相変わらず軽いノリで話す晴子に遠慮無く突っ込む武の会話は、終始楽しそうで。

「よ、よろしくお願いします」
「頼むからそんな目で見ないで欲しいんだけど、涼宮のお姉さんみたいに普通に……」
「ま、まさかお姉ちゃんに手を出したんですかっ!?」
「それは孝之さんだっ!」
「やっぱりそうなんだ、じゃ、じゃあ水月先輩は?」
「もちろん、孝之さんは両手に華だぞ」
「な、鳴海さん……」

と、茜にあっさり孝之が水月と自分の姉に手を出している事を話して、矛先をそらしたり。

「築地訓練兵です、よろしくお願いします」
「良かったなぁ、築地……」
「はい?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
「ええっ、気になりますよ〜」
「オレの知り合いで不幸な目に遭った女の子がいてな、築地って名前だったんだ……」
「もしかしてこれって運命かもですね?」
「良くわからんが、とにかくよろしくな」

元の世界では猫の姿しか見てない武は、人の姿でも猫っぽいなぁと心の中で思いつつ、ホントにほっとしていたり。

「よろしくな、榊」
「しょ、少佐、わたしはその気はありませんからっ」
「委員長はやっぱり委員長か……」
「は?」
「なんでもない、これからは榊の事、委員長って呼ぶからな」
「どうしてですかっ!?」
「それはお前が委員長だからだっ!」

有無を言わさず千鶴を委員長と呼ぶ事に決めて、本人は上官の命令ならしょうがないとぼやいたり。

「…………ぽっ」
「何でいきなり顔を赤らめるんだよ、彩峰?」
「お見合いだから」
「オレが決めたんじゃないぞっ」
「照れるなよ」
「照れているのは、お前だ」
「えっ?」

相変わらずの慧の問答のすれ違いに、武は懐かしくも好意を隠そうとしない様子にちょっとどきどきしたり。

「うわー、これが不知火なんだー」
「気持ちは解るが、落ち着け鎧衣」
「でも、復座仕様だけど、訓練用だけって訳じゃないみたいだ」
「だから人の話を聞けよ、美琴っ」
「もうタケル、いきなり名前で呼ぶなんて、恥ずかしいよ〜」
「あのなぁ……はぁ、これが美琴なんだよな」
「ねえねえタケル、早く始めようよ」

マイペースで人の話を聞かない美琴に武は疲れて文句を言う気力もなくなり、不知火・改を動かす事に専念したり。

「た、たたた珠瀬訓練兵ですっ」
「落ち着け、まずは深呼吸だ」
「は、はい、すーはーすーはー……あ、あのっ、まずはお友達からで良いですかっ?」
「解った解った、とにかくそれでいいから」
「はぁ……でもパパに言ったら驚くだろうなぁ、少佐がお見合いの相手だって」
「そ、それはまずいかもしれない……」
「はい?」

前回でタマが誇張してタマパパに知らせていたのを思い出した武は、更に酷い事になりそうな予感が外れないなと思ったり。
概ねお見合いと言う名の特別授業は好評の内に終了して、全員好感触だったと霞は悠陽と夕呼に報告しようと思っていた。
そして当事者な武は、機嫌が宜しくないまりもにどうしてこうなったのかありのまま説明して、自分の潔白を証明しようと
していたが悪ノリした晴子と築地が武の両腕に抱きついてきて、まりもはぎろっと睨まれてしまった。
そこにタイミングを見計らったように、ちゃっかり斯衛軍の制服を身に纏った悠陽がさりげなく現れて、武の両腕に抱きついて
いる二人を見てチャンスと呟いてそのまま抱きついたりして誤解が事実になってしまったのである。

「誰かオレの話を真面目に聞いてくれようぅ……」

女性だらけで姦しい状況の中、整備員たちにやっかみやら口笛やらで冷やかされている武の呟きは、誰にも聞き入られる事がない。






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