「……武さん、ご機嫌ですね」
「ああ、純夏の事が上手く行ったしな」
「それは良き事です、わたくしも早くお会いしたいです」
「ゆ、悠陽っ!?」
「はい、武様♪」
「な、なんでここに?」
「香月副司令には伝えてあったと思うのですが……」
「夕呼先生っ!」
「なによ、ちょっと今忙しいんだから後にしてくれない」
「何やってるんですか?」
「ああ、香月副司令、もうお決めになりましたか?」
「うーん、こう言うのに縁がなかったから、いざとなったら迷いますわ」
「霞、あの二人は何を話しているんだ?」
「……武さん、着物と洋服ではどちらが好きですか?」
「意味がよく解らないけど、霞ならどっちでも似合うぞ」
「……香月博士、お色直しは二回です」
「お色直しって……ちょ、ちょっとまてーっ!?」
「洋装も宜しいですわね……まあ、これはこんなに背中を見せるのですか?」
「殿下はスタイルが宜しいですから、白銀なんて一発で悩殺ですわ」
「悩殺……甘美な響きです」
「オレを無視するなーって、悩殺ってなんだーっ!?」
「……わたしも悩殺させたいです」
「か、霞っ!?」
「あんたは将来まで楽しみに取っておきなさい、今はその幼さが一番の武器なんだから」
「……はい」
「先生、霞に変な事教えるなーっ!」
「さすが武様です、懐の広さを見させて頂きました」
「悠陽っ、妙な感心するなっ! そもそもお前がっ……」
「お前……お前……お前……」
「それは冥夜のセリフだーっ!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 28 −2000.7 笹の葉さらさら2−






2000年7月7日 13:30 横浜基地 第一滑走路

モニターで周りの状況を確認すると、武は不知火・改を起動させて立ち上がらせる。

『……武さん、冥夜さん、お二人のデータリンク正常です』
「了解、一応さっきのでエラーは出ないと思うけど、出た場合はすぐに戻ってくる」
『……はい』
「それじゃ行ってくる……冥夜、準備は良いな?」
「問題有りません、どうぞ」
『……二人とも、気を付けて』
「白銀武、不知火行くぞっ」

まずはゆっくりと歩き出す、それから次第に速歩きになり、今は機体を全力疾走させる。
まだシミュレーターにも乗った事がない冥夜は、伝わってくる激しい振動に体を強張らせる。

「次、このまま匍匐飛行に入るぞっ」
「くっ……」

後ろの席をモニターしている画面で歯を食いしばっている冥夜を横目に、武は軽くと言っていた言葉をあっさり撤回して
パワーを上げて一気に滑走路の端まで不知火・改を飛ばす。

(相変わらずだな、でも冥夜らしくていいか……)

そんなこと思いつつ武は機体を上昇させると限界高度まで上がり、おまけに少しだけ錐もみしながら自由落下の着地の瞬間だけ
ブーストを使ってゆっくりと降り立った。

「いきなりだったけど、怖かったか?」
「こ、これぐらい、なんでもありません……」
「そうだな、冥夜ならこれぐらいはすぐに出来るようになるしな」
「白銀少佐?」
「いろいろと聞きたい事や言いたい事があるだろう、だけどな……決めるのは冥夜、お前の意志だ」
「えっ?」

前を向いていた武は顔だけ振り返ると、後ろに座っていた冥夜を見つめる。
そこにいるのはさっきまでの巫山戯た武ではなく、一人の男としての武が真剣な表情で語る。

「悠陽がどう言おうが気にするな、冥夜の生き方は自分で決める事だ。オレが言えるのはそれだけさ」
「少佐……」
「おいおい、さっきも言ったけどな仲間なんだからもっと気軽に呼んでくれよ」
「で、ですが、わたしはまだ訓練兵であります」
「違うぞ、正規兵だろうが訓練兵だろうが、BETAを倒して平和を取り戻す思いは変わらない、違うか?」
「あ……はいっ」

うんうんと肯く武の顔は笑っていて、冥夜も釣られるように表情が軟らかくなる。

「だから、オレが冥夜と呼ぶのが嫌ならきちんと断ってくれ。そう呼びたいのはオレの勝手だけど、それをどうするか
決めるのは……」
「わたしなんですね」
「そうだ、でどうする?」
「白銀少佐、少しだけ考えさせてださい」
「うーん、やっぱり違うなぁ〜、冥夜に少佐とか呼ばれると違和感があるなぁ」
「え……」
「あー、なんでもない。邪魔してごめん」

少しの間だけ冥夜は考えていたが、目の前で何かを期待しているような子供と変わらない武の表情が可笑しくて
悪いと思いながらも小さくため息をつく。
だけど、先日姉の悠陽が言った事が嘘ではないと、自分には無かった選択肢をこうして提示してくれた武がその言葉を裏付けて
いた。
素直にそう思えた冥夜は戸惑いの表情は消えて、自然に口元も笑みが浮かぶ。

「……ではタケル、わたしことは冥夜と呼ぶがいい」
「よろしくな、冥夜」

そう言って差し出された武の手を、冥夜はしっかりと握り替えした。
ちょっと強引だと思いつつ、冥夜にそう言って貰えた武は、前の時を思い出して嬉しく思っていた。
だから照れ隠しのつもりで、口調もついつい軽くなってしまう。

「でもまあ、急に馴れ馴れしくなったら、今の冥夜はいろいろ言われるかもなぁ……」
「あ、あの、タケル……」
「ん?」
「そ、その、殿下……いや、姉上の話しなんだが……」
「あー、もしかしなくてもあれか? まったく、悠陽の奴が勝手にどんどん進めるし」
「その様に姉上を呼び捨てにするとは、タケルは本当に姉上の……」
「あのな、卑怯とか狡いとか聞こえるかもしれないけど、オレが率先して決めたんじゃないからなっ」
「ではタケルは姉上の事はどうでもいいと申すのかっ!?」
「だ〜か〜ら〜、誤解するなって。別に嫌って訳じゃなくてだなぁ……オレの意志がかなりないがしろにされた上に、
誤解が誤解を呼んでもうどうにもならないって事が納得出来ないって意味だからなっ」
「よく解らないが、タケル自身は嬉しいと?」
「オレだって男だからな、悠陽だって美人だから言い寄られて悪い気はしないさ」

そこまでは少しへらへらとしていた武は、ちょっとだけ表情を元に戻すと冥夜を見つめ返す。

「その事も冥夜が決めればいい、オレはそれに応えるだけだから」
「タケル……」
「とここだけの話し、この特別授業の目的が一つじゃないって教えて上げよう」
「一つじゃない?」
「ぶっちゃけて言うとあれなんだが、えっとつまり……お見合い?」
「お、お見合いって……ま、まさかっ!?」
「どうやらこれも悠陽が仕組んだんだから、文句なら直接言ってやれ」
「あ、姉上……」

この時、冥夜の中で今までの悠陽のイメージが崩れつつあったが、こんなのはまだまだ序の口で冥夜は悠陽に振り回される
事になる。
何しろその噂の人物が今ここ横浜基地に向かっている途中などと、武と冥夜には解るはずがない。
そして武が何故その事に気が付いたのか、それは霞から秘匿回線で武のみにテキスト情報として送られてきたからだった。

「これがその証拠だ」
『……冥夜さんによろしくだそうです』
「姉上はもう……」
「オレとしては冥夜みたいな可愛い女の子とのお見合いは嬉しかったけどな」
「か、可愛いっ!?」
「おう、可愛いぞ」
「タ、タケルっ」
「あはははっ」

視界の隅で今も表示されているその言葉に、武は開き直るしかできなくてそれを冥夜の方にも表示させて上げると、
はぁと大きくため息をついて悠陽の名前を呟いていた。
その頃、滑走路の端でなかなか動かない不知火・改を待っていたまりもは、何かあったのかと霞に聞いていた。

「社少尉、何か機体に不具合でも?」
「……いえ、違います」
「それじゃ一体何を……」
「……武さんは冥夜さんとお話中です」
「なるほど、初めて乗った戦術機だから、質問とかあるのだろう」
「……違います」
「えっ?」
「……どうぞ」

霞は一人だけ強化服じゃないまりもに通信機のインカムを差し出してチャンネルを繋げると、それ以上何も言わなかった。
よくみれば207隊のみんなも話の内容を聞いていたらしく、ほのかに顔が赤くなっていた。
怪訝な表情でまりもはインカムを身につけると、聞こえてきた内容にきりりと眉毛がつり上がる。

「な、何やってるのよ白銀はーっ!?」
「……すとろべりーとーくですね」
「あ、あいつ、二人きりだからって……」
「……まりもさん」
「霞?」
「……この特別授業、もう一つの目的があるんです」
「もう一つ?」
「……武さんと冥夜さんのお見合いです」
「なんですってーっ!?」
『ええーっ!?』
「……今夜は星が良く見えそうです」

みんなが絶叫する中、霞は綺麗な青空を見上げながら、一人呟いた。






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