「それで、また使ったんでしょう、あれを?」
「ばれてましたか……」
「霞が組み込んだXM3の高機動モードを使う前からその兆候は伺えたたわ」
「すいません、ですが前と違って意識的に出来るようになってきましたよ」
「まあ超能力じゃないしね、あんたは自分の感覚を集中力によって限界を超えているのよ」
「そうみたいですね、自分でも少し解ってきました」
「前の時と違って甘さが無くなった分、衛士としての意識が強まった所為なのかしら?」
「どうなんでしょうねぇ〜」
「普段人間は自分の脳を30%ぐらいしか使ってないけど、今のあんたはほんの少し超えていると考えられるわ」
「夕呼先生の推論ですか?」
「もちろん、だからそれを証明する為に白銀……ちょっと脳みそ見せてくれない?」
「嫌ですよっ」
「なによ、ケチねぇ〜……まあそれは冗談だけど」
「冗談に聞こえないのが夕呼先生なんですよ」
「この程度であたしは済ませてあげるけど、霞はまだ怒っているから覚悟した方がいいわよ」
「あの……まだそんなに怒っているんですか?」
「ええ、ヴァルキリーズのみんなが引くぐらいにね」
「へにゅう」
「あら、そんな珍しい生物の鳴き声を良く知っているわね〜」
「い、いるんですかっ!?」







マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 20 −2000.5 見舞い−







2000年5月12日 不明 横浜基地 第一演習場

すでに斯衛軍の中隊の半分は倒されている状況の中で、みちるは冷静に考えていた。
それは武がどうのと言うより、攻撃を当てない限り勝ち目がないという結論を出していた。
だからどうしたら止める事が出来るか、現在の残っている戦力で思いつく作戦を立てようとしていた。

「涼宮中尉、白銀のあの動きを見てどう思う?」
「武御雷のスペックから考えると、ほぼ限界値だと思います」
「そうだ、だが人間が乗る物でそんな動きをしたらどうなる?」
「あっ……おそらく、いえ、ほぼ無事では済まない筈です」
「正解だ、つまりあれを意図的に行っているとしても、そう長い時間は稼働できないと言う事だ」
「みちるちゃん、それは解ったけどどうやって……その、倒せばいいの?」
「狙って撃ってもかわされるのは速瀬達の行動で解っている、正攻法がだめならば絡めてで行くしかない」
「さすがみちるねえさん、それでその作戦は?」
「私とあきらの二機連携仕掛ける、まりかと鳴海で支援だ。涼宮は各機をサポートしつつECMで撹乱だ。可能な限り
逃げ回って時間を稼ぐのを忘れるな。そしてここまでが囮だ……本命は正樹に任せる」
「おい、みちるっ……」
「いいか、どんなに早く動いていても攻撃する瞬間だけはそこにいるはずだ。だから私たちを狙って撃つんだ」
「待てよっ、そんな危険な事出来るかっ」
「私たちがやられても動揺するな、正樹は涼宮とデータリンクによる精密射撃で確実に仕留めるんだ」
「みちるっ!」
「反論は却下する、あれは白銀ではない。最強のBETAと思うんだっ、いくぞっ」
『了解っ』

この時、みちるは冷静に分析していて気が付いた事があった……それは、武が致命傷を与えていないという事である。
あそこまで言っておいて完全撃破された機体が無いなんて、そんな偶然はあり得ないとしたら意図的と考えるのが
妥当だった。
ならばその理由はなんなのか……ここまで大がかりに仕掛けた本意を知りたい為に、みちるは仕掛けていく。

「これで斯衛軍は終わりか……ん、来たなっ」

しかし、急にレーダーの反応が乱れて、ヴァルキリーズの正確な数が掴めなくなる。

「自分で頼んでおいてなんだけど、索敵型は強力だなぁ……でもまあそれよりも、こっちが保つかどうか……」

すでに武御雷の機体は悲鳴を上げて、ワーニングコールの数が増え始めていた。
つまり、自分と同じように武御雷も限界が近づいていた。

「自分が先か、こいつが先か……こっからが本番だなぁ……」

役に立たないレーダーに頼らず、武は【FLASH MODE】の残り時間を確認しつつ、支援砲撃の合間にこちらへ
向かってくる不知火・改を視界に捕らえると、機体を加速させる。
だが、武が間合いを詰めようとしたら、2機の不知火・改は全速力で反対側に加速すると離れ始める。

「みちる大尉に見抜かれたかもしれないなぁ……そうするとやばいなぁ」

タイムリミットが近づくにつれて武御雷の反応がどんどん悪くなり、自分の体も疲労のピークに達しようとしていたが、
ここでやられたら格好悪いなと武は苦笑いを浮かべる。

「最後まで極悪人でいないとダメだよなぁ……霞っ」

残り火の様に揺らめく意識に活を入れて、武は武御雷を一機の不知火・改に向かって匍匐飛行で突っ込んだ。

「まず、一機っ!」

そう言って間合いに飛び込んで斬撃を与えようとするが、手にしていた突撃砲をこちらに投げつけると逃げる事に専念した。

「ふぅ、みちるちゃんの言った通りだった……ととっ」

間一髪で回避したあきらはみちるの言う通り、時間を稼ぐ事を第一として逃げる事に集中した。
目の前にいた黒い武御雷を倒すのは自分じゃない、そう言い聞かせて熱くならずするべき事をする。

「完全に読まれてるなぁ……それであっちを追撃すれば、ほらきたっ!」

支援砲撃を避けながら武の目にはみちるの機体が迫ってくるのが見えて、体勢を整えながら迎え撃とうとしたら今度は
あきらと違って回避せずに長刀を振りかざしてきた。

「白銀っ!」
「くっ」
「そこから引きずり出すと言ったはずだっ!」
「そう簡単には……なっ」

避けられるはずだったみちるの斬撃が、武御雷の肩を斜めに切り飛ばした。
力が抜けて膝が抜けるように崩れ落ちそうになった機体を、武はブーストを使って大きく離れようとするが、その動きは
急速に鈍くなったようだった。

「ちいっ……」

そこに支援砲撃が集中して、無理矢理動かそうとするが武御雷は避けきる事が出来ずに被弾し始める。

「終わりだぞ、白銀っ!」

その隙を見逃す様な甘さはみちるには無く、一気に近寄って武御雷の腕を掴むと引きずるようにその機体を押し出して
叫んだ。

「正樹っ!」

みちるの叫びに応えるように、絶好のポジションから正樹の撃った砲弾が武御雷に当たり始める。
頭が吹き飛び腕が砕け散り見る影も無くなっていく機体を側で見ていたみちるは、異変を感じて射撃を止めさせる。
その直後に、紅蓮から演習場にいる斯衛軍とヴァルキリーズに対して、演習の終了を告げる通信が入った。

「生きてるか、白銀っ! 返事をしろっ、おいっ!」

自分を呼ぶ声をぼろぼろになった武御雷のコクピットで聞いているはずの武は、すでに気を失っていて聞く事はなかった。
だけどその顔はどこか嬉しそうで、負けたくせに満足そうに笑っていたと後から聞かされる武だった。
後にこの演習は斯衛軍とヴァルキリーズに取って一つの切っ掛けを産む事になり、良い方向に向かいその成果が出るのは
暫く先になるが、確固たる力となった事を武は喜んだと言う。
それから武が目覚めたのは、3日後だった。

「……うっ………こ、ここは……」
「おはよう白銀、漸くお目覚め?」
「夕呼……先生……」
「あー、まだ動かなくていいわよ……まったく、今の自分の状態解ってないようだから教えて上げるわ」
「はい……」
「内臓の全機能の低下、少なくても一ヶ月はベッドの上で生活ね」
「……マジっすか」
「マジよ、大マジよっ、この馬鹿っ」
「うへぇ……」

久々に真剣に怒っている夕呼を見て、武はベッドの上で力無くため息をついた。
一歩間違えば今頃自分はここにはいなくて、こうして夕呼と話も出来なかった事に、苦笑いを浮かべた。
それをみて夕呼は寝ている武に顔を近づけると、じろっと睨んできた。

「何笑ってるのよ……」
「いや、ごめんなさい」
「まったく、もう少し自分の事を大事にしなさいよねっ」
「はい……」
「解ってないから教えて上げるわ、あんたがどれほど必要とされているかって……」
「え……夕呼せんせっ……んぐっ!?」

いきなり激しくキスされて、武は目を白黒させて驚いた。
そしてすぐに唇を話した夕呼は、赤くなった顔を見せないように振り向くと、部屋を出て行く。
だけど入り口で立ち止まると、ぼそっとだけど大きな声で言う。

「……今のはお休みのキスよ」
「オレ、起きたばっかり何ですけど?」
「あたしが寝るのよっ、この馬鹿っ……」
「あ……」
「そう言う訳だから、後はご自由に……まりも、月詠中尉」
「えっ?」

ちょっと無理して首を動かして武は入り口を見ると、まりもと月詠が顔を赤くして自分を見ているのに気が付いた。
そして夕呼は振り返ってわざとらしくニヤリと笑ってから、行ってしまった。

「……大マジに怒ってるなぁ、夕呼先生ってば」

やがて夕呼の去った病室の中から暫くして、武の悲鳴が横浜基地内に響き渡るのだが、誰も見に来る勇者はいない。
看病という名の尋問とも拷問とも言える二人の美女からの詰問に、武の入院が延びるかどうかは解らない。






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