「最新の機体が投入されていても、やはり無理ね」
「正直そうとしか言えないですよ、これじゃ……」
「それじゃ行って頂戴、それと機体のOSは換装してあるわ」
「間に合ったんですか?」
「霞に感謝しなさいよね、あの娘が徹夜で仕上げてくれたんだから」
「戻ったら頭を撫でて上げますよ」
「そう……さあ、始めるわよ」
「了解」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction 



God knows... Episode 02 −1999.8 明星作戦02−





1999年 8月9日 14:30 横浜ハイヴ

「……はっ、ヴァルキリーズ各機、ぼやぼやするなっ」

目の前で起きている事実を認めながら、自分も見入ってしまった恥ずかしさを隠すように、
みちるは檄を飛ばす。
だが、その行動に待ったをかけるように、ブレイズ1から音声のみの通信が入る。

「ブレイズ1よりヴァルキリーズ各機へ、今から300秒の間ここを維持するから補給を
済ませてこい」
「何を馬鹿な事を言って……」
「伊隅」
「香月博士?」
「ブレイズ1の指示に従いなさい、彼の命令は私の命令と同じよ」
「はっ、しかし……」
「反論は無し、戻りなさい」
「了解っ、ヴァルキリーズ各機、補給コンテナの場所まで後退する」
「伊隅大尉っ」
「戻れ鳴海少尉、これは命令だ」
「くっ……」
「孝之くん、戻ろう」
「孝之、ここで死ぬ訳にはいかないでしょ」

いくらなんでもヴァルキリーズで維持していた戦線を、目を見張る動きを見せるが不知火一機だけで
ここをカバーするなんて正気とは思えない孝之は、なかなか後退しない。
そんな孝之に、ブレイズ1からやはり音声のみの通信が入る。

「いいから行け、そっちが戻るまで必ず押さえてやるから安心して行ってこい」
「あんた正気かっ?」
「当たり前だろ、ここで死ぬ気なんて無いぞ」
「だけどなぁ……」
「ほら20秒たったぞ、良いから行けって」
「くっ……解った、死ぬなよ」
「だから死なないって言ってるだろ」

そう言いながらも長刀を振り回し突撃砲を撃ちまくり、モニターで周囲の状況を見ながら、
武は呟いた。
以前の佐渡島ハイブ戦の時よりも多い敵相手に、武に気負いは無い。
それと霞が徹夜で仕上げてくれたOS【XM3】も、間違いなく力を与えている。
実は霞が組んだXM3は量産型では無く、武向けにカスタムした物でより武のイメージを再現
できるように組んだ物だった。

「ありがとな霞、帰ったら思う存分撫でてやるからな」

迫り来るBETAの大群にも怯まず、武の動きはより早く的確に引き付けた敵を倒していく。
その様子は戦況を見ているHQの中にも衝撃を与えていた。

「ヴァルキリーズ各機、補給を始めました」
「戦線はどう?」
「ブレイズ1が維持しています、いえ寧ろ少しずつですが押し返しています」
「ふーん」
「香月博士、これは一体?」
「ラダビノッド司令、詳細は後ほど……ですが一つだけお教えします。ここから私達の求める未来が
始まります」
「そうですか、しかしこれで味方の志気が上がります。なにしろたった一機で戦線を支えている
のですからな」
「そうですね、G弾使用まで時間もありません。彼と彼女たちに期待しましょう」

事実、この情報を死力を尽くしている最前線の味方に知らされると、息を吹き返した様に
各戦線が僅かずつ予定地域に向かって押し上げられていく。
特にデータリンクでその戦いの詳細を知った戦術機乗りたちは、勇気づけられて自分を奮い立たせ
仲間達に声を掛けてBETAを駆逐していく。

「ヴァルキリー1よりブレイズ1。今よりヴァルキリーズ各機、戦線に復帰する」
「ブレイズ1了解、こちらもちょうど弾切れだ」
「そう思って予備弾倉と近接戦闘長刀を持ってきた」
「サンキュー」

残り10秒ぐらいで補給して戻ってきたヴァルキリーズは、BETAに向かって突撃砲やレーザー級に
ALMランチャーを撃ちまくる。
その隙に武は切れなくなっていた長刀を要塞級に突き刺して下がると、みちるが用意してきた弾倉と長刀を
受け取ると、すぐに一番前に飛び出す。

「ブレイズ1よりヴァルキリー1。でかいのは任せろ、細かいのを頼む」
「了解」
「後少しだ、行くぜっ」

戦いながら武の動きを見ているヴァルキリーズのメンバーは、改めて見惚れてしまいそうになる。
流れるように最小限の動きで攻撃を避け、的確に無駄弾を使わずに敵を倒していく。
そして気が付けば武の動きをサポートするように、ヴァルキリーズはBETAを倒していく。

「す、凄い……」
「なによあれっ、あんなのありなのっ!?」
「なんでそんな戦い方が出来るんだっ……」

遙は呆然と水月は驚きと、そして孝之は奥歯を噛み締めながら武の不知火の戦闘機動が理解出来なかった。
そして同じ不知火なのにどうして同じ事ができないのか、羨望と悔しさを含んだ思いで呟いた。
その思いはヴァルキリーズの全員が感じていた事で、その疑問は武と直接会うまで消えなかった。

「ラダビノッド司令、各部隊が予定地点まで戦域を押し上げました」
「よし、これより最終フェイズに入る。各部隊はG弾被害範囲まで全力後退」
「了解、HQより作戦参加全部隊へ。これより作戦は最終フェイズに入る、待避予定地点まで
全力後退」

必死に押し上げた戦線から全力で後退しなければならない悔しさは誰もが持っていた。
しかし、このチャンスを逃すわけにはいかず、引いていく波のように各部隊は下がっていく。
併せて足止めの支援砲撃が各戦線に降り注ぐ。

「ヴァルキリー1よりヴァルキリーズ各機へ、待避地点まで全力後退」
『了解』

次々と突撃砲を撃ちながら下がっていく中で、孝之の不知火はその場で動こうとはしない。

「下がれヴァルキリー6、後退だ」
「くそっくそっ……」
「鳴海少尉っ」
「だめぇ、孝之くんっ!」
「何やってんのよ、孝之っ」
「この馬鹿野郎っ」

その叫びと共に武の不知火が、孝之の機体を羽交い締めにすると、そのまま出力全開でブーストジャンプ
でその場を離れる。

「は、離せっ、あそこは俺の……俺たちの生まれたっ……」
「死んだら終わりだぞっ」
「だけどっ」
「お前が死んだら泣く奴はいないのかっ!」
「!?」
「孝之くん……」
「孝之っ……」
「命を無駄にするな、今は生きるんだっ」
「ぐっ……」






悔しさで泣きながらその場を後にした孝之が、待避場所に戻ってから暫くして。






米軍が放った二発のG弾が柊町を含んだ横浜ハイヴ周辺を瓦礫の土地に変えてしまった。






「純夏……」






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