「白銀」
「……な、なんですか夕呼先生?」
「このあたしまで騙していた責任、取る気はあるんでしょうね?」
「え、えっと〜」
「まさかこのままで済ませようなんて、面白い事言ってくれるならどうなるかしらねぇ〜」
「あはははっ、ま、まさか〜」
「そうよねぇ〜、男らしく責任を取って貰わないと……改造しちゃうわよ?」
「と、取りますっ、喜んで取らせて貰いますっ」
「……それは罠です、武さん」
「なんだって、霞?」
「……いえ、わたしも怒っていますから、責任取って貰います」
「いや、ちょっとまてっ、霞は知ってたじゃ……」
「……約束、破りました」
「あ、あれはっ……」
「……あれは? なんですか?」
「何でもありません、約束破ってごめんなさい」
「……あーあ、これでまりもと姉妹だなんて、世の中不思議で一杯だわ〜」
「はあ?」
「いいから気にしないで頂戴、あんたは黙って責任取ってればいいのよ」
「なんかもの凄く嫌な予感がするんだけど……」
「……気のせいです」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 19 −2000.5 オーバーロード−







2000年5月12日 11:00 横浜基地 第一演習場

月詠とまりもの振り下ろした長刀が、黒い武御雷の機体を貫いたように見えた。
斯衛軍もヴァルキリーズもその斬撃が致命傷を与えていたと、すなわち武の生死も決まったと思った。
だがそれは間違いだと知らされる……なぜならその答えは空から降ってきた物を見たからである。

「えっ……」
「大尉、これはっ!?」
「不知火・改の両腕と長刀……」
「な、なんでっ!?」
「そんなっ!?」
「一体何が……」

驚愕するのはヴァルキリーズだけではない、そこに在ったのはそれだけはなく、斯衛軍のよく知る赤い武御雷の腕だったから
である。
そして何が起きたのか解らないと思うのは彼よりも、実際に攻撃を受けていた月詠とまりもだった。

「え、なんでっ!?」
「馬鹿なっ!?」

二人の前にいたはずの武は消えて、同時に自分たちの機体の両腕も切り飛ばされていた。
一瞬、呆然とする二人だが、慌てて武を探そうとするとそこにいた者すべてに聞き慣れた声が聞こえた。

「まだ終わってないぞ……」
「「白銀っ!?」」
「戦場に絶対は無い、それが解らないなら生き残れない……ならここで終わっても同じだよな?」
「くっ……」
「おのれっ……」

みんなの視線が注目した先の瓦礫の上に、黒い武御雷は悠然と立ちつくしている。
斯衛軍と国連軍の精鋭が包囲しているというのに、早く掛かって来いと言わんばかりに挑発する。
だが、一番最初に冷静になったみちるは、動こうとしないみんなに指示をだす。

「ヴァルキリーズ各機、何をぼやぼやしているっ! 敵はまだそこにいるぞっ! 各小隊、攻撃を再開しろっ!」
『了解っ』
「神宮司軍曹と月詠中尉は後退してくださいっ」
「で、でもっ」
「しかしっ」
「命令ですっ」
「そうそう、じゃないと次は誰かさんが危険かもしれないですよ……月詠さん、まりもちゃん」
「貴様、まさかっ!?」
「殿下にそっくりな人って言ったら、まりもちゃんも解るかな?」
「えっ……」
「神宮司軍曹、急いで後退するっ。神代、巴、戎も一緒に来いっ」
「え、了解っ」
「「「了解ですっ」」」

武の言葉に反応した月詠は、武が誰の事を指して言っているのか理解して、3バカを引き連れて急いでハンガーに引き返した。
後ろ髪を引かれるように遅れて後退するまりもは、武の言っている意味が本当だと月詠の行動から判断して
自分の教え子が需要人物だと悟った。
そしてわざわざそんな事を教えて上げた武は、再びあの領域に飛び込んでいた……そう、夕呼も止めた零の領域だった。
まるで超能力かと思える程の先読みをして戦闘空間のすべてを把握しているので、攻撃を避けて相手の動きを押さえていく。
また、前回と違って武の能力に合わせてOSは反応速度を上げて、機体本来のスペックを超える動きを見せる。
それが『【XM3】FLASH MODE』である。
ただし、長時間の使用は機体と操縦者に負担を掛けすぎるので、スタートと同時にカウントダウンしていく時間制限付き
である。
強化服を着ていても体に与える負担の大きさに、歯を食いしばって耐える武の表情は冴えないが、相手に気取られないように
軽口を叩く。

「それでも精鋭なのか、斯衛軍にヴァルキリーズはよぉ……」
「白銀っ!」
「突撃前衛の名が泣くぜ、速瀬中尉っ!」
「なあっ!?」

黒い武御雷は残像を残して一気に間合いを詰めると、水月の不知火・改の両腕とバーニアを切り裂く。
そのまま機体を蹴り飛ばすとそれを盾にして、美冴と梼子の支援を避けると残像を残して向かっていく。
至近距離に近い位置まで引きつけて射撃を開始しされた砲弾は、空しく残像を貫いていくだけだった。

「そんな、こんな近くで弾を避けてるっ!?」
「あり得ない動きだ、いくら武御雷とXM3だからって……」
「余計な事を考えていると、命がいくつあっても足りないぞ、二人ともっ」
「「っ!?」」

武御雷が二機の間を駆け抜けると、不知火・改は頭部と武器を切り裂かれてそのまま押されて地面に転がる。
そこに今度は斯衛軍が小隊が迫ってくるが、武は機体を加速させると地面すれすれに匍匐飛行で半円機動を見せて背後に
回ると、そのまま4機の武御雷の足を一気に切り刻む。

「なにっ?」
「ばっ」
「こ、こんなっ……」
「うおっ!?」

ついでにブーストも切り裂くと、次はどう動くか明確なビジョンが武の思考を支配する。
だからその通りに動けばいいので、武はその通りに機体を操る……零の領域にいる武にとってすべてが予定通りなのである。

「くっ、きつい……だけど、これならいけるっ」

自分自身の能力に振り回されていた前と違って、武の要求する動きにOSと機体は寸分違わず反応する。
心の中に霞への感謝と謝罪の気持ちを隠して、武は残っている敵に向かっていく。
圧倒的力と引き替えに確実に武の体を蝕んでいくFLASH MODEの残り時間は、あとわずかだった。

「むっ、すでに半数が撃破されたか……」
「なによあれ、あんなの白銀だからって異常だわ。それにXM3にあんな機能まで……霞っ!?」
「……なんですか、香月博士」
「あなたね、あんな事が出来るのはあなたしかいないでしょっ」
「…………」
「答えなさい霞、あれはなんなのっ?」
「……あれは一時的に【XM3】のリミッターを解除して、更に機体のスペックを限界以上まで引き出します」
「な、なんて事を……」
「……それが『FLASH MODE』です」
「そんな事したら操縦者が保たないわっ」
「……はい、だから制限時間付きです」
「なんでそんなことしたのよっ?」
「……それが武さんの願いだからです」

そこまで話して夕呼の方を向いた霞の目から、頬を伝って涙が零れた。

「霞……」
「……皆さん本気で武さんと戦っています。でも……それでも勝てない相手がいた時、どうしますか?」
「それは……」
「……戦場では何が起きるか解らない。BETAだけが相手とは限らない。みんなはそれを理解していたのですか?」
「だから白銀は……」
「……はいそれを教える為に、武さんは自らが敵になったんです。強大な敵として……」
「なにもこんな事までしなくても……」
「それこそ武殿らしいではありませんか、香月副司令」
「えっ……で、殿下?」
「お久しぶりですな、香月博士」
「鎧衣課長?」

そこに現れたのは武に破壊された車と共に死んだはずの悠陽と鎧衣課長だった。
何事も無かったようにのほほんとしている二人に、夕呼はぽかんとしてしまうが構わず紅蓮が相手をする。

「ちと出番が早すぎではないですか、殿下?」
「紅蓮、そろそろ頃合いと思うたのですが、状況はどうですか?」
「米軍など比較にならない程に白銀少佐の強さは圧倒的ですな、ですが今聞いた話では別の意味で危険やもしれません」
「社少尉、残り時間は?」
「……はい、あと57秒です」
「誰か救護班の用意を……」
「すでに要請をしてありますっ」
「……ありがとうございます、ピアティフ中尉」

いち早く状況を飲み込めたのは、みんなから少し離れていたイリーナで、その顔には少しだけ安堵の表情が浮かんでいた。
そして武が口にした人物を3バカに任せて戻ってきた月詠とまりもは、指揮所に入った所でそこにいた人物に驚いた。

「無事だったのですか、殿下っ!?」
「心配掛けましたね、月詠」
「い、いえ、勿体なきお言葉……ですがどうやって……」
「すべてはあそこで自らを悪人に仕立てて戦っている者の企てです」
「白銀のっ!?」
「説明は後にしましょう、それよりも先に済ませなければいけないことがあります」
「それは……」
「殿下、斯衛軍は中隊全機撃破されました。ヴァルキリーズも残り数機です」
「社少尉」
「……はい、あと7,6,5,4,3,2,1、FLASH MODE、ストップです」
「紅蓮」
「はっ」

そこで悠陽の言葉に紅蓮は通信機のマイクを掴むと、息を吸い込んで大声で叫ぶ。

「こちらは紅蓮である、現時刻をもって実弾演習を終了する、全戦術機は即時戦闘を終了せよっ」






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