「……武さん」
「霞、あんたの所為じゃないわよ」
「……組み込んだのはわたしです」
「それでも、使うと決めたのは白銀よ」
「…………」
「解っているでしょう霞、白銀がどんな思いをしてきたか」
「……はい」
「あたしたち以上に、白銀の思いは強かった……それだけよ」
「……香月博士」
「そうそう、鑑にも話したけど、あの娘はこう言ってたわよ……『タケルちゃんですから』ってね」
「……はい」
「それにしてここまでやるなんて、霞……やっぱり愛の成せる技なの?」
「…………」
「なによ〜、今更照れる事無いじゃない〜」
「……香月博士もそうなんですか?」
「な、なにがよ……」
「……同じという事ですね」
「か、霞っ!?」





マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 18 −2000.5 シロガネタケル−







2000年5月12日 10:00 横浜基地

演習直前のハンガーで、発進準備をしていたヴァルキリーズに耳に警報が鳴り響く。
まさかBEATが侵攻して来たのかと思ったが、強化装備のデータリンクに流れてきた情報を見て愕然としていた。

「ばかなっ!?」
『大尉っ』

信じられないといった表情で驚くみちるの周りに、情報を見たみんなは集まってきた。
それもそのはずである、悠陽殿下を乗せた車が破壊され、その犯人が武だと言う事が信じられなかった。

「白銀がそんな事する訳が無いっ」
「しかしっ」
「でも、こんな嘘、意味が有りませんっ」
「あの少佐が……」
「何かの間違いに決まっていますっ」
「しかし、警報の上にデータリンクの秘匿回線まで使う意味からすると……」
「こんなことって……」
「何がなんだか解らないですよっ」
「落ち着けっ、ヴァルキリーズ各員は速やかに搭乗せよ。なお装備は各ポジションに準じるが、弾は実弾に換装していく」
「伊隅大尉っ」
「反論は却下する、全機発進だっ!」
『了解っ』

訳も解らずヴァルキリーズは混乱した気持ちのままでハンガーを後にしていくが、それを見送る整備班長は一人顔をしかめる。

「あの馬鹿野郎……本当に無茶しやがる」

その呟きは誰にも聞かれることなく、霞と同じ思いを胸に整備班長はこの先に事態に備えて、整備員たちに声を掛けていく。
とにかく真相が知りたい、武自身から語られる言葉を聞かない限り、何も納得なんか出来ない思いを抱えてヴァルキリーズが
演習場に到着すると、斯衛軍の武御雷に囲まれている黒い武御雷が突撃砲を構えたまま立っていた。
そしてそれを待っていたかのように、夕呼は通信機のインカムに指を掛けて、武に話しかけ始めた。

「白銀、どういう事なのっ!?」
「どうもこうもないですよ、見たままです」
「あんた自分が何をしたのか解ってるのっ!?」
「ええ、日本帝国軍政威大将軍の煌武院悠陽殿下をこの手に掛けた……それがすべてです」
「なっ……」
「白銀少佐っ!!」

夕呼の話しに割り込んできた月詠が、武の名前に怒りを込めて叫ぶ。
だが、その目は怒り以外の色も存在していたが、それを出さずに武に問いただす。

「なぜ……なぜこのような事を……理由を言えっ!!」
「別に理由なんてありませんよ、まあ悠陽はいいカラダしていたから惜しかったですけどね」
「白銀、貴様っ……」
「どうしました月詠さん、顔が怖いですよ」
「気安く私の名前を呼ぶなっ!!」
「白銀……」
「まりもちゃんまで怖い顔して、美人が怒ると迫力が……」
「巫山戯ないで本当の理由を話しなさいっ!」
「はぁ〜、しょうがないなぁ……ちょっと拙い事を知られちゃってね、悠陽も余計な事をしなければこうならなかったんだ」
「何よそれ?」
「……『シロガネタケル』の事をですよ」
「えっ……」
「1998年にBETAが首都圏まで侵攻した時に、『シロガネタケル』が死亡している事実を、城内省のデータベースで
知ってしまったんですよ。国連軍の方は改ざんした事に気が付かれなかったんですが、そっちは少し急いだので痕跡が
見つかって、それで昨晩悠陽に詰め寄られたって訳です」
「なんですってっ!?」
「まあ説明するからと、視察と言う名目でここに来て貰って、あわよくば流れ弾で事故に遭って亡くなると言うのが
理想的だったんですが……」
「それなら何故事を急いだっ!?」
「……鎧衣課長に気づかれてしまって、まあ油断している所を一緒にくたばって貰った訳です」
「じゃあ、あなたは何者なの?」
「シロガネタケルですよ、それ以上でもそれ以下でもない……」
「嘘は付かないでっ、本当の事を言ってよっ」
「いくらまりもちゃんのお願いでも、それは聞けないなぁ〜」

落胆するまりもと怒りに震える月詠を横目に、冷静になった夕呼が再び武に話しかける。

「それじゃ白銀、大人しく捕まるというのね?」
「捕まって銃殺ですか、そんなの嫌ですよ〜」
「白銀っ!」
「これ以上話す事はないです、ヴァルキリーズのみんなも聞いたな? どう言おうがオレが悠陽殿下を殺した事に変わりはない」
「舐めるなよ白銀、貴様が真実を話してない事を見抜けないと思っているのかっ!」
「それは買い被りってもんですよ、みちる大尉」
「いいからそこを動くな、引きずり出して直接聞いてやるっ」
「出来るものならどうぞ、ただし……命がけになりますよ?」
「ヴァルキリーズを舐めるなと言ったはずだっ!」

その言葉と同時に、みちるはいきなり突撃砲を武の乗っている黒い武御雷に向かって発砲した。
だが、武は難なく避けるとそれを切っ掛けに反転して、そのまま匍匐飛行で演習場の中に逃げ込んでいく。

「待て白銀っ」
「待てと言われて待つ奴はいないですよ、みちる大尉」
「……っ、ヴァルキリーズ各機に告げる。全力を持って白銀を押さえろ、場合によっては撃破しても構わんっ!」
『っ!?』
「いくぞっ!」
『了解っ……』

みちるの号令にヴァルキリーズのみんなは戸惑いながらも、命令に従って武を追撃し始める。
後を追うように斯衛軍の隊員も怒りの表情で武御雷に乗り込むと、次々発進していく。
それを見たまりもも、我に返るとハンガーに向かって走り出した。

「紅蓮閣下……」
「話は後にしましょう、香月副司令」
「ですが、この事態は……」
「あの者を捕らえればすべてがはっきりしますが、場合によっては不可能だと理解して頂きたい」
「はい、解っていますわ、お任せします」
「聞いたな、月詠」
「はっ、全力であの者を捕らえて、ここに連れて参ります」
「怒りに任せて勝てる相手ではないぞ?」
「……大丈夫です、閣下」
「よし、行けっ」
「はっ」

月詠の赤い武御雷が発進していくのを、紅蓮は見つめながら一人心の中で呟く。
(女は怒らせると怖いぞ、特にあの者はな……白銀少佐)
この時紅蓮の口の端が少しだけ持ち上がっていた事に、戦いが始まっている方を見つめていた夕呼は気が付かなかった。
そして斯衛軍VSヴァルキリーズの演習が行われる場所で、たった一人でその両軍を相手に戦う武は驚異的な
戦闘力を見せ始めていた。

「ブレイズ隊は正樹に任せる、ヴァルキリーズ各機は各小隊でヴァルキリー・マムの指示した地点まで白銀を追い込めっ」
『了解っ』
「いいな油断するなよ、相手は【XM3】発案者で実力は知っての通りだ。迷ったら負けるぞっ!」
『はいっ』

ヴァルキリーズは命令を実行する為に、個人的感情を抑えながら武の武御雷を攻撃する。
だが、斯衛軍と挟撃しているのにもかかわらず、武の武御雷には一発の砲弾も命中していない。

「さすが武御雷だな、不知火よりクイックな反応がいいぜっ……っと」

コクピットで武は襲いかかる攻撃をすべて見切り、逃げ回りながら反撃を行っていく。
その目も体も思考も、ただ生き延びる事に全力を注いで、武は武御雷を操っている。
的確に無駄弾を撃つことなく、相手の武器や機動性を奪う事だけに集中しているが、斯衛軍もヴァルキリーズもそれに
気づかない。
補給は当てに出来ないし退路はない、まるでハイヴに一人取り残された状況を再現してる戦いで、武は孤軍奮闘する。

「「白銀っ!!」」
「うわっ……月詠さんとまりもちゃん、怖いなぁ〜」
「「黙れっ!!」

他の攻撃が気にならないのか、月詠の赤い武御雷とまりもの不知火・改は長刀を振り上げて切り込んできた。
まりもの攻撃を片手に持っていた長刀で受け止めるが、突撃砲は月詠の攻撃で切り裂かれてしまい、それを潔く捨てると
長刀に持ち替える。

「おっと、危なかった〜」
「……ていたのに」
「まりもちゃん?」
「信じていたのにっ!」
「私もだっ!」
「くっ」

叫びながら長刀を振るう月詠とまりもの攻撃を、武は受け止めたり流したり避けてかわしたり、実力者の二人相手に
互角以上に戦ってみせる。
そしてその場の空気に斯衛軍もヴァルキリーズのみんなも、手出しが出来なくなってしまう。

「どうして、どうしてなの白銀っ!」
「さぞ滑稽だったろうな、白銀っ!」

武に話す暇を与えない二人の斬撃は、怒りと悲しみが入り交じった、どこか切ない感じが滲み始めていた。
画面越しに自分を睨む月詠とまりもの瞳は、今にも涙が溢れそうなぐらい潤んでいて、それを見つめる武は唇を噛み締めて
無言で長刀を振るう。
いつまでも続くと思われていた斬り合いだが、それも武の呟きで終わりを告げる。

「……【XM3】FLASH MODE、スタートっ!」






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