「ただいま純夏、元気か?」
「タケルちゃん、この状態で元気かはないよ〜」
「そうだな……夕呼先生と話したぞ、もう少し我慢してくれ」
「いいの、タケルちゃんはそれでっ?」
「良いも悪いも無い、純夏が純夏らしくねーのは嫌なんだよ」
「タ、タケルちゃん……」
「だからこれはオレの我が儘なんだ、純夏が気にする事じゃない」
「で、でもぉ……」
「なんだよ、それでも純夏かよ」
「え、えっ?」
「聞いたか霞? 純夏は白旗上げてるぞ」
「……わたしの不戦勝です、純夏さん」
「ま、まってーっ、なんのはなしなのーっ!?」
「……武さん、ご褒美に今日『も』一緒にお風呂入ってください」
「そんなのダメダメダメーっ、不潔だよ不純だよエロエロだよタケルちゃんっ!!」
「そうは言ってもなぁ……毎回、霞と一緒に風呂入ってるし」
「うえ゛ぇぇぇぇーっ!? 信じられないよっ!? 信じたくないよっ!?」
「……先手必勝です、純夏さん」
「う゛〜〜〜っ、元の姿に戻ったら、絶対にさせないんだから〜っ!!」
「……はい、待っています」
「ふえっ?」
「冗談に決まってるだろアホ、信じるなよ」
「うう〜、タケルちゃんのいじわる〜」
「……お風呂の事は事実です」
「か、霞っ!?」
「ターケールーちゃ〜ん……」
「……くすくすっ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 16 −2000.4 月夜桜−







2000年 4月1日 21:00 横浜基地

「ふーん、見事に咲いたわね〜」

話が終わった後、武と夕呼は基地ゲート前の桜を見上げながら、夜桜見物と決め込んでいた。
もちろん夕呼の手には秘蔵の酒が注がれたコップがあり、その横では武が一升瓶を握っていた。

「霞、眠たかったら寝ても良いんだぞ」
「……はい」

武の横に座っている霞は、うつらうつらと頭を揺らして、まぶたも閉じかけていたが、花見をしようとがんばっていた。
しかし、武の言葉にあっさり肯いてそのまま、武の肩により掛かって寝息を立て始めていた。

「あらら、最近がんばりすぎてたからねぇ……」
「無理させてますね、はぁ……」
「そこでため息付かない、クリアしなければならないハードルはまだまだあるんだから」
「解っています、今のは霞にすまないなって気持ちですよ」
「あたしには無いわけ?」
「夕呼先生にはいつも心の中で感謝していますよ」
「たまには態度で示して欲しいんだけどねぇ〜」
「夕呼先生、もう酔ったんですか?」
「……ふんっ、注ぎなさい」
「へいへい」

この場には三人しかいなく、京塚のおばちゃんから貰ってきたおつまみを食べながら、静かに桜の花びらが
舞い散る音を聞き入っていた。
見渡す先は廃墟と荒野なのに、ここだけは桜の花が満開で色づいた空間を作り出していた。

「ふぅ〜、久しぶりに気持ちよく酔えそうだわ」
「……そうですね、あの時はやけ酒でぐでんぐでんだったし」
「あの時?」
「あ……オレの勘違いです」
「白銀〜、飲まされたくなかったら全部吐きなさい」
「えっと……オレの記憶の一つなんですけど、オルタネイティヴ4が成果を出せず破棄されたクリスマスの日に、サンタの
格好をした夕呼先生が酔っぱらっていたんです」
「そっか、そんな事もあったんだ……」
「でも、今は全然違いますよ。夕呼先生は良い笑顔だし色っぽいし、今なら惚れちゃいそうですよ」
「ば、ばかっ……」
「ほんとうっすよ」
「いいから、注ぎなさい」
「へーい」

実はその先にいろいろ口に出して言えない事が在ったのだが、霞が寝ていて良かったと思う武だった。
ここで心の中を見られたら、それを夕呼に知られたらまりもや月詠以上に酷い目に遭うと確信していたからである。
少しピッチが早い夕呼を横目に、下戸の自分用に宇治茶をポットから注いで、ついでに貰った月見団子を食べる。
急に思いついて話しただけなのに、合成食材から普通の団子と味が変わらない物を作る京塚のおばちゃんに、心の中で
感謝の気持ちで一杯だった。

「……はぁ〜、良い夜ね」
「はい」
「白銀……来年もこうして過ごせたら良いわね」
「違いますよ夕呼先生、この先ずっとにするんですよ」
「そうね……」
「それにG弾の所為で咲かないって言われてた桜がこうして咲いているんです。がんばれって言ってるように
思えませんか?」
「白銀、あんたいつから詩人になったのよ〜」
「……自分でも恥ずかしいって気が付きました、なんだか夕呼先生がいつもと雰囲気が違うからかな〜」
「あら、人の所為にするなんて随分ねぇ……」
「はははっ」
「香月副司令、こちらでしたか」

その声に振り返った二人の前に、ピアティフが書類を持って立っていた。
夕呼はやれやれと言った感じで立ち上がると、ピアティフからそれを受け取り目を通す。

「夕呼先生、それは?」
「ん、ああ……国連本部からなんだけど、不知火・改とそれの追加装備のデータを寄越せって五月蠅くてねぇ〜」
「別にいいんじゃないですか?」
「実はね、アラスカで新型戦術機の開発計画が持ち上がっているんだけど、こっちの方が短期間で改修型を実戦使用
したのが気に入らないらしいのよ。暇つぶしに作ったのが戦闘証明済みになっちゃったのを認めたくないみたいだけど
正直ウザいわ」
「はぁ……」
「それにあたしはまだ、XM3を公開したくないのよ。今後の取引材料とかにしたいし〜」
「その辺は夕呼先生の判断に任せますよ」
「ん……」
「あ、声が大きかったわね。あたしはちょっと話し着けてくるから、あとはピアティフ中尉に任せるわ」
「えっ?」
「これは命令だから、白銀に付き合いなさい」
「香月副司令っ!?」
「じゃあね〜」

歩き出した夕呼は手をひらひらふりながら基地の中に戻ってしまい、残されたピアティフはどうしたらいいものか
困っていたが、武が声を掛けて座らせるとポットからお茶を注いで手渡した。

「命令だから諦めて付き合ってください、でも霞を起こさないようにお願いします」
「は、はい……」
「それに京塚のおばちゃんが作ってくれた団子が沢山あるので、協力してください」
「……解りました、お付き合いします」
「ありがとう、中尉の様な美人と月見と夜桜なんて、最高だな〜」
「しょ、少佐っ!?」
「あははっ、し〜」
「あっ……」

武がわざとらしく指を顔の前に立てて静かにしようと注意するが、その顔が笑っていたからピアティフも釣られて笑顔に
なっていた。
前の世界でそんなに話す事もなかったし、お互い知らない事もあるので特に会話が弾んだ訳じゃなかったが、
夕呼の時と違って少しゆっくり時間が流れていく気がした武だった。
だからかもしれない……武は何気なしに問いかけてみた。

「……ピアティフ中尉は」
「えっ」
「BETAを倒して平和になった世界で、中尉は何をしようと思います?」
「……香月副司令は、後10年で人類は滅ぶと言っていました」
「少し前まではね、でも今は違うでしょう?」
「はい……少佐と出会ってから、その言葉を副司令から聞かなくなりました」
「つまりそう言う事さ……人類は滅びたりしない」
「不思議ですね、少佐が言うと本当にそう思えてきそうで……」
「中尉が信じてくれるなら、オレはあの月だって取って来ちゃいますよ?」
「もうっ、少佐……」
「夕呼先生が……あの人がそう言った事を信じて欲しい……あれで案外寂しがり屋かもしれないしね」
「それ、報告してもいいのでしょうか?」
「うへえ……それだけは勘弁して〜」
「どうしましょう……ふふっ」
「解った、取引しよう。中尉の言う事を一つだけ聞いちゃうから、黙っててくれ〜」
「……イリーナです」
「へっ?」
「私の名前です」
「あ、ああ……助かるよ、イリーナ中尉」
「うふふっ」
「あははっ」

霞を起こさないように小さな声で話していたから自然と顔が近づいていて、それにお互い気が付いて意識してしまい
視線をそらした後、赤い顔のままで月や桜を見たりして誤魔化していた。
そしてこれをゲートの兵士が目撃した翌日には、ピアティフ……イリーナ中尉も落ちたと基地内に広まるのは早かった。
もちろん、その後の訓練と称したまりもとか月詠とか巻き込まれたヴァルキリーズの八つ当たりを含めた嫉妬の嵐を経験した
武は、訓練後に自分一人でもオリジナルハイヴ攻略出来るんじゃないかと錯覚するぐらいの激しさだったと京塚のおばちゃんに
語っていたらしい。






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