「聞いたわよ〜、白銀ぇ」
「なにをですか?」
「PXでまりもと月詠中尉があんたを取り合ってライバル宣言したって」
「……はぁ?」
「白銀ハーレムはまた一歩、実現に向かって進んだわね」
「目指していませんっ」
「でもね白銀、向こうの世界では無理でも、こっちでは上手く行きそうよ」
「何の話ですか?」
「さっき鎧衣課長から話が来たんだけど、悠陽殿下が法律の改正を内閣に……」
「……マジ?」
「マジもマジよ、良かったわね白銀〜、ハーレムはもう目の前よ」
「…………武さん」
「か、霞っ、オレは何も言ってないぞっ」
「……解っています」
「ほっ」
「……純夏さんにお伝えしておきます」
「ま、待ってくれーっ、霞ーっ!」
「ふふっ、そうね……問題は誰が第一夫人かってことよねぇ〜」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 13 −2000.2 殿下謁見−







2000年2月3日 9:00 横浜基地

「はぁ……」

朝食後、武はPXでテーブルの上につっぷして、ぐったりしていた。
斯衛軍との模擬戦で勝利は良かったのだが、別の問題が発生して武の頭を悩ませていた。
ここ二週間以上、これからA−01に配属予定でもある訓練生の為にと、教官をしているまりもに
付きっきりでXM3の機動概念をレクチャーしていた。
これから自分が斯衛軍に出向する前にしっかり覚えて欲しくてがんばった結果、熟練度も上がりおまけに
すっかり敬語も無しに話せるようになって、元の世界のような関係を築けたかなと少し喜んだまでは良かった。
だがしかし、そうは問屋が卸さないのがもう一人、同じようにレクチャーを受けていた月詠だった。
月詠を始め三バカたちはひたすらに訓練に集中していたし、それはそれでいいのだが問題は月詠が前の時より
武に対しての態度がかなり優しいのだ。
まりもと月詠は年齢が近い事や実力もお互い拮抗しているので、良い意味では好敵手としてお互いを認めているように
見えたのは、武だけだったらしい。
友達の様に何でも話すまりもと優しく少し控えめに接する月詠、だが武の事になると何故かその場の空気が
一変して、ハイヴ突入前の様な緊張感が漂ってしまった。
まあ、お互いが武に対して好意を持っているのは明らかで、二人も敢えてそれを否定しない。
武自身も鈍感とは言え、なんとなく過去に二人といい仲になったようなそうでないような記憶が
あったりするものだから、二人の気持ちに気づく事は難しくなかった。
だけど、別に二人を物にしようとかそう言う考えはなく、自分らしく接した結果が今の状況である。

「気持ちは嬉しいけどなぁ……一応、オレだって男だしさ……でもなぁ〜」
「あ、あの、白銀少佐……」

そこに朝食の乗ったトレイを持ったまま話しかけてきたのは、夕呼の秘書兼オペレーターなイリーナ・ピアティフ
中尉だった。
どうやら武がかなり大げさにため息をついていたから、気になってしまったらしい。

「おはよう、ピアティフ中尉?」
「おはようございます、そのさっきから大きなため息ばかりで、何か悩み事でしょうか?」
「まあそのなんて言うか……」
「その……宜しければ話をお聞きしますが……解決になるかどうか解りませんけど、一人で悩むより
良いと思います」
「ああ、ありがとう。その、まりもちゃんと月詠さんがね……」

語り出した武に口を挟まずに黙って聞くピアティフは、全部聞いた後に肯くと自分の意見を口にした。

「つまり、少佐は二人とお付き合いしたいと言う事ですか?」
「ピアティフ中尉、どこをどう聞いたらそんな結論になるんですか……」
「え、でも二人の好意は嬉しいから、どう応えるか悩んでいたんですよね?」
「……いやいやいや、違うって」
「やっぱり噂って本当だったんですね……あっ」
「噂?」
「あ……その、今のは聞かなかった事にして頂けると……」

気まずい表情で立ち上がろうとしたピアティフを、武の手が両肩を押さえて座らせると顔を近づける。
武の真剣で見つめてくる顔を間近で見つめてしまったピアティフは固まってしまい、何故か自分の顔が
熱くなるのを感じていた。
そしてこれが新たなる火種になる事を武は気づいていなかった、もちろんピアティフ本人もだが。

「ピアティフ中尉っ」
「は、はいっ」
「教えてくれ、それは一体……」
「は、はい……実はその少佐がえっと……複数の女性に手を出しているのはハ、ハーレムを作る為とか……」
「…………はい?」
「で、ですからその私が言った訳ではなくって……す、すみません」
「…………マジかよ」
「マ、マジ?」
「そう言う事か……ははっ……誰だよ、そんな噂を流したのは……って夕呼先生しかいないよなぁ……勘弁して
くれよ」
「あ、あの、白銀少佐……」
「……ピアティフ中尉、食事の邪魔してごめん」
「白銀少佐っ」
「ん?」
「そ、その、元気出してくださいっ。偉そうな事言いましたが、これぐらいしか言えませんけど……」
「ありがとうピアティフ中尉、その気持ちだけで嬉しいよ」
「少佐……」
「……白銀、そんなに嬉しいんだ?」
「……ふむ、どんな気持ちなのか聞きたいのだが?」
「えっ?」

タイミングが良いのか悪いのか、心配してくれたピアティフに笑顔で応えていたのだが、途中からその様子を
見た者達に取っては、誤解されるのは当然だと言わんばかりのシチュエーションなのだ。
だからこそ、いつの間にか武の背後に現れたまりもと月詠が誤解するのはお約束なのである。
動いたらやられる……自分を見つめる笑顔の二人から何かを感じ取った武の心が、動くなと体に命じる。

「白銀、ちょっといいかしら?」
「なに、時間はとらせん、よいな?」
「……そ、そろそろ斯衛軍から迎えが来る時間なのですが……」
「「いいなっ」」
「……はい」
「少佐……」

どこかで聞いたようなフレーズだよなぁと両腕をまりもと月詠に拘束されて、武は連行されていった。
その様子を心配そうに見つめるピアティフなのだが、この時点でまさか自分が噂のハーレム入り候補に
されているとは思いもしなかった。
その後、兵舎のどこからか武らしい悲鳴が聞こえたのだが、それを追求しようとする暇な者はいない。

「紅蓮大将?」
「久しいな、白銀少佐……ふむ、このような日も時間を惜しんで訓練とは見上げた心だ」
「え?」
「聞かなくても解るぞ、その顔のアザが何よりの証だ」
「は、はぁ……ホントは違うんだけどな」
「どうかしたか、白銀少佐?」
「いえ、これからお世話になります、よろしくお願いします」
「はっはっはっ、世話になるのは我々なのだが、よろしく頼む」
「はい」

迎えが来る時間となった時、まりもと月詠に引きずられて基地ゲートまで来た武の顔は、激しい訓練に名を
借りた二人の嫉妬の嵐で良い感じにアザが出来ていた。
そして車が到着して降りてきたのが帝国斯衛軍の大将自らと有って緊張した武だったが、それはほんの序の口で
本命は話が終わった頃を見計らって車から降りてきた。

「元気で何よりです、白銀少佐」
「え、悠陽……殿下? 何故ここに?」
「これから教えを受ける身にとって白銀少佐はわたくしを始め、斯衛軍の教官となるのです。つまり、師匠を
出迎えるのは弟子として当然の事ではないでしょうか」
「そ、それで紅蓮大将自ら向かえに来ていた理由が解りました」
「すまんな白銀少佐、内緒にと殿下の命令だったもので仕方なくな」
「そうは見えませんけど、もういいです……」
「では参りましょう……武殿」
「「っ!?」」
「ちょ、ちょっと手を……ゆ、悠陽っ!?」
「で、殿下を……」
「呼び捨て……」
「あ……」

慌てた武はその誤解を解こうとしてまりもと月詠に近づこうとしたのだが、しっかりと悠陽に腕を捕まれた武は
そのまま車に連れ込まれると、かなりの速度で走り去っていった。
暫く唖然としていたまりもと月詠だが、事の真相を確かめるべく二人は頷き合うと、小走りに基地に戻っていった。
そしてその場に残ったのは夕呼と霞だった。

「あらら、殿下も結構大胆ね〜。どうする、霞?」
「……大丈夫です」
「その根拠は?」
「……武さんはわたしを悲しませたりしませんから」
「言うわね」
「……香月博士はいいんですか?」
「な、何の話かしら〜」
「クスッ……香月博士、可愛い」
「か、霞っ!?」

元の世界の夕呼から量子電導脳の理論と一緒に武についての恋愛原子核論を知らされていた夕呼は、自分自身もまた
それに取り込まれつつ有る事を自覚したくは無かったのだが、現実は面白可笑しくてそれは回避不能だった。
伊隅姉妹や水月と遙の様に誰か好きな人がいれば、こうはならなかったのだが後の祭りだった。






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