「夕呼先生、オレは一体……」
「話を聞いた上での仮説はいくつか在るけど、これだけは言えるわ」
「なんです?」
「白銀、自分にもリミッターを付けなさい。無論、精神的な意味でよ」
「えっ」
「戦術機と同じで、その負担が今回の意識喪失に関わっているのは事実よ」
「でも、リミッターを付けろと言われても……」
「わかんなくてもいいから、気を付けろってことよ」
「解りました」
「それと、後で社に謝っておきなさい。あの娘、泣きっぱなしだったんだから」
「はい……」
「あのまりもだって心配で駆けつけてきたのよ、もてもてね白銀〜」
「そ、そうなんですか」
「白銀ハーレムが実現する日も近いわね、さすが恋愛原子核だわ……ついでに世界も救って頂戴」
「先生〜」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 12 −2000.1 諸刃の剣−







2000年1月16日、11:00 横浜基地

「ん…こ、ここは、あれ?」
「……武さん」
「霞?」
「……はい、心配しました」
「え、オレ、なんで……え、医務室?」
「……はい、武さんは演習後、戦術機から降りた直後に気を失いました」
「あ……確か、もの凄く疲れたと言うか、なんか眠たくて……」
「……ぐーすか寝ていました」
「ごめんな霞、心配掛けた」
「……はい、でも目が覚めたので良かったです」
「どのくらい寝てた?」
「……ほぼ一日です、今日は16日の午前11:00です」
「ホントに熟睡だなぁ……あ、それで新OSの話はどうなった?」
「……はい、斯衛軍での正式採用が決まりました。それと武さんの出向もです」
「そっか、最後は締まらなかったけど、目的は達成したからそれでいいや」
「……はい」
「あ、えっと看病ありがとな霞、寝てないんだろう?」
「……そんな事在りません」
「目が真っ赤だぞ、もう安心して良いから、霞も寝ような」
「……解りました」
「えっ」

そのまま武のベッドに上半身を預けてしまい、可愛い寝顔に小さな吐息が聞こえてきたので、
武は口を閉じると自分は起きて代わりに霞を寝かせて上げた。
誰に何を言われても霞は徹夜で看病していたが、目が赤かったのは泣いた所為なので気づかれなかった
事に霞は内心ほっとしていた。
そして武が目が覚めて気が抜けた事もあり、あっさりと夢の中に行ってしまう。
少し乱れた霞の髪を指先で整えてから、武はそっと頭を撫でて医務室を後にした。
とりあえず、夕呼の所に行く前に腹ごしらえをしようとPXに行くと、鯖味噌定食大盛りを注文して
席に座る。
まだ昼まで時間もあるので人影はまばらで、一人食事を取っていたら気配を感じたので顔を上げた
武の前には、お茶を持った月詠が立っていた。

「あ、おはようございます」
「白銀……少佐、合い席宜しいでしょうか?」
「食事中で悪いけど、どうぞ」
「失礼します」

そう言って向かいの席に座る月詠だが、何か言いたそうにしているが、なかなか言葉が出ないらしい。
ただ、武の顔をすまなそうに見る月詠に、武から話しかける。

「何か話があるんですか?」
「あ、いえ、食事が終わったからで宜しいです」
「じゃあすぐに食べちゃいますね……んぐぅ!?」
「あっ」
「み”、み”ず……ぐぐっ」
「これをどうぞっ」
「あ……んぐんぐっ……ぷはぁ〜、死ぬかと思った」
「ふふっ」
「あー、笑うなんて酷いなぁ〜」
「し、失礼しました」
「あははっ、冗談です」
「もう……」

緊張感が抜けたのか、月詠から肩の力が抜けて、表情も穏やかになる。
狙った訳じゃないけど、こうした所が武の恋愛原子核たる力の一端なのかもしれない。
湯飲みを月詠に返して、残っていた料理を平らげると食器を片づけて、自分もお茶を貰って
席に戻ってくる。

「お待たせしました、それで話とは?」
「そ、その、申し訳ありませんでしたっ」
「はい?」
「実は、白銀少佐の事を誤解して、不躾な態度を取ってしまって、その……」
「誤解?」
「はい、その紅蓮大将閣下から聞かされていた話と、後から聞かされた白銀少佐の事がかなり違っていて、
それで……」
「ははぁ、それでいきなりあれだったんですね」
「誠に申し訳ありません」
「別に気にしてませんよ、それに月詠中尉と本気で戦えた方が良かったし、結果オーライで」
「おーらい?」
「ん、ああ、結果良ければ全て良しって意味ですよ。いやー、さすが噂に違わない斯衛軍の力でした」
「……負けてしまいましたが」
「正直、同じOSなら負けていたのはオレの方ですよ」
「それは謙遜です」
「そんな事無いです、だから無理して気絶してしまうなんて情けない事になっちゃったし」
「あ、大丈夫なんですか、体の方は?」
「見ての通り平気です、寝過ぎてお腹がすいて鯖味噌定食も大盛りで食べました」
「ふふっ」
「あ……」

その時、月詠の笑った顔が向こうの月詠さんと重なって、武はつい見とれてしまった。
懐かしくて思わず嬉しさが顔に表れたのか、それに気づいた月詠の頬が赤く染まる。

「あ、あの、白銀少佐……」
「ん?」
「その、見つめられていると恥ずかしいのですが……」
「あー、ごめん。月詠中尉の笑顔が凄く可愛くって、あ……年上の人に可愛いは失礼でしたね」
「い、いえ、その、嫌ではありませんので……」
「そうですか、ははっ」

何故か照れ合う二人は、妙にお互いを意識して、月詠は手の中に有った湯飲みに持ち上げ口に触れた瞬間、
武はさっきの事を思い出して呟いてしまう。

「あ、それ、さっきオレが飲んだ……」
「え、あ、ああっ!?」
「間接キスしちゃいましたね、あははっ」
「き、きききにしてませんからっ」
「すいません、変な事言っちゃって」
「い、いえ……」

誠に良い雰囲気はまるでお見合いの様に、若い二人だけでお互いの事を話している感じだった。
京塚のおばちゃんもカウンターの奥から邪魔しないで見守るように二人を見つめていた。
しかし、そこに現れたのは最近ちょっと武と噂になりかけていた、まりもだった。

「白銀、もう起きて平気なの?」
「あ、まりもちゃん」
「……まりもちゃん?」
「良かったわ、もしかしてわたしの所為かもしれないって思ってたのよ」
「全然違いますよ、でも心配掛けてごめん」
「ううん、無事なら良いのよ……あ、ごめんなさい、もしかして大事な話し中だったのね」
「それは……」
「そうだ、大事な話し中だった」
「月詠中尉?」

そこで武は空気が堅くなったのを感じた、もちろんまりもと月詠の間でだ。
なんか話しかけたらすべてが終わるかもしれないと、武は口が挟めない。

「……そうでしたか、失礼しました月詠中尉」
「なに、これからは白銀少佐には、『いろいろ』と世話になるからその話をしていただけだ」
「いろいろ?」
「ああ、個人的にも白銀少佐に興味も出来てな……」
「そうですか……まあ、白銀の強さは参考になると思いますので、良いと思います」
「先日『この身』にしっかりと感じられた、確かに白銀少佐は凄いな」
「この身、ですか……」
「ああ」
「わたしも先日、その凄さを『体』で体験したので、月詠中尉の気持ちはよく理解できます」
「むっ」
「むぅ」

どう聞いても一部分強調する会話から和やかな雰囲気は消え去り、食堂のスタッフ以外は武達三人だけが
PXに取り残された。
この後、ヴァルキリーズの仲間が食事に来るまで、武は呼吸以外出来なかったらしい。






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