1998年、夏。
中国新疆ウイグル自治区、喀什のハイブから進行したBETAに日本が侵攻され、
わずか一週間たらずで九州、中国、四国地方が侵攻された。
その後、京都の陥落をもって首都は東京に変更され、多くの日本人が東海地方や
海外のオーストラリアへの移住を余儀なくされた。
それに呼応してか、アメリカは日米安保条約を一方的に破棄して撤退しまう。
1999年、遂にBETAは佐渡島ハイブを経て、首都圏にまで侵攻……甲22号、後の横浜ハイブ
の構築を許してしまう事になる。
それから数ヵ月後、この危機に対して日本を初めとする大東亜連合軍、米軍を主力とする
国連軍が結成され、同年8月5日に本州奪還作戦をする事になった。
通称【明星作戦】が開始された。






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction 



God knows... Episode 01 −1999.8 明星作戦01−







1999年8月9日 14:05 横浜ハイヴ

「ヴァルキリー1よりヴァルキリーズ各機へ、なんとしても予定地点まで戦線を押し上げろっ」
『了解っ』

伊隅戦乙女戦隊、通称【イスミ・ヴァルキリーズ】
隊長の伊隅みちる大尉を中心に、中隊メンバーが12人の女性だったという所からそう呼ばれ、
香月夕呼博士直属の特殊任務部隊【A-01】である。
その名の通り、過酷な任務の為に結成時に連隊規模だったのが、今では伊隅中隊しか
残っていない程、損耗率が高い部隊だった。
その中に一人、男が混じっていた。

「伊隅大尉、支援砲撃がほとんど無い上にこれでは、戦線の維持すら難しいです!」
「弱音を吐くな、馬鹿者っ! 貴様、それでも男かっ!」
「ぐっ」
「我々に与えられた任務を全うしなければ、戦ってる意味がないっ」
「りょ、了解っ」
「良い返事だ、終わったら後で特別ドリンクをたらふく飲ませてやる」
「うげぇ」
「何か言ったか?」
「な、なんでもありません。ヴァルキリー6、任務続行しますっ!」

終わりが見えない、迫り来るBETAの集団に向かい、鳴海孝之少尉はトリガーを引いた。

「そうだ……俺はまだ二人の気持ちに応えてないんだ。だから、やられてたまるかーっ!」

脳裏に浮かぶのは勝ち気な少女と控えめな少女の面影、今ここで自分がやられたらそれすら
見られなくなってしまう。
操縦桿を握る手も力が入り、泣き言を言っている暇なんか無いと自覚する。
ここを乗り切らなければ、何もかもが無くなってしまう……だから歯を食いしばり戦う。

「うおぉぉぉーーーーっ!」

待っている人たちに会う為、ただそれだけを思い孝之の不知火はBETAを倒していく。
しかし、倒しても倒しても押し寄せてくる圧倒的なBETAの波に、伊隅を初めとするヴァルキリーズでも戦線維持がやっとで有る。
ぎりぎりの所で押しとどめているヴァルキリーズに、HQからの信じられない連絡が耳に届いた。

「HQよりヴァルキリーズ各機へ、HQよりヴァルキリーズ各機へ、最優先伝達事項」
「な、なんだ?」
「まもなく米軍主体でのG弾使用が決定、なお使用時間までに現在の戦線を予定ポイントまで押し上げよ」
「G弾だとっ!?」

孝之は信じられないという気持ちで、みちるは米軍の安易な攻撃に唇をかみしめる。

「隊長、米軍の奴らここでG弾を使うって言うんですかっ!?」
「HQの指令だ、間違いないだろう」
「しかしっ」
「鳴海少尉、今は論議をしている場合ではない。ヴァルキリーズ各機、聞こえたな……これより
死力を尽くして戦線を押し上げるぞ!」
『了解っ』
「隊長!」
「黙れ鳴海少尉、これは命令だ。復唱しろっ」
「くっ……鳴海少尉、戦線を押し上げますっ」
「よし、いくぞっ」

しかし、みちるの心の中では、現在の戦力を考慮しても犠牲は押さえられない思いが消えなかった。
すでに、ヴァルキリーズの残存機数は、みちるを含めて9機のみ。
それでもハイブ攻略戦を行っている部隊では、被害は一番少ない。

「ここは俺たちが生まれた街だったのに……お前らの所為でっ」

孝之は悔し涙を流しながら、銃を撃ち長刀で敵を切り裂く。
だが、そんな彼らをあざ笑うようにBETAは襲いかかってくる。

「鳴海っ、後ろだっ!」
「えっ……」
「孝之っ」
「孝之くんっ」

みちるの声が耳に届いた時、孝之の前には要塞級が迫っていた。
尾節の衝角を突き出しながら進んでくる様子に、水月と遙の声を聞きながら孝之は死を覚悟した。

「水月っ、遙っ……」

間に合わないのは解っているが、それでも孝之は長刀を振り上げて、反撃を試みる。






その時、白銀の風が目の前を駆け抜けて、通り過ぎた後にはBETAの残骸しか残っていなかった。






「え?」






みちるを始め、孝之と水月も遙も、その戦いぶりに言葉を失った。






「これ以上、てめえらの好きにはさせないぜっ!」






全身を銀色に塗られた不知火の、見た事もない戦闘機動に為す術もなく撃破されていくBETAの集団。
それを見たみちるは畏怖と敬意を感じ思った……もし、英雄と呼べる者が居るのなら、間違いなくそれは存在していた。






「HQよりヴァルキリーズ各機に告ぐ、現在そちらで戦闘を行っている機体のコールサインは【ブレイズ1】です」






「……任せたわよ、白銀」






HQで腕を組み、戦況を伝えるモニターを見つめながら、夕呼は小さな声で呟いた。






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