Q1.嚥下性肺炎で注意しなければならないことは何ですか。
Q2.診療所と病院施設との連携をはかるにはどうしたら良いでしょうか。
Q3.嚥下障害を有する人の口腔ケアについて教えて下さい。
Q1 |
嚥下性肺炎で注意しなければいけないことは何ですか? |
【症状】
・体力的に疲労しやすく、元気と食欲がなくなってきた。
・痰がよくでて、むせやすい。
・発熱を繰り返す。
・食後に声が枯れたり、疲労しやすくなった。
・食事の時間が長くなった。
患者の傍らにいて以上の症状が目立ち始めた時は、嚥下性の肺炎を疑います。
嚥下性肺炎の発生機序は宿主側の抵抗力や、誤嚥した細菌との力関係で生じます。すなわ
ち、食物を誤嚥していることが明らかであっても肺炎を起こさない人もいれば、経口摂取が
一切されていなくても肺炎になってしまう人もいます。
【原因】
・口腔、咽頭、鼻腔に停滞した細菌が衛生不良などのため繁殖し、それが分泌物や食物に混
じって誤嚥したために発症する。
・仰臥位で、胃の内容物が逆流し、それを誤嚥したために発症する。
といったことが原因とされています。
【嚥下性肺炎予防】
・食後口腔清掃を行う。
・食後すぐに寝かせず、二時間ぐらいは座位か、あるいはそれに近い姿勢をとらせる。
その他に摂食訓練における間接的訓練の項で記したことなどを、食前に行うのも有効で
す。(図18)
Q2 |
診療所と病院との連携(病診連携)をはかるにはどうしたら良いでしょうか。 |
最低限誤嚥の有無について診断する必要があります。
誤嚥の有無を知るのに、手技的にも簡便で正確な情報を得る方法として嚥下造影があります。
家庭用ビデオテープに録画、再生ができ、嚥下状態の診断にはもっとも優れている方法です。
この検査を病院施設に依頼することになります。(図19)
その時に単に嚥下造影をお願いするのてはなく、摂食・嚥下障害が疑われるにいたった臨床所
見を具体的に列挙し報告します。
事前に電話で連絡し、さらに文章でもって依頼状を送る(患者に持たせても良い)のが筋で
す。紹介状や依頼状のやりとりは不慣れなことですが、「摂食・嚥下」については他科との連
携が必須になってきます。したがって、電話や文章でのコミュニケーションに抵抗を感じては
いられません。
さらに百聞は一見にしかずで、医師や訓練土たちの行う診療や訓練内容を、一目でも観察さ
せてもらうと、患者への対応が途端に幅広いものとなります。
そして、必ず検査を依頼した先方に、その後の経過や結果について返事を出しておくことが
大切です。
「連携」ですとか「チームアプローチ」といった言葉が盛んに使われますが、それは自ら足を
運び、他職種の現場に踏み込んて吸収していく姿勢がないと、なかなか実態の伴わないことと
なってしまうように思います。
Q3 |
嚥下障害を有する人の口腔ケアについて教えて下さい。 |
嚥下障害に対する口腔ケアは、単に齲蝕や歯周病の予防ということだけに、とどまりません。
【口腔ケアの目的】
1.齲蝕、歯周病の予防
2.誤嚥性肺炎の予防
3.正常な味覚を保ち、食欲増進を促す。
4.将来経口摂取するための前準備 (摂食・嚥下訓練の一環となる)
5.生活のリズムを整える。
6.自ら身体に働きかけるという意欲の高揚。
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> したがって、口腔ケアとは「障害者や有病者の口腔衛生状態を管理するために、機能面、能力面、
環境面および心理面から援助すること」と定義されます。(図20)
【口腔ケアの実際】
1.姿勢の確保:座位が基本ですが、その姿勢がとれない場合もあります。
1) 臥位で行う場合:片麻痺の場合は健側を下にして側臥位の状態で行います。この時頸部だけで
なく上肢、下肢ともに横にすることが大事です。
2)半座位で行う場合:頸部を患側にむけて横向きにして誤嚥の危険のある患側の気道を狭めながら
行います。
2.脱感作:口腔内の過敏があれば段階的にそれを取り除いていかなければなりません。
3.咳嗽訓練:うがいよりもまず、咳が確実にできることが必要です。
4.ブラッシング:効き手交換を余儀なくされる場合があります。効き手交換をして自分で磨けるよう
になるまで毎日のように訓練をしていきます。日頃の訓練で、十分実用可能な段階にまでなります。
5.家族、介護者への介助磨きあるいは仕上げ磨きの指導:どうしても患者本人には限界があります。
それを見極め、介護力の動員をはかります。しかし、中にはいまさら家族に歯ブラシされることを拒
否する患者もいます。患者の意思を尊重しなから対応していくことが大事だと思います。
6.器具の整備:柄を太くして握りやすくしたり、握れなければ手指にバンドを巻いてそれに歯ブラシ
を差し込んだりして工夫します。鏡、ガーグルベース、吸引器、吸盤付義歯用ブラシなども適宜使用
します。
7.筋刺激訓練:歯ブラシを、歯や歯肉以外に、舌、頬粘膜、口唇にあてることにより刺激を与え、意
識の覚醒効果も期待しながら、口腔清掃をしていきます。その点電動歯ブラシの振動は効果的です。
8.筋刺激訓練:口唇、頬、舌その他体幹に対してストレッチを行い、リラクゼーションをはかります。
これにより、うがいや咳をしやすい状態にしたり、口腔清掃の意識を高めたりします。
このパートでは摂食・嚥下機能の理解のために実際の食べ物を用いて体験学習をしてみます。
この摂食実習はまず自分自身て食べてみて体験し、次に相互実習をするといった手順で行うと
良いでしょう。摂食行為に関わる器官(口唇、舌、歯、頬、下顎)が、安静時にどのような状
態になっているか、運動時にはそれぞれの器官がどのように協調した動きをとるかなどの正常
摂食を確認しながら実習を行うと良く理解できます。この実習を通して「食べさせる側」と
「食べさせられる側」の両方の視点から摂食行為を理解してください。
【観察のポイント】
水やお茶を飲む時の呼吸のリズムを確認しましょう。息を吐きながらは飲めません。コップ飲
みの場合、コップの縁を下唇にあて、上唇の動きがでて、吸い込みます。口唇からの取り込みの
際、舌は上顎切歯口蓋側に位置します。舌が口蓋に当たっていることを確認しながら水やお茶を
飲んでみましょう。また口唇を閉じないで飲むことができるか確かめるのもよいでしょう。お茶
の温度で舌尖の使い方が変わります。冷たいものの時は舌尖はあまりとがらないで水分はストレ
ートに入っていくが、温かい物の場合は舌尖は上がります。
嚥下時には甲状軟骨(アダムのリンゴ)に手を当てて喉頭挙上の状態を観察して下さい。流涎
については、その程度と性状、どこから、どのような時に起きるかをみます。
【介助のポイント】
スプーンなどで与える場合は、下唇の中央部に当て上唇の動きがでるのを待ちます。上唇の動
きがみられない場合には示指で口唇を閉じるように介助して下さい。コップ飲みの場合、むせを
確認しながら、少量で始めます。
【訓練のポイント】
口唇閉鎖の訓練としては、口唇音を用いた構音訓練(/Pa/、/Ba/、/Ma/など)、
氷片などを用いたアイスマッサージ、バンゲード法によるマッサージなどがあります。また電動
歯ブラシの背面を用いて刺激する方法もあります。この際電動歯ブラシは頬の外側から内側に向
かって動かして下さい。
舌の訓練としては、
@口唇全体をぐるっとなめまわす、
A術者の小指の腹側を用いた舌を舌方に圧迫しますが、その際手前から奥に向かってステ
ップを踏むように圧迫を加えます。
B舌圧子で舌の中央を前方に向かって撫でる、
C舌の先を湿ったガーゼでつまみ、前方や側方に動かす、
D舌尖音を用いた構音訓練(/Ta/、/Da/、/La/)
などを適当に組み合わせて行って下さい。
【観察のポイント】
ご飯の摂食場面では、箸またはスプーンのご飯を口腔のどこに置くかの確認を行います。舌の
中央ではなく、舌の先、下顎前歯の舌側に置いていることを確認して下さい。また箸またはスプ
ーンを抜く時には上下唇に軽く触れながら離れることの確認も大切です。食物は、外側からは頬
筋の緊張で内側からは舌の動きによりいつも上下の歯牙の問に保たれます。咀嚼の動きはえくぼ
の様子などの観察から確認できます。咀嚼の回数は個体差がありますが、食物が柔らかくなると
咀嚼の強さを適当にコントロールして自動的に弱く噛むようになります。しかし片麻痺患者にみ
られる障害においては患側の感覚神経の麻痺により、いつまでも同じ強さで噛み続けたり、また
同じ側の頬側に食塊が残ることがよくみられます。
【介助のポイント】
著やスプーンで介助するときには、舌の先に軽く触れて、さらに上唇の裏側をこするような感
じで抜くようにするとよいでしょう。相互実習で互いに確認してください。相手に目を閉じさせ
て、舌背に食物をおいた場合と舌の先においた場合の比較をしてみて下さい。また声掛けをしな
いでポンと口の中に入れるとどうなるでしょう。
機能(動き)を引き出すには、感覚を整えてあげるようにすればよいのです。リズム、食べる
内容、組み合わせ、かたち、声掛けなどに注意深く配慮しながら介助しなければ機能(動き)を
引きおこすことには結び付きません。
【観察のポイント】
ふりかけをかけると咀嚼が慎重になって下顎の運動範囲が広がります。つまり普通のご飯と異な
り嚥下までに時間を要するようになり、高齢者にはこのような与え方は不適当であることを確認し
て下さい。与薬の場合、錠剤と顆粒はどちらが飲みやすいかも同時に考えてみて下さい。
相互実習として、一口5回で咀嚼を止めて、隣の人の口腔内を調べてみましょう。口腔全体に広
くひろがっていることに注意して下さい。
>
【介助のポイント】
キュウリを用いた摂食の実習では輪切り、さいのめ切り、刻みの3種類を用意します。先ず輪切り
のキュウリとさいのめ切りのキュウリをそれぞれ口腔内のどこに置くかを確認します。前者は前歯で
取り込み小臼歯付近に送り込み咀嚼、後者は初めから小臼歯付近に送り込みます。さらに咀嚼の際に
開口量の差を確認して下さい。輪切りの方が顎を少しだけ動かすことで咀嚼できることに気が付きま
したか。義歯の老人が意外にタクアンとかを上手く食べられるのは顎を少しだけ動かすことで咀嚼で
きるからなのです。次にさいのめ切りですが、顎の動きは"輪切り"の時と比較してどのように異なる
でしょうか。大きく早くなり、顎のの動きが変わっていることに注意して下さい。ですから、義歯を
入れた直後などは、顎の動きが少なくて済むもの、つまり、輪切りの状態の方が食べ易いようです。
ちょっと意地悪ですがヨーグルトときゅうりのきざみを混ぜて食べてみて下さい。ヨーグルトを先
に嚥下してから刻みのきゅうりを後から嚥下するといった複雑な動きが出てきます。性状の異なる食
物は口腔内の処理に際しては高度な舌の動きが要求されてきます。舌の機能が十分でない時、つまり
麻痺などがあるときには問題点が出てくるのです。また刻むと材料の面積が大きくなり口腔内の唾液
と混和するためには多くの唾液が必要になり老人には不適切な物であることも忘れてはなりません。
"刻み"は飲み込みやすいという考えは誤りなのです。
嚥下障害患者にとって大切なのは、「粒子の大きさ」よりも「食感(texture)」(喉ごしのよさ、
食塊のまとめやすさ)であることを再認識することがこの実習のポイントです。
■引用および参考文献
1.藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害。。医歯薬出版、東京、1995。
2.藤島一郎:口から食べる−嚥下障害Q&A−。中央法規出版、東京、1995。
3.金子芳洋、向井美恵、尾本和彦:食べる機能の障害−その考え方とリハビリテーション、医歯
薬出版、東京、1987。
4.才藤栄一、向井美恵、半田幸代、藤島一郎編集:JJNスペシャル摂食・嚥下リハビリテーシ
ョンマニュアル、医学書院、東京、1996。
5.Michaele
E.Groher:嚥下障害−その病態とリハビリテーション、医歯薬出版、東京、1996。
6.植田耕一郎、才藤栄一、藤谷順子:「食」におけるヒトの器官の働き。臨床看護第22巻第
1号、へるす出版、東京、1996。
7.東京都リハビリテーション病院嚥下プロジェクト編:安全な食事のためのハンドブック、1994。
8.藤島一郎:ビデオ「こうすれば食べられる」、中央法規出版
9.ビデオ「リハビリテーション医学−嚥下障害」、医学教育映像センター
嚥 下 障 害 問 診 票
┌───┬──────────────┬──┬──────────────────┐
│施設名│ │住所│ │
├───┼─────────┬──┬─┴──┴───┬──┬───────────┤
│記録者│ │職種│ │日付│ 年 月 日│
├───┼─────────┼──┴─┬──────┴──┴┬──┬───┬───┤
│氏 名│ │生年月日│ 年 月 日│年齢│ 歳│男・女│
├───┼─────────┴────┴─┬────────┴──┴───┴───┤
│病 名│ │障害名 │
└───┴────────────────┴───────────────────┘
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
A.飲み込みの様子についてお聞きします。
(該当するものに○をつけて下さい)
1.ものを飲み込むのが困難である。
2.飲み込む時に痛みがある。 場所( )
3.喉につまった感じがある。
4.硬いものがかめない。
5.食べられないものがある。
…具体的に書いて下さい( )
6.入れ歯が合っていない。
7.歯がない。
8.口から食べ物がこぼれる。
9.口の中に食べ物が残る。 …場所:@歯と頬の問(左・右・両側)
A舌の下、Bその他( )
10.唾液が多い。
11.よだれがでる。
12.口が乾く。
13.飲み込む前にムセたりせき込んだりする。
14.飲み込むときにムセたりせき込んだりする。
15.飲み込んだあとにムセたりせき込んだりする。
16.食へ物が舌の奥や喉に引っかかる。
17.飲み込んだあとに声がかれる(声が変わる)。
18.食べるのが遅い。
19.食べ物や胃液(酸)が口の中に戻ってきたり、吐いたりする。
20.固形物のほうが水分より飲み込みにくい(水分のほうがよい)。
21.水分のほうが固形物より飲み込みにくい(固形物のほうがよい)。
22.食べ物が胸につかえる。
23.胸焼けかする。
24.しばしば肺炎や気管支炎を繰り返す。
25.やせた(体重が減った)。 …どのくらいの期間で、何キロ減ったか?
( ケ月間)に( Kg)
─────────────────────────────────────────
B.栄養方法についておたずねします。
(該当するものに○をつけて下さい)
1.経口摂取、2.経鼻的経管栄養(NG法)、3.中心静脈栄養(IVH)、4.その他
└→@普通食 Aきざみ食 Bミキサー食 Cその他( )
─────────────────────────────────────────
C.既往歴:今までにかかった病気についてお書き下さい。
─────────────────────────────────────────
D.現在治療している病気はありますか?
ある( )
ない
─────────────────────────────────────────
E.現在飲んでいる薬はありますか?
ある( )
ない
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(Sonies BC et al、1988より改変)(摂食機能研究会;1994.9)
嚥下障害の簡単な検査と評価の方法
嚥下障害者に合併しやすい障害に発声発語器官の運動障害に起因する構音障害があります。
構音障害の症状をチェックすることで嚥下機能のチェックができます。嚥下訓練を開始する前
に以下の表を用いて確認することを忘れないようにして下さい。
発声発語器官とは大きくわけると発話のエネルギー源となる呼吸器、呼吸器からの呼気流を
声にかえる喉頭、語音の生成をおこなう舌・口唇・下顎・歯牙・鼻咽喉などです。これらの器
官の形態及び機能に問題があるかどうかの簡単なチェック表を示します。検査のつきましては
以下の引用文献を参照して下さい。
発声発語器官のチェックリスト
(引用文献)西尾正輝:旭式発話メカニズム検査、東京、インテルナ出版
日本言語療法士協会:言語聴覚療法−マニュアル、東京、協同医書出版、1992
■ |
食事の前に、まず歯みがきを。 |
■ |
深呼吸 |
おなかに手を当てゆっくりと深呼吸 |
3回 |
吸う⇒5秒間息を止める⇒はく |
3回 休んで 3回 |
■ |
首の体操 |
前後左右に曲げる。ゆっくり回す。 |
■ |
咀嚼訓練 |
歯を噛み合わせて舌を上アゴに押しつける。 |
3秒3回 |
歯を噛み合わせて舌で上アゴを前後になめる。 |
3回 |
■ |
唇の体操 |
「イー」と「ウー」を繰り返し、 |
10回 |
「パ、パ、パ」をはっきり発音する。 |
20回 |
■ |
舌の体操@ |
上唇、下唇をなめる。 |
20回 |
左右の口角をなめる。 |
20回 |
■ |
舌の体操A |
「タカ、タカ、タカ」とはっきり発音する。 |
20回 |
大きな声を出す 机や椅子の肘掛けを強く押しながら、「えい!」 |
10回 休んで10回 |
■ |
息止め嚥下 |
息を止めて⇒睡液を飲む⇒咳払い |
3回 |
■ |
(飲み込みの練習) |
(口を閉じ鼻から大きく息を吸って唾液を飲み込みすぐに咳払いをする) |
■ |
もう一度深呼吸 |
● |
飲み込んだあとに“かすれ声”に変わっていたら、咳をしてもう一度唾液を飲み込みましょう! |
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