建築手法の詳細
■ 基礎
 変電所が建築されている地は小字が後田と呼ばれており水はけの悪い湿田地であった。
 軟弱地盤のため重量のあるレンガ構造物を支持するために杭打工法が採用されており、設計図によると外周りの基礎には長さ12尺(3.6m)の松杭が3列2尺(60cm)間隔で打込んであり、南室の6ヶ所の柱型部分には合計72本の杭が打込まれている。

 また、中通りの基礎には2列の杭列と北室の中柱の基礎には6本の杭が打込まれており、建物全体では約340本余りの杭が打込まれている。
 壁体および外階段
壁体はイギリス積のレンガ造で外周りが3枚積、中通りが2枚積としてあり、出隅部分には柱型が設けてある。レンガの寸法は長さ7.65寸(232mm)〜7.2寸(218mm)、幅3.6寸(109mm)〜3.4寸(103mm)、厚さ2寸(61mm)の大きさである。
軒部分には鉢巻状に人造石で造られた逆段状の軒蛇腹が巡らせてあり、三角形の切妻壁の上部には水平力に対するためと装飾を兼ねた軒蛇腹と同じものが巡らせてある。
 表出入口は円弧アーチとしアーチの頂部に花崗岩の要石とアーチの両端を受けるせり台石がはめ込んである。出入口の両脇に柱型を設けて柱脚部分は花崗岩の柱礎と柱頭部分には人造石の柱頭飾りを載せており、その上に人造石の円弧アーチ型の庇を冠している。
 東出入口も表出入口と同じ円弧アーチで、西出入口は外側にまぐさ石がはめ込まれており内側は陸アーチとしてある。中通り壁の1階部分には半円アーチの出入口が4ヶ所設けてあり、段差のある2階南室と1階北室との間に小窓が設けてある。
 外窓の形式は4種あり、2階の各面にみられる窓は半円アーチとし頂部に花崗岩の要石とアーチの両端を受けるせり台石が、窓下部には窓台石がはめ込まれている。1階西面と1・2階北面にみられるものでは窓上部にまぐさ石と窓下部に窓台石がはめ込まれたものでせいの大小2種ある。また、1階東・西面にみられるものは窓上部にまぐさ石と窓下部に窓台石が、縦中央には方立石がはめ込んである。
 切妻壁の中央にはアクセントとなるよう円アーチとして丸窓が設けてあり、上・下・左・右と要石がはめ込んである。
 表階段は花崗岩で造られており踏石の鼻部分が丸型に仕上てあり蹴込み加工がしてある。手摺の下部親柱に相当する部分の頂部は円形の突起を設けており、上部の部分は凹円形の加工がしてある。
 屋根・小屋組・床組
 屋根は切妻屋根であり小屋組はL型鋼を組合せ鋲止めしたフィンクトラスで両妻とその間に3ヶ所架渡してある。当初は木造母屋の上に杉板を張ってその上に平スレートを葺いていたが、現在は鉄骨母屋の上に波型スレートを葺いている。
 棟の中央には三方に蕨手の装飾をつけた避雷針が設けられており、単純な屋根意匠にアクセントとなっている。
 2階の床組はコンクリートスラブが普及するまで採用されていた特色ある工法である。壁体からレンガを持出したその上に受石を載せてI型鋼梁を架け渡し、梁間に鉄板をヴォールト状に取付けてその上にコンクリートを打込んだものである。
 建具
 表出入口の建具は当初木製で上部は縦桟付の欄間で4枚の中折ガラス扉であったが現在はシャッターとなっている。東出入口は片引きの鉄製吊戸でくぐり扉が取付けてある。西出入口は腰板付ガラス扉であったが現在は鉄製扉に改修されている。
 2階各面にみられる窓は当初木製で上部にファンライト(扇型欄間)が設けてあり、下部は桟付の上げ下げ窓であったがその後何度か改修されて現在は上部の半円部分はモルタル塗りとし下部は上下二層の引違い窓としてある。
 西側の2ヶ所はガラリが外部に取付けてあり、東側の1ヶ所はかつて増築されていた当直室への出入口として建具と窓台石などが取除かれていたが、現在は塞いで壁としてある。取除かれた窓台石とモルタル補修してある壁は旧状に修復されることが望まれる。
2階のアーチ型窓内部には丸型のシンプルな木製額縁が巡らせてあり、内壁の漆喰仕上の白い壁面に黒い額縁で窓部分が縁どられており、設備の収納空間にしては洒落たデザインである。
 1階の窓は改造が著しく北側及び西側の1ヶ所は上げ下げ窓が二層の引違い窓としてあり、東側の3ヶ所と西側の2ヶ所の窓はすべて内側がコンクリートブロックでふさがれている。東側の窓には当初のものと思われる木製の回転ガラス窓と鉄格子が一部残されている。
(平成5年頃にはファンライト(扇型欄間)がみられた)
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