連続旅行記


十三 とっても見事な晴れだった

 翌日は朝七時の起床だ。
 明け方三時頃もぞもぞと起き出してビールなど嘗めていたらしい朱雀をたたき起こして朝食へと向かう。
 『フンベHOFおおくま』さんのブレックファーストは大変美味であると聞いている。なにせ、あの久部さんが『健康になってしまう』と嘆かれたという話から、その内容や推して知るべし。
 しかし・・・。我々の前に姿を現したのは純和風の朝食だった。
 「いやあ、ブレックファーストは今の時期は出来ないんだよ」
 うう・・・。リッチでビューテホーな朝食を期待していたのに・・・。しかし、驚くなかれ、その朝食のシャケがうまい。こんなに皮の美味いシャケがあったのか?
 「これは・・・。美味なのな」
 黙々とかっこむ朱雀である。
 昨日の夕食に、この朝食。そして、一泊料金で七千五百円・・・。
 安い! 安すぎる!
 「他に需要があるから、十勝牛と蟹のセットになったコースと、十勝牛の最高のグレードのステーキを食わせるコースもあるんだけどね。ま、オーナーシェフとしては、牛肉よりも蟹食べて貰いたいな」
 って、牛肉もあるのか・・・。ふふふふふふふ。今度は牛肉だ! 牛肉! 牛肉! 美味しいお肉だ。
 しかし、はっきり朱雀も上杉もなんでこんなに『フンベHOFおおくま』『フンベHOFおおくま』言うのか解ったような気がする。
 あれだけ蟹を食わせて貰って七千五百円。空気はいいし、のんびり出来るし。これで七千五百円は絶対安い。
 うむ、来年もここへ来る人間の後部座席に張り付いてやろうと密かに誓う僕だった。
 まずは、この美味さを上杉の奴に散々ふこう。そうしたら耐えられずにきっと来年、彼は動くに違いない。そう、きっとそうだ。おし、決めた。
 というところで八時半『フンベHOFおおくま』出発。
 僕たちは帯広に存在するという道東最大の本屋へ向かって出発した。
 空は抜けるように青く、紅葉が美しい。その前をのんびりとJRの普通列車が走り抜けていく。
 その横を『しい』ちゃんは走る。そのフラット4はあくまでも快適でエンジン音にも微塵の雑音がない。
 「のどかだなあ」
 これまた久部さんご推奨の『生茶』を啜りながら呟く。こういう旅も悪くはない。
 のんびりゆっくり、お茶など飲みながら車窓を流れる景色を愛でる。何故って、まだビールには早すぎるからだ。
 朱雀がため息をついたようだが、気のせいかもしれない。そうだ、きっとそうだ。今決めた。
 一路車は帯広へと向かっている。

 十四 餅は餅屋に聞いちゃった

 「でも、場所が解らないのは致命的なのな」
 僕たちは帯広にあるという道東最大規模の古書店を探していた。しかし、半年の間に帯広は大きく様変わりしており、大規模古書店が昨日だけでも二軒、存在していることが確認されていた。
 なんということだろうか。小規模古書店に侮れない戦力を保持していた帯広に、更に大規模古書店の進出。この凄まじい戦力に対し上杉たちは対抗できるのか?
 ま、僕の知ったことではないが。僕は欲しい本があれば買う。それだけだ。
 「俺も実はどーでもいい。別に北海道史関係の書籍が欲しいわけでもないしな」
 朱雀に言わせると北海道史関係の書籍に関しては帯広は狙い目だという。
 しかし、お前の専攻は日英同盟ではなかったのか?
 「だから、行くなら神田だ古書店街だ」
 バックミラーに映ったその目はなんとなく怖かった。
 ともかく池田町から駅前に出たのは九時を少し過ぎたあたりだった。時間的な余裕は実はそんなにない。精々十二時前には帯広を出なければ以後の活動に差し支える。
 この後、僕たちの予定は新得で昼飯を食した後、上富良野で地ビールを購入。そして、以後普通道路を札幌まで帰還する。ま、ざっと四百キロ弱。大した距離ではないが、買い物を考えると帯広での滞在時間は制限を受けてしまう。
 どうするか?
 「こういう時は人に道を聞くものなんだ」
 朱雀はそう言うとまだ人通りの少ない駅前に車を停めて駅ビルの中へと入っていってしまった。
 僕も慌てて後を追う。
 彼はそのまますたすたと駅ビルの中の札幌弘栄堂書店、帯広店へと入っていく。
 「すみません。札幌から観光に来たんですけど、ちょっとお尋ねしたくて」
 さすが、坊ちゃん育ち。こういう時の対応には息を飲むものがある。
 「実は、帯広に大きな古本屋が出来たという話を聞いたのですが、どこでしょうか?」
 しかし、普通、本屋に古本屋の住所を尋ねるだろうか? このあたり、彼の考えは想像もつかない。
 「大きな古本屋ね」
 「ああ、あの『洋服の山下』の後に出来た奴じゃない?」
 おばさんとお姉さんが顔を見合わせる。数分後、朱雀はしっかり『大きな古本屋』の情報を入手していた。
 まったく、テーブルトークRPGでもここまでうまくいくか解らない。
 僕たちはお礼に池波正太郎のエッセイ集を一冊買い込むと勇躍、その情報による『大きな古本屋』へと向かった。

十五 とっても大きな店だった

 教えて貰ったとおり、一路西へと向かう。我々の想像よりも遙かに走って、その店、『BOOK MART 西帯店』はその勇姿を僕たちの前に現した。流石にでかい。
 しかし、時間が少し早い。十時開店前から駐車場に札幌ナンバーの車が一台いる。近所のおばちゃんがじろじろと僕たちの方を見ながら通り過ぎていく。
 これはかなり間抜けかもしれない。
 そんな葛藤を押し殺し、開店と同時に店内に駆け込む。
 確かに品揃えは充分だ。しかし、本当に北見よりも大きい道東最大の古書店なのか? 疑問が残る。更に新聞記事にあった雑誌バックナンバーがほとんどない。
 「ここではないのか?
 朱雀の顔に焦りの色が濃い。
 僕はと言うと早速特定の棚を漁り始める。しかし、滝川や北見と違って、その棚は小さく、僕にとって戦果は皆無だった。
 そのかわりとんでもないものを見つけてしまう。ドリームキャスト本体が一万四千八百円。札幌の相場よりも四千円も安い。
 「どうした?」
 朱雀が不振げに寄ってくる。
 「これな・・・」
 「おいおい・・・」
 朱雀の唇が笑みの形にゆがむ。
 「上杉の奴、確かDC、欲しがってたよな」
 確かにそうだ。彼が『タイピング オア デッド』を終生の敵と見なし、復讐の時を待っていることは仲間内では周知の事実だ。
 しかし、悲しいかな名古屋と違い、札幌のDC価格はまだまだ中古でも高い。よって、なかなか手が出ないと言うのが実状だった。
 「これならあいつ、買うな・・・。そう、そうしたら奴はわざわざ帯広の中古DCを買った男として記憶されることにならないか」
 なんという恐ろしい計略か・・・。しかし、朱雀はこの時点で自分がわざわざ帯広の中古DCを札幌まで運んだ男と呼ばれることまで想像していなかったに違いない。
 早速購入を決定する。後はソフトだ。ちょうど『サンライズ英雄譚』が新品で二千八百円を購入決定。札幌より千円は安い。ハードだけでは哀れだという心遣い。朱雀はやはり「いい人」だった。
 そして、もう一つ掘り出し物を発見。冴速氏ご推奨。「定価で買うなら高いが中古なら絶対買うんだわ」の『幻想水滸伝外伝』が三千九八○円。これも売りつけるために購入する。あとは札幌ではなかなか見つからないと、上杉がぼやいていたともびきちなつの『御意見無用』を2冊。やっぱり売りつけるために買った。所要時間一時間での戦果としては悪くない。僕たちは帯広に勝利したつもりだった。たとえ、それが上杉に売りつけるものばかりであったとしても。
 いや、勝利したのは上杉なのかもしれない。

十六 蕎麦の七味が目にしみた

 予定通り十二時には帯広を脱出、新得方面へと向かう。
 前回の旅行では北見から新得へ向かうという離れ業を行ったが、今回は帯広から向かうことが出来た。結果として三十分ほどで帯広市街地から新得へ抜ける。
 新得の『そばの館』の蕎麦は美味だ。
 この蕎麦を僕たちが知った顛末はあまりに有名な話だから略すが、これにまさる味は音威子府の蕎麦しかない。
 売店で新蕎麦を久部さんと冴速さんのおみやげの分も買う。
 そして、少し早いが、昼食タイムだ。
 「鴨南蛮! 二つ」
 席に着くやいなやウェイトレスさんに宣言する。ああ鴨南蛮。前回は上杉の知ったかが
 「新得の蕎麦はザルに限る」
 と言ったばかりに食えなかった鴨南蛮を今回こそ食べることができる。
 僕の視界は感涙に滲んだ。
 「あと、蕎麦団子ひとつ」
 朱雀が言う。
 確かに蕎麦餅もうまいかもしれないが、今は鴨南蛮だ。
 十分ほど待つと美味しそうなにおいと共に鴨南蛮が運ばれてきた。
 「うううう」
 箸を持って思わず絶句する。
 これで千二百円。半年ぶりのご無沙汰でした。GWの時、向かいの小父さんが食べていたのが実に美味しそうだった。それ以来、夢には見なかったが鴨南蛮だ。
 ネギと七味を放り込み、麺を啜り込む。
 美味・・・。
 流石に口からオーロラこそ吐かなかったが、充分に美味しい。
 写真を撮っている朱雀を後目に食べ続ける。ああ、やっぱり鴨南蛮。一番高いだけのことはある。なのに。
 「ふむ・・・」
 写真撮影を終えた朱雀は一口啜り込むと唸ってしまった。
 「上杉に同調するのは癪だが、やはり新得の蕎麦は・・・」
 え・・・。
 こんなに美味しいのに、何を言う。
 「やっぱり、ざるの方がより美味いということなんだな」
 そうかあ?
 鴨南蛮を食い終わった僕は、疑惑の目で朱雀のトレイの上の蕎麦団子に箸をのばす。
 柔らかく鄙びた味わいが何とも言えない。これも絶品。朱雀のような味音痴に食べられてはこの蕎麦団子も可哀想だ。
 そして、もう一つ。朱雀が睨む。
 心の狭い男だ。自分の分が一つ残っているじゃないか。でも、誰頼んだっけこの蕎麦団子。
 何はともあれ満足した僕たちは一路上富良野へと向かっていった。

十七 カップ探しの旅もした

 さて、上富良野ときたら地ビール。これが僕たちの仲間内の公式だ。小樽第一倉庫もいい。帯広の地ビールもいいかもしれない。しかし、冴速氏をして、
 「最も地ビールらしくないくせに地ビールらしいビール」(違ったか?)
 という評価を得ている上富良野ビールこそ、僕たちの仲間内では一番の評価を受けている。
 上杉など熱狂的なファンだ。
 唯一残念なのは、売っている場所が随分と旭川に近い深山峠だという事か。
 新得から一時間半弱で深山峠についた。
 まずはビールの購入だ。おみやげ、自己消費用をそれぞれ買い込む。ダーク、ブローン、ライト、エクストラライトと四種類あるうちで、僕の一番のお気に入りはライトだ。
 残念なのは、ここのは缶ビールではないことだ。缶ビールだったら早速車の中で飲めるのに。瓶しかない発売状況が恨めしい。
 なんだかんだで冴速さんや久部さんのおみやげ分と、上杉の前で見せびらかす分まで購入する。ついでに、外の売店でなんか買って欲しそうな顔をした木彫り梟もゲットした。
 さあ、帰ろうそう思ったときに、事件が起きた。突然、朱雀が店の人に聞く。
 「すみません。このマグカップですが・・・。縦のストライプの奴ありませんか?」
 「どうしたのな?」
 「上杉の奴に、遊びに来られた時の久部さん用カップを買ってきてくれと頼まれているんだ」
 僕は納得した。あの件だ。
 一年前、道東無謀旅行の時に、上杉の奴が馬鹿なことをしでかした。この上富良野物産館でマグカップを購入した時、久部さんに二つのカップを並べてこう聞いたらしい。
 「どっちがいいです?」
 「そうだね。僕なら縞だなあ」 
 「そうですか。僕なら赤とんぼですね」
 で、あのバカは赤とんぼ柄を買ってきた。
 普通なら聞いた以上、そっちも買うのが礼儀だろうと、散々死ぬほど僕たち二人で馬鹿にしたその結果が、あの質問らしい。
 「あ、そうですか在庫がない。アトリエトムテに行けばあるかもしれないんですね」
 そう言うと振り向く。
 「さて、白金温泉へ向けて転進だ」
 馬鹿にした以上責任を取れと言うことだ。やっぱりこの旅行も迷走するのだろうか?
 僕たちは疲れた体に鞭打って美瑛を目指す。
 美瑛駅から南東へ九八六号を白金温泉へ一時間ほどで、アトリエトムテはあった。
 そこで、もしかしたら久部さんの趣味と違うかもしれないが親子縞のカップを購入。
 ついでに朱雀はビアマグも買っていた。
 僕はと言うとトムテ人形とやらを見つけてしまった。大笑いしている奴がほほえましい。
 「無理して笑っている奴は辛いな」
 朱雀は一瞥するとそう言い放つ。
 何かあったのだろうか?

 十八 ついた車が悪かった

 美瑛に戻ると再び旭川を目指す。途中ショートカットしようとした道が冬季閉鎖なのに気づかず、何度もその前をうろうろしたりしながらも四時半過ぎには旭川台場までたどりつく。そこで生茶と氷、ビールを補給した。今日は午後になってもなかなかビールを買えなかった。地ビールがあるのに瓶だからコップがなくては飲めない。これは拷問だ。
 「朝寝ができて昼酒できて、早寝ができるのが休暇だ」
 この言葉は上杉の弁だが、全面的に正しい。
 早速一杯。やっぱりビールは黒ラベル。朱雀が露骨にため息をつくが気にしない。
 旭川市内は迂回する。
 残念ながら旭川を攻略するだけの時間乗員も金銭搭乗員も僕たちは失っていた。やっぱりあの単に嫌がらせのためのDCが大きい。それに今から古本屋へ行っても欲求不満がたまるだけだろう。
 神居古潭で渋滞に巻き込まれたりもしながら一路『しい』ちゃんは深川を目指す。高速に乗らないのは滝川の『GEO』を目指すためだった。今回の旅行。僕の戦果はいささか期待はずれだった。そこで、可能であればと朱雀に頼んだところ、快く滝川『GEO』行きを認めてくれたわけだった。
 しかし、それは彼にとっても悪い話ではなかったようだ。途中、行きつけの喫茶店へのおみやげ購入のため(上富良野では北海道土産のようなものばかりで郷土色が薄かった)寄った滝川道の駅で滝川地ビールを見つけた彼の目が邪悪に輝くのを僕は見逃さなかった。
 道の駅でビールを購入。更に南下を続ける。
 「自分のビールはさっさと飲んでしまえ」
 アイスボックスがおみやげで一杯になってしまったのでそんな無体なことを言う。
 しかたないので僕は飲むピッチを上げるしかなかった。 
 そして、今度は迷わず間違わず、滝川『GEO』へ。しかし・・・そこにあったのは悲しいかな買っていない作家さんか、持っている本ばかりだった。傷心にビールがしみる。結局戦果は『ジリオン』のCDだけだ。
 そんな僕を後席に乗せたまま、用事を果たした『しい』ちゃんは滝川で給油後、奈井江から高速に乗った。ご存じの通り、ここから札幌までの古本屋は砂川の穴場は閉店し、他も夜8時を過ぎると閉まってしまう。
 で、高速だ。時速百キロでのんびり帰ろう。
 「こういうときは、前の車についていくといいんだ」
 朱雀がそう言う。たぶん、その通りなのだろう。しかし、ついた車が悪かった。突然かの車が軽く百キロを越える速度を出す。
 『レオ』ちゃんなら、無理はきかない。しかし、『しい』ちゃんは容易にその後をついていく。はっきり言って結構怖い。
 流石『しい』ちゃんずんどこパンチ。
 札幌に着いたのはなんと九時前だった。

十九 やっぱり呆けた旅だった

 「というわけで、このDC買わないかな」
 相変わらず汚い上杉の部屋で僕たちは買ってきたDCを部屋の主人に見せていた。
 途中、久部さんの家に蕎麦とビールとチーズを置いてきたその帰りがけ、売り込みに来たところだ。
 「新品の『サンライズ英雄譯』もつくな」
 「ってな・・・お前ら、どこに何しに行ってきたんだ?」
 ようやく仕事から帰ってきたらしい上杉の晩酌ビールを飲みながら、僕は売り込みに精を出していた。朱雀はというと取ってきた写真をノートPC上での整理に余念がない。
 「たった、一万四千八百円な。これを送料として千円もらおう。あとは『サンライズ』の方は定価でいいな。さあ、買った!」
 「はあ・・・」
 上杉がため息をつく。
 「買わないなら俺が買うだけなんだ」
 ぼそり。朱雀がTP−560Z『磯波』上で整理した写真を保存しながら呟く。
 「買わないとは言ってない」
 おお、上杉得意の否定の連続だ。
 「わかったよ武田、言い値で買おう」
 やっぱ、この二人、かなり仲が悪いのではないだろうか。
 「じゃあ、次な。『幻想水滸伝外伝』中古」
 「おお!」
 上杉が歓声を上げる。
 「これ、札幌じゃなかなか中古ないんだよ」
 「それは良かったな」
 定価でお買いあげだった。
 「あとともびきちなつの『ご意見無用』」
 「それも買いだ」
 完売。やっぱり最初に大物を持ってくるのが商法のコツだ。が、僕は何をしているのか。
 「最後、これはお土産」
 そう言って、上杉に似てなくもない深山峠の梟を渡す。これで、僕はおわりだ。
 「じゃあ、頼まれてたマグカップ」
 「ああ」
 パソコンを仕舞った朱雀が親子縞のカップを鞄から取り出して手渡した。
 「話と違うかもしれないが、これしかなかった。だから、金はいいよ。久部さん用だし」
 そう言って、もう一つの包みを取り出す。
 「これ、トムテの赤とんぼのビアマグ。マグカップとお揃いで使ってくれ」
 「え、すまんな」
 「それから、深川の地ビール」
 「へ・・・」
 「・・・じゃあ、明日も出勤だろ。じゃましちゃ悪いからもう、帰るわ。
 さて、武田。帰りがけ、ピザでも買って上富良野の地ビール飲もうぜ」
 恐るべきは朱雀龍樹。
 一年前の屈辱、きっちり利子を付けて返した瞬間だった。
 朱雀は堂々と、僕はそそくさと上杉の部屋を後にする。

 しかし、運命は二転、三転した。
 車内に戻り、DCの代金を朱雀に渡した僕は気がついてしまった。
 「あ・・・みっつとも消費税分貰ってない」
 上乗せ千円。
 消費税一,〇七九円・・・
 七九円の赤字だ。
 「オチがついたな・・・」
 総走行距離千二百八キロの旅行はこうして幕を閉じた。

走行距離千二百八キロ

 「ま、いいかあ、人生風の向くまま、気の向くまま」
 そう呟くと朱雀が笑い出す。
 僕もつられて笑い出した。
 「風まかせ。風まかせ」
 『しい』ちゃんのエンジン音と共に、僕たちの笑い声が夜の闇に吸い込まれていった。

去っていく二人だった・・・。

 風まかせ 武田暗 完


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