6
大雨の中、『自然体感しむかっぷ』到着。
自然体感しむかっぷ |
なんだかバケツひっくりかえしたような大雨の中だ。
「天命に逆らったんじゃないのか」
うわああ。天命に逆らったらあとは滅びるだけではないか。
「しかし、なんかこの雨異常だぞ」
上杉が日本酒のプラコップ片手に呟く。
「まったくだな」
エンジンを切りながら朱雀が言った。
君達がこの雨に関連ないと言うのか? 後席に座って酒飲んでる上杉。旭川ナンバーの流れに違和感がない、微妙に運転が荒い朱雀。
雨の中、僕だけ走ってスタンプゲット。
237号線を北上する。そうして、38号線にのって更に北上。次の道の駅『南ふらの』はふらのの南。そうスタンプブックで単純に判断した僕が悪いのか。昨日の続きで、僕と一緒に酒飲んでいた上杉が悪いのか。そのまんま信じた朱雀が悪いのか。ともかく、僕達は富良野へ出てしまった。迷走だ。いつも通りの迷走だ。正解は南富良野は237号線と38号線の合流ポイントを東に行かなければならない。しかし、いつしか僕達は富良野市へと入ってしまった。
完全な間違いだった。この結果、僕達は今日の最後の最後で敗北することになるが、その時点ではそこまで考えた人間はいなかった。
ともかく、おお慌てで南富良野に向かう。ここで残しておくと、またのちのちとんでもないことになりかねない。
そうして、僕達はようやく『南ふらの』に到着した。
道の駅 南ふらの |
そうこで、僕は出会ってしまった。再び。心の琴線を震わせるものを。
それは木製の輪ゴム鉄砲だった。特徴をつかんでいて出来がいい。ああ。ワルサーP38が、ベレッタが・・・。ただ、少しばかり高価すぎた。うーん。もう千円安ければ。2千円までは衝動買いできるのに。
7
結局、買わずに更に北上した。富良野まで来たら僕達の旅は地ビールを買わないではおさまらない。上ふらの地ビールだ。
富良野市から中富良野町、上富良野町へ道央の道。237号線を北上。美深峠に入る。さて、ここでいつも通り地ビールを購入することになる。
「じゃあ、冴速さんのおみやげ分も送ってくれよ。あと、これはおみやげの梟。荷物に入れて送ってくれ。どうもハンドルがぶれるんだよな」
途中で買った梟を手渡して車外点検を始めた朱雀が上杉に言う。
「了解」
上杉は体型の割には軽やかに地ビール館へ入っていく。僕も車内自己消費分を購入するため上杉についていった。
上杉はビールを二セット宅急便で郵送する。
どういうことだろう。一つは名古屋の冴速さんのために、もうひとつは?
そして、僕が車内自己消費分として買った地ビールが入っている袋をアイスボックスに放り込むと車は道の駅『あさひかわ』へと向けて出発した。
「で、冴速さんのおみやげ分は?」
「あ、今回は私が全部持つ」
「そうか。悪いな。じゃあ、俺の分だけ払うわ」
「あ、忘れた。そうだよな。貴様の分も買わなくちゃならなかったんだ・・・」
うんうん。と頷く上杉だったりする。
「貴様、貴様の分を強制徴収してやる」
「あ、私の分も送ってしまっただから。ここには武田の分しかない」
冷たい沈黙が満ちた。しかし、人間、ここまで一つのことに拘っていられるのだろうか。
何年越しの問題やっているのだろう。彼らは。こんなのと友達やっていていいのだろうか。深く悩んでしまう。
8
不気味な沈黙の中、車は進む。
よりにもよってこういう時にかかっているのが『グレゴリウス聖歌』だったりする。
これほど恐ろしい選曲もないかも知れない。
そのまま道なりに237号線を北上。旭川の街に到着する。
旭川に入ると旭川ナンバーは急に静かになる。自分の街では決して事故を起こさない。それが旭川ナンバーの誇りなのかも知れない。
あちこち曲がって道の駅『あさひかわ』到着。
「じゃあ、僕スタンプ押してくるんだな」
「ああ、俺もつき合うわ」
朱雀が珍しく運転席から降りてくる。
「行ってらっしゃい」
満面の笑みを浮かべて上杉が缶ビールを額の辺りまで持ち上げた。
道の駅『あさひかわ』はこの辺りの物産館を兼ねている事は知っていた。
そして、そこには「上ふらの地ビール」も存在していたではないか。
「現場主義だから、ここで買ったことはないんだが。ま、背に腹は変えられない」
朱雀はそう言うと「上ふらの地ビール」を4本買い込んだ。
「ふふふ。何が送っただ。現物はここにある。現物のある方が勝利だ」
「あ、ああ」
本当に人間、ここまで一つのことに拘ることが出来るのか。僕はその業の深さに思わず頷いてしまう。そして、あまりの恐怖に、撮影するはずだった道の駅『あさひかわ』の写真を撮り忘れてしまった。
そして、朱雀の持ってきた「上ふらの地ビール」に上杉が絶句する。
「ここにもあったのか」
「ああ、冴速さんの分。本当に有り難う」
車内の空気が。完全に凍り付いた一瞬だった。
9
旭川の町中。途中見つけた旭川の古本屋は閉店してしまっていた。
潰れた旭川の古本屋 |
「不況なんだろうな」
朱雀が明るい声で言う。
上杉はふてて眠っている。
38号線を通って芦別へと向かう。
この道は、過去に朱雀と上杉が僕を置いて網走に鯨を喰いに行った時、地元の白いセダンに煽られてスピードを出しすぎた。結果、朱雀が30キロオーバー、一月の免停と4万円の罰金とを払う羽目になった阿呆らしい道。
彼自身、その罰金のおかげで『超漢字4』を買えないでいるらしい。
それはそれで可哀想かも知れない。
6時20分頃、道の駅『スターライト芦別』へ到着。
道の駅 スターライト芦別 |
ここでソフトクリームなどなめながら次の道の駅『うたしないチロルの湯』へと向かう。ここは7時まで開いているので少しのんびり出来る。しかし、次の『ハウスヤルビ奈井江』も閉店は7時。果たして間に合うのだろうか。その次の『三笠』は9時までやっているのに。
「えーい。貴様がソフトクリームなんぞ舐めているから遅れるんだベヤ」
それは関係ないと思う。
『うたしないチロルの湯』到着は6時50分。
うたしないチロルの湯 |
近くでやっていた特別展示 |
奈井江に到着するのは不可能に思えた。
しかも。
「えーい。とろとろ走るんじゃないベヤ」
歌志内温泉のバスがのんびりと追い越し禁止道路の前方を走っている。これではいくら朱雀の第二人格が叫んでもどうしようもない。
「こうなったら、後日ゆっくり来るんだな」
僕はもう、諦めモードだ。
「馬鹿言うな。そうそう道の駅攻略している閑があるわけないベヤ」
しかし。無情にも時間は過ぎていく。前のバスはぴったり安全速度で走っていく。対向車も来る。時間は7時を超えた。
10
結局、奈井江についたのは7時を20分ほど廻っていた。
ハウスヤルビ奈井江 |
既に売店の明かりは消え、トイレの灯りだけが寂しく灯されている。
「ここまでだな」
上杉が呟く。今回の旅はここまでなのか。せっかくここまで来たというのに。
僕は傷心を癒すべくトイレへと向かった。
と、丁度警備のおじさんが用を足しておられる。これはチャンスかも知れない。
「あのう、道の駅のマグネットなんてもう、買えないですな」
しかし、その返事は意外なものだった。
「いや、買えるよ。1枚でいいのかな」
をを。なんとスタンプを夜間に押しに来る観光客のために、夜間は警備のおじさんが何枚か道の駅のマグネットを保管してくれているとのこと。無事にゲットすることが出来た。
後はもう、9時まで開いている道の駅『三笠』だ。楽勝ペースで到着できるはずだ。
しかし、悲劇は起こった。
道の駅 三笠 |
道の駅『三笠』のスタンプが置いてある「レストランしいたけ飯店」は9時まで開いている。しかし、マグネットのある購買は夕方6時までで閉店していた。
そんなことはガイドブックのどこにも書いていない。
僕達は、いや僕は、しばし言葉を失った。
ここまで来て。ここまで来て。スタンプが置いてあるレストランは営業しているのに、マグネットが手に入らない。7時に閉まる奈井江で買えたのに、9時まで開いている三笠で買えない。
「人生、こんなもんなんだな」
僕のその言葉がこの度の終わりを告げた。
後は高速に乗って札幌に帰るだけ。
僕はこの旅でいくつかのことを学んだ。うまい話に乗ってはいけないこと、人のふり見てわがふり直すこと。人間の業は深いこと。
しかし、懲りると言うことは学んでいない。さあ、次回はどこへ行こうか。
今回の道の駅スタンプ&マグネットget数 9
今までの道の駅スタンプ&マグネットget数
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