三馬かが往く2 怒りのみついし


 人生、自分で努力しなかった幸運くらい怖いものはない。いや、努力しても結果を得られない事の方が多いのだから。
 だから、僕は僕が要求もしていないのに『道の駅 スタンプラリー』の旅に行こうという上杉の申し出をもっと熟慮すべきだったのかもしれない。どうして、そんな仏心を彼らが出したのかの確認を行うとか。
 しかし、僕は乗ってしまった。それがどんなに恐ろしいことになるか。何も知らずに。
 僕は参加を表明してしまった。
 過去のあの、幻の旅、『仁義なき戦い』の二の舞になることも知らず。
 以下はその、僕の愚かな選択の結果だったりする。
 残念ながら、僕も常識人である以上、2週間しか間隔を置かないで道の駅を攻略するなど考えもしなかった。その前は、4月の末に道北へ行っているわけだし、場合が場合だ。
 しかし、上杉からの電話が僕の躊躇いを吹き飛ばしてくれた。
 「閑だったら日高の方の道の駅、攻略しに行かないか」
 嫌もおうもなかった。向こうからのお誘い。これを利用しない手はない。何と言っても幸運の女神には前髪しか存在しない。それをつかみ損なえば後悔の涙にくれるしかない。
 そう、その時、僕はこの旅が幸運に充ち満ちていることを疑っていなかった。実に愚かだったのかも知れない。
 承諾してから待つことしばし、銀色に輝く『さっちゃん』が僕の家の前に停まる。朱雀が僕を迎えに来てくれた。ドライバー自ら迎えに来てくれるとは。上杉はどうしたのだろう? 電話をしてきた当人は? そして、僕は僕の指定席。助手席後ろの後席に座っている上杉を発見した。
 「よう、お晩です」
 室内には日本酒の匂いがした。

 自分のやっていることをここまで醜悪にカリカチュアされるとすこしばかり驚いてしまう。僕は車内では缶ビールは飲んでも日本酒までは逝ったことはない。
 「飲むか? 一之蔵の純米超辛口だが」
 イカクンくわえた上杉が言ってくる。
 「い、いや・・・」
 「そうか・・・。じゃあ、私はいただくぞ」
 僕の目の前で透明なプラスチックの使い捨てコップで日本酒を呷る。四合瓶の三分の一ほどが空いている。
 「武田は麦酒党だものな。後ろのラゲッジスペースのアイスボックスに麦酒も入っているからな。ゆっくりやってくれ」
「ああ・・・」
 運転席後ろの席に座る。
 「ほい、麦酒。ぐいっといけ。ぐいっと」
 上杉が差し出す麦酒を受け取る。
 背中を何かが這い上がる。それは、恐怖。 そっとバックミラー越しに朱雀の様子を伺い見る。
 絶対に飲んだら運転しない男だが、万が一と言うことがある。幸いにしていつもの通りだ。いや、少しばかり顔色が青白いか・・・。
 「え・・・」
 足下に何か固いものが触れた。ゴミ袋代わりのコンビニの白い袋だった。
 「があ゛」
 中には『眠眠打破』の空き瓶が3本。転がっていた。
 いくらなんでも飲み過ぎだ。カフェインを大量摂取した朱雀と。アルコールできこめしている上杉。こんな旅行に参加することになるなど・・・。頭の中で警報が鳴り続ける。しかし、降りることなど出来そうになかった。
 「さあて、今回はひとつきばって行くベヤ」
 わああ。すでに朱雀の第二人格が出現している。
 こうして、この旅は始まってしまった。

 高速道路に乗って一路日高の道の駅『みついし』を目指す。 
 高速道路の巡航を速い車にも充分に対応できる。まったく、『レオちゃん』のころの高速道路を走る時の微妙な振動が夢のよう。
 後席は既に宴会場と化していた。出遅れた分は麦酒を速いピッチで追いつく。朱雀を取り残して上杉と僕は盛り上がる。こうなってしまえば恐怖も何もあったものではない。
 やっぱり、後席のカップホルダーはとっても便利だ。
 道央自動車道を南下。苫小牧インターチェンジで日高自動車道へ乗り換える。残念ながら厚真インターチェンジまでしか通じていない。そのまま南下。『サラブレッドロード新冠』を超えて夜10時11分。『みついし』へ到着する。走行距離は158キロ。

走行距離は158キロ

走行距離は158キロ

 いつもの旅行に比べればそんな走行距離ではない。しかし、体力的にもう、僕達は無謀な旅行は不可能になったのだろうか。その辺り少し寂しい気がする。
 「ドライバーが3人いれば、もっと長距離稼げるんだぞ」
 「『さっちゃん』を傷物にするのかな」
 勝利。
 駐車場に車を停めると潮の香りがした。
 で、いつも通りのDVD鑑賞会となる。今回は『ヘルシング』と『七人のナナ』ヘルシングは今更何も言うまい。語るまい。ただ、制作者サイドにこの作品に対する愛情のかけらも感じられないアニメーションというものがどこまで、哀しいものになるかよくわかった気がする。個人的にこんなものは『ヘルシング』の名に値しない。
 で、『七人のナナ』。
 これはもう、たいしたもの。逆にここまでやってくれるとお腹一杯といった感じだ。
 しかし、愛情があるのとないのとではここまで違うのだろうか。

 翌日、8時に『みついし』のスタンプを押し、名物、こんぶしょうゆを久部さんのおみやげに購入。本日の道の駅スタンプラリーに出発する。

道の駅 みついし

道の駅 みついし

 予定は『サラブレッドロード新冠』、『樹海ロード日高』、『みたら室蘭』、『だて歴史の杜』、『そうべつサムズ』『フォーレスト276大滝』とDブロックを制覇する予定だった。予定は未定。その時はその言葉の重さも気にはしていなかった、僕達だった。
 途中、巨大な古本屋を発見する。

 

大きな古本屋

大きな古本屋

 しかし、開店は10時。8時ちょい過ぎでは待ち時間が長すぎる。むろん、昔の『仁義なき戦い』の時のように、鹿肉食べるために2時間近く待ったこともあるが、今回は目的が違う。残念ながら今回はパスする。
 そのまま、『サラブレッドロード新冠』へ。8時35分頃に到着。

サラブレッドロード 新冠 ハイセイコー

サラブレッドロード 新冠

ハイセイコー

 ここは残念ながら10時まで開かない。これではこの後に差し支える。自分でも思うが、今回のマグネット縛りはきつかったかも知れない。とにもかくにも、社員の方が出てきて下さったので開店時間以前にマグネットを購入できた。社員の方有り難うございます。(迷惑ばっかりかけている気がする)
 次は『樹海ロード日高』。237号線を北上しなければならない。
 ここが思案のしどころだった。考えてみればどうして、ここがDゾーンなのか。Gゾーンの『自然体感しむかっぷ』との距離はほんの3〜40分でついてしまう程。これは、何かの間違いかも知れない。しかし・・・。
 「せっかくだから行くんだな」
 ゾーンの中に空きがあるのは『大成』で懲り懲りだ。
がと言うわけで僕達は『樹海ロード日高』へと向かう。これが僕達の旅を大きく変えてしまうことになるとも知らずに。
 僕達は北上する。

 僕達は北上して『樹海ロード日高』へと向かう。
 と、朱雀の様子が少しおかしい。運転中は結構喋る男だが、その朱雀が一言も喋らない。
 「どうしたのかな」
 「いや、少しな」
 『樹海ロード日高』到着。

樹海ロード日高

樹海ロード日高

 そのままトイレに飛び込む朱雀だった。
 「なんだ? あいつ。そんなに飲んだか」
 「僕よりは飲んでないと思うな」
 考えてみれば、その頃から例の大腸潰瘍が出ていたらしいが、その時は僕達はそんなこと知る由もなかった。
 待つことしばし。その間に珍しく酒が朝から入っている上杉といつも通り麦酒飲んでる僕との間で話が二転三転、とんでもない方向へと転がっていってしまった。
 要するにここから『そうべつサムズ』へ来た道を帰るよりもDブロックの残り四つをそのまま残して『自然体感しむかっぷ』、『南ふらの』へと進路を変える。要するに道北を完全に埋めてしまおう。そう言うことになってしまった。すべてはトイレに行っていた朱雀が悪い。結局、トイレから帰ってきた朱雀が事の次第を聞いて呆れることになる。
 「なんだ。それは? 結局また迷走か」
 そう言えばそうかも知れない。しかし、道の駅攻略という本道ははずしていないはずだ。それが本道かと言われると少しばかり、本当に少しばかり、最近自信がないが。
 『自然体感しむかっぷ』までは本当に近い30分ちょいで到着してしまった。二日目の今日も天気は晴朗。僕達の旅行を祝福してくれるかのようだ。
 だが、突然土砂降りの大雨が降ってきた。
 「これは、今回の迷走に天が怒りを露わにしているのかもしれないぞ」
 上杉がのんびりという。そうだとしても、僕達はもう止まらない。


旅する奇怪