6 縁は異な物
結局、雄の子狐はお酌にも、恩返しにも来なかった。ま、海の音を聞きながら熟睡できたから僕は文句はない。しかし、すぐ側にモーターキャンプ場があったとは知らなかった。そのすぐ側で道の駅の駐車場で一泊した僕達は何なのか? 少し考えたら空しくなったのでなかったことにする。
ゆっくり眠れたことが恩返しかも知れないと思いながら、翌朝、8時起床。天候は曇天だが肌寒いというほどでもない。トイレの洗面台で顔を洗う。道の駅は9時開店。まだ、時間はある。
道の駅 なとわ・えさん |
と、トイレに60才の定年を迎えたであろう男性が二人。語り合いながら入ってくる。どうやら二人とも夫婦で道の駅制覇に出られているらしい。
「いやあ、あんたの奥さんは偉いよ。ウチのはもう、せっかく連れて来てやってるのにぶーたれてさ。あんだけ喜んでいれば連れてきてやる甲斐もあるのにさ」
「なんだ、あんた。奥さんに引きずられてるんじゃないのか。ウチのはやれ、全駅制覇だ。スタンプラリーだって、五月蝿くてな」
「・・・」
ああ、お互いの伴侶を逆にしていたらこの二組は幸せだったのだろうか。
たぶん、そうではないだろう。人生、そんなに単純では面白くない。
伴侶がいない人間がどうこう言っても仕方がない。上杉ならばこう黄昏れるところだが、僕はまだ1才若い。たぶん、来年の今頃はかわいい奥さんがいるはずだ。
たぶん・・・。
ま、そんなこんなで車に戻ると朱雀が待っていた。9時まで少しぷらぷらして、久部さんへのおみやげの昆布醤油とマグネットを購入。干物も旨そうだなあ。でも、焼けないし。
旨そうな干物 |
「今日の朝は森で『イカめし』にするのな」
と、勝手に決めて今日の旅は始まった。
7 野暮天
さて、今回の道の駅攻略は『なとわ・えさん』を振り出しに『つどーる・サロン・さわら』『YOU・遊・もり』と北上していく。
しかし、余り天気が良くないためか、せっかくの『むしむしQ』のBGMも湿りがちだ。すきっと死体じゃないか・・・。いいところで誤変換するATOKだったりする。これではかけらも爽やかではない。
ま、ともかく、1時間ちょいで『さわら』に到着。
つどーるって何ですか |
しかし・・・。『つどーむ』だとか『かでる』だとか『こんさどーれ』だとかどうして北海道人にはこんなにセンスがないのだろう。恥ずかしいとは思わないのか。日本中に恥をさらしてどうする? なんだか『つどーる・サロン』という言葉に過剰に反応してしまうのだが・・・。全く、何をしているのか。本当に。
「ま、東京の人間だって『E電』なんていう非常に恥ずかしい名前を付けているがな」
朱雀、どうしてそこで醒めた見方しかできないのだろう。僕は哀しいぞ。
が、道の駅自体はなかなか洒落ていた。ついでに美味しいそうな薩摩揚げと蒲鉾を購入する。山葵醤油で食べたら日本酒に合いそう。というわけで3〜4人分購入して出発。走り出してすぐ道の駅『もり』の看板が見えた。
さわらのすぐ側で発見 |
「へ・・・こんな所に?」
だって、たった今『さわら』を出たばかりなのに。だいたい道の駅の看板は2キロちょいの所に置くのが今までの常識。この道の駅『もり』随分遠くから自己を主張している。
一応、写真撮影に成功したのが4キロ地点の物。でも、これよりももっともっと遠くの地点から『もり』は自分を主張していた。
「『もり』っていうのは出しゃばりが多いのかもしれないな」
呟く朱雀。何かあったのかな。そう断言する何かが。
8 名物に旨い物なし
出しゃばりであろうとなんであろうと『もり』に来たからにはしたいことがある。『いかめし』を食べる。これに尽きる。残念ながら僕は食べたことがないが、凄く凄く凄く美味しい物らしい。なんといっても駅弁大会の主役。いかめし一つ500円也。
道の駅で買ってみた。
道の駅 YUO・遊・森 |
いかめし |
「・・・」
「名物に旨い物なし」
それはキツイだろう朱雀。少なくとも不味くはないし、飛び抜けて旨い物とも思えなかったけれど、たぶん、僕達があまりにも過大な空想をしていたからに過ぎないのかも知れない。道の駅『もり』の名誉のために明言しておくと不味くはなかった。ただ少し拍子抜けしただけだ。今度駅弁を買ってみよう。
少し遅めの朝食を済ませ『もり』のマグネットを購入。札幌へ行きたがっているヒッチハイクのお兄さんがいたが、可哀想だけれど乗せてあげられなかった。これから『大成』、『島牧』、『くろまつない』、『いわない』、『かもえない』、『よいち』と制覇しなければならない、札幌帰着が何時になるか解らない旅に彼を巻き込むわけにはいかない。車に戻る途中で親切なおじさんについて行ったので、どうやら乗せてもらえることになったらしい。めでたし、めでたし。
で僕達は憂いなく日本海へ抜ける道へ『さっちゃん』を走らせる。前回、花見の時に涙ながらに走った道だ。時間切れで『大成』のマグネットを買えなかった、哀しい道。
「『大成』よ、私は帰ってきた!」
「何言っているんだか」
呆れられても良い。今年の道の駅スタンプラリーにおいて僕が唯一負けを喫した場所。
それがこの『大成』。そこを攻略しようとしている今、舞い上がらなくていつ舞い上がるのだろう。13時ジャスト。僕達は『大成』に到着した。
道の駅 |
9 江戸の敵を江戸で返す
『大成』に到着した僕達は早速マグネットをゲットする。しかし、相変わらず道の駅スタンプラリー参加者は面白い人が多い。
ふわふわハンドルふわふわ内装の軽自動車で彼氏を引っ張るようにしてスタンプを押す茶髪パンダのお姉さん。ああ、可哀想な同じ茶髪のお兄さん。
少し古いランクルに乗った20代半ばの3人組。君たちは他にすることはないのか?
「ターボじゃない2リッターのインプレッサに乗った正体不明、30代半ばの二人組」
うぐう。そ、それも確かに変かも知れない。しかし、そこまで自分を自棄に表現するかな。朱雀は。
ともかく、これで今回の大きな目的は果たしたことになる。Fゾーンのあまりを攻略し、Eゾーンの最後の一つも攻略できた。さあ、あとはCゾーンを攻略するだけだ。
デスザウラーに見えますか |
229号線を北上する。途中、まるっきりデスザウラーそっくりの奇岩を発見したりしながら、2時20分に道の駅『よってけ!島牧』へ到着。
道の駅 |
「をを、これは」
朱雀がちはせ窯の猪口を見つけて声をあげる。桜の花びらが一つ浮き彫りにされている白いお猪口。
「どうだ、これで酒飲んだら旨いだろうな」
しかし、どう見ても期間限定の品じゃないだろうか。夏にこれれで酒飲んだら馬鹿ではないか?
そう思って、その通り口に出す。
「ならば、夏にまた夏のデザインの猪口を買うだけだ」
うーむ、漢。漢字の漢と書いてオトコと読む漢だ。しかし、夏のデザインは何だろう。秋は紅葉かも知れないが。西瓜では風流に欠ける。それより、冬は何だろう。
ともかく、僕にとっては朱雀がここへ来る可能性があるだけで充分。いつかこのカードは使えるかも知れない。
10 人を呪わば穴二つ
更に北上。道の駅『いわない』へと到着。
道の駅 いわない |
この時の時間が問題だった。時間は4時。心づもりだった道の駅『スペース・アップルよいち』の閉店時間は6時。
次の目的地道の駅『オスコイ! かもえない』から229号線。積丹町、古平町、余市町と進むのでは間に合わない。まず間に合わない。そんな不安は『かもえない』到着の時には確信に変わった。
道の駅 |
4時57分。あと1時間でどうやって積丹半島をぐるっと回れるというのだろう。まず2時間はかかる。
「さて、次は『よいち』か。本当なら積丹半島の自然を満喫したいところだが、山道をショートカットするしかないだろうな」
「ショートカットだ?」
「ああ、『さっちゃん』のボディ剛性とサスペンション。タイヤ等を考えればドライバーの腕がヘボでも何とかなるだろう」
僕には嫌も応もなかった。
しかし、僕は道に入って即、自分の愚かさを後悔した。凄まじいカーブの連続。もう、一瞬の油断も出来ないような道を『さっちゃん』が進む。
「ははは、面白いベヤ」
うわああ。また出た。朱雀の第二人格。
しかし、確かに景色は良いし、きゅんきゅん廻るし、これでドライバーが冴速さんだったら何の問題もないのに・・・朱雀だ。ドライバーが朱雀だ・・・。僕は悲鳴を上げる余裕すらなかった。
ドライバーさえ良ければ、絶景かな |
「廻る廻る。こりゃあ楽しいベヤ」
僕の目も廻る。ああ、アイスボックスの中の麦酒、飲み干す事は出来ないのか。
道の駅スタンプラリーはここで終わってしまうのか。
ああ、子供の時のあんな思い出やこんな思い出が走馬燈のように・・・。
陽気な朱雀と絶望の淵に立つ僕を乗せ、『さっちゃん』は突っ走る。うわああ。
11 喉元過ぎれば熱さを忘れる
かくて、40分の後、なんとか無事に余市町へと入った時には疲労困憊、ヒットポイントは一桁という状況。
しかし、ようよう落ち着いた朱雀と。アイスボックスの中の麦酒で気分を落ち着けた僕を待っていたのは道路が工事中という罠だった。そこで回り道を間違えて、『スペース・アップルよいち』を通り過ぎてしまう。
慌ててもどって漸く発見した時には6時に5分を残すだけ。
ここは道の駅では |
余市宇宙記念館の購買に飛び込む。
「道の駅のマグネット下さい」
「あ、あれは外の購買ですよ」
なんと、ここでは売っていないとのこと。確かに外の購買には『スペースアップルよいち』の文字。しかし、シャッターが降りている。まだ、6時に2分残っているのに降りている。どういうことなのだろう。
道の駅 |
今度は完全な脱力だ。間に合わなかった。
朱雀は無言。うーむ、経験値を上げたな。何か言ったら後で利用されることを学んだらしい。かわいげのない。
と、がらがらとシャッターが内側から開いておばさんが出てくる。どうやら帰り支度をしていたらしい。
「道の駅マグネット下さい!」
恥も外聞もあるものか。ここで入手しなければもう一度来なければならない。しかも、お猪口を買いに島牧経由で。当然あのジェットコースター込みだろう。
命に関わる。真面目に命に関わる。
僕の必死の形相にびびりながらおばさんはマグネットを売ってくれた。時に午後6時3分。僕の今回の『道の駅スタンプラリー』の旅はこうして終わりを告げた。
後は小樽経由で帰札。家まで送ってもらう。
今回、計画は完璧だった。が、峠道で変貌する朱雀を読み切れなかったのは失敗だったのかも知れない。さて、今度はどうするか。(懲りてない)
今回の道の駅スタンプ&マグネットget数
8今までの道の駅スタンプ&マグネットget数2
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