1 小人閑居して不善を為す

 「道の駅スタンプラリーとは塩水のようなモノ。飲み干せば更に欲しくなる」
 などと洒落ても仕方がない。前回、久部さんと稼いだ14個のスタンプ、合計20個の記憶も醒めやらぬ内に、僕は更なる計画を実行しようとしていた。
 連休も終わった。北の町への牛タンの旅行は楽しくも疲れるものだったのは記録の通り。
 この僕が、この僕が主導権を握ることが出来ない旅行なんて旅行じゃない。
 そう、一昨年の『古本買い出し紀行』は楽しかった。旅行とはああでなければならない。あれこそ正しい旅行。(『栄光の88艦隊』で負けたりもしたけれど)
 上杉の車は使えない。上杉自身も多忙を極めている。朱雀は誰かと化合すると恐ろしく人格が変わる。
 ならば、複数の人間。朱雀、誰か二人、僕の4人のグループで行けばいいのかも知れないが、今度はは編成が難しい。久部さんをそうそうお誘いするわけにも行かないし、第一、久部さん以外に誰を誘えばいいのだろう。冴速さんは遠い名古屋の地。すこっちさんも名古屋の地。
 要するに、化合しない朱雀をコントロールできれば問題ない。
 そう、思いだそう。あの旅行を。朱雀に道東で『ドリームキャスト』を買った男という汚名をかぶせ、上杉にはその『ドリームキャスト』を更に買い取った男という汚名を着せたあの旅行。本来の目的は大きくずれ、なんだか得体の知れない旅になってしまったあの旅行。
 そう、『風まかせ 武田暗』。あの旅行の再現ならば、大名旅行が可能のはず。
 そうして、僕は朱雀に大きな貸しがある。これを取り立てるのも悪くはない。そう。これで僕の新たな道の駅攻略。この手はずは整った。そう思ったのだが・・・ああ。

2 口は災いの元

 「なんだ、武田か。道の駅廻りに行く気は当分ないぞ」
 僕の電話に対して友情の薄い朱雀は、開口一番こう、言い放った。
 「まだ、何も言っていないな」
 「どうせ、そういうことだろう」 
 付き合いが長いとろくな事にはならない典型的な例だ。
 「まあ、まあ。話を聞いて欲しいな」
 遮る閑を与えず、僕はとうとうとまくしたてる。
 「思い出して欲しいな。『てっくいらんど大成』の失敗をな。あれは『あっさぶ』が272号線にあったのが失敗の始まりだったな」
 「何が言いたい?」
 乗ってきた。乗ってきた。
 「前半部は確かに僕のナビゲートミスだったな。あんなスタンプ帳の地図だけでは不十分だったな」
 「・・・」
 「でも、ドライバーが『あっさぶ』はこっちだ! とか言って国道の分岐じゃなくて、地名表示の分岐で曲がってしまったこともたぶん、間に合わなかった原因の一つではないかな」
 「・・・」
 「その挙げ句、20分も田舎道を走ったり、戻ったりしてしまったのが現実問題として『てっくいらんど大成』の閉館時間に間に合わなかった大きな原因ではないのかな」
 「何が言いたいんだ?」
 「僕は哀しいんだな。Eグループだけ。『てっくいらんど大成』のスタンプがないな。そして、朱雀もあのとき、『業腹だ』と言ってくれたのな」
 息をつぐ。受話器の向こうの気配を伺う。1秒。2秒。3秒。
 「解った。解ったよ」
 今回の旅行。最初の勝利の瞬間だった。

3 朝茶は七難を避ける(じゃあ夜茶は?)

 出発は夕刻だった。
 「もっと早く出ればいいのにな」
 「仕方があるまい。今まで仕事だ」
 「だったら、明日出発でもいいではないか」
 「観光なし、道の駅詣での旅だろう。朝9時から、夕方5時までの間しかマグネットは購入できない。ならば、朝9時に一番遠い道の駅から出発するのが一番の効果的な作戦になる訳だ」
 と、丸め込まれてしまった。ま、僕にとって大事なのは、ビールでも飲みながら、道の駅のスタンプが増えていくことなのだからこの際文句はいいっこなしだ。
 夕刻6時過ぎに出発。
 高速道路を使用しよう。そういう考えもあったのだが朱雀の
 「お前が金を払えよ」
 という脅しの前にあえなく撤回。再び『望羊中山』、『くろまつない』の道の駅を越えて5号線を南下する。
 朱雀と僕の場合、会話は長時間の低迷期と短時間の盛り上がりといった感じになってしまう。しかも、この短時間の盛り上がりという奴は、そのまま書くならばおそらくは朱雀の真の姿をさらけ出し、更に、この上杉のサイトの方向性を大きく歪めかねない代物だ。
 よって、古本屋やなんやに寄らない限り、書けるネタになるようなことは何一つ起きない。
 だから、いい加減、ビールを飲むピッチが早くなる。僕としては不本意だが、
 「ここを帰りも通るんだからな。しっかり位置確認しといてくれよ」
 朱雀の言葉も夢うつつのままに南下する。

7777キロ走破!

7777キロ走破!

 『YOU・遊・森』を抜けて『つど〜る・プラザ・さわら』へ向かいつつある時に悲劇は起きた。
 がつん!
 「あぎゃあ」

4 泣き面に蜂

 対向車のビッグタイヤを履いたトヨタのランクル。日本のどこを走るのか解らない車が砂利を跳ね上げた。それが偶然、朱雀の「さっちゃん」右後方ドアに激突したのだった。
 「うう、新車がぁ・・・」
 合掌。ちなみに僕は悪くない。
 更に悲劇は続く。椴法華の細いトンネルの向こうで複数の小狐が夜の散歩を楽しんでいた。その内の一匹が道を横切る。
 HIDを輝かせて僕達のさっちゃんが小狐たちに近づいていく。そのライトを見た他の小狐たちは道を渡った小狐の後に続こうとはしないはずだった。 しかし、どこの世界にも馬鹿はいる。その中の一匹は、完全な馬鹿だった。彼?(彼女とは思えない)はそのまま『さっちゃん』の前を横切った。
 「あ、馬鹿!」
 その言葉と供に『さっちゃん』は4輪ディスクブレーキの悲鳴をあげ、峠も攻めうるタイヤは確実にスピードを熱エネルギーに変えて、黒々としたスリップマークを刻み込みながら停止した。沈黙。
 馬鹿な子狐は、しばらくの間放心したように固まっていたが。近づいてきた仲間達に促されるように漸く向かい側の歩道へと消える。
 「危なかったんだな」
 僕はようようそれだけ言う。
 「ああ。畜生め。今晩化けてお酌ぐらいしても罰は当たらないぞ」
 朱雀も額の汗をぬぐう。
 しかし、雄の小狐にお酌をしてもらってもおいしいのだろうか。まさか、衆道趣味があったのか。そんな事を考えてしまう僕だ。
 「しかし・・・凄いことになったんだな」
 僕の麦酒こそ、後席のカップホルダーの御陰で無事だったが、助手席や後席に置いてあった毛布やマップ、メモ帳などが足下に散乱してしまっていた。そしてノートパソコンも。
 なんまいだぶ。

5 狐の恩返し

 「うわああああ。あん畜生め!」
 朱雀の絶叫が広くはない車内に木霊した。
 幸いなことに仮眠用の毛布が一番先にずり落ち、そのクッションのうえに滑り落ちる形でパソコンが落ちたらしい。結果としてVAIOは傷一つなく、正常に作動する。
 室内の片付け等の後、しばし停車した後に僕達はまた走り出す。
 「もしかしたら、これがあの狐の恩返しだったのかも知れないな」
 「そんな馬鹿な話があるか。自分が原因で急停車させておいて、助けてもらって被害がないのが恩返しなんて」
 それだけで充分ではないだろうかな。そう思う僕は欲が少ないのだろうか。少なくとも朱雀ほどはアクティブではないかも知れない。
 そうして、僕達は深夜1時近く、ようやく道の駅『なとわ・えさん』に到着した。夜の闇に波の音が聞こえる。走行距離は314キロ強。僕達の旅行にしては随分と短い旅。

見にくいですが314キロ走りました

えさん到着

 そうして今回不参加の上杉から朱雀が借りてきたDVD鑑賞会へと突入する。
 『ヘルシング』に関してはもとより朱雀と趣味が合うことは期待していない。だいたい、
 「作者、佐藤大輔氏の影響強すぎないか」
 などという輩はイッテヨシだし。
 「うぉおお。榊原良子さんだ!」
 などと叫ぶ南雲隊長スキーも、僕にとっては用がない。キャル(ファントム)だのモーラ(ヴェドゴニア)だのと言う上杉といい、クローディアさん(ファントム)だのリアノーンさん(ヴェドゴニア)だという朱雀といい。まともな女性観を持っていないのだろう。きっとあまりに不幸な過去があるに違いない。
 そして、『七人のナナ』。
 流石久部さん推薦の『Gガン進学アニメ』。
 Gガンダムは伊達じゃない。(笑)
 恵山の夜は更けていく。しかし、僕達は何をしているのだろう。


旅する奇怪