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 「こ、これはどうしたことかな」
 思わず絶句してしまう僕達だった。
 「さて、どうしようかね」
 「久部さん。何か食べに行きますかな」
 「とは言っても、朝から牛タンなんだよね」
 「ま、そうでしょう」
 やっていないとは・・・。定休日でもない臨時休業・・・。
 「居酒屋にでも入りますかな」
 しかし、その提案は却下された。
 「今回の目的は牛タンを食べることでしょう。武田君。そう言ったよね。牛タン食べに来て他のもの食べたら『旅する奇怪』にならないじゃないか。普通の旅行だよ」
 「それが正論ですね。少なくとも、上杉に思いっきり馬鹿にされることは間違いない」
 「上杉君がどうこうではなくて、人間としてのポリシーの問題だよ」
 「ご指導、恐れ入ります」
 っていうか。ではどうするんだ。久部さん。
 「明日は正午からの営業か」
 「今9時ですから、あと15時間ばかりありますね」
 「ま、今晩はコンビニ弁当でも食べて、明日の正午に牛タンだね。朱雀君、お酒飲めないのは可哀想だけど」
 「いや、別に帰ってから散々飲めばいいだけの話ですから。では、そうしましょうか」
 すたすたと近くのコンビニに向けて歩き出す二人。ええ、一体どういう事なんだろう。このとき、僕の頭には『人を呪わば穴二つ』という声が響いていた。
 結局、その夜はコンビニ弁当と麦酒で悲しい稚内の夜を過ごした。
 が、只で転んだわけではない。朱雀が持ってきているノートパソコンに持ってきた『鬼哭街』をインストール。久部さんにやってもらう。
 そうして、稚内の夜は更けていった。

16

 翌朝。朝は6時前に目が覚める。
 シートが新しいせいかレオちゃんよりはよく眠れたような気がする。
 「おはよう、武田君」
 久部さんは既に起きていた。朱雀はトイレに行っているらしい。
 「いやあ、結局2時までかかって終わらせたよ。『鬼哭街』」
 なんと。そこまで嵌めてしまったのか。
 「いやあ、怖いねえ。女の業だね」
 そうでしょう。そうでしょう。
 「おう、武田、起きたか」
 朱雀が戻ってくる。
 「さて、後6時間ばかりあるんだが、稚内にいてもしかたがない。だから、道の駅を回ろうと思うんだが、どうする」
 道北の拠点つぶしか。悪くない。
 僕は昨日のショックも忘れて、『道の駅マップ』へと向かった。
 結局、一番開業時間が一番速い『ピンネシリ』に向かうことにする。開業時間は5月から8時半。おそらく丁度いい到着時間になるだろう。途中、開いたばかりの北海道最北端給油所で給油。
 「いやあ、札幌からかい。こんな朝早く、ご苦労さんなことで」
 お店の人が僕達をねぎらってくれる。
 まさか、昨日の9時から稚内で牛タンを食べるためだけに宗谷を走り回っているとは思ってもいないだろう。
 笑える話。どうして僕達の旅はこんなに笑える旅になるんだろう。
 「うーん。それは常人ならば無視してしまうようなことに異常に拘るからじゃないかな」
 あ、僕、今、言葉に出していました。
 「しっかり出てた」
 朱雀に突っ込まれる。
 本来ならば牛タンが駄目な時点で、目標変更、それはそれで楽しい旅行になるはずだ。

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 余談続く。
 「大体、始まりは帯広まで地ビール飲みに行く。それだけだからね。観光も何もなし」
 「で、無謀旅行が連れて来ちゃったものを返しにでしょう。久部さん」
 だから、怖い話はやめにしよう。朱雀。
 「そうそう、で違うものが憑いちゃって道東に古本屋探しに行ったのが買い出し紀行。朱雀君だってカムイワッカの帰りにDC買ったりしてるじゃないか」
 「で、稚内で牛タン屋さん見つけんですね」
 ああ、それが、こういう旅になるとは。
 「お前だって花見の帰りに道の駅だろうが」
 ぐはぅ。それは痛い。
 「そうだ、今回の旅行記の題名決まったね」
 久部さんが右手を差し出す。
 朱雀も片手ハンドルで唱和する。
 「我ら牛タンのために!」
 やめてください・・・。
 道の駅『ピンネシリ』には途中、道の横のF−104スターファイターで遊んだりしながらも、8時15分頃に着いた。

F−104 ドイツ人はこの高速迎撃戦闘機を

コックピット

サイト等が見える

対地攻撃に使用していた 何考えていたんだろう

前から ほとんど鉛筆

とっても小さいです

 

道の駅 ピンネシリ

道の駅 ピンネシリ

 写真を撮ったり飲料水を購入したりして時間を潰し、8時30分に飛び込んでスタンプを押す。
 鍵は開いていたが妙に暗い。
 「すみません。マグネット下さい」
 無愛想なおじさんがのっそりと出てくる。
 「まだ開けてないんだけどね」
 そんな馬鹿な。ちゃんとスタンプ帳には8時半からと書いてありますが。
 「5月からね」
 今日は28日。まだ4月。ご免なさい。
 そんなこんなで迷惑をかけまくりながら今度は道の駅『マリーンアイランド岡島』へ向かう。道道12号線を北上する。
 「ここの道、どれだけ走ったか」
 朱雀の声は少し苦い。やっぱり哀しい恋が。
 「いいかげんにしろよ」
 同じネタは3回までだろうか。

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 ともかく『マリーンアイランド岡島』に到着。スタンプとマグネットを購入する。

道の駅 マリーンアイランド岡島 この新品の旗が1年たつとボロボロになるくらい風が強いのです

道の駅
マリーンアイランド岡島

この新品の旗が・・・

 そのまんま旧職場へと強引に向かわせる。
 「何でだよ」
 「前々回、冴速さんとあそこを訪れて何でもなかったのに、前回は困ったことになったな。上杉の力では解消できなかったな。だから、久部さんに払ってもらうのな」
 屁理屈。最高の屁理屈。嫌がる朱雀の顔が見たいだけだ。そのぐらいしてもいいだろう。ね、お日様。
 小さな小学校を左手に見ながら北上し今度は先ほども通った道の駅『さるふつ公園』でスタンプとマグネットをゲット。後は稚内に帰るだけだ。
 時間的には充分間に合う。
 『さるふつ公園』でアイスクリームという名のやけに固いシャーベットを食べた後、僕達は再び稚内へと向かった。

道の駅 さるふつ公園 温度が低すぎたのかな? 固くてシャーベットみたい

道の駅 さるふつ公園

ひたすら固かった


 牛タン求めて15時間が経過しようとしていた。途中、拘って日本最北端の給油所で再度給油。

最北端の給油所

最北端の給油所


 しかし、残念ながら、朝給油してくれたおじさんではなく空振りに終わる。残念。
 そして、そして、いよいよ牛タン屋さんへ突撃する。
 「開いてなかったら明日まで待ちますか」
 「今度はオホーツクの道の駅巡ってかい」
 などと不吉なことを言う二人を置いて店の前へ。

牛タン屋さん

今度は開いてました

 開いていた。開いていたよ。お日様。ありがとう。お月様。
 カウンターに座って牛タン定食。残念ながら麦酒ストップだが、牛タン、キュウリの漬け物、麦ご飯、テールスープ。

憧れの牛タン定食

これが、牛タン定食だ

 「このテールスープが絶品なんだよね。メニューに載っていないけれど」
 15時間待った牛タンの味やいかに。
 運命の瞬間だった

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 うまい。まじめにうまい。
 そんじょそこらの焼き肉屋の牛タンとは味が違う。
 なんと言えばいいのだろうか。牛タンというものへのイメージが根底から崩壊する。そうとでも言えばいいだろうか。
 流石は備長炭というか。久部さんが拘られるのも、15時間待ったのもわかるというもの。
 「でしょう。ここの牛タン屋はまじめに心配だったもの。狂牛病で」
 カウンターに座る地元のお客さんは殆どいないということで、去年来た久部さんの顔を覚えられていたり、なんなりあった。
 僕としては何とかしておみやげに持ち帰りたい。いや車中で麦酒と一緒に食べたい。
 しかし、マスターは首を縦には振ってくれなかった。
 「冷めると美味しくないから」
 うう、流石プロ根性。こうでなければ美味しいものは作れないのかも知れない。
 しかし、今度は、上杉でもあおって快癒なったボロちゃんで夜到着するようにして来よう。いや、冴速さん煽って朱雀を再度動かすという手もありだ。
 いや、本当にごちそうさまでした。
 朱雀の、わざわざ札幌から食べに来た。しかも昨日の夜の臨時休業で、道北観光して待っていた。という説明に感激したおばさんに珈琲などご馳走になって。店を後にする。
 「しかし、夜だったら『鯨ベーコン』でビールという手もありだったんだよね。去年食べたけどおいしかったなあ」
 へ、『鯨ベーコン』?
 「あのお、どうなんだな。ここはもう一つオホーツクの道の駅を制覇して、夜ここへ来るんだな」
 「却下」
 うう。絶対あい しゃる りたーん。

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 稚内市内で新刊書店をチェックしてから南下する。

日産のディラーに同居しているんですよ

新刊書店さん

 目指すは道の駅『おといねっぷ』。
 1時出発でどこまで行けるか解らないが行ってみる。
 「じゃあ、行ってみますか」
 「行ってみよう」
 「行ってみるな」
 牛タンで満腹した僕達は、一路南下を開始した。おそらくは道の駅『しむかっぷ』までは行けないだろう事を解っての南下の旅だ。
 40号線を南下。道の駅『おといねっぷ』へと向かう。
 しかし、音威子府の道の駅はなんだか変だった。

屋根の道の駅の広告はなんなのだろう 道の駅 おといねっぷ

謎の小屋

道の駅 おといねっぷ

 「馬鹿者、あれは単なる看板だろう。前にも来たろうが」
 そうだった。ちゃんとしたのはその奥にある。しかし、あの建物何なのだろう。
 そして道の駅『びふか』。

道の駅 びほろ

道の駅 びほろ

 羊の牛乳は健在だったりする。しかし、前回、ここで羊乳を飲んだ時には、あんな旅行になるとはかけらも思わず、そして、今回羊乳を飲みながら、こんな旅行を思い返す事を想像することもなかっただろう。
 まったく、『旅する奇怪』だ。前回の鯨喰って秘湯に入るためだけの旅行も奇怪なら、今回の牛タン食べるためだけに15時間も待つという旅も奇怪以外の何者でもない。
 その中心にはいつも奴が・・・。まさか、化合されるんじゃなく、化合している。実は芯からこんなあんなが真実・・・。
 「どうかしたか」
 朱雀が聞いてくる。うう、真実に気がついた僕は消されるかも知れない。
 などと与太を飛ばしながら。どうやら、今回の旅の最後の道の駅になりそうな道の駅『とうま』の駐車場へとへと車を滑り込ませた。

道の駅 とうま

道の駅 とうま

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 「どうやら、ここまでかい」
 既に4時を廻っている。道の駅『あさひかわ』は5時まで。ここから交通量の多い、なぜか市内ではのんびり走る旭川ナンバーがひしめく市内を廻って5時までに到着するのは、余り楽しい予定じゃない。
 「どうしても感覚が高速側になってますからね。街中ちょろちょろ走るのは危険です」
 「そうだね、目的はもう果たしたわけだし、高速に乗って帰ろうか」
 相談はすぐにまとまった。僕としては後席で麦酒飲んでるだけだから、こういう時に発言権はほとんどない。
 「では、高速乗って帰還!」
 それでも途中あった『GEO』でファミコンカセット2本買ったりしながら高速に乗る。

今回、あんまり古本屋見つからなかったかな

今回の旅7軒目の本や

 「しかし、今回も濃い旅行だったね」
 久部さんが言う。そう、歴史談義以外にも、あんな会話やこんな会話があったけれど、それは全年齢対象のこのサイトでは少しばかり憚りがある。オーナーの上杉が書くのなら問題はないが・・・。いつの日か、自分のサイトを持ったら明らかにされるかも知れない。
 「早く作れよ、自分のサイト」
 ぐわあ、作ったはいいが、半年以上放置サイトしかない人間に言われたくないぞ。
 「結局一番マメなのは上杉君ってことかい」
 それだけで結論出すのもどうだろうか。
 だんだんと札幌に近づく。どんどん廻りの札幌ナンバーのペースが速くなる。
 「どうして、札幌ナンバーは帰る時だけ速いんだろうね」
 久部さんの言葉に頷く。確かに、これは一種調査の必要があるかも知れない。
 夜、7時半頃札幌到着。こうして、予定とは少し異なったが無事14個のスタンプをゲットした今回の「我ら、牛タンのために 牛タン求めて15時間」の濃い旅は終わった
 さあ、次はなる目的はどうなんだ! 

今回の道の駅スタンプ&マグネットget数 14

今までの道の駅スタンプ&マグネットget数20


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