呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


鋼鉄の少女たち 3

  さて、ミスマッチの妙という存在がある。すなわち、本来合いそうにない物が実は相性ぴったりという存在があるのだ。鰹の刺身にマヨネーズとか、小豆餡にイチゴとか。という奴である。
 男女関係にしても、とんでもない美人がなんかフツーの兄ちゃんにぞっこんだったり、イケメンのお兄ちゃんが冴えない眼鏡っ子に無我夢中だったりする例を長くもない(本当か?)人生で見てきた私としてはそんなもんもありだよなあ。と思うのだが。
 さて、そういったミスマッチの妙が特色である作品の一つ。『鋼鉄の少女たち』の3巻が出たので早速レビューである。うむ。
 しかし、ここまで凄まじいミスマッチもそうはない。美少女と戦場。しかも、少女を利用するのは戦車が小さすぎて平均的体格の男では戦車兵になれないという、幸いにして我々の歴史では存在しない凄まじい理由付けがなされている。(史実ではWW2中、ソ連の戦車兵は身長165センチ以下でなければならなかったという話はある)
 ハッキリ言って本来、小林源文氏の絵柄でやってもおかしくない話を堂々と美少女キャラでやってしまおうというのである。しかも、真面目に。今回も重い話がてんこもりなのだ。
(以下、お食事中の方はお食事が終わってからどうぞ)
 だいたい、冒頭で患部切断をかますという。貴様ら、病気だろう(良い意味で)というしかない。いや、このシーンでは一応患部の壊死を確認しているが、史実では止血や面倒な手術を回避するため、残せる患部までごりごり切断したという話すらある。
 更に、捕虜になっているレタ軍曹の挿話で衛生中隊に毒ガスである。いや、前に、先述目的で自国の村を放棄してという話があったが、それ以上に無茶苦茶をやっている。市民も何も巻き添えにして村落内で毒ガス戦。戦争の現実はかくも無茶苦茶に非人間的なのである。それを年端もいかない女の子がやる。ただ、平和のためだけに。
 「こんな戦争さっさと終わらせて いつの日か必ず 動物園をもう一度作るの そして大勢の子供達の笑顔を見て暮らすの できるかな」
 そのために子供達の親を、兄を殺さねばならない矛盾。
 ぺらぺらと平和を捲し立てることは誰にも出来る。しかし、平和は口先だけでは決してやって来ないこともまた確かなのだ。始めてしまった戦争を終わらせることは始めるよりも何倍も難しい。そして、その戦争の抑止力は必要なのである。太平洋戦争の10年前、アメリカの戦争意欲を殺いだのは日本海軍の巡洋艦隊であった。しかし、日本はその抑止力がかせいだ貴重な時間を浪費してしまったのである。そして、開戦。日本は敗北の道を突き進むこととなる。
 ま、それはともかく、捕虜収容所まで、出てくる。この収容所を、読者はひどい所と取るだろうか。冗談ではない。この収容所ならば、おそらく『マツヤマ』(日露戦争の日本の捕虜収容所。一等国になろうとした日本が当時の国際法に照らして最高の環境を整えた)並ではないのだろうか。しかしそれでも、捕虜の扱いは非常に問題となる。特に物語中の女性であるが故のレイプによるパニック障害や妊娠等の問題はおそらく大きなものがあるだろう。
 我々の歴史ではあの、アメリカですら、戦闘配置には女性をつけないのがルールである。(イラク戦争では補給部隊の女性隊員を捕虜にされてしまって、大きな問題となったが)
 それがこの世界では普通に女性隊員が実戦部隊にいるのだ。もう、悲劇がてんこ盛りとなってもおかしくない。
 脳天気な野郎どものおファンタジアな妄想に冷や水をぶっかけるがごときの作品。それがこの『鋼鉄の少女たち』なのである。美少女とミリタリーというお気楽極楽なファンタジーのフォーマットを使って、ここまで凄まじい反戦漫画を作り出したことに敬意を表したい。こいつを読んで戦争賛美漫画だという人間がいたら、それは完全な考え違いである。
 それはともかく、捕虜達の解放を条件に自らを傭兵とするレタ軍曹。帝国上層部で発生するクーデター。転戦するエオナ中尉と鋼鉄の少女たち。その背後を固め督戦隊としてエオナ中尉達に砲弾をあびせかける、帝国のエリート部隊である第1戦車大隊。
物語が急速に動き出す中、レタ軍曹は、エオナ中尉は、鋼鉄の少女たちは、平和な暮らしに戻ることが出来るのか。
 しかし、凄まじい所で引きを作った物である。もう、『でたまか』初期三部作並にあざとく引いて以下次巻。
 しかし、ファイアビートル(巻末)は、ほとんど病気だろうなあ。(まあ、似たような兵器はドイツ軍が考えたのだが)(03,9,28)


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