呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


がんばれ若旦那

 先日、本屋で偶然、手に取った本がある。
 実は、池波正太郎氏の料理のエッセイを元に再編集した本を探してなにわ書房の時代小説コーナーを眺めていたのだが。それはさておき。何か気になる本が目にとまった。その名を『しゃばけ』『ぬしさまへ』という。作者は2001年に第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した(寡聞にして知らなかった)畠中恵氏である1959年生まれで元マンガ家さん。少年サンデー系に掲載されたこともあるという経歴の持ち主である。(いやあ、ネットは本当に便利だ)
 で、この作品。ぱらぱらめくっても実はハードカバーだし、初見だし。妖怪が出てくる江戸ものだしで、あんまり買う気がしなかったのである。ただ、その日お目当ての池波氏の本が出ていなかったこともあり、本屋に入って全然何も買わないで出てくるのも業腹なので一冊。第一巻の方の長辺『しゃばけ』(『娑婆っ気』というべきか)を購入。家に帰って寝しなに読み始め止まらなくなったのだ。
 で、睡眠時間削って読み進め、結局翌日、大あくびで仕事をする羽目になって、帰りがけなにわ書房に行ったら2冊目の『ぬしさまへ』が売り切れていた。
 かくて、即座に捜索モードを発令。北45条のゾーンから美しが丘のコーチャンフォーまで。久しぶりに『君よ憤怒の書架を漁れ』(著作権所有 『北極星人』)を行ったがどこにもなしの梨の礫。こうなると欲しくなるのが人情でAMAZON使ってやろうかとまで思い詰めたのだが。別件で行ったコーチャンフォーで(『ぬしさまへ』目的で行った時にはなかったのに)無事発見。入手に成功したのである。いやあ。まいった。
 で、2001年12月に出ている本(『しゃばけ』)を今頃レビューというのも気が引けるのだが、しかし、『ぬしさまへ』は今年の5月発売と言うこともあり、まあレビューしても罰も当たるまいと強行させて頂く。
 まず、『しゃばけ』。妖怪が出てくるミステリー。となるとどちらかというとこの場合超常現象が発生し、ミステリーと言うよりもホラーの色が濃くなりがちなのだが、この作品。

 妖怪は人間と基本常識がずれているが、人格はきちんと持っている。

 という押さえで妖怪を扱っているため犯人ならぬ犯妖怪の動機、その他が実にうまく描かれるのである。決して超常現象ではない。ちょっと行動する律が異なるお隣さん。それがこの作品中の妖怪なのである。
 主人公兼探偵役は長崎屋の若旦那。一太郎。これがワードなんて名前なら早速読むのをやめる所なのだが。というか江戸時代にワードなんて名前ありか? (寒い)
 この若旦那が訳あって病弱で、訳あって妖怪が見えて、訳あって2人の妖怪白沢(一応温厚実直に見える?)、犬神(一応大柄体育系に見える)に守られているのが基本線。この訳あってが結構重要なのだが。ともかく薬種問屋を襲う連続殺人が発生。しかし犯人には共通性が存在しない。これはまったく別の事件なのか。それともなにか妖怪によるものなのか。
 おそらく、ここまで病弱な探偵はこの世に存在しないのでは。そうまで思う程弱い若旦那の探偵活動が始まるのだ。安楽椅子探偵ならぬ布団探偵一太郎。幼い頃から兄やの2人の妖怪に育てられ、九十九神の屏風や家鳴りを『見えるもの』、存在するものとしていた一太郎にとって、犯人調査はたとえ、妖怪であっても想定がつくものなのだ。
 そして、一太郎若旦那の得た結末は・・・。
 いや、ミステリーの謎解きは明らかにするまい。しかし、きちんと全ての情報は公平に提示されている。それだけは言えると思う。きっちりとだ。
 というところで、紙数が尽きた。2冊目の短編集『ぬしさまへ』については又後日。(03,9,4)


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