人工内耳友の会−東海−
文字版について思う事

平成14年8月

【文字版】について思う事 〜経験を通して〜

記:【文字版】<制作&配信>☆宮下あけみ☆(聴者)

(1)【文字版】のはじまり

 きっかけは、些細な事です。
私がメンバーになっている、ある聴覚障害者関係のM.L.(=「メーリング」:インターネットを通じて、登録された仲間同士が意見や情報を交換しあうメールです。)で、「2000年8月2日(水)、メンバーが取材協力した番組の放送があります。」とお知らせがありました。私はその時間帯に見る事ができませんので、ビデオ録画の予約をしました。
そして、翌日、その番組(ビデオ)を見たら…。ありゃ!! 字幕がない!! 新聞のテレビ欄を確認したら、やはり、「字幕」のマークがない!! エッ?!?! それじゃ、せっかく教えてくださった方も、他のM.L.メンバーの方も、内容がわからないかもしれないじゃん!! じゃ、【文字版】にして、「文字だけ」打とうかな。  …これです。

「文字だけ打とうかな。」と「打つ」のは簡単ですが、やはり私は、M.L.で教えていただいた番組内容なので、M.L.で公表したい。そのためには「著作権等」の問題がありますので、制作局に確認しなければならない。…と言うわけで、スグに制作局に電話しました。 この番組は、私の家では「フジテレビ8チャンネル」だったので、フジテレビに電話。しかし、制作は「フジテレビ系列テレビ長崎」でしたので、そちらと連絡を取るようにと電話番号を教えていただき、「テレビ長崎様」と本格的なお話をしました。

 今では著作権等、聴覚障害者に対する「文字」の規制も多少緩和されてきましたが、当時はまだ厳しいままでした。しかし運が良い事に、この番組は、@制作側としても本来は字幕を付けたいという意思があった。しかし、予算と全国での放送時間の関係上、つける事ができなかった。 A番組の制作、監督、脚本等、主たる責任者が一人であった。 Bその方と直接お話ができた。 C番組内で使用している音楽(B.G.M.)はほとんど「音楽著作権フリー」だった。 …等々いくつもの「運の良い条件」が重なったのです。

そして、結果として、「A:営利目的ではないこと。 B:【文字版】の制作・配信・受信に関して、一切金銭が動かない事。 C:あくまでもボランティア活動である事。」等を条件に、
「@聴覚障害者関係のM.L.、D.M.、H.P.への転送掲載。 A紙媒体としての会報、FAX等配信自由。 B【文字版】を利用しての通訳IRC(※)実行許可。 D【文字版】の文字とビデオを同時投影しての無料の上映会。」等、5つのご了解いただきました。

※通訳IRCに関して。
現在では、特定の事業者と指定された入力者による、インターネットを利用してのテレビのリアルタイム字幕配信は、テレビ局の許可なく行う事ができますが、当時は、それらも許可が必要でした。そして、この番組に限って言えば、約2ケ月間にわたり、全国で放送されるものでしたので、関東地区では終わっていましたが、他の地区で希望者が出た時の事も考え、許可をいただいておいた次第です。
「通訳IRC」に関する詳しい説明は、♪兵藤まどかさん♪の記事をお読み下さい。

 以上のような経過で、【文字版】第一号、2000年8月、フジテレビ 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『お母さんの声が聞こえる 〜に人工内耳の子どもたち〜』が、誕生しました。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~momo1/sub1/new_sub/akemi.htm

(2)【文字版】制作過程と、利用法

 【文字版】は、いわゆる「テレビ字幕」とは違います。「後日」の掲載です。
文字の記載方法等に関しては、別のM.L.で既に【文字版】を配信している♪大西知子さん♪のフォーマットを参考にさせていただきました。ほんの少しですが、大西さんの【文字版】のお手伝いをさせていただいていたので、『ナレーション=「ナ」と記す』等、ポイントを教えていただいておりました。(大西さん、いつも、ありがとうございます。♪)
では、以下、「制作過程と利用法」について、掲載の最初に記してあります「挨拶文」にそって、説明を記させていただきます。(「挨拶文」はいつも同じです。)

「聞こえてくる限りのもの」を「文字化」させていただきましたので、会話もそのままです。
→以前は、「玄関のチャイムの音」と言うと「ピンポーン」、「電話の音」と言うと「リーン、リ ーン」を想像したと思います。しかし、今では「着メロ(電話の着信の際の呼び出し音楽)」は多彩で、それを文字として記す事によって、雰囲気が伝わる事があります。また、全く聞えない方だけでなく、以前、聞こえていた方、難聴の方などで、「音」を情報源の1つと考えられている方もいらっしゃるので、私に聞こえた通りに、文字化しています。着メロのタイトルがわかる時は、それも入れています。
→「会話」については、まさにそのままで、読みやすい文章への修正はしておりません。

また、聞き取りにくい声や音は、自分に聞こえたまま打たせていただきました。不明な点は、「+++」と記しております。
→原稿やシナリオが事前にいただけるわけではありません。私も皆様と同じように、普通に、自宅でビデオ録画して、それをのちに巻き戻し、聞きなおしながら、打っています。ですから、わからない所はわからない。そして、わからなくても、それをテレビ局に聞きなおしたりしてはいません。

聴覚障害者の方々がこの番組を視聴なさる時は、ご活用下さいませ。
→【文字版】は、私も皆様同様、普通に自宅でテレビ録画し、それをもとに、のちに「文字おこし」をしますので、「放送後の掲載」になります。ですから間に合う限り、【文字版】は、事前に<予告>として、「いつ、○○の番組がある。その【文字版】を作りますので、興味のある方は当日テレビを見るか、事前に録画しておいて下さい。」と配信します。そして、数日後、【文字版】ができあがり、掲載されますと、「○○に掲載しました。」とお知らせし、利用者の方は、それをご覧になっていただきます。勿論、インターネットが利用できない方には、友達を通じて、プリントアウトしての紙媒体での配信もOKです。それでは、皆様はどのように【文字版】を利用されているのか?と申しますと、実際に【文字版】を片手にテレビ(ビデオ)を見るという方もいらっしゃいますし、聞こえる家族と一緒にオンタイムでテレビを見ておき、のちに【文字版】を読むと言う方もいらっしゃいます。どちらにしても、【文字版】はリアルタイムではありませんので、聴覚障害者の方々は、「あとで」、番組内容を知る事になります。

(3)聴覚障害者から【文字版】のリクエスト→テレビ局へ

 一番最初の2000年8月2日は、上記の様に、『放送後、制作局にお願い』でしたが、その後は、事前に「リクエスト」が届くようになったので、『放送前』に、テレビ局や制作会社に連絡が取れるようになりました。

@聴覚障害者からのリクエストをいただくと同時に、その方に、「ご自身で、まず、字幕をつけるように、連絡してみてください。」と、テレビ局のFAX番号とアドレスをお伝えし、送っていただくよう、お願いします。

Aこちらからはその番組のテレビ局の担当部署(番組担当・著作権課・視聴者相談室等、局により担当課は違います。)に電話をします。そしてご説明方々、インターネットで、「例」として今までの【文字版】を見ていただきます。場合によっては、「文書で正式に依頼文を出して欲しい。」と言う所もありますので、それはその都度指示に従います。

B電話やメール、文書でのお願い後、局や制作サイド側で話し合いが持たれ、結果をいただきます。聴覚障害者本人が@で「放送時の字幕依頼」をしても、たいてい、もう、日程的に難しかったり、予算的に難しいという事で、実現されません。そして、【文字版】は通常は、OKが出ます。勿論それには条件があります。(1)【文字版】のはじまりでも記しましたが、「A:営利目的ではないこと。 B:【文字版】の制作・配信・受信に関して、一切金銭が動かない事。 C:あくまでもボランティア活動である事。」等です。

C民放テレビ局の方は、「本来であれば、自分達が行わなくてはいけない字幕作業を、ボランティアでやっていただくので…。」と、今までの【文字版】の前例もありで、ご理解下さっています。しかし、民放以外では、まず、ご了解は出ません。

D勿論、この【文字版】は、そう言う必要性がなくなる事を祈ってのものですから、【文字版】を続ける事によって、制作側で、「ボランティアが何らかの形でフォローしてくれるなら、字幕は、まだ、いいか。」と言う考えになってしまっては、一番困ります。ですから、その点を改めてご説明し、今後は、制作過程の一部として「字幕制作」も組み込んでいただけるよう、お願いして、「お話し」は終わります。

(4)【文字版】発表後の反応 : ご覧になった方からのメール

 【文字版】が完成し掲載していただきましたら、皆様にM.L.やD.M.を通して「掲載しました。」とお知らせします。これはその番組のテレビ局や制作会社にもお知らせします。
【文字版】をご覧になった方々からは、いろいろなメールが届きます。とても嬉しく、ありがたく思っております。M.L.の中で話題になった物に関しては、そのまま皆さんで“お喋り”として話題にして楽しく進めますが、個人的に私宛てに届いた、「番組内容への感想」のメールに関しては、その方から直接テレビ局にご連絡いただくよう、お願いしております。 その中で、【文字版】そのものについてのメールは、以下のものがあります。

<感想>
・内容がわかった。
・聴者の言い回し、方言がわかって良かった。
・聴者も、きちんとした日本語を話していないんだなぁ〜と思った。
・聴者の、それぞれの話し方のクセがわかって、楽しい。
・「漢字がわからないので、フリガナをつけて欲しい。」
→次の回よりつけたら、別の方から、「(ふりがな)が多くて読みにくい。」と。
→少し減らして、現在の程度になっています。
  ・やはり使いにくい。わかりにくい。一日も早く、テレビに字幕を。
  ・誤字の注意。
  ・子どもの番組だが、親として、子供がどういうストーリーの番組を見ているのかがわかって良かった。   (等々…。)

<出演者本人や関係者からのご連絡>
・今回、会報に掲載させていただいた、テレビ朝日(系列)『テレメンタリー2001 【道の途中〜16歳・難聴のボクサー〜】』の場合、しばらくたってから、ご本人を含むご家族からご連絡をいただきました。ご自身の番組ですから、だいたいの内容は把握できていたそうですが、「会話」など、改めて【文字版】を見て、知る事ができたそうです。その後、同世代の難聴学生さんの話や学校での情報保障などについても、地域を越えて、情報交換する事ができました。輪が広がったように感じました。

・2001年6月7日に放送されました、NHK総合「首都圏ネットワーク」の中の、『新世紀21:シリーズ新現代病【突発性難聴(とっぱつせい なんちょう)】』では、聴覚障害者の発言箇所だけ、オープンキャプションで表示されていました。ですから、他のナレーションや聴者の発言は、聴覚障害者の方にはわからなかったのです。
【文字版】配信後、いただいたFAXの一部をご紹介します。
「とても長く取材を受けたが、取り上げられたのは一部分だった。自分の言いかった事は伝える事ができたのだろうか心配だったが、【文字版】を見て、『あぁ、このように「ナレーション」として、自分が話した事を、うまくまとめてくれて、伝えていたんだ。』とわかり、安心できた。」

・2001年3月29日に放送されました、テレビ朝日(系列)『テレメンタリー2001「見えます、心の音が…〜難聴のダンサー、夢への旅立ち〜」』では、その後、ひょんな事から「あなたが宮下さんですか?」、とご本人と会う機会があり、現在でも海外でのダンスの関係の話を含め、連絡を取らせていただいております。

<聴覚障害者関係以外の方より>
・H.P.に掲載していたただいているので、一般の聴者の方もご覧になる場合があります。2001年6月7日に放送されました、【私らしく〜西本智実 ロシアを翔(か)ける〜】は「音楽関係」のもので、たまたまインターネットで検索していて、この【文字版】を見つけたと言う、西本智実さんのファンの聴者の方よりメールをいただきました。
お返事を書くとともに、私からその方に、「ご覧になっておわかりになったと思いますが、この【文字版】は主に聴覚障害者の方がご覧になります。しかし聴覚障害者と言っても、以前は聞こえていた方、補聴システムにより聞えを取り戻しつつある方、難聴の方でも補聴システムで音楽を楽しまれている方もいらっしゃいます。また、聞こえない方でも、太鼓等振動やリズムで音楽を楽しまれている方もいらっしゃいます。宜しければ、貴方様から感じている、『西村智実さん』の音楽についてお話しいただけますでしょうか?そして、それを「○○」と言うM.L.に転送しても宜しいでしょうか?」と、お伺いした所、快くお返事を下さいました。そして、それをM.L.に転送しました。ちょっとした事がきっかけで、仲間だけでは知る事ができなかった「幅広い音楽情報」がいただけ、嬉しかったです。

(5)「発展的解消(消滅)」への願い

【文字版】は、全てのテレビ番組に字幕が付くまでの過渡的な作業だと思っております。そして近い将来、全てのテレビ番組に字幕が付けば「発展的解消(消滅)」が訪れます。
現在では、テレビに字幕を付ける事は努力目標であり、付加的な作業です。その「番組制作過程」に組み込まれている物ではありません。また、現在では地上波(いわゆる普通にテレビをつければ見る事ができる、1.3.4.6.8.10.12.テレビ埼玉等。)以外に、いろいろな形態でのテレビ番組(ケーブル、デジタル、CS等)を含めると、数えきれない番組が放送されていますので、それら全てに字幕が付くのはまだまだ先の事だとは思います。しかし、まずは、地上波の全てのテレビ番組に字幕が付く事を、全難聴や全日本ろうあ連盟の活動とともに、応援し、期待したいと思います。

また、「著作権」を大きく捉えた時、聴覚障害者に関しては「音声の文字化」ですが、弱視の方にとっては、「印刷物の拡大化」にもかかってきます。本などの印刷物に関して、「点字化」する事には著作権は発生しませんが、「拡大本(図書)を作る」となると、「著作権」が絡んできます。勿論、「制作側の権利」を守る事も大切ですが、全ての利用者が、皆と同様にその作品を、楽しみたい、知りたいと思った時、壁となってしまう事がないよう、今後の「規制の緩和や撤廃活動」、「情報バリアフリー」に期待したいと思います。

 今、私は、聴者で正眼者です。聞こえて、見えます。しかし、「突発性難聴」という事にもありますように、ある日突然、何がきっかけで、自分自身が、聞こえなくなり、見えなくなる、見えにくくなる時が来るかわかりません。そして、今、既に、聴覚障害、視覚障害のあるかたが、大勢、いらっしゃいます。

☆★☆どのような状況であっても、☆★☆
☆★☆皆が同等の情報を得ることができる社会になりますように…。☆★☆
☆★☆【文字版】<制作&配信>☆宮下あけみ☆akemizo@beige.ocn.ne.jp ☆★☆




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