人工内耳友の会−東海−
お母さんの声が聞こえる


お母さんの声が聞こえる
〜人工内耳の子どもたち〜


【皆さまへ。】

こんにちは。☆宮下あけみ☆と申します。

関東地区で2000年8月2日(水)深夜26時25分〜27時20分(=8月3日(木)午前2時25分〜午前3時20分)放送されました、フジテレビ 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『お母さんの声が聞こえる 〜人工内耳の子どもたち〜』の、【文字版】を作りました。

「聞こえてくる限りのもの」を「文字化」させていただきましたので、会話もそのままです。また、聞き取りにくい声や音は、自分に聞こえたまま、打たせていただきました。

この番組の【文字版】のホームページへの掲載、ML及びFAXでの配布は【テレビ長崎】と【フジテレビ】より了解を得ております。【著作権】は、【テレビ長崎】です。

聴覚障害者の方々がこの番組を視聴なさる時は、ご活用下さいませ。

この文字版は【テレビ長崎】より、私、宮下が個人的に了解を得たものです。

しかし、著作権を持つ【テレビ長崎】より、「字幕をつけようか最後まで悩んだが、付ける事が出来ませんでした。今回、この様な形、(M.L.、ホームページ及びFAX)で、多くの方々に番組を知っていただける事は、こちらとしても嬉しい事です。」と、お返事をいただきました。

従って、この【文字版】の個人、団体等への【メール及びFAXでの配信配布、ホームページへの掲載】は「自由」です。

自由ですが、もし、「団体あて」に転送、或いは「ホームページへ掲載」されたような事がございましたら、恐れ入りますが、宮下まで、ご一報下さいませ。

今後とも、宜しくお願い申し上げます。


「放送予定表」
● フジデレビ           8/2(水) 26:25〜
● 福岡TNC(テレビ西日本)  8/9(水) 25:55〜
● 佐賀STS(サガテレビ)   8/20(月) 25:15〜
● 熊本TKU(テレビ熊本)   8/10(木) 26:20〜
● 大分TOS(テレビ大分)   8/7(月) 25:10〜
● 鹿児島KTS(鹿児島テレビ) 8/21(月) 25:10〜
● 宮崎UMK(テレビ宮崎)   8/22(火) 25:50〜
● 関西地区(関西テレビ   8/9(水) 25:10〜
● UHB(北海道文化放送)  8/10(木) 26:15〜
● 岩手めんこいテレビ    8/2(水) 26:25〜
● 東海テレビ(東海地区)  9/18(月) 26:15〜
● 仙台放送(宮城県)    8/9(水) 25:40〜
● 秋田テレビ         8/10(木) 25:10〜
● 高知さんさんテレビ    8/2(水) 26:25〜
● テレビ新広島        8/10(木) 26:10〜
● 福井テレビ         8/11(金) 24:40〜
● 福島テレビ         8/15(火) 25:10〜
● 新潟総合テレビ      8/15(火) 25:35〜
● 山陰中央テレビ      8/16(水) 25:10〜
● さくらんぼテレビ      8/21(月) 25:25〜
● 長野放送          8/22(火) 25:45〜
● テレビ静岡         8/22(火) 25:25〜
● 石川テレビ         8/22(火) 25:45〜
● 岡山放送          8/22(火) 25:55〜
● 沖縄テレビ         8/23(水) 24:45〜
● 富山テレビ         8/29(火) 25:40〜

<文字版作成>☆宮下あけみ☆ 
【E-mall】 akemizo@beige.ocn.ne.jp
【FAX】  048−774−8387


お母さんの声が聞こえる
〜人工内耳の子どもたち〜

2000年8月2日(水)深夜26時25分〜27時20分
(=8月3日(木)午前2時25分〜午前3時20分)

画面:「FNSドキュメンタリー大賞」
映像:ろう学校校舎
ナレーター=竹下景子(たけしたけいこ)。以下、「ナ」と記す。

ナ:長崎県大村市の県立ろう学校。もうすぐ2歳になる女の子がやって来ました。池田優里(いけだゆうり)ちゃんです。

母:ゆうりちゃぁ〜ん!! ほら。先生におはよう。

先生:おはよう。

母(池田厚子。以下「母」と記す。):失礼しまーす。 はい。耳つけようね。補聴器をつけた状態でABR(聴性脳幹反応)を取ってもらったんです。検査の時に。「反応がない。」って言われて…。

 (検査音:プルルルルルル…。)

ナ:普通の聴力であればうるさく聞こえる音に、優里ちゃん、反応がありません。

 (検査音:プルルルルルル…。)

ナ:重い難聴の優里ちゃんに、両親はある決断をしました。

母:親の欲目で、「あっ!!聞こえたかな?どうかな?」って、そういう思いばっかりだから、はやく、「あっ!!聞こえてるんだ。」と言うそういう感じを一緒につかみたいと言うか、そういう思いの方が強いので。

画面:「お母さんの声が聞こえる」〜人工内耳の子どもたち〜

画面:長崎大学付属病院 長崎市

ナ:去年5月、池田優里ちゃんは、長崎大学付属病院に入院しました。

母:優里、優里、優里、優里、優里、おはなとるよ。はい。

ナ:補聴器で効果がなかった優里ちゃんが音の世界を知る方法が1つだけありました。内耳に人工の装置を埋め込む事です。

医師:今、風邪薬は飲んでらっしゃるのですか?

母:はい。あの、耳鼻科の方から。はい。

ナ:手術が3日後にせまり、麻酔科の先生がやってきました。

医師:宜しくお願いします。

母:宜しくお願いします。  いよいよだね。優里…。

画面:去年5月31日「手術の日」

ナ:手術の日の朝です。お父さんとおばあちゃんが、病院にかけつけました。

母:お母さんではイヤだもんね。(お父さんにだっこされてる優里ちゃん)

ナ:お父さんの孝之(たかゆきさん)も、優里ちゃんのことが心配です。

父:よしよしよし…。

ナ:主治医の神田先生が、優里ちゃんの様子を見に来ました。

神田:今、何分?

医師:もう、そろそろです。

神田:あー、そう。
 
  (映像:手術室へ向かう優里ちゃん。)

ナ:お母さんが優里ちゃんにしてやれる事は、手術の成功を願う事。手術が終わるのを病室でじっと待ちます。
(映像:手術室の様子)
人工内耳の手術は国内で15年前から始まり、全国で既に1,400人あまりが手術を受けています。その中で満2歳の優里ちゃんの手術は、国内最年少のケースです。手術前の検査が終わりました。これから優里ちゃんの右耳に字が埋め込まれます。

(映像:人工内耳の説明 映像提供:日本コクレア)

優里ちゃんに行われている手術とは、一体、どのようなものでしょうか?
これが優里ちゃんの耳に埋め込まれている装置、「受信コイル」と「電極」です。重い難聴の人にとって、音を取り戻す可能性を秘めた人工内耳は、オーストラリアで開発されました。内耳の中に、直接22個の電極を埋め込み、およそ1万5千本あるといわれる神経の肩代わりをしようというのが、人工内耳の発想です。

精密機械のような私たちの耳。振動として伝わった音が、カタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変わり、脳に伝えられます。人工内耳は、マイクで拾った音を22個の電極と音声を処理する、「スピーチプロセッサ」と言う装置を使い、直接神経に伝えるしくみです。難聴の人たちにとっては、夢のハイテク装置。内耳の中の電極は、このように反応します。

(映像:模型を使ったテスト)

音:「あいうえお かきくけこ さしすせそ」

ナ:補聴器を使っても効果がない優里ちゃんが、音を知るために残された道、それが人工内耳なのでした。

母:救いの…何て言うんですか、“(救いの)神”と言う気持ちで、これまでずっとこの日を待ってたんで。今日はもう、そういう気持ちでいっぱいなんですけど。迷わないように、しっかりとして行かなきゃね。(涙…)

(映像:手術室の廊下)

ナ:親子の長い一日が終わりました。

(映像:手術室から出てくる優里ちゃん。)

ナ:幼い優里ちゃんの手術は慎重に行われ、22個の電極が全て埋め込まれました。しかし、この段階で優里ちゃんに音が届くのかは、わかりません。

(映像:病室)

ナ:手術から10日後。優里ちゃんは、もうすっかり元気になったようです。

母:見たい?お父さん、映ってるよ。

ナ:優里ちゃんは三姉妹の末っ子。普段はお姉ちゃん達と一緒に、賑やかに暮らしています。

母:この予期は病院に行ってたんですもんね。この頃に(難聴が)わかって。

男性の声:この頃は、1歳半くらい?

母:そうですね。6月生まれだから。

ナ:4週間後、優里ちゃんの人工内耳にはじめて肉声が入る日です。

母:(オモチャで遊びながら…)入れて。ポーンって入れて。

ナ:ろう学校の先生や、オーストラリアの聴覚の専門家も一緒になって、優里ちゃんの反応を確認します。

オーストラリアの専門家:オゥー!! ワォー!! (拍手)

ナ:優里ちゃんに何か反応がありました。優里ちゃんの耳に埋め込まれた電極に、刺激音が流されたのです。しかし、電極の反応を確かめているだけに過ぎません。

母:良かったぁ〜。嬉しいなぁ〜。

ナ:先ず、4つの電極に音が入ることになりました。

オーストラリアの専門家:いいわ。じゃ、ここからはじめましょう。

ナ:機器の調整が終わり、優里ちゃんの耳に音が届きます。

(機械で音を流すが、テレビからは聞こえない。)

優里:うぇ〜ん!!! (声を出して、泣き出す。)

母:優里、優里。

ナ:初めて音を聞いた優里ちゃん。びっくりして泣き出してしまいました。

母:ありがとうございました。

ナ:優里ちゃんの鳴き声は、赤ちゃんの産声(うぶごえ)と同じ。確かに音が生まれた証です。

長崎県立ろう学校・田中先生:できればはずすのを教えない方がいいと思うんです。だから、スイッチを切るように。嫌がった時に。スイッチを切るのは、自分ではちょっとしにくいでしょうから。本人は十分聞いてると思います。さっきのマッピング自体がですね、かなりこう、彼女、我慢強いから、それで合わせてあるもんだから、多分、徐々に慣れてくると、少しづつ上げても平気になってくると思います。

母:はい。今、少しづつ落ち着いてきてるんで、このまましてても大丈夫かなぁって思ってるんですけど。

田中:あぁ、大丈夫です。あ、本当ですねぇ。結局、お母さんとの関係が安定しているから、これだけ我慢が出来るしね。大丈夫です。

母:ありがとうございました。宜しくお願いします。

田中:はーい。

母:良かったねぇ! 良かったねぇ!!

ナ:お母さんにようやく笑顔が戻りました。

 #C.M.

(映像:病室の様子)

母:優里、お耳、つけようか? これ。

ナ:優里ちゃんの耳に埋め込まれた電極には、3回目の調整で22個全てに音が入れられました。初めて肉声を聞いた日、びっくりして泣いてしまった優里ちゃんですが、その後は人工内耳を嫌がる様子はありません。

母:聞こえるかなぁ?聞こえてくるかなぁ?優里、優里、優里、聞こえた? ・・ イヤ? 優里ちゃん。聞こえる?

ナ:でもお母さんには、優里ちゃんが聞こえているという手ごたえが、まだありません。

(映像:男の子の聴力検査の様子。)

田中:いい? 聞こえた通りに言うよ。

機械音:「キャベツ」

男の子:「キャ ベツ」

機械音:「うさぎ」

男の子:「ウ サ ギ」

機械音:「けむり」

男の子:「ケ ム リ」

ナ:補聴器の性能の進歩は、ろう学校の教育と、切っても切れない関係にあります。長崎県立ろう学校でも、補聴器を使って残された聴力を生かしながら、子供たちに言葉を教えてきました。こうしたろう学校での教育は、人工内耳を付けた子ども達にも生かされはじめています。

田中:聞こえる?

(映像:学級の様子)

女性の先生:あぁー、おもしろ〜い!!

ナ:そして大事な事は、難聴の子供達を早く見つけ、早く教育を行う事。脳の発達の関係で、3歳から4歳までに音を知っておかないと、その後の言葉の習得は、倍以上、時間がかかると言われているからです。

(映像:紙芝居の様子)

女性の先生:鼻を見て。鼻から…。 あれぇ?

男の子:「ハ…」(鼻を指差す。)「ナ…」

女性の先生:熱もあるよぉ。お母さんがね、「あぁ、大変!!」・・・。

ナ:ろう学校では、補聴器をつけた日を「音の誕生日」と呼び、その日から視覚に頼らず、根気良く音を聞かせながら言葉を教えています。

女性の先生:いいよぉ。上手だよぉ。いいよぉ。「ハクッション!!」 鼻水かねぇ…。

(映像:木漏れ日。セミの声。ろう学校。)

ナ:8月。退院した優里ちゃんが、ろう学校にやってきました。今日は二人のお姉ちゃんも一緒です。長女の麻子(あさこ)ちゃん。次女の杏(きょうか)ちゃんです。退院後の優里ちゃんが、家でどんな様子だったのか、お母さんはホームビデオで撮影した映像を、田中先生に見てもらいました。

(ホームビデオの映像)
時計のチャイムの音:(「ピンポーン」ではなく、「ポロ〜ン」という感じ。ビブラフォンのような、やわらかい音。優しい雰囲気のメロディー。)

母:聞こえたねぇ。(笑い)

田中:何にも誰も反応しなかかったらね、ただの、「何もない。」と本人も認識してしまうわけですよ。そうすると、次から無視するようになってしまう。そうじゃなくて、お母さんが、「アッ!!」と言って、「今、これが鳴ったよ。」と教えてあげると、次の時にも、自分が聞いた時に、「ハッ!!」とするわけです。それを何度もして、はじめて、「今の音だ。」ってわかるようになるんですから。

(映像の中での優里ちゃん達の会話)
母:「何?なぁに?何?」

優里:「あぅ あぅ あぅ」「あぅあぅあぅあぅ…」

父(?男性の声):「カエルね。」

母:「カエル。」

 (キュッキュッと、優里ちゃんのサンダルの音)

田中:こういう時の方を大切にするんです。本人が関心持った時に、「うん!!カエルさんだよ。」っていう風に言ってあげる。2〜3回、言ってあげる。

ナ:お母さんは優里ちゃんの毎日の変化を日記に付けて記録しています。家族が起き出す前の朝の時間が、子どもの生長をじっくり考える時間です。

日記の朗読・母:「カンカンカン」と警報機が鳴り、間近で汽車が通るのを見ることが出来ました。この大きな音に気付いてくれればと思いながら、優里は目の前を通り過ぎていく汽車に手を振っていました。耳さえ聞こえていれば言葉がどんどん増えていく時期だろうと思う。優里なりに、今、どんどん、いろんな事を吸収していってくれているから、私も出来るだけ、付き合って行こう。

(映像:廊下を走る優里ちゃん)

優里:ワァ〜〜〜!!!!

田中:おぉー、走っていった!!

ナ:優里ちゃんの耳の検査をするため、田中先生が、いいアイディアを思いつきました。音が聞こえてスイッチを押すと、ペンギンのぬいぐるみが動く仕掛けです。

田中:動くよぉ〜。

機械音:「プルルルルル…。」

スイッチを押す、優里ちゃん。:「カチャカチャ、カチャカチャ。」

ドラムを叩くペンギンのオモチャ:「テンテンテンテン…。」

田中:聞こえた、聞こえた。これは効果がありますね。

母:オモチャがいいんですね。

田中:たいしたもんだ。

ナ:手術の前は全く反応がなかった優里ちゃんですが、ささやく声くらいの小さな音までが聞き取れるようになりました。

田中:これ、30dB(デシベル)。

母:あ、スゴイ!! すごいですね。良く聞こえるようになりましたね。

 #C.M.

(映像:長崎大学病院の待合室)

女の子のお母さん:同じ、私も同じよって、見せてごらん。ほら。

ナ:月に1回の、大学病院の検診の日。人工内耳を通じた出会いがありました。村崎由佳(むらさきゆか)ちゃん(7歳)です。由佳ちゃんはおととし9月、6歳の時に手術を受けました。

由佳の母:見せて。はずして見せてごらん。

優里の母:いいよ、いいよ。

ナ:由佳ちゃんはろう学校の幼稚部で、言葉を学んできました。そして今は、公立の小学校に通っています。

由佳の母:早く手術できて、良かったね。(由佳ちゃんに)「何歳ですか?」って、聞いてごらん。

由佳:何歳ですか?

優里の母:何歳?って優里。2歳。これこれ(指)。「2歳よ。」って。

由佳の母:あ、上手、上手。

由佳:私は7歳。

ナ:15歳未満で人工内耳を受けた子ども達は、長崎大学でこれまでに15人、国内ではおよそ280人います。

由佳:「○○(聞き取れない。)小学校。1年4組。」

由佳の母:4組ね。

優里の母:おっきい学校だね。そしたらねぇ。

(映像:木の上の小鳥。「チュン、チュン」。戸町小学校。長崎市)

ナ:由佳ちゃんが通う、長崎市立戸町小学校です。1年4組の由佳ちゃんのクラスでは、道徳の授業がはじまっています。この日、由佳ちゃんがとても大事にしているある絵本が、みんなに紹介されました。由佳ちゃんが手術する前に、お友達からプレゼントされた、手作りの本です。

担任:レースもついてます。

担任、本、朗読:由佳ちゃん、がんばれ。二人は仲良しです。二つにくくった頭が…。まちちゃんが1つ、お姉ちゃんです。二人とも、少し、耳が聞こえません。だから、お話するのが、ちょっと、苦手です。でも、補聴器をして、少しでも沢山の音を聞くように、二人とも、頑張っています。「由佳ちゃんは今度、お耳の手術をするの。」次の日から、まちちゃんは、鶴を折り始めました。まちちゃんは、「由佳ちゃん、がんばれ。由佳ちゃん、頑張れ。」とつぶやきながら折り続けました。

何か聞こえます。お母さんは耳を澄ませました。「由佳ちゃん、がんばれ。由佳ちゃん、頑張れ。」千羽の鶴たちが、小さい、小さい声でつぶやいています。まちちゃんは、千羽の鶴を持って、由佳ちゃんのお見舞いに行きました。「由佳ちゃん、頑張ってね。早く元気になって、また遊ぼう。そして、お喋り、たくさんしようね。」「うん。お母さんにも聞こえるよ。“由佳ちゃん、頑張れ。”って聞こえるねぇ。由佳、頑張ろうね。」由佳ちゃんは大きくうなずきました。そして、耳をいつまでも傾けて聞いていました。

担任:由佳ちゃんは、お耳の手術をする時に、この右耳の上の所をね、髪の毛を、ここを手術する時に邪魔になるから、これを切ってしまってるんですね。手術直前です。この写真はね。頭の所を切ったんだよね。

由佳:うん。

担任:大事な物をありがとう。みんさんに由佳ちゃんからお手紙があるそうなので、聞いて下さい。

由佳:「みんなは、やさしくしてくれて、ありがとう。」(聞き取りにくい。)

担任:もう1回、一緒にね。せーの!!

由佳・担任:「私は耳がみんなのように、聞こえません。でも、みんなが少しゆっくり話してくれました。みんな優しくしてくれて、ありがとう。」

ナ:クラスのみんなが集まってきて、由佳ちゃん、何だか得意そう。

由佳の母:私は耳が悪い。補聴器をしてるっていうのを、ちゃんと(人に)言える子に育てたかったので、赤ちゃんの頃は言えなかったので。やっぱり、あの、みなさんがこう、じろじろ、じろじろ見ますね。やっぱりねぇ。「小さいのにかわいそうに。」とか思われる方もいて。聞かれればいいんですけど、やっぱり、「悪いな…。」と思われるんでしょうね。聞かれなくて、ただ、見てらっしゃる。だから、私の方から、「耳がわるいんです。」って、見知らぬ人に言う。それも、私の1つの乗り越える壁。人工内耳の手術を受けてからは、自分で見せられるように、いつも心がけて言ってはいたんです。

(映像:お米を研ぐ由佳ちゃん)

由佳の母:いつも手伝ってくれるもんね。どんどん上手になるね。

由佳:まだまだ。

由佳の母:まだまだ。

ナ:由佳ちゃんは両親と、4つ上のお兄ちゃんの4人家族です。

由佳の母:じゃ、炊飯器に入れて下さい。こぼさないでね。

由佳:はい。

ナ:今日はお母さんと一緒に、カレーを作っています。

由佳の母:はい、閉めて。カチャ!! 

由佳:これ?

由佳の母:違う、違う。 そこそこ。

ナ:由佳ちゃんにとって、お母さんのお手伝いをする事は、沢山の音や言葉を吸収する、絶好の機会なんです。

(由佳・母、笑い声)

由佳:お母さん、上手ね。

由佳の母:お母さん、上手?ありがとう。ほめてくれて。はい。ちょっと待って。

ナ:お母さんは、由佳ちゃんの気持ちや聞こえる音を、すぐ、言葉にして聞かせます。ろう学校の幼稚部で学んだ方法です。お母さんの声を沢山聞くこと。これが由佳ちゃんにとって、一番の学習法なんです。

由佳の母:早く!! 負けないぞ!! できた!! 勝ち!!

由佳:なんでぇ〜。 (ゴロッと、ジャガイモを落とす。)

由佳の母:慌てたから。

由佳:落とした。

由佳の母:落ちたね。

(映像:道を歩く由佳ちゃん)

ナ:由佳ちゃんは週に1回、ピアノ教室に通っています。

(ピアノ:ドレミファソミファレミドレソド)

ナ:人工内耳で音楽を楽しむ事は難しいのですが、由佳ちゃんは8ケ月あまりで、音階が理解できるようなりました。

ピアノの先生:由佳ちゃん、ドレミって、お口で歌いながら弾こうね。

由佳:はい。ドレミファソミファレ…ミ…ド…レソ…ド。 

カスタネットとピアノの先生:カタカタカタ  

ピアノの先生:できた!!

(映像:走って自宅に帰る、由佳ちゃん。)

由佳:帰った!帰った。

由佳の母:お帰り。

由佳:うんと…、むずかしいよ。

由佳の母:難しいの?難しいから、由佳、お願いします。

由佳:○○よ。(「見てよ?」かも知れない。)

由佳の母:わかる。

(由佳ちゃん、カスタネットを叩く。)

由佳の母:うまい。

由佳:○○。

由佳の母:上手。お母さん、弾きます。

 (由佳の母、カスタネットを叩く。)

由佳:違う。こう。

由佳の母:違う?こう?いくよ。もう1回、いくよ。

(由佳の母、声と一緒にカスタネットを叩く。)

由佳の母:「タン、タン、ターン、ターン。」

由佳:えっ! 違うよ。 こう、こう、こう、こ〜お。

由佳の母:こうね。古賀先生、言ったね。はい、わかりました。

(映像:日記を書く)

ナ:毎日の日記をお母さんと一緒に、日記につけています。これも由佳ちゃんの言葉の世界を広げるため。手術の前から補聴器を使ってトレーニングを積んできたことが、今、大きく役立っています。

由佳の母:頭を切って、ここに異物を入れるわけじゃないですか。それで娘が、「どうして、お母さん、勝手に手術したの?」って言われたら、いやだなって気持ちがあったんですよね。だけど、すっごく、本当に決断が私はすごく遅かったんです。娘の手術に対して。あの頃は、5歳までしか、先天性の幼児は、5歳までに手術しないとあんまり効果がないかもしれない…って言う例しか出ていなかったもんですから。もう、その時は5歳の誕生日を迎えてたので、とにかく、「急げ、急げ。」って言う気持ちはわかるんですけど、「本当に決心しないと、私はこの子にやれない。遅れてもいいから、ちょっと悩みたい…。」って気持ちがあって。で、結局は6歳になってしまったんですけど。あれだけ悩んだので、どんなにマイナス点があろうと、親子で生きていこう。

(映像:教室)

児童の声:先生、おはようございます。お友達、おはようございます。

ナ:今日の体育は、みんなの大好きなドッジボール。

担任:○○さんが、今、大事な事、言ってくれるから。

女の子:もし、「投げるドッジボールをする。」って言っても、村崎由佳ちゃんの耳の機械に当たるかも知れないからです。

男の子:軽きに投げればいい。軽き。(←「軽く」の意。)

担任:あのね、前、由佳ちゃんにお願いしてたよね。今日は、腰から下の、「ころがしドッジボール」で勝負決めます。以上です。

ナ:大切な人工内耳の装置を身に付けている由香ちゃんも、一緒にドッジボールを楽しむ方法はないのか?みんなが出した答えは、ボールを投げずに、ころがす事。由佳ちゃんも張り切っています。

(映像:作戦会議)

女の子:で、もう1人、当てればいい。

ナ:作戦会議。騒がしい所では音が聞き取りにくいのですが、由佳ちゃんは気後れすることなく、自分の考えをはなしています。発音はまだ、これからですが、みんなの思いやりにも助けられ、クラスにとけ込んでいるんです。

(映像:長崎スイミングクラブ)

ナ:あっ!! 由佳ちゃんが、また、走ってる。体を動かす事が大好きな由佳ちゃんは、スイミングクラブにも通っているんです。

コーチ:はぁ〜い。1,2,3,4…。せーの、1,2,3,4…。

ナ:これから水の中に入るのですが、由佳ちゃん、水に弱い人工内耳の機械はどうするの?由佳ちゃんの大切な耳は、お母さんが預かります。

由佳の母:きっと不安だと思うんですよ。水の中で全く聞こえないので。何を言われているのか、多分、わからないと思うし。口は少し読めますけど、“新たな事”言われれば、わからないと思うんです。だから、体作りと、そういう、聞こえない世界でも動けるっていうのが、あの子にとっては、また1つ、生長して、学校の水泳の授業の時には張り切ってましたね。はい。だから、良かったなぁと思います。段階が良かったんでしょうね。

(映像:去年10月、長崎県立ろう学校)

ナ:10月、優里ちゃんが音を知ってから3ケ月が経ちました。優里ちゃんはろう学校の教育相談で、名前を呼ばれたら返事をすることを、繰り返し、繰り返し練習してきました。

先生:優里ちゃん、おはよう、おはよう。うん、おはよう。

母:優里、お口、動かして。お口言って、口で。「あーあ」って言って。お口、言って。

先生:じゃねぇ、「いけだゆうりさぁ〜ん」って、呼ぶよ。ん、待ってまって。

母:先生が呼ぶの。

先生:「はぁ〜い。」って、お返事するよ。

優里:「ハァ〜イ!!」

先生:わぁ、上手上手!! すごいねぇ!!

母:先生が呼んだらね、返事してね。

先生:呼ぶよ。「池田優里ちゃ〜ん!」

優里:「ハァ〜〜〜〜〜〜イ。」

先生:上手!! おりこう。上手よ。優里ちゃん、スゴイ!!

母:はじめてですねぇ。

先生:スゴイですね。

母:お母さん、嬉しいなぁ。おりこうでした。

先生:すごいなぁ。握手しよう、握手。お返事、よくできたね。凄い!

母:タイミングがなんて、合ってね。私も嬉しい。

先生:タイミングじゃなくて、わかってですよね。

ナ:優里ちゃんのはじめての反応に、お母さんの感激もひとしお。

担任:ピーって言うもんね。あれ、鳴らなかったね。

ナ:実はこの日、もう1つ、嬉しい事があったんです。

(電話の呼び出しメロディー)

先生:あ、何だろう?何だろう?優里ちゃん、ほらほら。

母:先生と一緒に行ってごらん。

先生:電話、鳴ってる。ほら。電話が鳴ってる。あれぇ?ほら。鳴ってる、鳴ってる、ほら。アッ!! しまった!! 切れちゃった。「何だろう。」って、思うんでしょうね。

母:だから、はじめて気付いたんじゃないですかね。この電話の音に。

ナ:人工内耳をして、まだわずかの優里ちゃんの反応に、先生もお母さんも驚いています。

田中:「池田優里」と呼ぶと、返事をする。「はーい」というわけでね。

母:はい。

田中:ほー。「トントントン」。包丁を「トントン」とさせる。「ピッ」自分でオモチャのボタンを押さえながら言ったりする。「どうぞ」が「ドーゾー」。「おふろ」が「オウオ」。うん。上等ですね。凄いですね。これ、人工内耳8ヶ月の時ですからね。普通赤ちゃん、8ヶ月では、こんなに喋れませんものね。“なん語”に近い感じですね。ほとんどわからないですよね。ま、やっぱり、最低、1年ちょっと経たないと、こう、言葉に近い感じには、なかなかならないんですけどね。非常にいいと思います。ほぼ、平常な聞こえな人の発達並みぐらいには来ているような気がしますね。やり直してからです。

母:良かったですよね。

ナ:優里ちゃんにお母さんの声は、どんな風に聞こえているのでしょう?音響に詳しい田中先生が、お母さんの声をコンピュータで処理し、再現してみます。

母録音:「優里、おはよう。お耳をつけるよ。お耳、つけるよ。はい、お耳。」

田中:こんな風に聞こえる。

コンピュータ処理された母の声:「優里、おはよう。お耳をつけるよ。お耳、つけるよ。はい、お耳。スイッチ入れるよ。おはよう。着替えようね、バンザイして。頭、頭出たよ。」(少し、曇ったような声。)

母:なんかわりとですね、私が話しているように、普通に、聞こえてるんで、安心しました。もう少し,悪いのかな?って思っていた感じがあるんですよね。

田中:これはあくまでも、シュミレーションですからね。実際に本当に本人はどう聞こえてるか?って言うのは、わかりにくいんですけれども。でも、多分、こういう感じでは聞こえてると。むしろ、もうちょっといいんじゃないかな?と思います。これは今はチャンネルを12チャンネルくらいにしかしてませんので。それ以上、小さく出来ないんですよね。素子数が少ないもんだから。それでもこれだけ聞こえるからですね、それにもうちょっと、間が入ってますから。もうちょっと、音、いいかなぁ〜って言う、感じですね。

(映像:家族で外出 今年3月、長崎バイオパーク)

ナ:3月、家族揃ってのお出かけです。動物園にやって来ました。実は優里ちゃん、生き物がちょっと苦手。でも、お父さんお母さんは、いろんな動物の声を聞いて欲しいと思っています。

優里:○○!!(お弁当を食べる前に。)

母:はい。これだよ。優里の、これだよ。

父:優里、ごはん。

優里:○○(鼻歌のように声を出して歩く、優里ちゃん。)

母:よしよし。優里が触った!!

ナ:あれ?何かはじまった。

麻子(姉):だって、そこにあったよ。黒いバックにあったよ。

優里:ワァー!!

優里:「こう、こう。(=私の)」

麻子(姉):「こう、こう。(=私の)」

母:わかった。そしたら、下に行ってから。麻子、取ったらいかんって。下に行ってから麻子にあげるから。ね。そしたら、優里、わかるでしょ?

優里:「こう、こう。(=私の)」

母:優里の。・・しないで。ね。うん。わかった、わかった。麻子、下にあるから。下に優里のとやったら、そしたら納得さすけん。ね。まだちっちゃいけん、納得さす…けんさ。麻子はお猿さんに、何、取られたと?

麻子(姉):クッキー。

母:(笑い)

ナ:姉妹(きょうだい)のもめ事だって、言葉の学習なんです。

 #C.M.

(映像:ドイツ風景)

ナ:ドイツのヴュルツブルグ。中世の趣を残した、人口13万人の中都市です。ここは人工内耳の手術が積極的に行われている地域の一つで、特に子供達への手術も多く行われています。日本との関わりもあります。江戸時代、鎖国中の日本に西洋医学ともたらした、シーボルトの故郷(ふるさと)なんです。

(映像:ヴュルツブルグ大学)

ナ:ヴュルツブルグ大学医学部です。これは実際の側頭部を使った実習。ヨーロッパの大学ではこうした実習を伝統的に行っていて、手術の技術の向上に努めているのです。ヴュルツブルグ大学と長崎大学の医学部では、イーボルトが縁で、交流を続けています。そして2年半前、この大学で学んだ優里ちゃんの主治医、神田先生が今年4月、学会の講演のため、再び訪れました。

この大学で手術受けた患者は、現在、300人あまり。半数以上が子供達です。18歳未満の手術例が2割に満たない日本に比べ、欧米では全体の5割前後を子ども達が占めています。

両耳への手術もはじまっています。両耳に手術をした子供の数は、この大学だけでも20人。その効果について、ヘルムス教授は、こう話します。

ヴュルツブルグ大学ヤン・ヘルムス教授:(両耳の手術を)いろんな子供にやってみて、両側にやってみた方が疲れにくい。音の方向性が良くわかる。子供が沢山遊んでいる所でも、聞き取りやすい事がわかった。

ナ:マックス・リューダー君(6歳)は、2歳と4歳の時に手術を受けました。

マックス:(自分で機械の説明。)

通訳:ここに電池が入っています。(電池がなくなった時、赤いライトがピカピカする。)

ナ:6歳になった今では、日常の会話に、全く支障はありません。

通訳:そこが耳にかける所です。

(映像:人工内耳リハビリセンター)

ナ:人工内耳専門のリハビリセンター。ろう学校の敷地内にあり、機器の調整と言葉のトレーニングが同時に出来る施設です。ここには、生後8ヶ月から17歳までの55人が通っています。自治体と財団法人が運営を行っていて、60日間のリハビリ費用は、健康保険で賄われています。日本では今の所、このような公的な施設はありませんが、ドイツでは現在、20の施設で人工内耳の子供達のトレーニングが行われ、成果を上げています。

長崎大学医学部・神田幸彦医師:補聴器の進歩だとか、人工内耳の進歩によって、その、難聴である事の障害が障害でない時代になってきてると思うんですね。ですから、それを我々はできるだけいい情報を伝えたり、いい治療をしていくっていうことが非常に大事な仕事になってくると思ってます。

(映像:東京女子医科大学)

ナ:そして日本でも、新たな試みが始まろうとしています。難聴を早く見つけるため、うまれたばかりの赤ちゃんに、聴覚検査を行う事です。今、東京の女子医科大学などで、赤ちゃんに負担のかからない最新の検査装置を使った研究が行われています。その結果、検査の正確性が裏付けられ、厚生省では今年の秋から、全国で5万人を対象に、この検査を試行します。

厚生省母子保健課・椎葉茂樹課長補佐:従来まで、2歳とか3歳児に行われていた耳の検査を、生まれてまもなく、新生児の段階でやれるという、検査法の進歩です。もう1点は、人工内耳に代表される、医療の進歩です。こういった、人工内耳を早めに付けられて、そしていろんな療育をやると、かなりいろんな点で、将来の選択肢の幅が広まる、という点で、この2点が、大きな、この事業を導入するにあたったきっかけになってます。

(映像:長崎ろう学校)

母:由佳ちゃんが来てるよ。由佳ちゃん。誰かな?まわり見てみて。優里。

優里:「オアオ…」

由佳:おはようございます。

母:おはようございます。

ナ:3月の終わり、優里ちゃんと由佳ちゃんが再会しました。

母:あら、優里、もらったの?由佳ちゃんに、「ありがとう。」って。

優里:「・・ガトウ」

母:はい。「開けて」って。

優里「アケテ」

母:ここ、持ってごらん。

ナ:由佳ちゃんからの贈り物は、ぶどうの形をしたオモチャ。「たくさん言葉が実りますように…。」そんな思いが込められています。

母:大事にするね。

(映像:今年5月)

母:「おかあさん」

優里:「カーカー」

母:「ちょうだい」

優里:「チョー」

母:はい、どうぞ。

ナ:手術から1年。一つ一つ言葉が増えている優里ちゃん。それは、お母さんの声が聞こえている、確かな証なのです。

母:「おかあさん」

優里:「カーカー」

母:「はーい。」

優里:「ハーイ。」

母:「ちょうだい」

優里:「チョー」

母:はい、「積み木をちょうだい。」ってね。はい、どうぞ

ナ:無理といわれた一輪車もこんなに上手く乗れます。由佳ちゃんの夢はどんどん、広がっていきます。

母:優里! (笑)優里、行くよ。優里、待って。もう。優里、片付けて、これ持って行って、ゆうちゃん。(笑)

母:歌おうっか?

優里:「歌おうっか?」

全員で歌:「おこりましょ、プンプンプン…エンエンエン…ああおもしろい。」

先生:上手でした! (拍手)

以上。




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