■2004/04/16 Renewal

モン・サン・ミシェル


1994.04.29

レンヌからローカル線で約1時間。
ポントルソンの駅からモン・サン・ミッシェルへはバスで15分ほどの距離(約7km)だ。
モン・サン・ミッシェルという有名な観光地に向かうのだから混んでいるかと思っていたら、乗客は数人ほど。
いかにも田舎のローカルバスといった風情だ。
天気はあいにくの曇り空だった。
のどかな農村風景がやがて途絶えて、前方にぽっかりと要塞のような島が見えてきた。
あれがモン・サン・ミッシェル。
灰色の海に浮かぶその姿がだんだんと近づいてくる。
道沿いには、駐車場に入りきらないのか、乗用車や大型観光バスが延々と数キロほど駐車されていた。
普通の観光客はパリやサン・マロからの観光バスを利用するのだろう。
このバスが空いている理由がわかったような気がした。

バスを降りて島へ続く橋を渡る。
正門はまだ閉まっていたので、横の通用門から入った。
門の横にあるインフォーメーションオフィスで島の地図をもらい、帰りのバスの時刻を教えてもらう。
バス停の場所を聞くと、インフォーメーションのお姉さんはすぐそこだと指差す。
そこにはひたひたと波の打ち寄せる海があるだけ。
言葉がよく伝わらなかったかなと思いつつ、まあその時間になればわかるだろうと観光の中心である僧院に行くことにした。
モン・サン・ミシェル

僧院までの道はこの島唯一のメインロードだ。
とは言っても車一台がやっと通れるくらいの細い道で、両側には土産物屋やレストランが建ち並び、観光客でごった返している。
人の波に沿って道を登って行くと、やがて僧院の入り口に辿りついた。
8世紀の初め、夢で大天使ミカエル(ミッシェル)のお告げを聞いたオーベル司教が長い困難の果てに建造したという修道院。
その後、多くの信者が巡礼に訪れ、聖地として1000年の歴史を持つ。
島の中心にそびえる姿はまるで要塞のようだが、実際、百年戦争中は要塞としての役目を果たしたそうだ。
牢獄として使われていた時代もあったという。
構造的には3層から成り、最下層は巡礼者のための場所、最上層が教会になっている。
ひんやりと冷たい僧院の内部はとにかく広く、迷子にならないよう人の後ろについて歩いた。
内部の教会の様式は中世のロマネスク様式やゴシック様式が混在している。
北側のゴシック様式部分はLa Merveille(驚異)と呼ばれており、ゴシック芸術全盛期の傑作なのだそうだ。
特に印象的だったのは教会の中庭の回廊だ。繊細な柱の装飾とアーチが美しかった。
5月8日(カトリックの暦で春の聖ミッシェルの日)の夜明けには教会の軸に沿って太陽が昇るそうだ。


僧院を後にすると、土産物屋をひやかしながら相変わらず人でごった返しているメインストリートを下る。
昼食はこの町の名物のオムレツを食べた。
皿からはみ出さんばかりの巨大オムレツで、なかなか美味しかった。
バスの時間まではまだ2時間ほどある。
食後のカフェを飲みながら、さきほど土産物屋で買った絵葉書を書いて時間をつぶした。
ふと外を見ると、空がいつのまにか晴れている。
せっかくだから外で時間をつぶそうと店を出た。

正門を通り過ぎ、島の反対側まで来ると、さすがにこちらには人が少ない。
ふと、島を取り囲む城壁ごしに外を眺めてみて驚いた。
午前中、波の打ち寄せる海だったそこは、今では陸地になっていた。
そうしている間にも海は遠ざかって行く。
潮の満ち引きが激しいとは聞いていたが、こんな目に見えるほどだとは。
インフォーメーションのお姉さんが示した場所は、確かにバス停だった。
あの時はまだ海の中で標識が見えなかったのだ。
そういえば、私達が着いた時は橋のずっと手前でバスを降ろされ、かなりの距離を歩いたのだが、今は観光バスが門のすぐ横まで乗り付けている。
何時間か前に見た景色とはまったく違う光景がそこにあった。
かつて、この地を訪れようとした巡礼者たちが潮に引き込まれ、命を落とすことがしばしばあったそうだ。
中世の巡礼者にとっては、潮に守られ、暗い海に浮かぶこの聖地は、俗世とは隔絶された神秘の場所だったに違いない。



バスに乗り、ポントルソンの駅に戻ってきた。
フランスという国はパリを中心にできているので、パリと各都市を結ぶ鉄道は充実しているが、その他のローカル線は驚くほど本数が少ない。
このポントルソンのような小さな駅に止まる列車は、一日にせいぜい数本だ。
列車の時間まで2時間ほどあったので、ポントルソンの町を散歩することにした。
地図などないし行くアテもない。
駅から左手に商店街が続いていたので、その辺りを適当に歩いてみる。
ショーウィンドウを覗いて物価をチェックしたり、雑貨屋で列車の中で食べるおやつや飲み物を仕入れたり。
家々の間から教会の塔を見つけたので行ってみる。そっと中に入ると、ひんやりした空気が体を包んだ。
フランスではどんなに小さい教会でもステンドグラスとパイプオルガンがあって感心する。
ここもそれほど大きくはないが、なかなか立派な教会だった。
駅に戻り、ホームのベンチに腰かけて列車を待った。
ホームには影が長く落ちている。
待ち時間の多い一日だったが、こんな時間の過ごし方が私はけっこう好きだ。
ポントルソンの町を散歩できたし、モン・サン・ミッシェルでもゆっくりできた。
観光バスで数時間の滞在だったなら、あの潮の変化にも気付かなかったんじゃないだろうか。
旅では効率が悪い方がいい時もある。
やがて、陽の傾きかけたポントルソンの駅に列車が入ってきた。

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