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コラム002 シナリオ作成法 00/04/01 01/07/08



 RPGは、物語(ストーリー)を紡ぎ語るゲームである。

 物語(ストーリー)とは、小説、コミック、映画、演劇、などのメディアで提示しているモノと基本的に同様なモノだ。
 また、ゲームであるから、“ゲーム性”も持っていなければならない。“ゲーム性”という言葉をもう少し詳しく言えば、「仮想世界において、プレイヤーが状況を判断し、行動を選択する機能」という意味である。

 要するに、RPGのシナリオとは「仮想世界において、プレイヤーが状況を判断し、行動を選択している内に、自然と“面白い物語”が紡がれている」ようにセッションを導く計画書と考えて良い。

 RPGシナリオの作成過程を列挙すれば、次のようになる。

@物語の作成
A物語の評価とシナリオ化
Bシナリオの評価

 以下に詳細を記す。



@物語の作成

 RPGは、物語(ストーリー)を紡ぎ語るゲームである。
 「野球は筋書きの無いドラマだ」という言葉があるが、筋書き(物語)の無いRPGは、私の定義するRPGとは異なる(コラム001『RPGとは何か?』を参照)。
 私の定義するRPGのシナリオを作成するにあたって、まず、基本となる物語を考えなければならない。では、どうすれば物語を紡ぎ出す事ができるのだろうか?

 第1の作業は、物語の元となるネタ(元ネタ)の収集である。以下に収集の具体例を示す。

日常生活  普段、日常生活を送っているとき、何か“ピン”と来る事がある。仕事や学業での体験、夢の内容、散歩中に目撃した事件、電車の中で聞いた他人の話、妄想の中の思い付きなど、ヒントは思わぬ所に転がっている。これらを眼前にして流れ過ぎ去る事が無いよう、物語の元ネタとして意識する習慣をつける。
小説etc.  小説、コミック、映画、演劇、TVドラマなども勿論、物語の元ネタとなる。面白いものだけで無く、反面教師になるもの、「自分ならこうするな」と思う物も役に立つ。重要なのは分析する事である。
 “ピン”と来る小説etc.に出会ったら、まず、内容を整理して骨子となる粗筋を抜き出してみる。その上で、その作品の何が良い/悪いのかを考えてみる。粗筋(ストーリー)その物が良い(または改造すれば良くなる)と思ったならば、それは良い元ネタの候補である。ストーリーでは無く、キャラクターとか雰囲気とかの良さで点数を稼いでいる小説etc.は、余り役に立たない。

 ジャンルで言えば、本格ミステリ、ホラー、アイディア系SFなどが元ネタになり易い。モジュラー型(複数の事件を平行して描写する構造)の物や、人物描写を売り文句にしている物は、外れる事が多いと思う。
 1つのネタで長々と引っ張る大長編よりも、中短編の方が「1ネタ得るのに必要な労力」は少なくて済む傾向が強い。
 また、なにも1冊の小説etc.を読む必要は無い。文庫本やレンタル・ビデオの背表紙に書いてある粗筋を読んだり、ミステリなら最後の解決編を立ち読みするだけでも元ネタを収集するだけならば存外に足りてしまう。

 ライトノベル(電撃、スニーカー、コバルトなど)は、ゲーマーでは読んでいる人が多いので、注意が必要だ。
 コミックは、粗筋を抽出する過程で、元ネタが何か分からないように自然と変形する傾向がある。
 TVドラマは、民放の物は雰囲気重視でストーリーがチープな物が多いので役に立たないと思う。無理に元ネタにして筋の通らない自慰的ストーリーに陥らないよう注意が必要だ。
 海外ドラマやNHKドラマは、元ネタになるかどうか半々といったところだと思う。最初だけ観て使い物になりそうに無ければ、だいたいその判断は合っているので無理に観続ける必要は無い。

 普段は読まない/観ないジャンルの作品に敢えて触れてみるのも良い刺激になる。
 しかし意識的に元ネタを集めようとする余り、強迫観念を覚えて嫌になってしまうようでは本末転倒である。無理をしてまで読みたくも無い本を読む必要は無い。実際、10倍の小説etc.を読めば10倍の元ネタが得られる訳では無い。逆に、「自分は読書量が多い」という事だけを根拠に、シナリオ・メイキングの実力を過信してしまうようではプレイヤーの共感は得られないだろう。
 色々と書いたが、仮にあなたがライトノベル好きならば、元ネタ収集のメインフィールドをライトノベルにするのが結局は最も元ネタ収集の効率が高い。
ニュース等  ニュース等も元ネタの宝庫である。特に海外のTVニュース番組(CBSやCNNなど)などはお勧めである。
 週刊誌(文春とか朝日とか)も参考になる。電車の社内吊り広告に目を通して、興味を持った物や、週刊誌同士で対立している記事などに注意して、そこだけコンビニで軽く立ち読みでもすれば十二分に事足りる。
 郵便局で順番待ちをしているときにミニコミ誌に目を通しててみるといった事でも、掘り出し物に出会う事がある。

 その他、スポーツやレジャーなどでも「元ネタ収集の為」という程度のつもりで挑戦しても損は無いだろう。

 さて、ここで肝心なのは、常日頃からメモを取る習慣を持つ事である。

 物語の元ネタは、様々な所に転がっていて、それを何時見つけるか、何時思い付くか分からない。備忘の為に、「これは良い物語になる」という元ネタが浮かんだら、とにかくメモを取っておく。メモを取れない状況のときは、取り敢えず簡単な走り書きを残し、後で詳細を書くようにする。
 小説etc.を読んだ後も同様である。

 メモは、暇なときに読み返してみると良い。書き込んだ元ネタ単体では使い物にならなくても、複数の元ネタを融合したり、発展させたりする内に“物語”が組み上がるという事もある。そういった発想の履歴も、当然ながらメモしておく。

 そうする内に、物語のストックができていく筈である。



A物語の評価とシナリオ化

 RPGシナリオに向く物語とは、「核として初期設定を組み上げ、そこへファースト・シーンを放り込めば後は化学反応のように順々に物語が自動的に生成される」ようなタイプである。
 PCの介入は言わば“外乱”であり、その“外乱”が“化学反応”にどのような影響を与えるかという“法則”を、“核”を考える段階でしっかりと把握できるようにしなければならない。逆に、細かい部分に関しては設定・記述する必要が無く、むしろ枝葉はセッションのその場で“核”から“法則”で割り出して決めるぐらいの方が柔軟性があって良い。

 勿論、自動生成するならばどんな物語でも良い訳では無い。自分で面白いと思えないならば不合格である。原則的に、起承転結……特に“転”となる山場が存在する事が目安になる。

 ある程度は、プレイヤー受けを考える必要もある。例えば、基本的にプレイヤーはハッピーエンドを好むので、後味の良いオチに強い誘導を持たせたシナリオの方が受ける可能性が高い。ただし、「何をやっても結局はハッピーエンドだったのだ」とプレイヤーに思われるようでは興が削げる。それを防ぐために、バットエンドの可能性は常にシナリオには孕ませておいた方が良い。プレイヤーが「あれはミスだった」と自覚できる場合に限り、そのミスが原因でバットエンドになっても満足されるものである。

 また、前述した通りRPGのシナリオとは「仮想世界において、プレイヤーが状況を判断し、行動を選択している内に、自然と“面白い物語”が紡がれている」ようにセッションを導く計画書なので、これに適合しているかどうかを留意しなければならない。
 ただし勘違いしないで欲しいのだが、いわゆる“一本道シナリオ”の全てが悪い訳では無い。問題となるのは、物語を一本道にする為にマスターが矯正を行い、プレイヤーがどんな行動を宣言しても、同じ結果しか返ってこないシナリオである。しかし、プレイヤーの考え得る選択肢を絞る事で間接的にストーリーを一本に誘導するのは悪い事では無い。

 こうした事と照らし合わせて用意した物語を吟味して、必要ならば条件に適合する形に剪定する。
 この段階で改めて、物語の整理、観点の変更、他の元ネタと統合できないかといった事を考慮してみる。
 特に物語の元ネタが小説etc.の場合、引用したエピソードをさらに絞って贅肉を削ぎ落としたり、背景世界を変えてみるといった作業を意識的に行うと良い。翻案作業を経る事で、全くのオリジナルの物語になるものである。なお、そういったシナリオのマスターをする際、決してセッション中に元ネタを口にしてはいけない。プレイヤーが言い当てててもポーカーフェイスを貫く必要がある。プレイヤーにしてみれば、「何だか○○と似たストーリーだな」というのと「元ネタは○○に違いない」というのとではプレイングに天地の差が出る。
 同時に、シナリオに適合するRPGルールシステムが何かを考える。いつもやっているRPGルールシステムに無理に合わせるのも1つの手段だが、ほんの少し手を広げてみるだけでシナリオ自体の出来にも関わってくる。新しいRPGを行う事で、新たな発想が湧く事もある。

 当然だが、用意した物語の全てがシナリオ化できる訳では無い。シナリオ化する作業に入ってから行き詰まる事もある。「収集した元ネタのうち物語になるのは20%。物語のさらに20%だけがシナリオ化できる」という説もある。あまり拘り過ぎずに諦める事も肝心である。



Bシナリオの評価

 簡単で構わないので、出来上がったシナリオを用いて最後までマスタリングするシミュレーションを頭の中で行っておくべきである。仮想プレイヤーは自分自身とか特定の友人などで良く、不特定多数の人間まで想定する必要は無い。
 シミュレーションの際、“核”が“法則”に従って物語の自動生成が機能する事を意識的に注意しておくと良い。

 また、いわゆる“リアリティ”にも留意する。
 “リアリティ”とは、“説得力”と“整合性”の2つに分けて考える事ができる。

 “説得力”とは、その設定がどれだけ人に納得してもらえるかを示す。
 これは送り手(シナリオ作成者/マスター)だけの問題では無く、受け手(プレイヤー)の資質や趣向(これを受け手側の能力として“納得力”と呼ぶ事もある)によっても変化する。“説得力”があるという事は、例えば「世界で最も効率的な兵器はロボットである」という設定を聞いて、それを自然に受け手が「承服できる」という事である。受け手が納得しない場合、実際の事件や有名な小説を挙げて説明する事もできるが、基本的に公理のようなもので、最悪の場合は平行線になってしまう。そのときは「マスター」として、「これこれこういう設定なので、受け入れて下さい」とお願いするしかない(逆に言えば、お願いする事で回避しても許される)。

 一方、“整合性”とは各設定同士が矛盾していないかどうかという事である。
 こちらは、ほぼ客観概念であり意見の対立は滅多に無い。勿論、厳密に言えば主観が混じり意見の相違もあり得るが、公理に基づいて論理で導き証明するぶん共通認識を持ち易い。上段の例を引き継ぐならば、「ロボットが最強兵器→ロボットを多く抱えた軍隊は強い」といったような関連性のある複数の設定の拘束条件を指す。小説etc.では“整合性”に無頓着ながら高い評価を得るものもある。しかし、双方向性メディアであるRPGにおいて、この“整合性”を無視する行為は致命的である。プレイヤーに“整合性”の無さを突っ込まれた場合、「謝って受け入れてもらう」という訳にはいかない。例えセッション中でもシナリオの手直しをせざるを得ず、そんな目に遭わない為にも事前の“整合性”チェックには十二分の注意が絶対に必要である。
 余談になるが、マスターをしていて、何がしかの行為判定の難易度をシナリオ通りを死守するか、変更しても構わないかの判断も、この“説得力”と“整合性”に分けて考えると良い指針になる。例えば、交渉判定の場合、NPCの基本性格設定の“説得力”(或いは、受け手であるプレイヤーの“納得力”)の問題から修正を加える必要が出てくれば、アドリブでの難易度変更もOKだろう。しかし、2つの似通った状況で難易度が変化するのは“整合性”が無くてNGとなる。

 RPGシナリオには“ゲーム性”も必要だと書いたが、この“ゲーム性”を持たせようとする余りにリアリティが失われるという事もままある。
 例えば、「ある情報をPCに知られてしまうと、序盤にも関わらずイキナリ真相がバレてしまう。その情報は、どう考えても、あるNPCは知っている筈で、PCとそのNPCが会談できない理由は無く、問われてNPCが答えない理由も無い」といった状況がそれに当たる。こういう状況で、「理由はともかく、NPCは話さない」としたり、「高い難易度の交渉技能判定を要求する」などとしてしまうと、リアリティが(ひいては“物語性”が)失われる結果になり、望ましくない。
 こんな事が起こらないようにシナリオ製作の段階でチェックしておくべきだったのは当然だが、起こってしまった場合はセッション中でも内容の修正を行うべきである。

 以上をチェックすれば、概ねそのシナリオは“回る”と評価しても良いだろう。
 これらを文章にまとめれば、RPGシナリオの完成である。



 さて、最後に、RPGシナリオに存在する小手先のテクニックについても言及しておく。

●プレイヤーに協力してもらい、PCの一部が敵(犯人)だという設定にする。
●真相(真犯人)を複数用意して、PCが真相A(犯人A)に辿り着いたら「真相B(犯人B)が正解」としてしまう。

 この2つは有名な小手先テクニックであり、こういうパターンもあると知らない初心者に対しては絶大な効果をもたらす。しかし、2度目となると「またか」と思うだけで、むしろマイナスの効果となる。
 原則的に使用しない方が身の為だろう。


●依頼人が犯人(黒幕)という設定にする。または依頼自体が罠だとする。

 最初から依頼人は怪しいという情報をプレイヤーに与えて、火中の栗を拾う覚悟を持った上で依頼を受けてもらうというのであれば問題も無い。
 しかし、何の伏線も無く依頼人を裏切らせるような使い方には気を付けなければならない。これも初心者相手には効果が大きいが、2度目は驚かないし、場合によっては「アンフェアだ」と思われてしまう。
 使用する場合も「本当に必要か?」をよく考え、“説得力”と“整合性”に十二分の留意を払い矛盾を無くさねばならない。いずれにしろ多用は厳禁である。


●余り関連性の無い小イベントを複数配列して、シナリオ中盤の障害にする。

 私の仲間内では“『ユニコーンの森』方式”と呼んでいる。ソードワールドのシナリオ集『ユニコーンの森』でも用いられたテクニックで、「マップのA−3地点に行くと○○というイベントが起こる」というやり方である。
 このテクニックのシナリオは、どうしても“初期の『D&D』”的なセッション(コラム001『RPGとは何か?』を参照)になってしまう。
 個人的には嫌いではないのだが、“初期の『D&D』”的なセッションにアレルギーを持つ人もいる。同メンバーでこのパターンのシナリオを多用すると、「RPGらしいRPGをやっていない」という気分にもなってくるので、注意が必要である。


 その他にも小手先のテクニックはあるが、いずれにしろそれに頼らないシナリオ作りをした方が望ましいのは確かだろう。




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