「鍼は痛くないですか?」とよく聞かれます。そんなとき皆さんは、注射針や裁縫の針を想像してしまうようです。
今から数万年前の旧石器時代には、鋭い石や竹べらなどでものを切っていました。その経験から、化膿(かのう)したところにそれらを刺して膿(うみ)を出したり、しこりを切り取ったりしていたと思われます。これが「石鍼(いしばり)」です。
また、今から約3万年ぐらい前に、布の前進としての編み物を作る道具として細い鍼が使われ始められたようです。最初は竹ひごや、大きな魚の骨を利用した骨針といわれるものを使って、植物の繊維や動物の皮を編んでいました。
骨針、竹ひご、バラのとげなどは偶然身体に刺さることもあります。かゆいところに刺さると気持ちがよいとか、痛みがあるときに刺して苦痛がとれたなどの経験から治療にも使われるようになりました。その後、金属が使われるようになり、徐々に現在のような鍼ができあがっていったわけです。
1.普通の鍼 = 一般に「鍼」というと毫鍼(ごうしん)を指します。「毫」というのは毛のことで、「毛のように細い鍼」ということです。身体にほとんど損傷を与えずに刺入して、身体の深いところにある目的の組織(神経、筋肉、腱(けん)、靭帯(じんたい)などを容易に刺激できるのが鍼の利点です。
私の治療室では主に、太さ0.14ミリから0.20ミリ(毛髪ほどの太さ)、長さ30ミリから60ミリの、ステンレス製の鍼を使用しています。ディスポーザブルの鍼で、全て使う時に封を切り、使い終わったらすぐに廃棄するようにしています。感染の心配もありません。
2.皮膚に固定する鍼 = これには円皮鍼(えんぴしん)と皮内鍼(ひないしん)があります。
円皮鍼は鍼の長さが3ミリぐらいの画鋲のような形をした鍼で、皮膚に垂直に刺入して、テープで固定します。皮内鍼は、5から10ミリの長さで、皮膚と平行に、2ミリほど皮下に刺入して、テープで固定します。円皮鍼も皮内鍼も、全く痛みはなく、鍼があることを忘れてしまうほどです。治療効果を持続させる目的で使用します。特にかゆみや痛みがなければ、次回の治療の時(通常1週間程度)までそのままにしておきます。
3.皮膚を刺激する鍼 = 鍼を身体に刺入せずに、皮膚の上から刺激するものです。スプーンのような形のもので皮膚をなでる、先の鈍い鍼を束にしたようなもので皮膚を軽くたたく、鍼の先が玉状になったものでツボを圧迫するなど様々です。「こんなことで本当に効くのかな?」なんて思われがちですが、場合によっては驚くような効果がでることもあります。鍼がこわい方はまず皮膚鍼から試してみられてはいかがですか?