「ギックリ腰で年に2・3回は寝込むことがあったのが、マッサージを受けるようになってから寝込まなくてすんでいる」という患者さんが数人います。ギックリ腰はマッサージや鍼灸療法で防ぐことができます。
ギックリ腰のことをドイツ語では「Hexen-schuss」といい、「Hexen」は魔女、「schuss」というのは「突く」という意味です。したがってギックリ腰は、「突然魔女に突き刺されたように起こる腰痛」ということになります。
医学的には、「重いものを持ち上げる、床に落ちたものを拾う、顔を洗う、せきやくしゃみをするなどの、普段はなんということもなく行っている動作で起こる突発性の腰痛のことです。ギックリ腰という疾患があるわけではありません。ギックリ腰の原因としては、椎間板ヘルニア、椎間関節の捻挫、腰椎周辺の靭帯の過伸展、腰ぶ筋肉の過伸展や部分的な断裂などです。
ギックリ腰を起こす以前には、必ず前頂が現れます。「腰が重い感じ」、「いつもより腰や足が冷える」、「ある方向へ体を曲げると腰がつっぱる」などです。そのような症状が現れた時点で、背腰部、下肢部を中心に全身のマッサージや鍼灸療法を行うことで、ギックリ腰を防ぐことができるのです。治療の目的は、腰部を中心に、背部や臀部、腹部などの、腰部に関連する部位の筋肉内の血流をよくしておくこと、全身の疲労を取り去っておくことなどです。前頂が現れたときに治療を受けた患者さんの多くは、「家に帰ってぐっすり眠ったら翌日から腰が楽になった」と話しています。
ギックリ腰になったら、まずは安静を保つことが大切です。ギックリ腰は、安静を保てば1・2週間である程度痛みが消失するものです。でもその間寝込まなくてはならなかったり、起きられたとしても身体を動かす際には非常に強い痛みが出るため、苦しいものです。もしもギックリ腰になってしまっても、マッサージや鍼灸療法を適宜行うことで、非常に短期間で痛みを取り去ることも可能です。
ギックリ腰発症直後から2日ほどのマッサージ鍼灸治療は、患者さんがなるべく痛みを感じない楽な姿勢(横向きに寝る、ベッドに腰掛けるなど)で行います。腰痛がいつからどのようなきっかけで起こり、どこがどのように痛いのかを調べた後、下肢の治療を中心に行います。足関節の回りやふくらはぎにあるツボを中心に、足先から膝の上あたりまでのツボを調べて、反応(押して痛いところ、なぜて皮膚知覚が過敏になっているところ、こりがあるところなど)を見つけて、治療します。その後痛い患部の治療に移ります。発症直後の患部の治療では刺激量が多過ぎると症状を悪化させることがあるため、患部の状況(痛みの強さ、熱の有無、炎症の有無など)に応じて、適宜ごく軽い治療を行います。ギックリ腰になると痛みのために異常な姿勢をとることがあり、頚部や背部、腹部の筋肉をゆるめる治療を行う必要があります。ほとんどの場合、患部を湿布などで冷やします。入浴もしない方がよいようです。
発症後3・4日を経過したギックリ腰のマッサージ鍼灸治療は、痛い患部を中心に行います。ギックリ腰の原因や患部の状況にもよりますが、マッサージや鍼灸の刺激料をある程度強くして行えます。腰部のストレッチ体操を行うこともあります。この時期の治療では、治療前は杖を使わなければ歩けなかったのが、治療後には杖を使わずにスムーズに歩けるようになるなどの、著効を示すケースもよくあります。この時期には冷やすことはせずに、カイロや温湿布で暖めることが必要です。温めの風呂に長時間つかることもよいようです。