暗黒のメルヘン
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- 澁澤龍彦コレクション29冊目は澁澤龍彦本人「こだわり」の小説アンソロジーである。題名からもわかるとおり、日本の近代文学における怪奇幻想小説の中から澁澤自身が「好きな作家」の「好きな作品」が収められている
- メルヘンというドイツ語は、日本語にすると「抒情」と訳すのが一番近いように思われる。誰しもが心に持つ「琴線」に触れる作品、読むとやさしい気持になれる作品というのが「メルへン」と形容される作品ではないだろうか
- ではなぜそのメルヘンが「暗黒」なのか。それはまず作品が触れる「琴線」が非常に狭い範囲の人のみが持つものに限られるからではないだろうか。人はまず己に理解できない感覚は「非」もしくは「怪しいもの」として分類するのが常である。これらの作品はまず琴線に触れる前にこの感覚を呼び覚ますに違いない
- 泉鏡花、坂口安吾、江戸川乱歩。何れもどこか日常と一歩違う感覚を内包する作品を得意とする作家ばかりである。個々の作品について考えるより、なぜ澁澤龍彦がこれを選んだかを考えるほうが感慨深いアンソロジーであろう
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