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タニス・リー
Tanith Lee
ゴルゴン
−幻獣夜話−

訳:木村 由利子/
佐田 千鶴
  • 現在、過去、未来、ヨーロッパ、アメリカ、オリエント。様々な時間と空間を軸にゴルゴンやユニコーン、猫、ドラゴン、人魚などの「幻獣」が語られてゆきます。表題の『ゴルゴン』は世界幻想文学大賞の短編部門受賞作ですが、モームの作風に近いものを感じました
  • 日本でも河童や雪女、座敷童子など、風土に根ざした「不思議な存在」がありますが、リーはヨーロッパの風土に根ざした「不思議な存在」を、無理やり加工することなしに見事な作品に仕立てています
  • どの作品を取ってもそうなのですが、リーほど色彩の描写に拘る作家もいないのではないでしょうか。それも独特の表現、例えば「白ワイン色の髪」とか「燃える燐のような光」など、どこか読み手の想像力を刺激する色彩表現が好んで使われ、それがさらに作品全体に「黄昏」の色付けをしているのです
  • 原題は“THE GORGON AND OTHER BEASTLY TALES”直訳すれば「ゴルゴンとその他の獣めいた話」になりますから、邦題がいかに重厚なイメージを大切にして訳されているかが分かります
血のごとく赤く
−幻想童話集−

訳:木村 由利子/
室住 信子
  • 原題の“RED AS BLOOD Or Tales from the Sisters Grimmer”「血のごとく赤く 或いはグリマー姉妹によるお話集」からも分かる様に、グリムやペローの童話に題を取った独創的『創作』童話集
  • このところ「グリム童話は本当は怖かった」という解説本がベストセラーとなっていますが、良く考えれば「民話」や「説話」と呼ばれるもので残酷な教訓のないものを捜す方が難しいのではないでしょうか。日本でも「かちかち山」や「瓜子姫」は元来「人喰い」の表現が含まれていましたし、話の悪役が「死ぬ」ことで話が大団円を迎えるものも少なくないのでは?
  • この作品は独立した9つの短編からなり、そうした「説話」としてのグリム童話や、ペローの意図したであろう暗喩を踏まえて物語が展開して行きます。元の話を下敷に話を書く場合、必要以上に書き方が辛口になったり、極端に褒めたりしがちなのですが、どちらにも偏らない淡々とした書き方で独自の世界を構築するリーの筆力は、さすが「ダーク・ファンタジー界の女王」と呼ばれる所以でしょう
  • 舞台もヨーロッパに限らずアジアやスカンジナビア地方そして未来が選ばれ、捻りの効いた物語と含みの多い結末に色を添えています。特にリーがフェミニスト作家と言うわけではないのですが、なぜか女性の視点から書かれている物語が多く、その点では「グリム兄弟」を意識しているのかも知れません
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