1999.9.12  ラ・マンチャの男

 言わずと知れたミュージカルの名作「ラ・マンチャの男」。松本幸四郎主演で、次女松たか子が出演していることでも有名……でも、やっぱり私は「駒田さんが出ているから」という理由で友人の誘いにのりました。

 まず、舞台が変わっているのに目が引きつけられました。軽い傾斜がついていて、両側に階段がついている。そいて後方上部に何やら仕掛けがあるみたい。オーケストラボックスはなく、舞台の両側に演奏者の席がありました。なのでいわゆる舞台の袖もなく、役者さん達は舞台の下で待機することになるそうです。幕もなし。
 最初は指揮者の方が舞台中央に出ていらっしゃって、序曲の演奏から始まりました。こういうのも初めてでした。
 序曲演奏の後、後方上部から階段が舞台中央に向かって降ろされます。舞台は裁判を待つ犯罪者達が閉じこめられている牢で、その階段を宗教裁判にかけられるセルバンテスとその従者が下りてくるのです。ストーリーは裁判を待つセルバンテスと、彼が牢の人々とともに演じるドン・キホーテの物語の二重構造で進んでいきます。

 詳しいことは省きましょう。このミュージカルで私が一番引きつけられたのは、鳳蘭さん演じるアルドンサですね。旅籠で働くあばずれ女なのですが、キホーテは彼女を想い姫のドルシネアであると思いこんでしまいます。最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたアルドンサですが、だんだんキホーテの純粋さに打たれていきます。
 無理矢理正気に戻されてしまい、瀕死の床に就くキハーノ=キホーテの元に駆けつけ、必死に思い出させようとするアルドンサ。この辺りは泣けます。そして、キハーノは再びキホーテになって騎士として生きようと立ち上がるのですが、命尽きて倒れてしまうのです。
 アルドンサは言います。「一人の男が死んだ。あたしの知らない男だった」「ドン・キホーテは死んではいない。サンチョ、信じるんだ。信じるんだ」
 この作品の本当の主役はアルドンサなのでは?と思うほど、彼女の言葉に全てが表されている気がしますね。(ドン・キホーテは象徴であって。人間としてこの舞台で生きているのは彼女だと思う) この作品の哲学的テーマについてはいろいろ語られているらしいんですが、私にとってのこの劇は、ある存在に出会うことによって自分を根底から揺さぶられた一人の女性の物語だと思われるのです。それに意味づけをすることは難しいし、一般化することもできないと思うのですが。

 個人的趣味の話になりますと、駒田はじめさんの出番があんまり多くなかったなーというのが……
 キホーテにひげ剃り用に鉢を黄金の兜だと言われて取られてしまう床屋さんと、ムーア人の役。ソロで歌う部分もありますし、相変わらずおもしろくてかわいかったので、それはそれでいいんですが。
 駒田さんにはいつか、ひげなしでサンチョ役をやってほしいですね。(友人にこう言ったら「20年後くらい」と返されました)
 あ、サンチョっていい役だと思うんですよ、私は。すごく味が出せる役で。自分は風車小屋が怪物に見えたりはしないんだけど、「旦那が好きだから」と言ってどこまでもついていくのがいいですよね。サンチョはキホーテに夢をかけてたんじゃないかな……とか思わせます。

 全然ふれてませんでしたが、当然松本幸四郎さんの演技はよかったですよ。笑えるところはちゃんと笑えて、しめるところはちゃんとしまってて。
 松たか子さんは、役が役だからなぁ。アントニアって単に利己的なふつーのお嬢さんなんですけど。パンフレットにある「澄んだ歌唱は、客席に一陣の清涼な風が吹き付けてきたようだった」ってやつ、あの劇におけるあの歌の位置を全然無視してますよ。声だけ聴いてりゃそうかもしれませんけど。

 ところで、ちょっといただけなかったのは、エピローグの演奏中に席を立つ人が多かったことですね。指揮者さんが気にしてたようでお気の毒。カーテンコールの後に演奏を入れるっていう構成がまずいんですかね?
 やっぱり、舞台上で全てが終わるまで席は立たないのが鉄則でしょう!

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