オランダでは警察に勝ち、イタリアでは負けた (その1・オランダ編)

 10年前に暮らしたオランダに長男(20歳)と二人で訪れた。ついでにトランジットでイタリアでも遊ぼうという作戦である。

10年ぶりのオランダはあまり変わっていない。レンタカーで田舎をドライブすれば懐かしい牛の糞の芳香が車内を漂う。

変わったと言えば、当時はなかった携帯電話が普及している位である。

携帯電話で話をしながら馬に乗って移動している人がいる。どういう時代考証をして良いのかわからない光景。

 ある日レンタカーを街中に路上駐車し、用を足してから戻ると「駐車違反」のステッカー。罰金を取られるようだ。

「しまった!」

しかし、10年前は毎日のようにあちこちに路上駐車をしていたのに、1年間何事もなかった。

路上駐車当たり前の国柄も変わったのか??わずか数日の滞在で捕まるとは。

もう翌朝にはイタリアに出発だ。警察に行く時間もない。困り果てた。

そうだ、ブーム先生に相談してみよう。

ブーム先生(Dr.Birt Boom)とは私がライデン大学在任中に世話になった皮膚科医で、いまやハーグの王立病院で女王様の診察もする名医である。

その晩ブーム先生の自宅を訪れ、恐る恐るステッカーを見せると、ブーム先生はしばらくじっと眺めてから、

「ガハハハハ・・・・」と大笑い。私が目を白黒させると一言。

「イタリアへ高飛びをするんだ!」

「外国まで行ってしまえば警察も追ってこない。罰金の取りようもない。君はその後日本に何食わぬ顔で帰る。めでたしめでたしだ。」

「そんなものですかねぇ。まあ確かにオランダの免許証で車を借りたので、私の住所はオランダになっているから、日本での連絡先はわからないですね・・・」

「そんなものだ。ところで、くれぐれも私の息子にあのことは言わないでくれ」

「何のことでしたっけ?」

「私が、遊び呆けて高校の卒業に5年もかかったことだ」

そこですかさず奥さんが一言

「親の威厳というものがありますので。この人は超優秀なエリートってことにしてあるのです」

そこでブーム先生も一言

「君も、今、息子さんの前だが、『優秀』ってことにしてあるんじゃないの?あれ、英語わかるのかな?ガハハハハ」

とまたもや大笑い。

 結局ブーム先生の意見に従って、翌日何事もなかったような顔をしてレンタカーを返し、アムステルダムのパスポートチェックも通過し、イタリアへの飛行機に乗り、ほっと胸をなでおろした。

すっきりした私は思わず「ガハハハハ」と笑った.が、心なしかブーム先生より小さな声だった。


この後どうなる? 続きをお楽しみに・・・・・

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