赤城山・不動滝ソロツーリング
2001. 05. 07

 

登場人物

しんいち
 
筆者。


 愛車のホーネットを12ヶ月点検に出したとき、バイク屋の兄ちゃんに「ゴールデンウィークはどっか行くの?」と聞かれた。そのときはこの点検のせいでお金がなく、そう答えたんだけど、帰ってきた返事は「そんなことじゃどこにも行かれないぞ」と。この兄ちゃんはオレがまだ遠出したことないのを知っていた。家に帰ってからも兄ちゃんの言葉が頭の中を泳いでいる。「よし、じゃあ…」と思い立ったのがこの度の始まりだ。記念すべき初ツーリングとなる。

 が、7月頭には教員採用試験が控えている。親に言っても素直に行かせてくれるとは思えない。そこでひとつの作戦を立てた。

 5月7日(月)。実はH中学校の開校記念日で仕事は休みだった。G.W.も終わり道路や観光地は確実に空いているはず。お金もないので下道を使って行くことにした。普段、月曜日の仕事は3時間目。あまりにゆっくりなので、オレが起き出す時間には他の家族は仕事や学校で誰もいない。つまり、普段の月曜日は誰にも会うことなく仕事に行っているのだ。これを逆手に取ることにした。一番朝の早いオヤジが起き出すのが5時30分。これより前に出発してしまえば、みんなにとっては普段通りの月曜日が始まるというわけだ。もはや誰もオレのことを止めるのは不可能だった。ああ、よく考えれば、なんて寂しい生活をしているんだろう、オレ。

 さて、話は少し戻るが、行き先の選定に少し迷っていた。選定条件としては「1.お金がないので下道で行く」「2.夕方6時か、遅くても7時には家に戻ってきたい」下道で行くのに時間制限を設けるという、ちょっとつまらないことをしてしまった。が、もうひとつのキーワードで運良く2つの候補地が上がる。キーワードは「リベンジ」

 以前、車でのドライブで行ききれなかったところがいくつかある。その中から上の二つの条件とキーワード「リベンジ」によって選出されたのは、

A.千葉県の野島崎灯台(旅行記「洲崎灯台へ」参照)

B.群馬県の不動滝(旅行記「群馬滝巡り」参照)

の2つ。そして、さんざん迷ったあげく、距離が短い=家族に怪しまれずに早く帰れるということから今回はB.の不動滝ツーリングと決定した。


 5月7日(月)当日。普通の人なら仕事のある日だ。もちろんオレの友達もそう。誰を誘うこともできない。当然ソロツーリングとなる。

 午前4時。空はまだ暗く、電灯や信号機の光がまぶしい中を、家族にバレないようにと恐る恐る出発した。まずは慣れ親しんだ環状7号線を北に向かう。R254「川越街道」に出るためだ。午前4時とはいえさすが環7。思っていたよりも車が走っている。もちろんこちらの走りに不満を感じるほどではないが。地図を見ていたときに「ここはわからないかもな…」と思っていた地点をやはり間違う。が、順当に環7を走って程なく川越街道に合流した。

 川越街道をひた走る。一旦R16に乗るもまたすぐにR254へ。入間川を越えた辺りで、出発から1時間が経過した。走行距離51.6km。平日の都会(実走30km/hと言われる)に比べると格段に走っている。記録を取ってすぐに出発。柏崎でR254を離れ、R407へ。熊谷市方面に向かう。

 熊谷警察署前で念のためと思い地図を確認していると、散歩中のおじいさんが道を教えてくれた。バイク乗りには皆親切だという噂は本当らしい。カーブの曲がり具合・橋の位置まで教えてもらい迷わず熊谷市を抜ける。R17に乗り、上武道路へ。この道はツーリングマップルには「ハイウェイのような快適ルート」とっあったが、道が細い上にトラックが多く、渋滞になるとすり抜けもできなかった。しばらくちんたらと走る。空いていれば確かに快適そうだけどね。

 上武道路の終点間近で曲がる予定だったが、調子に乗って走っていたらR50に乗ってしまった。前橋に向かってしばらく走る。どうもおかしいぞ、と思って休憩・朝食も兼ねてコンビニに寄った(時刻6:35)。朝食を食べ終わり、車で来た人に現在地を聞くととんでもないところにいることがわかった。R50ではなく県道4号だったのだ。県道16号に行きたかったのに、いったいどこで道を間違えたんだか。予定を変更してそのまま赤城大鳥居へ。鳥居を過ぎてからR353を使って県道16号に行くことにした。

 なぜ県道16号にこだわるかというと、これもツーリングマップルの影響。県道16号には「赤城山の裏ルート 道幅狭く急勾配コーナーの見通しも悪い」「狭いので下りは十分注意」とある。簡単に言えば「上級者ルート」ということだ。が、目指す不動滝はこの県道16号沿いにあるらしい。それならと、県道16号を使って上り、帰りは県道4号で下りてこようと考えていた。県道4号の方はバスも通る大きい道路。心配はないだろう。R353には途中で「道の駅 グリーンフラワー牧場」というのがある。平日のこの時間では誰もいないが、休憩がてら寄ってみた。

 そしていよいよ県道16号へ。初めのうちは順調に走る。が、赤城温泉の手前、滝沢温泉の辺りを曲がったところで雰囲気はガラッと一変した。道幅が突然狭くなる。ダートこそないものの狭い道幅とヘアピンカーブの連続にビクビクしながら走った(30〜40km/hくらいだったかな?)。一人だったから遅くてもよかったものの、これがまわりに車やバイクがいたらどうなってたんだろう。特に対向車がいないのはありがたい。カーブなんか毎回反対車線に飛び出してたもんね。

 と、一生懸命走っていたんだけど、なかなか不動滝らしきものに出くわさない。途中、「これかな?」というところでは止まってみたんだけど、どうも違う。そんな感じで走り続けていたら、とうとう小沼まで来てしまった。

 小沼は赤城山にある2つの沼のうちのひとつ。標高1,450m。大沼もそうだけど火山の爆発でできた湖。ここから流れ出た水が゛不動滝につながっている。はっきり言ってここは観光地化はしていない。かろうじて遊歩道のようなものがあるが、散策するほどの価値はないだろうと判断した。地図で見ても不動滝とは明らかに場所が違うんだもん。

 再び道路に戻ってひた走る。ここまで来ればきついカーブや勾配はなかった。10分程走ると今度は大沼が見えてきた。

覚満淵(かくまぶち)という湿原
奥の方に見えるのが大沼


 大沼。こちらの方がいくぶん観光地化されているのだろうが、さすがに平日&この時間(8:35)ではお店も準備中だった。

赤城山に逃げ込んだ国定忠治の像

 大沼の方に行くといくつか土産物が並んでいる。こんなに朝早く、観光客もほとんどいないというのにいくつかの店では呼び込みの声が上がっていた。「お饅頭食べてって〜」という声につられて、そのうちの一件に入った。お茶や漬け物、お饅頭などを頂きながら、不動滝の話を聞くことができた。「お不動さん」という愛称で親しまれ、暖かくなるとお弁当を持ってピクニックに行くんだと。そのおばちゃんは40代中頃だと思うんだけど、その人が歩いても1時間くらいだとか。そして、その登山口はというと、なんと赤城温泉の近くにあるんだと。どうも滝沢温泉のところを曲がらずに行き止まりまで入っていくのが正解なんだとか。

 お茶と漬け物とお饅頭と、そして滝のお話のお礼にいくつかお土産を買い(家族にあげるわけにはいかないけど)、店を後にした。今度は県道4号の広い道路を気持ちよく走り、あらためて県道16号に向かうことになるのだが…

 1台のバイクが対向車線を下から走ってきた。レーサーレプリカに皮のつなぎと、いかにもな格好をしている。そして、すれ違う直前にその人が出したのは…

「ピースサインだぁ!」

 左手を自分の右側(つまりオレの方)に伸ばし、誇示されたVサイン。インターネットで事前にそのサインのことを読んでなければ反応できなかったかもしれない。見るのも初めて(ツーリングも初めてなんだから当たり前か)なオレだったけど、その人の真似をしてVサインを出した。と同時に嬉しくもなった。見ず知らずの、バイク、ツーリングともに初心者のオレにもピースサインを出してくれることに。バイク乗りには妙な連帯感が生まれるという話にも納得ができた。むこうの人もオレが出したサインに同じように感じてくれただろうか。この楽しさは病みつきになるかもしれない。

 さて、3時間ほど前にも通った道を走り、再び赤城温泉へとやってきた。やや道に迷うも、駐車場、公衆トイレと来てようやく不動滝入口の看板を見つけることができた。時刻は11時。東京の自宅を出発してからすでに7時間が経過していた。

 ここからは1時間ほどのピクニックになる。運転中の防寒のためにタートルネックのトレーナーにフリースと厚着をしてきたが、おかげで歩いている間は汗まみれになった。「滝沢不動尊」「忠治のかくれ岩」を経て、約1時間、ようやく今回の目的地、不動滝に到着した。落差50m、幅1.5mとなかなかの滝だ。さらに少し上れば滝壺の近くまで行くことができる。観光地化されていないために整備も行き届かず歩くのも大変だが、だからこそ自然のままの迫力ある眺めを楽しむことができるのかもしれない。滝からの水しぶきを全身に浴びていると、今までの暑さを忘れ何時間でもここにいたくなってくる。


 1時間ほど歩いて下りてきた道を逆に上り、赤城温泉の滝入口まで戻った。当初の予定では、ツーリングの途中では温泉に寄るつもりはなかった(タオルなどは持ってきていたけど)が、さすがにこの汗では気持ち悪い。看板に日帰り入浴可と書いてあったの確かめ、目の前にある赤城温泉ホテルでひとっ風呂浴びることにした。入浴料500円。露天風呂もあってこれなら安いと感じた(内風呂は団体客がいると狭いかもしれないが)。食事はできなかったが途中でどこにでも寄ればいい。タンデムシートに荷物をくくりつけ、帰路についた。