半生・反省・繁盛記
(8号)
百円札
母が、婦人会で踊りの練習をするため、ラジオを改造した真空管剥き出しのアンプを小学校から借りた。登校のついでにこれを小学校に返した。母がお礼に百円札を折りたたんで真空管の下に挟んだが、これが先生に通じず永くそのまま職員室の隅にあった。子供心に変に気がもめた。
拾円札
「日の丸キャラメル」が10円だった。おまけカードが付いており、カードの四隅の一箇所に野球ボールマークの四分の一が印刷してある。四枚のカード四隅を合わせて一個のボールマークになれば景品が当たるシステムだ。
母がお金を置いている戸棚から、ちょくちょく10円札を失敬して学校の帰り日の丸キャラメルを買った。雪道を一人歩きながらキャラメルをほおばったが、そのうち母にバレてしまった。
五円玉
引っ越した後の古家に昔の銭函が転がっていた。中に紐につづった五円玉の束を発見した。祖父の忘れたへそくり。
夏の暑い日「ぴい〜」と笛が鳴ると自転車の荷台に旗を立てたアイスキャンデー売りのおっちゃんが来ているのだ。宝の山から5円玉を一個ずつ抜いてアイスキャンデーを買った。宝の山は無尽蔵にあったが夏が終わった頃その存在を忘れた。
綱引き
運動会で地区対抗綱引きがあった。赤白双方に分かれ綱の両側に選手が整列したとき、観客席からおっちゃんが一人列に飛び込んだ。父だった。先生に制止された。
メリヤス
暑い暑いといいながら歩いての下校時、「そりゃ−暑いわ!メリヤスのシャツを着とんなる」と途中大人に声をかけられた。洋服にはほとんど無頓着だった子供の頃、普段着の記憶が無い。生地種類を知ったのはメリヤスが最初だ。