ボクサーの移籍問題について
 
パワフル本望選手(オサムジム)たちのこと
 
7月23日の会談についてのレポート
 
by 粂川 麻里生
 

 以下のことは、あくまでも本望選手周辺の人々から伝え聞いた情報であることをお断りした上で、皆さんに考えていただく材料として、お伝えしてよろしいのではないかと考えます。事実に反することが含まれている可能性は低いと考えておりますが、万が一「これは違う」という記述などありましたら、メールいただければ幸いです。アドレスは:mario@mth.biglobe.ne.jp

 さて、本望選手、および同僚の2人の選手のボクシング・キャリアが危機にさらされるようになった事情は、以下のようなものであるようです。

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 @ 昨年秋ごろから、本望選手はジムに行っていなかった。理由は以下の2点:

 ・ 洲鎌栄一選手に勝った後ジムに行くと渡辺治・オサムジム会長に「もう日本では試合できないぞ。またA級に出るか、アメリカに行け」と言われた。

 ・ タイガー・アリ選手が来日できなくなった際、会長から試合の3日前に「藤田和典とやれ」と言われ、断ると露骨に嫌な顔をされた。

 A その後、関係者に説得された本望選手は、「黙ってジムに行かなくなってすみません。タイトル挑戦に動いてくれると思っていたのに、あんなことを言われてショックだったのです。木村−ゴメスの勝者に挑戦状を出すなど、会長の力でチャンスを作っていただけないでしょうか」という手紙を出し、ジムに戻る。

 B 手紙を受け取った会長は、「分かったから、これにサインしろ」と言って、あらたな「誓約書」をさしだした。しかし、この誓約書を、本望選手は承服することはできなかった。承服できなかった大きな問題点は以下の2点。

  ・ルール違反の5年契約が要求されていた。

  ・「いかなる怪我または事故等があっても、オサムボクシングジムおよび関係者に対して一切の責任を負わせない。」というような文章があり、本望選手は大きな不信感をいだいた。

 C 結局、本望選手は、ジムの移籍を希望するようになった。角海老宝石ジムで榎洋之選手とスパーリングをし、ラスベガスでも同選手と同室であったことから、角海老宝石ジムへの移籍を望んだ(同ジムは、選手やトレーナーが各方面から集まってきて、雑居的に練習するパブリックジム的な面もある)。

  D 本望選手が、同じく移籍を希望しているオサムジムの2選手とともにジムに交渉に行くが、渡辺会長は「お前たちじゃ話にならないから、鈴木(角海老宝石ジム会長)を連れて来い」と言う。「移籍金は一千万円払え」とも言われた。

 E 今年5月、ボクシング協会顧問の横堀弁護士が、本望選手とオサムジムとの間の仲介を申し出てくれた。本望選手は「移籍金は3人分で計200万円までなら払う」ことを横堀弁護士に伝えた。横堀弁護士も、これを「十分な額だと考えた。しかし、横堀弁護士と会った渡辺会長は、当初の1000万円にはこだわらなかったものの、「200万円なんて安過ぎる。本望の問題は、俺と鈴木とで話をするから、間に入らないでくれ」と言った。

 F 6月、本望選手はコミッションの小島茂氏と会い、契約についての解釈を聞く。小島氏の見解は、「契約はプロテストから3年ごとで切れます。ですが、『新たに別のジムと契約します』といっても、ハイそうですか、とはなりません。元のジムの承諾がないと、サスペンドされた選手とみなされます」とのことだった。

 G この際、本望選手は、コミッション立ち合いのもと、できればマスコミの前で、渡辺会長と話会いの場を持てるよう要請し、コミッションもそれを了承した。しかし、コミッションからの呼びかけに、渡辺会長は応じる姿勢を7月20日現在見せていない。

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 このような経緯で、本望選手ら3人の選手は、半年以上試合の出来ない状況にあり、さらに、このままでは「サスペンデッド」と見なされて、ライセンス自体が危機にさらされることになります。ブランクを作る直前の本望選手は人生に2度と訪れるかどうかわからないほどの上昇期にありました。この時期を逃すと、腰に巻けたはずのチャンピオンベルトが遠いものになってしまう危険さえあります。いたずらに話をこじらせることなく、一刻も早いリング復帰をしてもらいたいところです。

 さて、問題を整理してみたいと思います。

 根本的な問題は、小島茂氏がいみじくも言った通り、「プロテスト後、契約は3年ごとに更新されるが、元のジムの承諾がないと、移籍はみとめられない。そのままでいると、サスペンデット(ライセンス停止)とみなされる」というボクシング界の慣習でしょう。3年契約とはいえ、契約が切れても事実上元のジムにしばられているのが現状なのです。たとえば極端な話、元のジムが「あいつ、気に入らないから、選手として活動できなくしてやる」という悪意をいだいたら、もうその選手は日本でのプロボクシング活動はできない、ということにもなりかねません。

 「プロボクサー」がひとつの職業としてなりたつためには、これは明らかに克服されねばならない問題です。ただ、ルールや制度というよりは、慣習・文化に属する問題であるため、根本的な解決が難しいのも事実です。裁判すれば勝てそうな事例がたくさんあるにもかかわらず、実際に訴訟を起こしたボクサーがほとんどいないのも、「法律的に勝ってもしょうがない」からという事情が大きいと思われます。裁判で勝っても、ボクシング界の鼻つまみものになったら、活動はむずかしくなります。

 だからこそ、ひとりでも多くのボクシング・ウォッチャーが、それぞれのジムがどれくらいボクサーの権利を大事にしてくれていているかに注意を払い、心あるジムには支持が集まるようにしてゆかねばなりません。たとえば、今回の本望選手の問題にしても、渡辺治・オサムジム会長が移籍金200万円で本望選手たちの移籍を許してくれたら、皆が「良かった」と評価しなくてはなりません。なんだかんだいっても、勝又行雄会長が、坂本博之の移籍を認めてくれたからこそ、その後のいくつもの名勝負が生まれたのです。

 オサムジムは、過去に多くのチャンピオンやランカーを生み出した、名門と言えるジムです。今回、契約の切れた選手の移籍を認めるだけの度量を示すなら、「選手がいなくなってしまう」どころか、全国のボクシングを志す若者たちが、「オサムジムなら安心して入門できる」と集まってくるでしょう。逆に、「あの手子この手でボクサーを可能な限りしばるジム」ということになれば、それこそ自殺行為です。すくなくともそうなるように、ボクシングファンはジム経営者の見識をしっかり評価していかなくてはなりません。

 ボクシングを見る者ひとりひとりが、ボクサーだけでなくジムやコミッションをもしっかりした視線で見つめ続けてこそ、少しづつでもボクシング界の「民主化」が達成されるのだ、と考えます。


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