Evander Holyfield VS Lennox Lewis
Special

20世紀最後のヘビー級決戦……は仕切り直しということか?
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Holyfield


36W3L
25
36
189cm
160W75RSC14L






Record
KO's
Age
Height
Amateur record


Lewis


34W1L
27
33
196cm
94W11L

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ついに始まったCBSスポーツラインのプレビュー特集

●PREVIEW日記

目次
1.王者ホリィと挑戦者ルイス
2.帰ってきた本命ルイス
3.「3回KO」の真意は?
4.「ホリフィールドは後悔するだろう」
5.大丈夫か、ホリィ?
6.最終予想! 勝つのはどっちだ!?
1.王者ホリィと挑戦者ルイス

いよいよ「タイソンなきヘビー級」の時代がやってくるのかもしれない。いや、すでにファンの関心はタイソンからは離れつつあるようだ。2月初めに行なわれた全米のボクシングファンのアンケートでは、イベンダー・ホリフィールド対レノックス・ルイスという長らく待たれた王座統一戦が、「今一番見たいカード」に選ばれている。

この一戦は統一戦ではあるが、明らかに「王者」ホリフィールドにルイスが「挑戦」する図式だ。

ホリフィールドはすでにモハメド・アリとならぶ3度のヘビー級王座獲得を果たし、タイソンにも2連勝。今回のルイス戦にかりに敗れたとしても、リング史に残る英雄であることにかわりはない。

勝利をより必要としているのはルイスだ。ホリフィールド打倒を果たせば、ルイスの名は永久にボクシングファンによって語り継がれることになろう。逆に負ければ、真の頂点に立ったボクサーとして記憶されることは難しくなる。 1992年にルイスが初めてWBC王者になった際は、ノンタイトル戦でレーザー・ラドックに勝った星が評価され、リディック・ボウがごみ箱に捨てたベルトが与えられたものだった。ペーパー・チャンプ≠ニ揶揄されたルイスは、4度目の防衛戦ではオリバー・マッコールにまさかのワンパンチKO負けで王座転落。ボウやホリフィールドと肩を並べる機会を逸してしまった。

97年にマッコールに雪辱して、当時タイソンが放棄していたWBCのベルトを再獲得したものの、した試合は、マッコールが試合中に泣き出して失格になるという大珍事。強敵と思われたアンドリュー・ゴロタには初回KO勝ちしたが、中堅どころのシャノン・ブリッグスにはダウン寸前にまで追い込まれ(5回KO勝ち)たし、世界的には無名のゼリコ・マフロビクには判定でさんざん粘られた。

ルイスの右強打の破壊的パワーや巨体に似合わぬスピードは誰もが認めるところだが、王者としての存在感としてはホリフィールドやタイソンはおろか、(ソウル五輪決勝ではルイスがKO粉砕した)リディック・ボウにさえ及んでいない。

この一戦の予想はきわめて難しい。ホリフィールドとルイスはともに好不調の波が激しいからだ。相手が強ければ強いほど、ベストコンディションで驚嘆すべきナイスファイトを見せる一方、前評判の低い相手だと、なんともモチベーションに乏しい、まずい試合をしてしまうのである。

ヘビー級王者になってからのホリフィールドの試合の出来栄えは、まさに山あり谷ありだった。バスター・ダグラス戦、ジョージ・フォアマン戦あたりは順調だったが、マイク・タイソンとの最初の対戦話が流れ、代理として挑戦者になったバート・クーパーには大苦戦。なんとかストップ勝ちしたものの生涯初のダウンも食った。

リディック・ボウと戦った3試合は1勝2敗と負け越しているものの、どの試合も歴史的名勝負となったが、格下の対戦者とはたいてい凡戦になってしまった。

そんな傾向は最近も変わらない。タイソンとの第1戦で信じられないような快勝を演じる前の試合では本来L・ヘビー級でとっくにロートルのボビー・チェズを持て余していたのである。

波があるのはルイスも同様だ。プロでの出世試合となったレーザー・ラドック戦は、タイソンと激闘を演じた強豪をわずか2回で粉砕してファンをあっと言わせたが、その後の世界戦ではトニー・タッカーやフランク・ブルーノといった老雄たちに手を焼いた。

96年にこれまた当時落ち目のレイ・マーサーを相手に青息吐息の10回判定勝ちに終わったときは、「ルイスも全盛は過ぎた(当時31歳)」という声が上がった。だが、翌年にはマッコールに雪辱して世界王座に返り咲きして浮上。さらに強敵と見られたアンドリュー・ゴロタには圧倒的なKO勝ちで王座防衛、いまだに超一流の実力者であることを証明している。

ホリフィールドとルイスが互いをどの程度評価しているか、どれほど恐れているかで、試合の内容も変わってくるに違いない。ホリフィールドは言う。「ボクシングは相手があってするものだ。相手をナメるということはないが、練習量が少なくなることや、緊張感に欠ける時というのはある。ある相手が、他のボクサーよりも闘志をかきたてるということは、自然なことだろう? 最高のボクサーに勝つには、最高のコンディションでなければならないんだ」。 もちろん、今回の試合は両者にとって十分なモチベーションを与えるはずだ。

実績や、ボクサーとしての格ではホリフィールドが上だが、2人の相性としてはむしろルイスに有利な組み合わせと言えるかもしれない。判断材料となるのは、ホリフィールドとリディック・ボウの3試合だ。ホリフィールドはボウには1勝2敗と負け越しており、いずれの試合でもボウの巨体とパワーに相当苦しめられた。フォアマン戦やホームズ戦でも、巨漢の老雄たちをずいぶん持て余していた。ホリィはヘビー級としては中型ながら真っ向から打ち合うタイプで、パンチを受けることも多いのが影響しているのだろう。

ルイスはボウとほぼ同じ恵まれた体格を持っている上、右ストレートの威力だけならボウを上回っているだろう(ボウほどの左フックやアッパーのコンビネーションはないが)。タイプ的にはホリフィールドを苦しめる材料を持っている。

アメリカの専門家たちの予想も真っ二つだが、ルイスを支持する人々(チャック・ウェプナー・元ヘビー級コンテンダー、ジャック・ハーシュ・ボクシングニュース誌記者など)は、そろってルイスの体格とパワーを決定的な要因と考えている。たしかに、よく集中したルイスがラドック、ゴロタ戦のような出来栄えを見せるなら、ホリフィールドも苦戦は必至だろう。

だが、最近のブリッグス戦やマフロビク戦でもたもたしていた姿が現時点のルイスの実力を示しているのなら、ホリフィールドにとってルイスはただの大柄なパンチャーにすぎまい。威嚇するような眼差しで相手をびびらせるのもルイスの「武器」のひとつだが、これもホリフィールドにだけは通じそうにない。 ホリフィールド陣営のドン・ターナー・トレーナーは、「今回の試合は、ホリフィールドの楽勝だと思う」ときわめて楽観的だ。「ルイスは彼にとって生涯最高のファイトをするだろう。だが、ホリフィールドも生涯最高の試合をし、そして勝つだろう。私にはホリフィールドがルイスを打ち据える場面が見える。そしてルイスが倒れる場面もね」(ターナー)

ターナーは、今回の試合よりも3年前の最初のタイソン戦のほうが気分が重かったという。「ルイス戦は、タイソン戦よりも気が楽だ。今回はあの時ほど時間をかけずに倒せると思う。イベンダーはルイスを打ち合いに巻き込み、試合は接近戦になるはずだ。ルイスがそういう展開にしっかり対応できるとは思えない」

ターナーはルイスのファイティング・スピリッツに疑問を持っているという。「世界王者のルイスにハートがないとまでは言わないが、ルイスは苦しくなったら、逃げのファイトをすると思う。あからさまに試合を投げることはしなくても、ホールディングに終始するとか、足で逃げ回るとかね。
一方、勝利をあきらめるくらいなら死を選ぶようなファイターがごくまれにいる。アリとか、ホームズとか、ホリフィールドがそうだ。どんな試合でも、5ラウンドを過ぎたら意志の勝負になるんだ。今回も、5回を過ぎたらホリフィールドのものさ」(ターナー)

ルイスが自らの力を歴史上に証明するためには、精神力もまた示さねばならないようだ。(2/26)


2.帰ってきた本命ルイス

「ルイスが世界最強を名乗りたいなら、最強の相手と戦い続けなければならない」。イベンダー・ホリフィールドは、『ニューヨークタイムズ』デイブ・アンダーソン記者のインタビューに答えて、そう語っていた。

 世界ヘビー王座が「世界最強の男」の称号であるなら、この2人はいずれにせよ戦わなくてはなるまい。最重量級の「最終勝利者」は、イベンダー・ホリフィールドかレノックス・ルイスのいずれかであることは疑いえないのだから。

 ボクシングのリングは、約10年ごとに大いなる大河ドラマを生み出す。ホリフィールド−ルイス戦は、ひとつの大いなる時代のフィナーレを飾る試合となるはずだ(80年代中量級の偉大なる物語がマービン・ハグラー−トーマス・ハーンズ戦でひとつの結末を迎えたように)。

 現在のヘビー級の物語は、86年11月22日、マイク・タイソンがトレバー・バービックをKOした時にはじまった。ラリー・ホームズの支配した時代にマイケル・スピンクスが幕をひいて14ヶ月後のことだ。タイソンはその後の1年たらずであっという間に世界王座統一をなしとげた。新帝王タイソンは「強すぎて相手がいない」という、ホームズと同じ不運がつきまとうかと思われた。

 だが、ヘビー級シーンは、クルーザー級から転級してきたホリフィールドがヘビー級の上位ランカーを次から次へとKOすることで風雲急を告げる。

 とはいえ、タイソンにとってホリフィールドが真の脅威だと思っているウォッチャーは少なかった。“ファイナル・チャレンジャー”、たしかにホリフィールドはそう呼ばれた。しかしこれは、「タイソンを倒すとしたら、この男だろう」という意味ではなく、「ホリフィールドをかたづけたら、タイソンにはもう相手がいない」という意味だったはずだ。

 だが、ホリフィールドの挑戦を直後にひかえた90年2月の防衛戦で、タイソンは伏兵ジェームズ・ダグラスにまさかの10回KO負けを喫する。圧倒的な強さと存在感を誇ったタイソンだが、それゆえか、相手ボクサーによってではなく、自らの人生そのものによって打ち倒された観がある。タイソンの絶対王制は崩れ、ヘビー級は戦国時代に突入した。ダグラスはタイソンに勝っただけでバーンアウト(燃え尽き)し、ホリフィールドに簡単にKOされてしまう。

 タイソン打倒を果たさずしてヘビー級王者となったホリフィールドは、80年代後半から90年代にかけてヘビー級に出現したトップクラスの強豪ボクサーのほとんどと戦い、これを打ち破った。たしかに、リディック・ボウにだけは1勝2敗と負け越している。だが、一時は「新時代の覇者」と見なされたボウから世界ヘビー級王座を奪回したことで、ホリフィールドの高評価はむしろ増幅されるだろう。しかも、ボウがとっくに去ってしまった後も、トップで戦い続けた。そしてなんといっても、マイク・タイソン戦(とりわけ第1戦)の劇的勝利でホリフィールドの名はボクシング史上の巨星として輝くことになったのである。

 前回も述べたが、ホリィ−ルイス戦についてより厳密に言うならば、ホリフィールドは「チャンピオン」であり、ルイスは「チャレンジャー」だ。「ルイスは『そうなりたい』と思っている。私はもう『なってしまった』のだ」(ホリフィールド)

 結局中止となったアキンワンデ戦へのトレーニング中、記者に「歴史上どう評価されると思うか?」と問われ、ホリフィールドは「記録面から見れば、最高のボクサーのひとりだろう」と答えた。「私はアリと同じようなボクサーと言えるだろう。私はけっして恐ろしげなファイターではない。アリもそうではなかった。しかし、アリが人気があったのは、あらゆるファイターを打ち破ったからだ。私も、あらゆる敵を打ち破った。たぶん、私は引退してからもっと人気が出るだろう」。

 たしかに、ホリフィールドはあらゆる敵を打ち破った。ただひとり、レノックス・ルイスを除いては− 。

 ルイスは「帰ってきた本命」と言っていいだろう。彼の才能は、アマチュア時代からすでに大輪の花を咲かせていた。ソウル五輪では、リディック・ボウを叩きのめしてS・ヘビー級の金メダルを獲得している。 しかし、この金メダルは現在国籍を置く英国代表としてではなく、「カナダ代表」として獲得したものだった。プロ入りに際して、生まれ故郷のイギリスに国籍を戻したルイスだったが、「出戻り」に英国国民は冷淡だった。

 指名試合を拒否してリディック・ボウがゴミ箱に捨てたWBCヘビー級のベルトを獲得しても、「ペーパーチャンプ」との呼称がついて回った。ルイスの王座の根拠となったドノバン・ラドック戦はノンタイトル戦であり、後から「勝者はタイトルに値する」と追認されたからだ。フランク・ブルーノとの「英国人対決」でも、イギリスの観衆はブルーノに声援を送った。

 その才能に見合った成功を収められないまま、94年9月にはオリバー・マッコールにまさかの右一発KO負けを喫して、ルイスは最前線からは大きく後退した。

 90年代前半には、ボウ−ルイスの「二巨頭時代」が来ると思われていた。2メートル近い長身、パンチ力、スピードと、あまりに豊かな身体的素質に恵まれた両者が頂点を争うライバルとしてヘビー級をリードすると思われたのだ。しかし、そういう時代はついに来なかった。

 だが、ルイスはじわじわと復帰してきた。「右一本の強打者」と言われたルイスだが、エマヌエル・ステュワードのもとに身を寄せ、苦心しながらも左ジャブにも磨きをかけた。スタイル改造のために一時は低迷の色をますます濃くした時期もあったが、徐々に調子をアップ、昨年2月、因縁のオリバー・マッコールに戦意喪失させて王座に返り咲く。その後の防衛戦、アンドリュー・ゴロタ戦、ヘンリー・アキンワンデ戦、シャノン・ブリッグス戦はいずれも絶好調で、格の違いを見せつけている。

 今、遅まきながらルイスは「キング・オブ・キングス」への名乗りを上げつつある。たしかにホリフィールドはルイスをはるかに上回る実績を持ってはいるが、“リアル・ディール”が「あらゆる敵を打ち破った」と広言したいのなら、レノックス・ルイスは無視できる存在ではないはずだ。

 しかし、対戦の実現を引き延ばしていたのはホリフィールドであったように見える。昨年暮れにHBO・TVが「2000万でルイス戦を」をオファーした時には「2500万でなくてはやらない」と拒絶。この7月上旬同じHBOが「2500万ドル」を提示した際には、「3000万ドル」に価格をつりあげた。

   先述のアンダーソン記者は「あなたが本当に王座統一をしたいなら、ギャラが多少少なくともやればいいのに」と突っ込んだ。これに対しホリフィールドは、「バスター・ダグラス戦では、ギャラの話抜きで戦った。2度も、3度もそういうことをしなくてはならないのかい? 」と答えている。

 とっくの昔から超億万長者のホリフィールドは、タイソン挑戦の動機を「金ではなく、自分が最強であることを証明するため」と語っていたものだ。しかし、「最強」が証明されてしまった今は、あらためて目標を「報酬」と定めたのかもしれない。

 ホリフィールドは『USAトゥディ』紙のインタビューで、「長年の激闘で、パンチドランカーになる不安はないのか? 」と問われたときには、「理由なしにリングに上がる人は、パンチドランカーになりやすい。私には戦う理由がある。だから私は大丈夫なのだ。君の仕事(記者)と同じくらい安全だ」。その「理由」が、金ということなのか、それとも「神」なのか……。(2/27)


3.「3回KO」の真意は?

ホリフィールドが「3回KO」を宣言している。「これは予告なんかじゃない。そんなのは天気予報でやってればいいんだ。私は、本当にルイスをノックアウトする、と言ってるんだ」

なぜ3回に倒すのかというと、「3という数字は、父と子と聖霊の三位一体を表わしているから」だそうだ。ホリフィールドの信じるキリスト教はどういうものなのか謎めいてくるが、本人は大真面目らしい。

ホリフィールドがまるでかつてのアリみたいな毒気を含んだ「予言」をしているのは、ルイスに「偽善者」呼ばわりされたからだ。ルイスは「聖者みたいな顔をしやがって、あっちこっちに子供を作りまくっている。ホリフィールドはとんだ偽善者だ」と吐き捨てたのである。

「たしかに、私の9人の子供のうち、5人までが私生児だ。2人は去年生まれた。しかし、私は偽善者などではない。偽善者とは、逃げる人々のことだ。私は逃げない。ルイスがなんと言おうと彼の勝手だが、その代償は払ってもらうぞ。私は28年と17週間もリングで戦ってきた。リングで何が起こるのかは、予測できる。信じない人は3月13日を見ればいいさ」(ホリフィールド)

ホリフィールドは、「傲慢になっているのでは? 」という疑義もはねつける。「傲慢っていうのは、自信過剰で、横柄になっている奴のことをいうんだ。私は、レノックスが良いファイターじゃない、なんて言っていない。彼はグッド・ファイターさ。今回も良い試合をするだろう。だが、私はレノックスをKOする。私はかつてないほどスピリチュアルになっていて、そのことが私に自信を与えてくれるんだ」

トレーナーのドン・ターナーは、この「予言」にはあまり共感していないようだ。「3回KOの予言は感心しないな。だって、初回と2回はどうするんだ? 3回でKO勝ちできるのなら、初回にそれが起きてもいいんじゃないの? 」

いずれにせよ、ホリフィールドが早い回に勝負をかけるつもりなのはたしかなようだ。しかし、実はこれはタイソンとの緒戦に取った戦術でもある。序盤でKO決着を狙うくらいのテンションの高い攻撃をしかけてこそ、タイソンの圧力を撥ね返し、主導権を取ることが出来たのである。

体格ではるかに優るルイスを相手に、終盤の消耗戦を戦うのはたしかに辛い。テクニックとスピードの優位を最大限に生かして、疲れる前に勝負を決めてしまいたい、というのがホリフィールドの考えなのだろうか。しかし、それなら初回KOの方がもっと良いのでは?!(3/9)
4.「ホリフィールドは後悔するだろう」

かつてホリフィールドとコンビを組み、今はルイスのトレーナーについているエマニュエル・スチュワードは、今回の試合のキーパーソンのひとりだ。一時はスランプ気味だったルイスを、もう一度巨漢スラッガーとして再生させた功績は高く評価されている。「ボクサーとしての格はホリフィールドが上だが、スチュワードがいるから、ルイスが勝つ」と予想する米国の関係者も少なくない。

そのスチュワードが、「私はホリフィールドにとても親近感を持っているのだが」と前置きした上で、「ホリフィールドにとって、今回のルイス戦は最悪の悪夢になる。彼は、対戦を後悔することだろう」と発言している。

「私がイベンダーのスタッフだったら、ルイスとは対戦させない。タイソンを破った時点で引退すれば良かったと思うよ。

ルイスが精神を集中してリングに上がったなら、ホリフィールドにはノーチャンスだ。ルイスは強いジャブを持っている。ホリフィールドは強いジャブを持つ相手には常に苦しんできたんだ。それに、多くの戦いをしてきた彼は、腫れやすく、切れやすくなっている。パンチ力だって、ルイスの方がはるかにナチュラルなハードヒッターだ。

なにより重要なファクターは、ルイスは今まで得られなかった認知を得ようと、非常にハングリーになっているという点だ」(スチュワード)

いくらホリフィールドとも親しいとはいえ、今はルイスについているスチュワードだけに、『ルイスが負けそうだ』というはずはないが、彼の上げる根拠にはそれなりに説得力はある。比較的パンチを受けるタイプのホリフィールドは、リディック・ボウやジョージ・フォアマンの強いジャブに散々小突かれて消耗した。ただでさえ巨漢が苦手とされるホリフィールドだ。ルイスが気持ちを集中させて強いジャブをつき続ければ、たしかにホリィには嫌な展開になるかもしれない。

だが、スチュワードには「不安材料もある」という。「あんまり、チェスみたいなことを考えないでほしいんだ。エモーショナルになって、がんがん攻めてほしい。ルイスはまだ、ポテンシャルの75パーセントくらいしか見せていない。ホリフィールド戦では、残り25パーセント、少なくとも10パーセントは見せてほしいね」(スチュワード)

ルイスのベストファイトとされるレーザー・ラドック戦やアンドリュー・ゴロタ戦では、たしかに、立ち上りから「がんがん」攻めた。逆に、距離を取り、緩いテンポの試合になったとき(レイ・マーサー戦、トニー・タッカー戦など)は、つけこまれる場面を作ってしまっている。スチュワードの思い描くベストのルイスは、徹底的に攻撃的なスタイルを意味しているのだろう。

スチュワードの育てたボクサーの最高傑作トーマス・ハーンズの武器を、ルイスも持っている。長身、スピード、ジャブ、ストレートと。“ヘビー級のハーンズ(本物のハーンズもクルーザーにまで上げてきているが)”こそが、スチュワードの思い描く「100パーセントのルイス」なのかもしれない。(3/11)
5.大丈夫か、ホリィ?

特にこの1〜2年、多くの人がうすうす気づいていたことではあるが、ホリフィールドの様子が変である。対タイソン緒戦に勝ってからというもの、独自の信仰心にラジカルさが加わったようで、「神の意志」、「神のおつげ」が笑ってしまうほど発言に頻出するようになった。ホリフィールドの「御宣託」に比べれば、「わかったよ。ようするに、神様は俺のことなんか愛しちゃいないってことだな」と吐き捨てたタイソンの方が百倍もわかりやすい言葉である。

最近の防衛戦では、ゴスペル・ソングを大声で歌い続けながら入場してきて、リングに上がるときにはもう半ば恍惚状態になっているように見える。まあ、なにしろHOLY FIELDという名前なのだからしかたないのかもしれないが(このもの凄い姓の由来は一度調べなければなるまい)、それにしても「神」を濫用しすぎちゃいないか。

例の「3回KO」の予告も、神に由来するお達しらしい。これにはさすがのドン・ターナー・トレーナーも、「私は普段は自分のファイターの発言等にはあまり注意をはらわないが、ホリフィールドは別だ。しばしば、私は彼の言葉を信じる。だがそれだけに、今回の3回KO予告には困惑しているよ」と言う。「私は、勝負を5回以降に持ち込みたい。そうなれば、勝負は意志の問題が大きくなってくるからだ。そうなれば、ホリフィールドが勝つ」(ターナー)

ホリフィールドの「変貌」ぶりは、とうとう地元アメリカでもあからさまに批判され始めたようだ。ホリフィールドの地元アトランタからきたファンは、記者会見で「神」や「予言」を語りまくるホリィを見て、「なんだあいつは。ずいぶん変わっちまった。もう、俺の知っているホリフィールドじゃない」とさみしげに去っていったという。たしかに、かつてホリフィールドと言えば、クラシックなまでに抑制の効いた、格調高い物言いでファンを集めていたのではなかったか。

なにかといえば「ガァーッド」、「ガァーッド」というアメリカ人にさえ、とうとううさんくさく思われはじめたホリフィールド。彼に何が起きているのだろう。

もちろん、世界チャンピオン、ましてヘビー級の王座に長く君臨することは、想像を絶するプレッシャーのかかる仕事だろう。頭のネジの4,5本が飛んだところで、何の不思議もない。ただ、ホリフィールドの場合、つねに取り沙汰されるステロイドもしくは筋肉増強剤の影響が気にかかる。

ホリフィールドは否定しているが、彼にはステロイド使用の疑惑はつねについて回っている。いわゆる男性ホルモンの類似物質であるステロイド系の薬品を体内に取り入れることで、筋肉はより分厚く、逞しくなる。 問題は副作用だ。頭が薄くなるのはまあ良いとしても、心臓に異常をきたすことがあったり、心理状態が異様にアグレッシブ・攻撃的になったりするらしい。頭髪、心臓、異様なアグレッシブネス、すべてホリフィールドに当てはまる。

ステロイドは、検査される何ヶ月か前に服用を中止すれば、ドーピング等で検出はされないという。巨漢ルイスとの対戦をホリフィールドが延ばしに延ばしたのは、ステロイドでルイスに少しでも対抗できるような体を作り、その後服用の痕跡を消すための期間を確保していたのではないのか。

ステロイドを使用していようが、「神」という言葉を乱発しようが、ホリフィールドのボクサーとしての偉大さにはなんら損害を与えない。ホリフィールドは、「いくら神を信仰しても、それに見合ったハードワークをしなければ何の意味もない」という自らの信条を実践してきたし、健康を大きく損ねることも(たまにしか)なくパワーアップにも成功してきた。

ただ、ただ、やはり最近のホリフィールドには「危うさ」を感じてしまう。態度が「異常」と呼びうる次元に入ってきてはいないだろうか。それが、ボクサーとしての戦力アップにつながるのか、ダウンにつながるのかは、これまたわからないとしても……。(3/12)
6.最終予想! 勝つのはどっちだ!?

いよいよ、いよいよゴングまであと半日である。あと?時間で、マジソン・スクエア・ガーデンのリング上で両雄が相対する。裁くレフェリーはボクシング界のジョン・グレン、アーサー・マーカンテ(78歳)だ! はやる気持ちを抑え、ここで僕の予想を明らかにしておかねばなるまい。

まず、白状しておかねばならないが、僕には「ホリフィールドに勝たせてやりたい」という気持ちがある。あの小さな体で、「アリ時代以来」ともいえる歴史的強豪のそろったヘビー級を勝ち抜いてきたのは、まことに立派のひとことに尽きる。25−1という賭け率を撥ね返してタイソンをKOした試合は、ボクシング史上空前のスペクタクルだった(あの時のタイソンも、全盛ではないとしても、十分すぎるほどテリブルなファイターだった)。誰からも逃げずに戦ってきた男が、あと1勝で、最終的勝利者になれるのである。ちょっとくらい変なことを口走っても、応援したくなるではないか。

そんなホリフィールド・ファンの僕が考えても、今回の試合はルイスの出来ひとつにかかっているような気がする。それくらい、やはり体格の差(体重で13・6キロ、身長で7・6センチ、リーチで17・8センチ、ルイスが上回る)は大きい。ホリフィールドがベストの試合をしたとしても、あのマキシム−ロビンソン戦のように、圧倒的優勢な方が消耗して突然倒れてしまうような展開さえ予想できる。

だから、おそらくホリフィールドの「3回KO」予告は本気だろう。この“リアル・ディール”と呼ばれる男の凄さは、チャンスに勝負をかけきれることにある。僕たちはリディック・ボウ戦で、捨て身のラッシュをしかけたホリフィールドがそれでもボウを倒しきれず、生ける屍のようにリングをさまよう姿を見た。タイソン戦でさえ、もし(と言っちゃいかんのかもしれませんが)11回をタイソンが生き延びていたら、12回を戦う力がホリィにあったかどうか。

タイソンとの初戦では、ホリフィールドは初回勝負に出ていたという。事実、最初の3分間にかつてない衝撃を頭部に受けたアイアン・マイクは、その後の攻撃力を大いにそがれた。ホリフィールドが、「この試合に第4ラウンドはない」と断言するとき、それは「第4ラウンドを過ぎたら自分の勝利はない」つもりで戦う、という意味かもしれないのだ。この大勝負でそういう賭けをやりかねないのだ、ホリフィールドという男は。

まず間違いなく、ホリフィールドは立ち上りから打って出る。問題は、それを迎え撃つルイスの戦術だ。エマニュエル・スチュワードは前々から「チェスをするな。打ち合え」と指示している。全盛期のトーマス・ハーンズがデュランやパブロ・バエズを轟沈させたあのシーン、あるいはジョージ・フォアマンがフレージャーやケン・ノートンを粉砕したあの驚愕の場面を再現しようというのだろう。

だが、ルイスが試合をどう立ち上げるのかは、じつに重要かつ予想困難な事項だ。ルイスとスチュワードの間には、直前になって不和説も囁かれてきた(まあ、こういう話はワナであることも多いのだが)。スチュワードの要求する「最初からスパーク」作戦をルイスが採用しないケースもありうる。

結論を言えば、ルイスは打ち合うべきだろう。それも激しく。スピード、技術はホリフィールドの方が上だ。ホリィがミスを犯すか、疲れるかしなければ、ルイスの右が大爆発することは考えにくい。だからこそホリフィールドはまだ元気なうちに勝利をつかんでしまおうと考えているのではないか。多少の被弾を覚悟した打ち合いこそ、ルイスが体格の利を生かせる戦術だ。

たしかに、ルイスのジャブも出せばかなりヒットするだろう。しかも、中盤まで当たり続ければ、相当のダメージも蓄積するだろう。しかし、ルイスが「ジャブでとりあえず距離を取ろう」などと思っていると、ホリフィールドの決死の攻撃にパニックに陥れられることになるかもしれない。ホリフィールドやタイソンといった、本質的にハイテンションのボクサーに勝つには、自分も燃えたぎる何かを正面からぶつけなければならないはずだ。

実際、この試合だけは、ルイスは燃えたぎっているはずだ。この試合ほど重要な試合は、ルイスにとって、後にも先にもありえない。本人自身が「今回ホリフィールドに勝てば、歴史に永遠に名前が残る。仮に敗れるようなことがあったら、『強いボクサー』とさえ呼んでもらえないだろう」と言っている通りだ。ルイスは実際は「強いボクサー」なのだが、もし今回負けたら、多くのファンはまもなくルイスのことを忘れてしまうだろう。

ところで、そのことでホリフィールドがまたまた不可思議な発言をしている。「誰も、俺のキャリアを否定することは出来ない。俺のキャリアは、俺がくぐり抜けねばならなかったすべてのことと、戦わなくてはならなかった全ての相手たちによって決定されているんだ」(ホリフィールド)。これは聞きようによっては、「ルイスに負けても、俺がタイソンに勝ったことやボウたちと凄い試合をしたこと、3度もヘビー級王座についたことを忘れないでくれよ」と言っているようにも聞こえる。とすれば、ホリィは負けたときの布石を打っていることにもなりかねない。真意をはかりかねる言葉だ。

とにかく、ホリィーは出る。ルイスにもそれに応じ、試合は打ち合いになるだろう。そして、この序盤の打ち合いを制するのは、やはりホリフィールドだと思う。ルイスの右よりも速く左フックをねじ込むための反復練習をいやというほど繰り返してきているからだ。「タイソンに左フックをカウンターで打つ」という、誰も信じられなかった予告を実践してみせたホリフィールドだ。あの時のホリィは、ボウに雪辱したときやダグラスをKOしたときと比べても、格段に力強く、パンチが切れてもいた。すでに36歳(同い年……)のホリフィールドに上がり目は期待できないとしても、多少ともあの時に近い動きが出来れば、ルイスに左フックを決めるだろう。

う〜ん、問題はその後だ。おそらく、先に大きなチャンスを(おそらく左フックで)つかむのはホリフィールドだろうが、ぐらついたルイスを一気にしとめられるかだ。たしかにマッコールにはストップされたが、ルイスはけして打たれもろくはない。マッコールのカウンターは例外的なほどに絶妙のタイミングで決まったのだ(ルイスの油断もあった)。ルイスの長い手足のクリンチをふりほどいてフィニッシュブローを決めるのは容易なことではない。ホリフィールドにとっての理想を言えば、最初のチャンスはイコールKOであってほしいのである。「チャンス」ではだめで、「ワンパンチKO」がほしい。ホリィもそういう意識で「ドリル」をこなしているはずだ。

ここで、ルイスのコンディションとディタミネーションが問題となってくる。ルイスが好調で、精神的にも良く集中していれば、幾度かのピンチをしのぎ、ホリフィールドの息が上がったところで反撃ということもありえる。ドン・ターナーは「5回以降は意志の問題」と言ったが、 5回を過ぎたら体力差が出てくることもたしかだ。まして、ホリフィールドは、世界のトップボクサーの中でもきわめて珍しい、ペース配分をしないボクサーである。つねにトップギアなのだ(これは、打倒タイソンを念頭においたスタイル作りをしてきたからだろう)。中盤を終えてポイントでリードしていないと、ホリフィールドは苦しい。

逆にルイスがやっぱり田舎ファイターなところが出て、ホリフィールドの攻勢にアワを食ったりするようだと、まさに「3回KO」の予言が実現することもありうる。

結論を言うと、たしかにポテンシャルはルイスの方が明らかに高いのだが、今回の試合ではそれは出ないだろう。ホリフィールドの勝負根性がそれをさせないからだ。ずばり、予言の「3」よりも早いラウンドで、左フック一発で勝負が決まると見る。初回か2回、ワンパンチで腰からすとんと落ちたルイスは完全に下半身が言うことを聞かず、尻餅をついたまま泣き笑いしつつテンカウントを聞く……。そんな像が浮かぶのですが。(3/13)


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