書いた人 SYK
■森の牙参加メンバー ミオ・コーズムーン ジオ・マクレガー アルス GM 黒光氏 サポート いずみの氏 #注:細部は実際と異なるところもあります。 魔術師、アルスはターデンの町、森の牙亭へとたどり着く。昼食を取ろうと、注文をした矢先、トランクをさげた少女が慌てた様子で飛びこんできた。 彼女は「盗人がいる!」と扉の方を向いてわめき散らす。するとそこから入ってきたのはジオ・マクレガー、その人だった。 ジオは「俺は盗人では無い」とだけ話し、カウンターに腰をかけた。アルスは少女とジオの双方から事情を聞く。 どうやらジオは彼女の荷物を運ぼうとしただけらしい。ジオは引きずるように荷物を運んでいた彼女に親切をしたつもりだったのだが、彼女にしてみればあまりにも唐突だったので盗人と勘違いしたようだ。 森の牙亭の親父が仲介し、しぶしぶ引き下がった少女は、怪訝そうな目でジオを見ながら親父に何かを相談し始める。 その二人をカウンターで昼食とっていたミオが呼びかける。 『どうしたの?』 彼女は、マリアというファウン信者。話によると、ターデンの近くの村に現れたと言うヴァンパイアを追ってこの町まで着たそうだ。 その話に俄然、興味心が沸き立たせるミオとアルス。二人はマリアに協力することを決め、なし崩し的にジオも巻き込まれる。 彼女はファウン信者の特殊技能「アンデッド感知」を使えないらしく、ヴァンパイアの所在を突き止めることが出来ない。 ジオ、ミオ、アルスの3人は彼女からできる限りの情報を聞き出そうとするが、どうも彼女の口調は歯切れが悪くこれといった収穫も無い。 得られた情報といえば、ランシルヴァという村から来たこと。ヴァンパイアはどうやらこの辺りに潜伏しているらしいこと。そしてヴァンパイアもまた女性であること。最後にマリアはヴァンパイの容姿を教えてくれた。 やけになってアルスがターデンの町で聞きこみを開始するが、彼女から聞き出したヴァンパイアの容姿に該当する人物は一人もいなかった。 彼女、マリアを除いては。 奇妙なことにマリアが話したヴァンパイアの容姿はマリア自身にぴったりと当てはまったのだ。 小柄な銀色の髪。紺色の瞳…… ターデンの住人からも、 「昼間、森の牙に入っていった少女がそれらしい」 という証言も得る。 あまりにも情報が少ないこと。昼間、どこか妙な態度で話していた彼女。 そしてこの容姿の酷似。 彼女は「ヴァンパイアの発見方法は最初の犠牲者を待つしか無い」といい、森の牙のに二階に宿を取った。 いくらなんでも彼女はあやしすぎると睨んだ3人は、護衛を装ってミオを彼女の同室に送りこんで、探りを入れる。 ジオとアルスは隣の部屋で待機。状況の把握は《危険感知》に任せ、いざというときにいつでも突入できる体制をととのえる。 とりあえず部屋に入れてもらうことに成功したミオはなんとかメアリから情報を得ようと話しかけた途端、《魅了》の視線を浴びせられる。ミオは高レベルの《魅了》の前に抵抗できず、魅入られてしまう。 ここで危険を察知したジオとアルスはメアリの部屋に強行突入。ジオはメアリに切りかかろうとするが、ミオに阻まれる。《魅了》で操られているのだ。 アルスは必死に説得を試みるが、場を混乱させるだけに過ぎない。反撃の《魅了》の視線を抵抗するのがやっと。 ミオはマリアにあやつられるがまま、ジオに攻撃を続けるが防護点の高いジオにはダメージが届かない。組みつきも試みるが体力の高いジオには振りほどかれてしまう。 そしてミオの防御をかいくぐり、ついにジオが致命傷ともなり得る一撃をマリアに与える。 傷を負ったマリアはトランクへ駆け寄るが、アルスがそれを阻むための組みつきに成功。すぐさまジオが組みつくのを変わり、押さえ込みにかかるが《瞬間転移》で逃げられてしまう。 やはりヴァンパイアは彼女の方だったようである。 傷の手当てを終えた3人は恐る恐る、彼女がのとランクを開ける……。 すると中には全裸の少女が。 かなり衰弱したようで首には無数の小さな丸い傷跡がある……。 3人が応急処置をするものの、全裸の少女の衰弱は激しくまともに話しも出来ないほどだった。 ミオはおかゆを作ってもらい、アルスはサリカ神殿に医者を呼びに行き、ジオは扉を蹴破ったので森牙の親父に怒られる。 アルスは首尾よく医者を見つけ、森の牙へ帰ろうとするが夜道で傷ついたマリアと出くわす。 服は血で染まっていた。寝具のところどころが破れ、血が染み付き、あるいは泥で汚れている。 彼女を不憫(ふびん)に思い、アルスは再び説得を始めてしまうが、トランクの中身を見たことを話してしまった途端マリアは豹変する。 同伴していた医師は、サリカ神殿での話し合いを提案する――ルナルではサリカ神殿の中で嘘をつくことはできないと言われている――が、マリアはその首を一撃で吹き飛ばす。 アルスは恐れおののき森の牙へ逃げ帰る。 「……待っていなさい」マリアはそう言い残し、再び闇へと消えた。 一方、明け方近くになってようやくまともに話が出きるようになったトランクに押し込められていた少女からジオとミオは情報を引き出す。 彼女はシヒド・トーマシルヴァと名乗る。彼女こそがファウン神官らしい。 マリアが殺人を犯したことをアルスから聞き、シヒドは酷く動揺する。 「きっと、私が居なくなって気がどうかしたんだわ……」 シヒドの話によるとシヒドは決してつかまっていたわけではなく、ともに旅をしていただけだと言う。よほど独占欲が強いのだろう。 それとも純粋に、友達を失うが恐いのか――。 シヒドとマリアは同じ村の出自で、ファウン神官であるシヒドは人間から生まれたヴァンパイア――、つまりヴァンパイアハーフのマリアの身を案じて、彼女の父親探しの旅を助けていたのだ。自分の血をマリアに与えながら……。 マリアが探していた「ヴァンパイア」とは、父親のことだった。見つけて、話してどうなるかは彼女自身も具体的には考えていない。 父親とあってどうこうではなく、「父親を探す」ということ自体が彼女の目的になっているようだ。 3人は動揺する。 ヴァンパイアであるマリアを、葬るべきなのか、それとも……。 そこへマリアは現れた。 締め切った窓枠の隙間から黒い霧が染み出す。それはベッドのシヒドを包み込むように広がった。 とっさにシヒドをベッドから引きよせ、かばう3人。 霧はやがて人の形に固まり、傷だらけのマリアへと変わった。 「……その娘を返して」 シヒドはマリアと共に旅を続けたいと言う。 3人はシヒドがいなくなったときのことを考ると、二人をこのまま見逃すわけにはいかなかった。 『でも、シヒドさんがいなくなったら?』 マリアは父と同じようになる――つまり、ファウン神官に追われる真のヴァンパイアとして生きることになるだろうと悲しげにつぶやく。 突然ミオが明るい表情をし、大急ぎで黒板にかき殴った文字を全員に見せる。 『信仰を変えればいいのね!』 人間はヴァンパイアほどは長く生きられない。血と心のよりどころだったシヒドがマリアより先につきに召されるのは明らかだ。 なら、その先のことも見据えて月の信仰に目覚めさえすれば、ひょっとすると人間になれるかもしれない。ルナルでは月は原人の子の心身に多大な影響を与えるのだ。 この意見にジオとアルスも賛成する。それを聞いてシヒドも納得したように――諦めたか、あるいは疲れたかのように――マリアにつぶやく。 「生き方を変えた方がいいのかもね」 アルリアナの神官であるミオはさっそくマリアをアルリアナ神殿に勧誘する。 『いっしょにアルリアナ様にお仕えするの』 アルスは「魔法の素質があるのなら魔術師に」とぼそぼそつぶやく。 ジオは知らん顔。 そのうち蹴打術使いのハーフヴァンパイアの話が有名になるかもしれない。 でもそれはまた別にお話し。 いまのところは森の牙にウェイトレスが二人増えただけ。 一人はちょっと八重歯が長いかもしれないけど。 ―The End― |