「敗北者」の心の傷

 ユーリ「これは重いですね」

 バレリア「ゲーマーが忘れがちなことや。大半のゲームではPCは『勝利者』やけんのお」

 ユーリ「でも、最近は結構違うのでは?『天羅万象・零』の戦闘用傀儡とか」

 バレリア「ん、確かにシステムの発展はすごいの。でも、要はプレイヤーがどこまでそれを自覚し、活用するかや。『ひめゆりの塔』では手榴弾は集団自決の道具やが、『地下水道』ではブービートラップになる」

 「ひめゆりの塔」と「地下水道」:前者は沖縄戦映画。これまでに3回映画化されている。筆者は香川京子バージョン(1954)がお気に入り。「地下水道」は大戦末期のポーランドのワルシャワ蜂起を描いた超傑作戦争映画。監督はアンジェイ・ワイダ。

 バレリア「切り殺した後で『ああ、こいつを殺したんやな』という『精神的な手応え』を意識を……少しはした方がええ」

 ユーリ「そう言われましてもねえ……いちいち気にしてたらきりがありませんよ」

 バレリア「一理あることは認める。しかしのお、PCに切られたNPCの家族はどうなるんやろか、辛いんやないやろか、首でもくくるんやないやろか……。そうした『痛み』が『舞台裏』では展開されとるかもしれへん」

 ユーリ「うーん、『カムイ伝』みたいな感じですね」

 「カムイ伝」:忍者・武芸者・侍の「階級制度」(侍は100人いても1人の忍者に勝てない、てなこと)を導入したことでも知られる(?)が、ほんまは封建制度の矛盾や被差別部落問題にまで踏みこんだ傑作である、と筆者は思っている。

 バレリア「まあ、『敗北者』の苦しみを描いた作品としては萩尾望都の『残酷な神が支配する』がピカイチやろな。小学館の『プチフラワー』に掲載されとった。2001年7月号やったかなあ、完結したのは」

 ユーリ「でも、あのマンガってそこらに転がっているヤオイよりキツイじゃないですか!」

 バレリア「それも認めざるをえんな。なんせ萩尾望都のファンの間でも評価が分かれているぐらいやしの。でも、『敗北者』の描き方は実に秀逸。理想の夫兼父を目指していたのに妻にあらぬ疑惑をかけて人格が破綻したエリート、『淋しい』という言葉を発見できず家庭を崩壊させてしまう銀行マン、実母への異様なまでの気遣いから養父からのホモセックスを拒否できず男娼にまで堕ちていく少年、幼少時の性的虐待がフィードバックしてくる男好きの母、劣等感を誤魔化すためにドラッグを常用する青年、双子の弟との間にできた赤ん坊を殺害して失語症になる少女等々。作者本人が心の病を患ったんか、というくらいリアリティがある。舞台はアメリカとイギリスやけどな」

 ユーリ「心の傷、ですかあ。外見に現れないんで対処難しいんですけど」

 バレリア「そう、そこがしんどいんや。ねんざとか脱臼なんかの外傷やったらたいがいの人が分かるけど、心の痛みは専門医やカウンセラーでもないと分からへんのや。『敗北者』を理解する必要があるんや。で、萩尾望都の場合、そういう作品が山ほどあるんや」

 ユーリ「TV版『イグアナの娘』はどうなるんでしょうか?」

 バレリア「……(怒り)」

 TV版「イグアナの娘」:原作の萩尾望都が「お任せします」とだけ言って台本すら読まなかったことでダメダメさは立証されている、と言っても過言ではない。

 バレリア「『イグアナの娘』は娘を愛せない母と母に愛されたい娘の葛藤を描いた短篇や。この母は本当は娘を愛したかった、マジで。せやけど、自分の『正体』を知られるのを恐れてただただ娘を苦しめ続けた」

 ユーリ「……でも、母も辛かったんでしょうねえ」

 バレリア「彼女も人生の『敗北者』やったんよ。『加害者』であると同時にね」

 ユーリ「昨今問題の『児童虐待』にもつながりますね」

 バレリア「ほやな。児童虐待に関するアンケートかなんかで虐待する父母もまた幼少期にひどい目におうたことが多いらしいし」

 ユーリ「となると、敗北者達をPCにするシナリオもおもしろいんじゃありませんか?」

 バレリア「あんた、何考えとるねん。以前、『差別』について記事を筆者が書いとるん忘れたんか!『敗北』をカリカチュアするんはやめい」

 ユーリ「へへー」

 バレリア「分かって言うとるんか?まあええ、あんたもちょっとずつ進歩やろ。筆者はどうだかの」

(みんなで「太陽を返せ」を歌いたいので続く)

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