「ブルーフォレストRPG デザイナーズ・エディション」

キャンペーン第2話「チャンプトゥールの死闘」

広島大学SF研究会OB 上田洋一
 PC・NPC紹介
 ヤーノシュ 剣士 出身は遊牧 男性
 強力な男。しかし、力まかせに暴れるような粗野な人物ではない。むしろ理知的。プレイヤーは徳島の近藤“牛乳マスター”崇仁さん。

 カーウィ・アスミア 舞姫 出身は野賊(山賊みたいな存在である) 当然、女性
 ヤーノシュにはやや見劣りするが、強力。「武踏家」って呼んだ方が合っているかもしんない。いまさら言うまでもないけれど、舞の達人。プレイヤーは「Rの鉄人」の副会長代行の田中さん。

 ヤーニャ(NPC)
 チャンパトゥール村のダーマチャキ神殿に仕える中年女性の神官。犬ゴブリン(他のファンタジーRPGにおけるコボルト的存在)よりも弱い。だって、NPCがPCより強かったら問題でしょ。ま、支援系呪文は結構使えるけど。

アウル(NPC)
剣士。強力な武器であるファガタ刀を持っている。訳あって今回は追われる身。

 “タロス”(NPC)
 謎の武人。なのに、地呪の禁呪を使える。ちなみに、シュリーウェバ地方(「ブルフォレ」の舞台)で「ボクは地呪の禁呪が使えるよ〜ん」などと言うと、口に石を詰めこまれて井戸に逆さ吊りにされて処刑される(「ブルーフォレスト戦乱」参照)ので注意しようね。なお、“タロス”は冷酷な性格である。

 第2幕は静かに始まる。そは嵐の前の凶兆か……

 GM「え−、ヤーノシュさんにアスミアさん。あなた方は奇妙な夢のような、あるいは神託のようなものを見たよ。穏やかな表情の人物が『汝ら、プラー二新王領のチャンパトゥール村に行くべし。そこに助けを求める男がいる……』ってね」

 ヤーノシュ「なんか『深淵』みたいじゃのう」

 アスミア「もうあたし達、合流してるの?」

 GM「そーです。で、チャンパトゥール村の中のダーマチャキ(注・法と知恵の亜神)神殿の前にいるよ」

 ヤーノシュ「もう着いとるんかい!まあ、それはいいとしてどんな感じの村?」

 GM「う−ん、規模からいっても人口4、50人ってとこかなあ。でも、ちゃんと簡単なサクや堀がこしらえてあるから、犬ゴブリン程度の集団だったら撃退できるだろうね。で、神殿の方なんだけどかなり古い様式で、石を積み上げて作った頑丈なもので、そこから神官とおぼしき中年の女性が出てくるね。『ひょっとしてあなた方はダーマチャキ様の御神託を受けてここにいらしたのですか?わたしは昨夜、夢の中であなた方の姿を見たのです』」

 ヤーノシュ「ますます『深淵』っぽいぞ」

 その後、ヤーノシュらはヤーニャの手料理を食べる。おにぎりに卵汁という簡素なものではあったが、「おいしい」と言うに十分な味であった。

 ヤーノシュ「ところで、ヤーニャさん。わしらがこうして集まったことはプラー二新王領で何か物騒なことが起こるとか、そういうことじゃないんですかい」

 ヤーニャ(GM)「ええ、実は先月この国の王子サルヌス・プラーニ殿下が殺されかかったんです。殺し屋は王弟バルダンダーズ・ハンタル公爵にその場で斬り殺されたそうですけど、物騒な話ですね。首都のアラペシでも地呪の禁呪の使い手らが結社を組織したとか……」

 アスミア「もうお腹いっぱい」

 GM「てなことを言ってるとだねえ、神殿の扉から血塗れの男が転げこんでくるよ。ひどい傷だね。右腕と左足の生命力がゼロになってる。応急手当てをしても、当分は戦えそうにない」

 ヤーノシュ「つまり、わしらだけで戦えということじゃな」

 GM「さあね。で、ゴブリンと若い角ゴブリン(注・角ゴブリンはゴブリンの間でごくまれに生まれる狂暴で戦闘能力も高いゴブリンである。ただし、ここでの角ゴブリンは「若い」のでさして強くない)が乱入してゴブリン語で……おっと、誰もゴブリン語を知らないか。まあ、聞くにたえないであろう罵詈雑言を喚きちらしていると思ってくれ」

 アスミア「ここはわたしとヤーノシュさんの出番のようね」

 かくして戦闘が始まった。しかし、ゴブリン2匹で剣士と舞姫にかなうはずがない。「いてえよ〜、いてえよ〜」ともがき苦しんでいるゴブリンを角ゴブリンは見捨て逃亡したのである(士気判定に失敗。ルール・ブック参照のこと)。しかし、ある異変が起ころうとしていた……

 GM「神官のヤーニャさんが『何か忌まわしいものを感じます』って言ってるよ」

 ヤーノシュ「む、これはいかん。神殿の周りを見てみるぞ」

 GM(方眼紙を出しながら)「そーするとだねー、この神殿をゴブリンあ〜んど角ゴブリン18匹と兵士15人、それに剣士っぽいのが2人と術師っぽいのと道士っぽいのが1人……それと……」

 アスミア「それと?」

 GM「軍馬を連れて仮面をかぶった男が1人」

 ヤーノシュ「何やねん、そいつは!で、連中は動く様子はあるんかい?」

 GM「いまんとこないね」

 アスミア「じゃっ、この血塗れさんから話を聞きましょうよ」

「血塗れさん」(何なんだ、このネーミングは!)は本名をアウルといい、ブラーニの首都近郊で「探求の獣」と俗に言われる魔法生物の研究所跡を探索して、謎のサークレットを手に入れたと話した。

 ヤーノシュ「ほう、で、そのサークレットを奪いたくてゴブリンや謎の仮面の男(あ、こう書くとレオナルド・ディカプリオ主演の映画みたい)らに襲われたと。しかし、『探求の獣』とは何でごじゃるか?」

 アウル(GM)「正式名はヘパタイロイといい、ダーマチャキ様に仕える亜神の乗り物だったという説もある。そして、そいつに近付くと知性を持った存在なら皆知的好奇心を強く抱くようになるようだ。もし、創造できればこのシェリーウェバの馬鹿馬鹿しい戦争など消滅するだろうな。そして、そのサークレットに創造法が彫りこまれているはずだ」

 アスミア「じゃあ、今創ればいいじゃん」

 アウル(GM)「……駄目だ。そのサークレットは2つ一組で真の効果を発揮するからな。それに、人竜を産み出してしまうかもしれぬ(「人竜」についてはキャンペーン第1話参照のこと)。人竜自身には悪意はないが、多大な被害を他に及ぼす危険性があるんだ。これは俺自身の経験から言えることだがな」

 ヤーノシュ「なるほど。で、外のゴブリンとかはそいつを狙っている訳か」

 アウル(GM)「たぶん、そうだろう」

 PCらはヤーニャと共にアウルの手当てを行う。しかし、その時……

 GM「窓から外を見ていたヤーニャさんが『大変です、あの仮面の男が「回復不能」の地呪の禁呪をかけています』って言ってるよ」

 アスミア「『回復不能』?何それ、ルール・ブックには……」

 GM「ははは、オリジナル・スペルです」

 ヤーノシュ「で、どういう効果が?」

 ヤーニャ(GM)「しばらくの間、おそらくは1日かそこらの間でしょうが、呪文による生命力の回復を不可能にしてしまうんです。師匠のショルナ様から聞いたことがあります」

 アスミア&ヤーノシュ「げ」

 GM「てなこと言ってるとだねえ、東から休戦旗を掲げた仮面の男と身長2メートルはあろうかという角ゴブリン、それにゴブリン1匹がやって来るよ。どーも『交渉』したいみたい。さて、ここで知覚判定×2分の1をお願いします。ありゃ、失敗ですか。うーむヤーニャとアウルも失敗やね」

 かくして仮面の男らが入ってくる。「交渉」が目的らしい。もっとも、それが表面的なものらしい雰囲気は容易に見て取れた。

 仮面の男(GM)「俺の名は“タロス”という。それなりの身分と力を持った者だ。その手負いの男が略奪した品々を全て引き渡し、貴様らの武具とすべての所持金を譲渡するなら、先ほどの罪を赦して命だけは助けてやろう」

 ヤーノシュ「ほほお、あなた方はそうおっしゃるか。しかし、このアウル氏が遺跡で見つけたものがあなた方の所有物であることを、まずは証明していただきたい」

 GM「“タロス”は返答に窮している」

 アスミア「まあ、そうでしょうね」

 GM「で、その“タロス”は変装を捨てて攻撃を仕掛けてくるよ」

 ヤーノシュ「ああ、やっぱり。で、その偽“タロス”はどんな奴?」

 GM「ただの兵士っぽい。で、ゴブリンらと共に『爆裂弾』を投げつけてくる」

 「爆裂弾」。これは地呪で産み出される魔力のこもった一種の「手榴弾」である。投石器の弾丸としても有効であり、手で投げつけても構わない。ただし、ダメージが及ぶのは命中した対象だけである。ちなみに禁呪ではない。術師の皆さん、御安心下さい。
 さて、今回の戦闘は前回に比べればはるかに激烈であった。というのも、「爆裂弾」は鎧の防御点を無視してダメージを負わせるからである。しかし、ヤーニャやアウルの呪文による支援もあってゴブリンと兵士はズタボロになって敗走し、角ゴブリンを捕えることに成功したのである。幸いにもこの角ゴブリンは人間語が話せたため、早速尋問に移ることにした。

 ヤーノシュ 「よしよし、それではこの角ゴブリンを治療するでごじゃる」

 角ゴブリン(GM)「あ、ありがてえ。しかし、おめらなぜオレ助ける?」

 ヤーノシュ「色々聞きたいことがあってな。そもそも“タロス”って何者なんだい?」

 角ゴブリン(GM)「貴族か何からしいが、よく知らね。ただ、キラキラ光る石とうまい飯腹いっぱいでそこの旦部(注・アウルのこと)殺せと頼まれた。けど高くついた。オレ部下連れて“タロス”から去る」

 アスミア「これで敵戦力は半減ですわ」

 ヤーノシュ「うーむ、マスター。例の休戦旗をこいつに持たせて“タロス”の下へ行かせるよ」

 GM 「ああ、いいよ。で、その角ゴブリンが“タロス”の方に向かうと、“タロス”が『敗北主義者に死を!』と叫んで石弓でゴブリンを射殺する」

 アスミア「ヒデー奴ですこと。仲間殺しなんて」

 ヤーノシュ「悪役のお約束でごじゃる」

 GM「で、初めの戦闘で傷ついた若い角ゴブリンは足を引きずりながら、“タロス”の下へ向かう。ボスを殺されて激怒してるようだね。で、生き残ったゴブリンを引き連れてこの村から去っていく」

 ヤーノシュ「この間に何か役に立つものはないか、と神官のヤーニャさんに尋ねるでごわす」

 ヤーニャ(GM)「倉庫に、刀剣類や飛び道具、それにわたしにもよく分からないのですが神聖語(神殿の書物や亜神のための上級語)の彫りこまれた幅50センチほどの箱があります。開く部分が2つあるようですね」

 アスミア「“タロス”らの動きは?」

 GM「どうも作戦会議のようだ。声は出していないけどね」

 アスミア「は?」

 GM「俗呪の『以心伝心』を使ってるのかもしんない」

 「以心伝心」は俗呪の中でも手軽で、使い勝手のある呪文である。一言でいうならテレパシーのようなもの。持続時間は3分。

 ヤーノシュ「マスター、窓から狙撃できる?」

 GM「はい、可能です。でも、あちらさんも反撃するだろうね。兵士は全員投石器を持っている」

 ヤーノシュ「でも、こちらは頑丈な建築物の中から射撃するんだから、相手はマイナス修正があるのでは?」

 GM「ええ、その通り。で、石弓4つと矢100本があるね」

 アスミア「じゃっ、バンバン射ることにしましょ」

 射撃戦は必ずしもPCにとって「大成功!」ではなかった。何しろ、14人の兵士が一斉に「爆裂弾」を投石器で投射してくるのだ。ただ、奇妙なことに仮面の男は先ほど角ゴブリンを一撃で殺した謎の石弓を使おうとはしなかった。
 石弓×2と投石器×14の戦いはしばしの後やんだ。“タロス”が「以心伝心」で直接語りかけてきたのだ。

“タロス”(GM)「そこにアウル殿がおられるな?いや、元人竜と呼ぶべきかな。かの方をこちらに引き渡し、他の方々も武装解除をしてもらいたい。さもなくば、何の罪もなき村人の首が転がることになる。それでもよろしいか?」

 アスミア「……どうします、ヤーノシュさん?」

 ヤーノシュ「まずは村人の安否の問題じゃな。もし危険にさらされるようであれば、こちらから先に打って出るべきじゃろう」

 アスミア「え?」

 ヤーノシュ「じゃからあ、村人を捕えて殺すつもりなら何人かの兵士が村内に入っていくはずじゃろが。その時間差を生かして包囲殲滅各個撃破。あれ、わし何か変なこと言った?」

 GM「いいんじゃないの、そんぐらい」

 アスミア「あのー、それで村人の安全はどーなってるんでしょうか?」

 GM「ヤーニャさんが言うにはこうした場合に備えて師匠のショルナが結界を張っておいたんだって」

 ヤーノシュ「それを先に言え」

 アスミア「で、連絡は『以心伝心』?」

 ヤーノシュ「エレメンタリーなことだよ、ワトスン君。むろん、ホームズは原作の中でこんなこと言っとらんがな。で、どうでごわす、ヤーニャさん」

 ヤーニャ(GM)「とりあえずは大丈夫なようですわ。でも、あの地呪の禁呪を唱える男には通用しないかもしれません」

 ヤーノシュ「ふーむ、それならまだ時間があるな。例の箱には……。おっと、その前に男に返事しとかんと。『ノー!』。こんなもんでいいじゃろ」

 “タロス”(GM)「愚か者めが!」

 ヤーノシュ「それをそっくりあんたに返そう」

 アスミア「箱には何と?」

 ヤーニャ(GM)「『善良なる探求者が苦難に至りし時に……』。ここまでは読めますが、後はちょっと……」

 アスミア「マスター、知覚判定したいんですけど。難易度は?」

 GM(こういう風に自発的に行動を宣言してくれる人がいるとホンマ、助かるんだよなあ)「知覚×2だよ」

 アスミア「成功です」

 GM 「ぴったりサークレットがはめこめるだけのクボミが2つある」

 ヤーノシュ「それではアウルさんの持っていたサークレットをはめこんでみるのじゃ」

 GM「じや、祈念判定×2」

 ヤーノシュ「失敗」

 アスミア「成功!で、何が起こるの?」

 GM「アスミアの脳裏に何かしら神々しいイメージが到来する。で、箱の半分が開いて厳かな調子で『ヘパタイロイのカの片割れここにあり』というテレパシーがアスミアさんに伝わるね。で、そこには呪文玉、ようするに呪文を封じこんだマジック・アイテムが1個ある」

 ヤーノシュ「何や、これは?まあ、ヤーニャさんが説明してくれるとは思うけど」

 GM「まあ、その通りなんだけど……『好奇増大』とかいうダーマチャキの神呪を封じてあるってヤーニャさんが言ってる。効果は、1戦闘の間、対象を中心にした半径5メートル内にいる知能を持った生き物の好奇心が膨れ上がり、結果として戦闘力が20になるというものだ」

 ヤーノシュ「で、こいつもオリジナル・スペルじゃな?」

 GM「ま、そーゆーことです」

 アスミア「じゃあ、それをぶつけて最終戦闘ですね」

 ヤーノシュ「じゃな」

 GM「で、またまたヤーニャさんがあわてているよ。『あの“タロス”が妙な呪文の詠唱を始めました!』」

 ヤーノシュ「こりゃいかん、急がないと。マスター、当然この呪文玉が発動すれば例の“タロス”の詠唱もストップするよな」

 GM(ふ、“タロス”は詠唱のフリをしてるだけなんだけどね)「そりゃ、もちろん。でも、この呪文玉を発動させるには『爆裂弾』みたいに衝撃を与えないとね」

 アスミア「でも、ここには投石器がない……」

 ヤーノシュ「ヤーニャさんとアウルさんに支援系呪文を使ってもらって、突撃じゃい。確認しておきたいが、相手は“タロス”と兵士4人、それに術師っぽいのと道士っぽいのが1人ずつ、それに剣士っぽいのが2人で合っておるのじゃな」

 GM「数はそれで合ってますけど、兵士2人と術師っぽい奴と道士っぽい奴は“タロス”の側にはいませんよ」

 アスミア「じゃっ、実質的には5人ね。楽勝、楽勝」

 かくして、PCらは“タロス”に向かってバンザイ突撃を……って何か違うな。何はともあれ最終バトルに突入したのだ!

 ヤーノシュ「おりゃあ、呪文玉をくらえい!ボン(効果音)」

 GM「たちまち剣士連中弱体化!“タロス”は逃げ出すよ」

 アスミア「何だ、“タロス”って武人のフリしてただけ?」

 アスミアとヤーノシュの戦闘力は50以上ある。それに対して、“タロス”の手勢の戦闘力はオール20。これでは勝負にならない。あっという間に敵は四散した。

 英雄らは天を見上げる。ダーマチャキの微笑が空に広がり、消えていった。「悲しきかな、邪な探求をする者は……」との言葉を残して。

第2話完
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