東京物欲見物欲日録 2004.1-4


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1月某日 山形から仙台経由で東京に戻る。上野駅の雑踏をくぐり抜け、満員に近い電車に揉まれているうち、北国仕様の厚着のために汗がにじむ。その瞬間「うんざりだなあ」と心の中でつぶやく。直後、東京に戻ってきて「うんざり」などと思ってしまうようになった自分の心の変化に驚く。
1月某日 根津神社へ初詣。毎年恒例なり。東京の冬は穏やかで、とくに朝などは清々しくて気持ちがいい。
1月某日 東武伊勢崎線業平橋駅にて下車。まず三囲神社へ。境内に立ち並ぶ句碑(石碑)は壮観。隅田川七福神めぐりなのか、リュックを背負った老齢男女多し。近くに、展示情報などをよく目にする墨田区郷土文化資料館があった。言問橋を渡り旧猿若町域をさまよった後、浅草寺を抜け伝法院通りの地球堂書店へ。また雷門前のラーメン屋利平で昼食。やはりここの味噌つけ麺は美味いと思う。
食後駒形の浅草きずな書房に立ち寄り、浅草通りを西に上野まで歩く。この通りには看板建築がぽつりぽつりとビルの谷間に窮屈そうに取り残されている。
1月某日 本郷菊坂辺の店で大学研究室の同窓会東京支部新年会があり、出席。一次会を終えたのち、菊坂辺をみんなで散策。宮沢賢治旧居跡、樋口一葉旧居跡、旧伊勢屋質店などを案内する。といっても樋口一葉旧居跡に行ったのは実は初めてで、場所もうろおぼえだった。案内しておきながら通り過ぎてしまうという失態。一葉旧居跡は路地の奥にあって、一般家庭の迷惑になるから静粛にという注意書きあり。それもこれまで遠慮していた原因。かなり濃厚に昔の東京の雰囲気をとどめている路地奥であることに興奮す。
1月某日 昼、根津の吉野家まで歩く。並つゆだく。本当に牛丼がなくなるのだろうか。もし牛肉が駄目なら、やはりカレー丼主体なのだろうか。土壇場でセーフということになったら、カレー丼は消えるのだろうか。この可能性も考えて、カレー丼も食べておこうかと思う。食後池之端辺をぶらぶらと歩いていたら、不忍通りから入った路地奥に新規開店したとおぼしいラーメン屋発見。佇まいがなかなかいい。味はあっさり醤油主体らしい。幟を大通りに出しているとはいえ、およそ人が通らないような路地奥に開店するのだから味に自信を持っているのだろう。今度行くべし。
1月某日 松屋浅草の古本市に行くも、めまいがひどく、一冊も買わずに早々に帰宅する。
1月某日 木挽町に新春大歌舞伎夜の部を見に行く。その前にいつもどおり奥村書店三店めぐり。歌舞伎は、時代・踊り・世話の狂言立てを堪能。夕食は、一風堂銀座店が地下に入っているビルの一階に最近開店したカレー屋「伍郎蔵」にて、「伍郎蔵カレー」(680円)。カレーに煮込んだ柔らかい豚角煮が入っているという変わったもの。
1月某日 ラピュタ阿佐ヶ谷のモーニングショー「昭和の銀幕に輝くヒロイン第12弾 原節子スペシャル」のうち、「娘と私」を観る。父と娘の愛情物語に涙す。補助椅子はおろか、通路に座る人が出るほどの満員御礼。原節子人気なのか。
ラピュタ阿佐ヶ谷で映画を観るときはモーニングショーが多く、外に出ると晴天で青空が広がっているという印象だ。今日も空は青い。三時にもう一本「銀座カンカン娘」を観るため、駅周辺をぶらぶら歩く。古本屋をのぞいたり、南口のパールセンターという長く続くアーケード商店街をゆっくり歩いたり。青空に古本に賑わう商店街。阿佐ヶ谷のイメージはこれに尽き、そういう阿佐ヶ谷の町が大好きである。
三時にラピュタ阿佐ヶ谷に戻り、「銀座カンカン娘」を観る。こちらもほぼ満席の盛況。高峰秀子と笠置シヅ子の唄、志ん生の落語。
1月某日 葛飾区郷土と天文の博物館に行き、特別展「川の手 放水路のある風景」を見る。また、鈴木博之さんによる記念講演会「荒川放水路の〈地霊〉(ゲニウス・ロキ)」を聴く。聴衆(100人弱)の八割方は高齢の方。
2月某日 家族で日本橋方面へ。長男のためにポケモンセンターに行くが、入るために一時間待ちの大行列のため断念。子供のために行列を厭わない世のお父さんお母さんに拍手。
丸善にて開催中の「『川瀬巴水全木版画集』出版記念展」を見る。やはり川瀬巴水の版画はいい。その後三越にて食事、帰宅。
2月某日 京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターにて、映画「音樂大進軍」(1943年東宝、渡邊邦男監督)を観る。「シリーズ・日本の撮影監督(1)」のうち。主演の古川ロッパを観たかった。映画が面白ければより満足できたのだが。
2月某日 仕事帰り、隼町の国立小劇場に行き、文楽講演「仮名手本忠臣蔵」八段目・九段目を観る。さる方からチケットを頂戴した。感謝です。
2月某日 横浜のシネマジャックにて映画「我が家は楽し」を観る。映画館を出るときに心がハッピーになるようなホームドラマだった。山田五十鈴が綺麗。笠智衆のお父さん、長女高峰秀子、次女岸惠子。高峰の恋人役に佐田啓二。週末の伊勢佐木町はやはり寂れている感じ。
2月某日 ラピュタ阿佐ヶ谷のモーニングショー「昭和の銀幕に輝くヒロイン第13弾 若尾文子スペシャル」のうち、「永すぎた春」を観る。そこでお会いしたふじたさんに先日入手した『夢声戦争日記』を引き渡し。
映画を観終えて外に出ると今日も青空。阿佐ヶ谷(そして中央線)のイメージは青空。
2月某日 池袋サンシャインシティで開催中のサンシャイン大古本市に行く。次いで銀座に出、いつものように奥村書店三店をめぐり、二月大歌舞伎夜の部を観劇。
2月某日 昼、綾瀬大勝軒にてもりそばを食し、帰途デカダン文庫に立ち寄る。予想外の出費。
2月某日 仕事帰り、京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターにて、映画「海軍」(1943年松竹、田坂具隆監督)を観る。「シリーズ・日本の撮影監督(1)」のうち。獅子文六(岩田豊雄)原作で、原作はすこぶる面白かったのだが、戦時中、43年12月8日公開、海軍省後援という国策映画のため、まったく別物になってしまっている。
2月某日 蒲田へ行く。家族は布地専門店のユザワヤへ、私は西口アーケード街すぐの古本屋書林大黒へ。すると書林大黒は閉店のため全品50%セール。血眼になって本を探すものの、こういうときに限って欲しい本は文庫本一冊きり。蒲田の街は活気がある。
東急池上線に乗り池上まで。まずインディアン池上店にて腹ごしらえ。苦みのあるカレーと至極あっさりの塩ラーメンのハーモニー。ああカレーがうまい。
池上本門寺境内をゆっくり歩いた後、池上梅園へ。紅白薄桃の梅が咲き誇る。桜満開の図とはまた異なる興趣あり。都営地下鉄西馬込駅まで歩いて帰途につく。
2月某日 横手に日帰り出張。梅が咲き誇る温暖な東京とうって変わって、東北の春はまだ遠い。
昼はいつもどおり横手やきそばの名店「焼きそばのふじわら」にて。「肉玉ダブル」(肉玉子入りダブル…530円)という略語がすんなり口をついて出るまでになった。ブックオフには立ち寄れず。仕方ない。
3月某日 仕事帰り、営団地下鉄南北線で白金高輪に出、高輪にあるギャラリー・オキュルスおよび古書啓祐堂で開催中の「《『虚無への供物』刊行40年記念企画》永遠の薔薇―中井英夫へ捧げるオマージュ展」を見る。
白金高輪の駅から地上に出ると桜田通り。そこから天神坂を上ると高輪台地の尾根道を南北に走る二本榎通りに出る。そこを南下。二本榎通りは昔ながらの商店街の雰囲気を色濃く残し、歩きながら気分が高揚する。両側にお寺があって、ここは昔の街道(東海道?)なのか。途中高輪消防署二本榎出張所(昭和8年築)の円柱形火の見櫓を発見。展覧会の会場の前には、いま話題の後藤田代議士・水野真紀夫妻の新居になるという衆議院高輪宿舎がそびえ立つ。帰りは品川駅まで歩く。途中新高輪プリンスホテル、ホテル・パシフィック・メリディアン。
3月某日 大手町サンケイビルに行き、長男のために電子ピアノを購入。大きい買物なり。男の子にピアノを習わせることに消極的な私に対し妻は積極的で、習わせるだけでなく、ついに電子ピアノまで購入してしまった。結局自分も弾きたいということなのだろう。私の力負け。せっかく買ったのだから、私もピアノをやってみようか。それでなくとも狭い我が家に電子ピアノがやってくる。
その後家族と別れ、歩いて神田に出る。神田駅前の天下一品で腹ごしらえの後、山手線・総武線を乗り継ぎ本八幡下車。そこから歩いて市川市文化会館へ。開催初日の「第五回市川の文化人展 永井荷風―荷風が生きた市川―」を見る。また川本三郎さんの講演を聴く。来場者多く、地元の人びとの荷風に寄せる思いや、荷風ファンの熱意を強く感じた。
帰途本八幡駅前にある古書店コモハウス、またブックオフ本八幡駅前店、さらに少し歩いて京成八幡駅前にある古書店山本書店に立ち寄る。コモハウスはパラフィン紙に丁寧に包まれた絶版文庫(中公・旺文社等々)多けれど、値段はさほど高からず。ブックオフ(偶然見つけた)は開店二周年半額セール中。山本書店は黒っぽい本が多い本格派。ブックオフ以外では購入なし。
京成八幡から京成電車に乗り、高砂で金町行の京成金町線に乗り換えて帰る。賑やかな本八幡駅前界隈に比べ、さびれた感じの京成八幡駅周辺の雰囲気がたまらない。歩いて数分という距離にあるこれら二駅だが、JR文化圏(=東京寄り)と京成文化圏(=千葉寄り)の違いのようなものを感ず。
3月某日 お花茶屋まで自転車で行き、そこから京成電車に乗って市川真間へ。駅前にある青山堂・智新堂書店という二つの古本屋をめぐる。青山堂はデカダン文庫以来の衝撃。その後隣の菅野までぶらぶら歩き、ふたたび京成電車に乗って帰宅。
3月某日 神保町に立ち寄る。東京堂書店。また、そのはす向かいにできた東京堂書店ふくろう店、海坂書房など。まんてんにてカツカレーを食す。
3月某日 木挽町にて三月大歌舞伎夜の部を観る。その前に恒例の奥村書店三店めぐり。洲之内徹『セザンヌの塗り残し―気まぐれ美術館』を得る。
3月某日 先日北千住にできた丸井に行く。レストラン街にて食事。青葉が出店したのだが、大行列のため断念。東急ハンズも大賑わい。
3月某日 京都出張。帰りの京都駅、改札口のところで若い衆数人から「お疲れ様でした」と声をかけられている人がいる。何事と観察すると、どうやらホンコンさんらしい。
3月某日 家族で花見。電車・バスを乗り継ぎ小石川植物園へ。根津から〈上60〉路線。園内は大勢の人。門前にて署名運動に出くわす。何でも園に隣接してマンション新築工事があり、これを建てると園内の湧水に影響があるという。園に隣接するマンションなんて、環境はいいのだろうなあ。園内は桜ちらほら。その後コブシの花。黄色い花(名前失念)も。ゆっくり食事をしながら散策。
植物園を出て、花見の人でごった返す播磨坂を上り、行きとは違うバス〈都02〉で湯島まで。
そのまま地下鉄で帰ろうとしたところ、妻が旧岩崎邸に行ったことがないというので行ってみる。しかし洋館はベビーカーでは入れないことに気づき引き返そうとしたところ、長男が強硬に入ることを主張、やむなく私と長男二人で入る(入園料400円←昔より高くなっていないか?)。建物に入るのは久しぶり。現在は二階にも上がれるようになっており、ベランダにも出ることができる。ベランダから眺める芝生の前庭の贅沢さに溜息。洋館の金唐紙、調度品も素晴らしい。壁に触れるなというので息子にも注意していたが、突然柱の土台に足をのせ柱に登ろうとしたのには慌てた。子供は何をするか分からない。撞球室も公開中。本館から通じる地下通路は通ることができず、外から内部を覗くのみ。
3月某日 電車を乗り継ぎ赤羽から散策開始。西口に古本屋三軒(うち一軒は休み)。西口から西へ歩き西が丘の同潤会住宅地に入る。桜並木が続く閑雅な住宅地なり。さても東京にはいろいろと高級住宅地があるものよ。
さらに西へ歩き旧中山道に入り、板橋本町まで南下。板橋本町にブックマートあり。板橋本町より都営三田線で神保町に出る。神保町駅を出たところにある喜多方ラーメン「蔵太鼓」で昼食の後、東京堂・同ふくろう店・小宮山書店ガレージセールをのぞいて帰宅。
4月某日 の古本屋めぐり。いつものように、太平書林→靄靄書房→柏林堂→古書森羅とたどるも、靄靄書房では収穫なく、また柏林堂はシャッターを閉ざし店じまいした模様。残念。
4月某日 長男の五歳の誕生日プレゼントを買いに亀戸のトイザらスへ。半蔵門線で錦糸町に出、そこから歩く。トイザらスのある場所は「サンストリート」という複合型の商店街。子供の天国だ。元楽まで入っている。
すぐ隣に桜が満開の並木道。亀戸緑道公園・大島緑道公園。南の西大島まで伸びる旧都電軌道跡を整備したもの。来年の花見の候補地。亀戸から西大島に歩いて最後にたなべ書店西大島店で古本を探すという理想的ルート。
帰りは東武亀戸線に乗る。また、綾瀬のデカダン文庫に行く。明日移転のための引っ越しとのこと。
4月某日 海浜幕張駅前にあるアウトレット・ショップ商店街の“ガーデンウォーク幕張”に買い物に行く。
4月某日 木挽町にて四月大歌舞伎・昼の部を観る。
4月某日 自転車にて移転なった綾瀬のデカダン文庫に行く。帰り道、家族が散歩をしに来ている公園に行き合流、長男のサッカーの相手をする。疲れた。
4月某日 ラピュタ阿佐ヶ谷に映画を観に行く。特集「成瀬巳喜男 その、まなざし」のうち、「旅役者」「妻」二本。午前中にチケットを購入し、午後始まるまでの空き時間、荻窪まで散歩。西郊ロッヂングや太田黒公園を訪れ、またささま書店に行く。
4月某日 東京国立近代美術館にて「国吉康雄展」を観る。その後先輩と合流、神保町まで歩く。1月に放送された「出没!アド街ック天国」の神保町編で11位に紹介されたキッチン・グランでハンバーグ・しょうが焼き定食(800円、美味い!)を飯した後、喫茶店で雑談。東京堂書店その他に立ち寄る。
4月某日 電車を乗り継ぎ初台で下り、新宿パークタワーに行く。一階ギャラリー1で開催中の増田彰久展「ニッポン西洋館の旅」を観る。初台の東京オペラシティと新宿パークタワー二つの高層ビルの狭間の甲州街道沿いには古い住宅地が立ち並び、一種異様な対比。その後銀座に出、奥村書店三店をめぐったあと妻と合流、四月大歌舞伎昼の部を観劇。夕食をとるため一階ロビーに出たところ、歌舞伎役者夫人とおぼしき和服の女性と親しげに話す谷村新司さんを見つける。はねた後、幕見で「浜松屋」を観に来ていた先輩一行と月島にて合流、もんじゃ焼きを食す。久しぶりに終電近くまで飲む。
4月某日 家族で根津神社。つつじ祭りに行く。すごい人出。昔からこんなに混んでいたかしらん。早々に退散。
4月某日 山形に帰省する。