東京物欲見物欲日録 2002.9-12

A Yamagatan in TOKYO


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9月某日 ブックオフ北千住駅西口店へ行く。セール中なり。セールのため、いつもは見ない棚などを注意深く見ていたら掘出物あり。嬉しい。
9月某日 木挽町に行き、九月大歌舞伎夜の部を見る。吉右衛門・雀右衛門の「籠釣瓶」がいい。ただそれにしては空席が目立つのはなぜ。
9月某日 木挽町にて九月大歌舞伎夜の部を見る。隣に座ったおじいさんと雑談。おじいさんは先月(勘九郎らの納涼歌舞伎)「怪談乳房榎」の三回を含めて六回も歌舞伎座に足を運んだという。勘九郎ファンとのこと。また今日はこの昼の部を見たあと、新橋演舞場に移動して團十郎・新之助らの歌舞伎を見るという。なんともパワフルなり。
昼は尾道ラーメン柿岡やにて。歌舞伎座に戻る途中、昭和通の交差点で私服に着替えた扇雀丈とすれ違う。昼前の「佐々木高綱」に出演後、夜の部の一番最後「女夫狐」まで出番なしの彼はこの間どうやって過ごしているのだろう。仕事なのだろうか。
はねてのち、私は散歩に。涼しくなって散歩しやすい気候になってきた。歌舞伎座から晴海通を一路西へ。勝鬨橋を渡って月島に入り、月島のもんじゃ屋が並ぶ通り(毎度ソースの匂いが食欲をそそる)を北へ、相生橋を渡り越中島・門前仲町に出る。このルートを歩きとおしたのは久しぶりなり。
ブックオフ江東門前仲町店に立ち寄る。収穫一冊。やはりここも質が高い部類。
9月某日 ネット書友のカズコさんと谷根千散歩。千駄木駅を出発し、まずつけ麺やごんろく腹ごしらえ。その後団子坂を上り鴎外観潮楼跡、根津神社、S字坂、東大本郷キャンパス(三四郎池)、弥生、根津宮永町と上り下り。
根津の中国茶カフェで一服の後、谷中三浦坂を上り、谷中墓地を経て日暮里に出、谷中銀座を往復、今度は日暮里駅東口に出て、駅近くの駄菓子問屋街を案内していただく。また根岸方面へ歩き、羽二重団子に立ち寄る。
その後日暮里駅からバスで浅草に出、荷風の通ったアリゾナやおすすめの煎餅屋などを教えていただき、浅草寺にて解散す。歩きに歩いた。
収穫その1、日暮里駅近くの駄菓子問屋街。狭い路地に数軒の問屋(小売もするらしい)が密集。近い将来撤去されるとの噂。収穫その2、浅草六区の大勝館というところで、池袋大勝軒のラーメンを限定50食提供しているということ。今度行ってみよう。
9月某日 昼飯を食べに浅草へ。先日カズコさんより教えていただいた、六区の大衆演芸館大勝館に行く。小屋の隣にある同名の食堂で、なぜか池袋大勝軒のつけ麺を一日限定50食だけ出すというのだ。池袋大勝軒はあの大行列の話を聞くととても行く気になれない。だから大勝館で間に合わせようという心積もりなり。
店では競馬おじさん(向かいがWINDS浅草)の溜まり場という雰囲気で、家族連れが入る場所ではなく、おばさんも無愛想なのだが、つけ麺はまあ食べられるという印象。ただこれが本当に池袋大勝軒と同じ味なのか、不明。結局実際に行かないと駄目ということか。
その後東武線の曳船駅で降り、ブックオフ曳船店に立ち寄る。またそこから東向島まで歩き、向島百花園に行こうとするも、中秋の名月のイベントのために大混雑で、入園を断念す。子供は東向島駅に併設されている東武博物館で電車を動かし大喜び。
9月某日 電車を乗り継いで葛西臨海水族園に行く。海が見渡せて、晴れていたらもっと気分がいいのだろう。大水槽を回遊しているマグロの群れ。鈍い銀色を体をライトに反射させながら悠々と無表情に泳いでいる。まるでロボットのごとし。水槽の底に沈んで時々思い出したように動くウニやナマコ、壁に貼りつくヒトデ。生まれ変わったらこういうものになるのもいいな。
葛西臨海公園駅で妻子と別れ、新木場で有楽町線に乗りかえ市ヶ谷へ。牛込台地の坂を上り下りして船河原町の東京日仏学院へ。フランス人の版画家ノエル・ヌエットの東京を描いた版画を見る。鈴木清親・井上安治系統の繊細で静謐な昔の東京。淡い色彩。気に入る。この人の画集は出ていないのだろうか。市ヶ谷辺も高級住宅地。
ふたたび有楽町線に乗り要町へ出、ブックオフ池袋要町店に立ち寄り、そのままぶらぶらと池袋まで歩いて帰途につく。途中古本屋数軒。池袋駅近くではよさこい祭で賑やかなり。
9月某日 息子と二人で、先日カズコさんに教えていただいた日暮里駅前の駄菓子問屋街に行くも、祝日のためか全店休業。「おもちゃ、おもちゃ」と言いながら西日暮里から歩いた息子をなだめすかすため、帰りに北千住ルミネ内のディズニーショップでおもちゃを買う羽目になる。
9月某日 仕事帰り、東京に遊びにいらしていたモシキさんと歌舞伎座前で待ち合わせる。幕見で「籠釣瓶」を見ようということだったが、千秋楽のためか大行列に一瞬たじろぐ。立見を覚悟したが、何とか座ることができた。我々の前に座っていた外人のおばさんが堂々とビデオカメラを取り出して撮影しているうえに、普通のカメラでフラッシュを焚いて撮っているのが気になって仕方がない。ふてぶてしいおばさんだった。
その後ライオンでビールを飲んで歓談す。
10月某日 仕事帰り、野暮用で荻窪へ行く。用事を済ませて、せっかく荻窪に来たのだからと、今回は南口のささま書店、北口のブックオフ荻窪駅北口店2店に絞って立ち寄る。それぞれ来た甲斐があったと喜ぶほどの収穫あり。
また夕食は、歩いてたまたま見つけた北口のラーメン屋丸福にて中華そば(680円)。昔ながらというわけでもないが、少し前まではラーメンといえばこんな味だったと思わせるような味。細ストレート麺。
帰宅後ネットで確認すると、この丸福は荻窪のなかでも行列のできる有名店であるらしい。この日は閑散としていた。隣に現代的な店構えの香月ができていたことも原因なのだろうか。
10月某日 買物をしに池袋西武・リブロ・東武へ行く。リブロでは“「sumus」の選ぶ秋の文庫・新書100冊”の好企画。東武レストラン街にある巣鴨古奈屋にて初めてカレーうどんを食す。コクがあって上品。ただたかがカレーうどんに1200円は上品すぎるか。けちな私たちでは海老天すら付けることができない(海老天カレーうどん1600円)。
10月某日 ラピュタ阿佐ヶ谷のモーニングショーを観るため阿佐ヶ谷へ。「昭和の銀幕に輝くヒロイン・第六弾」として、入江たか子の出演作「藤十郎の恋」を観る。1938年制作、山本嘉次郎監督・黒澤明助監督、長谷川一夫主演。ラストの展開に息を呑む。
終わりてのち、今井書店・千章堂書店二つの古書店に立ち寄ってから、阿佐ヶ谷駅前発中野駅行のバスに乗る。早稲田通りを東進する路線なり。初めて中野の地に立つ。サンモールというアーケード商店街をぶらぶらと歩いていたら、横丁のほうに行列発見、もしやと見に行くと予想どおり青葉の本店だった。30〜40人くらいいただろうか。青葉はしばらく食べていないのだが、並ぶ気にもなれず。そこから北に歩いてすぐの喜多方ラーメン屋で昼食。
昼食後ブロードウェイを通り抜け早稲田通りに出、今度は徒歩で東進。途中ブックオフ中野早稲田通店に立ち寄る。これまで訪れたブックオフのなかでもっとも黒っぽい本がある店なり。
そのまま東へと歩くと、お寺の並ぶ一角が見えてくる。明治末〜大正期に浅草・四谷・牛込から移転した寺々との由。中の一つ源通寺にて、河竹黙阿弥のお墓を詣づ。そして今日のもう一つのメイン、内田百間のお墓のある金剛寺に行く。墓所にたどり着くまでにお寺の人にお聞きしたりするなど、迷いに迷った。お墓は南面し、北は崖で高台になっており、池袋方向が見渡せる絶好のロケーション。右脇に「木蓮や塀の外吹く俄風」の句碑が立つ。百間墓所のお参りはかねてからの念願だったが、なかなかこちらにくる用向きがなかった。宿願達成。
大江戸線東中野駅へと続く東中野銀座通りを歩き、大江戸線・新宿線を乗り継いで神保町に出、少しだけ古本屋・東京堂などを回る。また小川町のブックマーケット。しばらく来ないうちに岩波文庫とか一般の古書にも手を広げていた。
10月某日 夜、所用にて神田一ツ橋へ。仕事帰り、本郷から忠弥坂を下って水道橋に出、まんてんでカツカレーを食したのち、海坂書房などの古本屋をぶらぶら見て回りながら一ツ橋に向かう。神保町交差点で有田芳生さんとすれ違う。
10月某日 木挽町にて芸術祭十月大歌舞伎夜の部「仮名手本忠臣蔵」(五・六・七・十一段目)を観る。その前に奥村書店三店をめぐる。夕食は元楽にて楽ラーメン。夕食をとるため六段目を終えた幕間に歌舞伎座を出ようとしたら、ちょうど入ってきた山川静夫さんとすれ違う。
10月某日 連日の木挽町。「仮名手本忠臣蔵」昼の部のうち、大序・三段目を幕見で観る(\1000)。夜昼逆なり。
吉野家で昼飯の後、ウインズ銀座で菊花賞の馬券を買い(あんな結果になろうとは…)、有楽町線銀座一丁目駅より市ヶ谷に出る。法政大学ボアソナードタワーで開催中の某学会に出席。会場はボアソナードタワー最上階(26階)のホールで、この階から見渡す東京の景色は絶景なり。眼下に靖国神社、少し先には皇居、東京ドーム、明大リバティタワー、遠くには築地の聖路加タワーも見える。晴天なればお台場も見えるのではないだろうか。貴重な経験だった。
学会を途中で抜け、法大のある富士見から靖国神社の裏手を通り、九段、神保町を抜けて新御茶ノ水から帰途につく。九段の暁星高校の向かいにある空家の洋館が気になる。また、九段中坂には硯友社跡の、九段下のビルの入口には、滝沢馬琴住居跡(南総里見八犬伝を書いた場所)の案内板を見る。
10月某日 帰途、千駄木の古書ほうろうを経て西日暮里まで歩く。千駄木の漱石邸(猫の家)跡近くにあった駄菓子屋が消えて駐車場になっていたことに衝撃を受けていたら、さらにそこから入ったところにあった蔵のある邸宅も取り壊され、個人宅やアパートが建築中で二重の衝撃を受く。夏の暑い間の数ヶ月このあたりを歩くこともしないでいたうちに、千駄木の住宅地も変貌急なり。
10月某日 昼休みの時間に文京ふるさと歴史館の特別展「菊人形今昔―団子坂に花開いた秋の風物詩―」を見に行く。得る所多し。特別展とは無関係の図録に本郷一・二丁目(旧本郷弓町)のお屋敷について記述があり、これまた得る所があった。
10月某日 仕事帰り、千代田線根津駅構内で立川談志師匠を目撃。言問通り寄り改札口近くにある公衆電話から電話をしていた。携帯電話がお嫌いなのだろう。根津在住の談志師匠を見たのはこれで二度目。前回も同じシチュエーションだった。
10月某日 息子と二人で上野動物園に行く。モノレール往復。これまで何度も上野動物園に来たけれど、ジャイアントパンダを見たのは初めてかも。また爬虫類館にも初めて入る。ビニールハウスのように生暖かくて気味が悪い。蛇やトカゲなどの爬虫類も気味が悪いが、でも意外に面白い。
10月某日 北原遼三郎『明治の建築家・妻木頼黄』にて、妻木頼黄の墓が谷中墓地にあることを知り、通勤時日暮里を出て久しぶりに谷中墓地を通って歩く。徳川氏御台所墓地の脇にあった。
谷中三崎坂上にある駄菓子屋がつぶれ、古い佇まいの家が改築(あるいは取り壊し)の工事をしていた。千駄木といい、街の駄菓子屋はこうなる運命なのか。淋しい。
10月某日 朝起きて新聞を取りに行くと、マンションの廊下から富士山がくっきり見え、冬到来を感じる。この富士山に居ても立ってもいられず、朝、西日暮里で降りて富士見坂を通って歩いて通勤。右半分ほどなれど、富士山見ゆ。
11月某日 息子と二人で中山競馬場に行く。今秋は東京競馬場が改修工事のため、中山は年末までずっと開催中なのだ。中山に来るのは約一年ぶり。内馬場の遊戯施設・アトラクションが豊富で、子供は勝手に遊んでくれるのはいいが、新聞を検討して馬券を買いに行くことまではなかなかできないのが難点。途中から、幕張方面に買物に行った妻が合流して何とか馬券を買うことができた。久しぶりに1レース的中(といってもワイド)。冬に向けて調子に乗りたいもの。
子供は遊戯施設で遊ぶだけ遊び、カートや馬車に乗り、レーシングスーツ姿で馬に乗って写真を撮ってもらうなど、満足していたようだった。
11月某日 妻の職場の運動会が六義公園運動場で開催されるというので、それを見物がてら久しぶりに六義園を散策する。駒込駅から、運動場に行く前にまず、六義園の西側に広がる有名な三菱の開発住宅地大和郷を歩く。以前より訪れたいと思っていた場所。高級住宅地というイメージを抱いていたが、たしかにそのような邸宅はあったものの、新し目の家や100円パーキングになっている敷地などもあって、全体的に見れば少し期待外れだった。西片のほうが高級住宅地としての落ち着いた雰囲気がある。
運動会を少し見たあと、六義園に入り、池畔で読書をしたり、池を泳ぐ鯉・鴨・亀などをぼんやりと眺めて過ごす。亀は泳ぎも機敏だ。
六義園正門前にアンパンマンのフレーベル館社屋あり。地階に関連商品や玩具などを売る店があり、子供がそこからなかなか離れなくて困惑する。
11月某日 吉例顔見世大歌舞伎の昼の部を見るため木挽町へ。見終えて歌舞伎座の外に出ようとしたら、ロビーに何となく華やかな雰囲気を感じたのでそちらを見ると富士純子さんだった。美人である。音羽屋が出ているのだから、いることに不思議はないのだが、私は初めて見た。
出てからはいつものように奥村書店をのぞいたり、銀座の街をぶらぶら歩いて帰途につく。
11月某日 電車を乗り継ぎ、都営浅草線西馬込で下車、大田区立郷土博物館で開催中の特別展「版画にみる東京の風景―関東大震災から戦前まで―」を見に行く。電車に乗っている時間はちょうど1時間。西馬込で降りるのは約二年ぶり。
特別展では川瀬巴水の版画などを堪能し、また西馬込に戻る。浅草線にて五反田まで。ブックオフ五反田店に立ち寄り、腹ごしらえをしたあと、東五反田の池田山に登り、いま取り壊しか保存かで話題になっている旧正田邸を見る。黒山の人だかり。久しぶりにミーハー精神に火がつく。
池田山の北側斜面に広がる池田山公園の絶景にしばし心を奪われる。その後、上大崎・白金台を通り、帰途につく。
11月某日 横手市に日帰り出張。
新幹線が岩手県に入ったあたりから窓外の景色が白くなり、盛岡を過ぎて秋田新幹線の路線に入るとすっかりあたりは銀世界。半年前の五月に通ったときには、田植え直後で田圃に張った水が鏡のように青空を映してとても綺麗だった。半年後の今日は別の意味で銀の世界に。
大曲で乗り換えのため下車したとき、その寒さに慄然とする。まだ体(と脳)が冬という季節に順応していない。横手に降り立ったときには吹雪模様の寒さで心臓が縮み上がるような感じで死ぬかと思った。十一月半ばでこの雪、早すぎる。
この雪で気持ちがくじけ、ブックオフ13号横手店まで何とタクシーを使ってしまう。初乗り運賃で行ける範囲だけれど、ブックオフに行くのにタクシーを使う人はそういまい(自慢してどうする)。
ブックオフではそこそこの収穫があって嬉しかったためか、少し外の寒さにも慣れ(?)、今度は歩いて市役所近くの横手やきそばの店朝菊へ向かう。今日一緒に仕事をする先輩に事前に教えてもらっていた店なり。入ったらその先輩もいて、一緒に食べる。ここの売りは、何と大盛450円という安さ! 東京でラーメンを食べるお金で大盛2食行けるとは。味はまあまあ。蒸し麺に目玉焼きと紅生姜と福神漬けがのる横手やきそばの王道。満足なり。食後外に出る頃には、もう寒さにも雪景色にもすっかり慣れてしまっていた。もともとが雪国育ちなれど、東京に住む時間が長くなるにつれ、雪国に順応するまでの時間が長くなっていくような気がする。
帰りの新幹線では、仙台の牛タン弁当にビール。ああお疲れさまでした。
11月某日 東池袋新文芸坐にて、成瀬巳喜男監督の映画「浮雲」を観る。ただただひたすら悲しい映画なり。高峰秀子の切なさ、森雅之の哀しさに息を呑む。266席の八割方が埋まっていた。見心地のいい映画館であった。
池袋駅に歩いて行く途中に古本屋の光芳書店を発見。これまで名前は聞いたことがあるが、ここにあったのか。文庫本ばかり5冊ほど購入。嬉しきものもあり。
11月某日 仕事帰り、北千住にて途中下車。ブックオフ北千住駅西口店に立ち寄る。カズコさんから先日来お借りしていたCDを返却するためなり。ブックオフでは収穫なし。
11月某日 仕事帰り、木挽町に行き、顔見世大歌舞伎夜の部のうち、「松浦の太鼓」を観る。
11月某日 所用のため職場に行く。赤門前の法真寺では一葉忌。
地下鉄を乗り継いで水天宮に行き、そこから歩いて永代橋を渡り、江東区佐賀食糧ビルに行く。オフィスが立ち退いたあとここはギャラリーになっており、取り壊し前最後の展覧会“Emotional Site”が24日まで開催中(入場料500円)。間に合った。人(とりわけ若い女性)が多い。彼女たちは建物に興味があるのか、展示されているアート作品に興味があるのか。建物は一見の価値あり。
その後歩いてブックオフ門前仲町店へ。大収穫、色川武大さんの遺稿集『ばれてもともと』(文藝春秋)を購入。ここには単行本でいい本が揃っている。
門前仲町からバスで錦糸町に行く。途中同潤会清砂通アパートの前を通るが、すでに取り壊されて虚ろな空間が広がる。錦糸町駅から北に少し歩いたところにある精工舎の工場もやはり取り壊されて、こちらも広々とした空間にクレーンがあるという風景に。食糧ビルといい、残念なり。
鬱々と取り壊された建物のことを考えながら、錦糸町から業平橋まで歩いて帰途につく。
11月某日 京都国立博物館に出張。いまちょうど開催中の「大レンブラント展」を観ることができた。人間の肌のマティエールに驚嘆する。肌の老若が、画像ということではなく、キャンバスの表面の質感から伝わってくるような繊細さはこの画家ならではか。髪の毛や金銀の装飾品のマティエールも素晴らしい。「光と影の画家」と言われているように、肖像への光の表現がなんとも微妙で不思議なり。
11月某日 仕事帰り、東池袋新文芸坐に立ち寄り、映画「江分利満氏の優雅な生活」を観る。小林桂樹の江分利満氏。原作に忠実で、同作を100分かけて読み終えたような充実感あり。山口文学は酒呑みの説教、愚痴、昔語りに本質があるか。もしそれが正しいのならば、この映画は山口文学の本質を的確に捉えているということになる。ただ、多分に精神的な理由によるがやはり映画館という空間は苦手なり。息苦しくなる。
観終えてのち、リブロ池袋店に立ち寄る。
12月某日 退勤時根津の裏道を通って千駄木まで歩く。根津のへび道の近くに「三里」という風情のよさげなお蕎麦屋さんを発見す。
12月某日 この日開店したブックマーケット西新井店に行く。しかし期待はずれ。
午後よりオフ会。藤原さん・やっきさんと東京芸術大学大学美術館集合、「ウィーン美術史美術館名品展―ルネサンスからバロックへ―」を観覧する。アルチンボルド、ルーベンス、レンブラント、ベラスケスなどの名品が並ぶ。意外に人が多い。山下さん合流ののち、上野から弥生まで歩く。弥生美術館(「江戸川乱歩の少年探偵団展」)・竹久夢二美術館(「大正モダングラフィック展」)・立原道造記念館(「立原道造・建築家への志向3展」)三館を観覧。それぞれそれほど大きくない建物とはいえ、半日で四館を巡るとさすがに疲れる。
夕刻より雅洋さん・熊襲さんを迎えて6人で飲み会(土俵や@根津)。余興として「本のドラフト会議」を開催。各自3冊(3組)の本を持ち寄り、プロ野球のドラフト会議形式で本を指名しあう交換会なり。まずまずうまくいく。
12月某日 息子と二人で、町屋のラーメン屋勢得に行く。行列こそしていなかったものの、店内で四人待ち。あつもり(650円)を注文。太麺で量も多く、息子に取り分けてちょうどいいといった感じ。味は、「こんなもんだったかな?」と、意外なあっさり感に少し戸惑う。でも美味い。
12月某日 銀座資生堂ビルに行き、同社文化部が出している冊子『WORD』を数冊購入。藤森照信×森まゆみ、池内紀×角田光代対談など。
その後しばらく銀座の雑踏を歩く。師走でクリスマスが近いせいか、何となく浮き足立っている雰囲気につかる心地よさ。銀座を歩く人の表情を見ることの何と面白いことよ。気分が高揚してくる。
奥村書店三店をいつもどおり流したあと、木挽町にて夜の部「椿説弓張月」を観劇。夕食は久しぶりに一風堂で赤丸新味(700円)。美味いなあ。ついスープも最後まで飲んでしまう。
12月某日 高田馬場から徒歩で早稲田へ。早稲田の古本屋街は日曜のためことごとく休み。日曜は営業していたように思っていたが、勘違いか。
早稲田大学の演劇博物館に行き、「よみがえる帝国劇場」展・「近代東京の歌舞伎興行」展を観る。当初目当ては後者だったが、前者も面白い。最近『喜劇の殿様―益田太郎冠者伝』を読んだゆえ。両方の展示を見て思うのは、明治・大正頃には、モダンな大劇場が東京の至る所にあったということ。「関の扉」で七代目幸四郎と森律子が共演している写真に戸惑う。
見終えてのち、新目白通へ坂道を下る。今日の目当てのいまひとつ、ブックオフ都電早稲田駅前店を目指すも、あったはずの場所にあの黄色い看板が見当たらない。と思ったら、なんと閉店していた。愕然。
まったく本を買えなかったことに苛立ちながら、バスに乗って湯島まで出、帰途につく。このバスは、小滝橋車庫発上野公園行の「上69」番線で、早稲田から安藤坂を上って伝通院前を通り、富坂を下って東京ドームの脇に出、さらに真砂坂を上って本郷台地を駆け上がり、今度は切通坂を下って湯島・上野に抜けるという、大きなアップダウンを二度繰り返す楽しいルートである。
12月某日 木挽町にて、十二月大歌舞伎昼の部のうち「佐倉義民伝」を幕見で見る(1000円)。勘九郎の芸に大泣き。涙で芝居が見えなくなる。今年のベストなり。
昼食は元楽@銀座にて楽ラーメン・ぶためしランチセット(800円)。
歌舞伎座に行く前に教文館にて時間つぶし。本を一冊買おうとしてレジの前に立つと、そこに『沢木耕太郎ノンフィクション1 激しく倒れよ』の署名本が並んでいた。沢木さんの署名本を手に入れる滅多にないチャンスと思ったので、衝動買いしてしまう。よくよく考えるとこれは最新刊ではないのだが、このシリーズまだ持っていなかったのでよしとすべきか。
12月某日 根津の裏通りにある蕎麦屋三里にて、友人と二人で忘年会。そばさしみ、だし巻玉子、鴨鍋、天ぷらなどをつつきながら、ビールと焼酎そば湯割りを飲み歓談。最後は田舎蕎麦で締め。この店は雰囲気がいいなあ。またやりたいものだ。
12月某日 池袋に行く。リブロジュンク堂にて、新聞広告にあった本を探す。関係ない本まで見つけて、一冊リブロで購入。目当ての本はジュンク堂で見つける。建築関係の新刊を探すため、はじめてジュンク堂の工学書のフロアに行ったが、なかなか建築関係の新発見本もあって、面白し。ジュンク堂にいると時間の過ぎることを忘れる。
午後は職場にて所用。
12月某日 松涛観世能楽堂で催された「東京大学観世会・東大観世OB会合同自演会」を観に行く。同僚が世阿弥作の能「野守」のシテを演じるゆえ。これまで観た能のなかでもっともわかりやすかった。だんだん謡や能を楽しく観ることができるようになってきた。
その前に渋谷古書センターに立ち寄り数冊購入。道玄坂の裏の方の猥雑な雰囲気から歩いて数分、Bunkamuraをちょっと北に入るともう閑静な高級住宅地の松涛だ。このコントラストが実に面白い。
12月某日 仕事帰り新宿に出て、伊勢丹古本市に行く。初日ということもあり、熱気ムンムン。汗ばむくらい。野口冨士男『いま道のべに』など収穫あり。