人魚姫:前編
昔、森や山々、河や大海原は生命に満ち溢れて限りなく鮮やかに輝いていました。
草花や樹々の梢、渚や川面、山嶺や大地の稜線に生きとし生ける物達すべてが営み
を星空の元、薔薇色の朝陽や群青の層空、茜色のヴェールに包まれた、この星の中で
終わることなく繰り返されていました。
しかし、人々が便利な暮らしを自然に相談するもなく追い求めだすと森は消え、山は
枯れて川は淀み、海は臭いを放ちだしました。大地のゆりかごに抱かれた遊牧民、大
空の旅人、大海原の駆ける輝きたちも、次第に人々の前から遠ざかっていきました。
そんな中、海に住む人魚達は星の守り人から、再び元の美しい自然に戻す方法を伝
え聞いたのです。
「月明かりに海に現れる星の使者に、自然を回復させる道具3つを渡すのです。3つ
の道具は自然を思う魂の輝きから現れます。空を戻す鏡に、海を戻す剣、山々を戻す
勾玉の3つを捜し出して星の使者に託すのです。」
沸き立つ積雲に姿を借りた守り人は伝え終わるとスコールとなり虹となって去りました。
人魚達は夜も昼も話し合いました。生まれたこの島の洞を離れ、人となり海の向こう
側へと旅をし、島にはない草原を、山の峰嶺を、丘陵を越え、汚れた街と森と河の麓で
使者を、道具を持つものを探さなければならないからです。幾度の朝を過ぎた、
静かな
午後にこの役を担う二人の人魚の姫が選ばれました。
一人は紺色の髪の人魚、ユラナ。もう一人は碧色の長い髪の人魚、ネピチアでした。
旅立ちの朝、使者が現れる方角へ星が流れました。
二人は海豚の背に乗り、その方角へと向かいました。そして空が白むころに浜へと
上がり、見送る海豚に別れを告げました。
二人は人の姿になり、使者と3つの道具を探し始めました。
街から街を探し歩き、山々を、平原を、大河の川岸を、仲良くなった馬や鳥使いの神、
森の笛拭き人の助言のもと、来る日も来る日も使者と道具を探す旅を続けました。
故郷である海の周りの諸島人は自然を理解し、慈しんでいましたが、都会の人々は、
気づかないのか、それとも平気なのか、誰も自然を見ていませんでした。二人は始め
てみる景色や乗り物、音や人々の生活や海では見ることの無かった動物に驚き、興味
を示し、不思議な味の食べ物にも惹かれはしました。でも、二人は人々の生活を持て
余すことには気づきました。そして、使者と道具を持つ者を捜し出せるのだろうかと。
そんな中、月明かりの夜に埠頭で出会った少女が、星の使者であることが判りました。
使者の居る街を示す流れ星が見えず、途方に暮れて海に相談していた、その夜でした。
使者は二人の想いと使命をくみいれ、一緒に道具を探すことにしてくれました。
ユラナとネピチア、二人の人魚は使者に励まされ、勇気づけられ、護られて、つらい
旅すら温かみを感じました。幾つもの国を周り幾つもの海と空を越えた旅が続いたのです。
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98/10/06
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