第壱章:刻印
西暦2039年3月21日月曜日
(ナレーション:矢島正明)
宇宙使徒との通称「降臨戦争」終結から約5年。
地球圏の復興はようやく軌道に乗り始め、ますます厳しくなる寒冷化現象を遅くするために両極圏への暖気流入を阻止すると共に、
赤道面海域の海水温の局所上昇を抑制するためにオービタルリングとオービタルシャフトへの依存度は高まろうとしていた。
地球上での環境破壊を抑える為に鉱物・エネルギー資源を月面および静止衛星軌道に構築された太陽光プラントから大部分を賄う為にである。
それと同時にインド洋、月面、火星で発掘された超古代に相当する遺棄宇宙船の調査も再開されたいた。
何者かが遺したこれら建造物、宇宙船、そしてEvangelion。
壮絶なる死闘を経てもぎ取った禁断の果実の真意が今、ここに始まろうとしていたことを知る者は少なかった。
真・世紀エヴァンゲリオン(ChangeGenesisEvangelion)
-想い出を抱き締めて、明日にサヨウナラ-
(Aパート開始)
合衆国、新生宇宙軍Newエドワーズ地上基地。
ひっきりなしに貨物搬入が続けられている同基地内、警備控え室内。
「やけに今週はブーメラン(EVA専用長距離輸送機の通称)が集まってくるじゃないか」
「さあな、シャフトへの資材輸送で、一度に運搬可能な量、大きさ共にこいつの胃袋に
適うサイズはないからな」
「下の連中に聞いたんだが、サロマンからのリニアトンネル輸送貨物が随分でかいそうだ」
「それもブーメランに積み込む貨物だろう」
間断無く到着する貨物カーゴの振動が建物を揺らしつづける。
離発着の図太いエンジン音が扉越しに伝わってくる。
「だがな、ちらっとキャリーボード(POS端末の一種)覗いた奴の話じゃあ"E.V.A"とスペ
リングしてあったそうだ」
「何だって!?」
缶ビールを喉に詰まらせ咳き込む警備主任。
「ジャパンの3rdトキョーの2体しかもう残っていない筈だぜ」
周囲を伺い、顔を近づけ
「いいか、他言無用、こんなやばい事、誰にも話すんじゃねえぞ」
3月22日
春先だというのに空模様は真冬に逆戻りしたかのように鉛色に沈んでいた。
「よりによってこんな日に護衛任務かよ」
ごちるハンソン。
「冬月教授から内密の依頼がノリコ参謀にあったってことらしい」
「しかし、初号機と零号機の発掘は去年に終わったし今更あそこから目新しい
ものでも出たのかねえ」
前方を走るトレーラーを見やりながらハンドルを持つサムソン。
「あそこも遺跡都市の一つだ。
降臨戦争当時ではままならなかった調査で見つかったんだろう」
やがて研究施設が見えてきた。
ここに降ろすらしい。
駐車場に四駆を止め、トレーラーの周囲を警備兵と共に見まわろうとした最中、
巨大な蛇のような物体が山向こうから迫ってきた。
「くそう、何だってこいつらが」
「俺達が絶滅させたんじゃなかったのか」
異形の怪物達が雷雨の中、松代の研究所を襲い来る。
「ハンソン君、サムソン君、コンテナを守ってくれ、さらばだあ」
言い残しながら冬月教授が暗闇に飲み込まれていく。
巨大化した怪物は使徒の形態に遷移していく。
「くそおっ」
トレーラーを回頭させ脱出を図る二人組。そこへゼルエルの手が伸び破壊を
試みようとした刹那、地中を突き破りEVA-3が羽交い締めにした。
爆発が周囲を包み込んでいく。
「だ、誰が、あれに乗っているんだ!?」
同日、午後2時35分、旧第三新東京市
「くたばりやがれ、ジジイ!!」
大仰にプログブレードを上段に構えと飛び上がる初号機。
プラグ内で警戒色に目を滾らせ、シンジは絶叫する。
「贖罪せねばならぬ。
そう、我々は過ちを犯したのだ。終わりが無いところに始まりはないのだ」
「黙れ!!貴様が何をしたか忘れたとでも云うのかっ」
取り囲む弐号機軍団を打ち払いながら、旧MEATIA日本本部ビルに迫る。
「そうやってアスカを殺したようにこの父を殺そうとするのか!?」
ATフィールドの過干渉でプラズマ化した大気が放電を起こす。
「やかましい!!貴様がやろうとしたことが許されるとでも思うか、
トウジを殺したことを忘れたのかあっ!!!!!」
フラッシュバックする戦闘シーン。
初号機の手刀が弐号機の胸を貫き強引にエントリープラグを抜き取る。
宇宙使徒に侵食された弐号機は体組織を初号機に融合させようとする。
絶叫と共に右手で握り潰し、弐号機を零号機が吹き飛ばす。
「……こ、ろ、、て」
微かに消えゆく惣流・アスカ・ラングレーのLCRの輝き。
「シンジ君!」
零号機が初号機に取りつこうとする量産型EVAをなぎ払う。
「全ての犠牲の上に生きる。罪を封印したままにだ。 お前達もそれを望むか、レイ」
二人の結婚式は翌週である。
そこに死んだ筈の碇ゲンドウがEVAシリーズ及び弐号機軍団を率いて第三新東京市を占拠した。
弐号機軍団に次々と駆逐されていく戦自のガンバスター隊。
新横須賀から搬送されようとしていた両機に火が入る。
移送任務の為に一時帰国した二人に連絡が届けられた。
「シンジ君、レイ、二人共EVAで出撃して。
支援体制が整わないから現場を急襲、目標の40%を破壊したら一時後退。
補給の為にこちらでは回収船をシャフトに向かわせたわ。
Nノーチラスもネモ提督もドイツから向かってもらうから」
「内閣調査室の監視は撤回して貰ったわ。
日本国内での行動はもう自由よ」
モニターに横から話しこむノリコ参謀。
埋没状態から発掘後の起動、及び回収船で月への輸送を行うために特例として碇シンジと綾波レイが
派遣されていたのである。
戦闘が激化する上空に次々と飛来し、空を塗り潰していくEVA長距離輸送機群。
だが、認識コードにも応答せず、国籍表示もされていない。
「飛来が早すぎるわ、一体何処から?」
「ブーメランだけで何を?
ガンバスターは空挺展開できない筈なのでは」
情報収集に錯綜する国連宇宙軍月面基地。
月面以上に右往左往する戦略自衛隊作戦本部。
矢継ぎ早に指示を出すタカヤ・ノリコ参謀とミサト作戦課長。
「映像出ます!」
ブーメランの腹部には開発が凍結された筈のEVAシリーズが格納されている。
月面基地の面々がどよめく。
「ミサト作戦課長、各国とも空軍の出動した形跡がみられません」
「飛来したEVAシリーズはドイツ、中国、アメリカ、フランスおよびイギリスからのものだと確認されました」
「一体、どこまで味方なの」
「提督」
「ジャン君、大丈夫だ。我々は間に合うよ」
ケルン軍港から急角度で上昇し、弾道飛行に執りかかろうとするNノーチラス。
大気圏下用主翼を格納し、対消滅基幹駆動を全開にする。
航行ガイダンスを入力し最適経路を選択していく。
「はい。
N2魚雷は?」
「残存する31発を全て積み込んだ。
非公式にだから、終わった後で問題になるだろう」
腕を組み直し、提督帽を被り直す。
クルー達も久々の戦闘に腕が鳴るようだ。
「提督!!」
「何だ?!」
「奇妙な通信をキャッチしました。シャフト方面です」
次々と圧倒的なまでのコンビネーションで弐号機を屠っていく初号機と零号機。
ホーミングフェザーが自由を奪い、零号機が討ち仰ぐロンギヌスの槍がLCRへと還元していく。
だが、不敵な笑みを浮かべたままのゲンドウ。
降下したEVA量産機が弐号機軍団と戦闘を開始しだした。
無秩序な混戦が展開されて行く。
瓦礫がうず高く積み上げられたような廃墟の都市、第三新東京市。
第4芦ノ湖から幾つもも滝が流れ込み、地下都市の殆どは水没している。
バシュルムっ。ドグマより浮上したプラグ内に人影が一つ。
「それは、まさか」
「シンジ君、下がって」
「ふはははは、ガフの部屋は満たされていなければならない」
つづく