ゲーリー・クーパーの西部劇


 

ゲーリー・クーパーは92本の映画に出演(エキストラや短編映画は除く)していますが、西部劇には28本出演(私見:該当作品は文末)しています。1926年の『夢想の楽園』という西部劇でデビューし、29年の『ヴァージニアン』でクーパー=西部劇というイメージが定着しました。だけど、31年の『戦ふ隊商』以後、33年に『硝煙と薔薇』という南北戦争を背景にしたスパイ物があるだけで、37年の『平原児』まで西部劇に出演していないんですね。淀川長治さんは、この期間にクーパーの映画演技が完成したと言っています。31年までは、クーパーの持つ“クセ”を映画会社が“個性”に製造したのに対し、37年以降はクーパーがその個性を自分の手で磨き上げて芸にしていったんですね。西部劇の出演数が少なくなっても、西部劇のキングとして君臨したのは、この芸によるものだと思います。

クーパーの西部劇:『夢想の楽園』、『アリゾナの天地』、『令嬢馬賊』、『ネバダ男』、『狼の唄』、『ヴァージニアン』、『勇者ならでは』、『テキサス無宿』、『掠奪者』、『戦ふ隊商』、『硝煙と薔薇』、『平原児』、『牧童と貴婦人』、『西部の男』、『北西騎馬警官隊』、『無宿者』、『征服されざる人々』、『ダラス』、『遠い太鼓』、『真昼の決闘』、『スプリングフィールド銃』、『悪の花園』、『ヴェラクルス』、『友情ある説得』、『西部の人』、『縛り首の木』、『腰抜け列車強盗』、『コルドラへの道』の28本。

『狼の唄』、『勇者ならでは』、『硝煙と薔薇』、『牧童と貴婦人』、『友情ある説得』、『コルドラへの道』には、異論のある方もいるでしょうね。

 

『戦ふ隊商』(1931年/監督:オットー・ブラワー&デビッド・バートン)

幌馬車隊の道案内人のクリント(ゲーリー・クーパー)は、インデペンデンスの町で喧嘩して保安官に捕まってしまう。仲間のビル(アーネスト・トレンス)は、幌馬車隊と一緒にサクラメントに行こうとしているフェリス(リリー・ダミク)に、「女一人では幌馬車隊に加わることができない」と言って騙し、クリントを釈放させるためにフェリスをクリントの結婚相手に仕立てる。フェリスの嘆願でクリントは釈放され、幌馬車隊はサクラメント目指して出発する。しかし、行く手には獰猛なインディアンが待ち受けていた……

飄々としてスマートで、はにかむ姿が何ともいえないクーパーの魅力あふれる作品となっています。相手役のリリー・ダミクは撮る角度のよっては美人なんですが、正面から見ると今イチです。

作品全体がどこかで見たような感じを受けるのは、西を目指して進む幌馬車隊のロングショットが全てサイレントの名作『幌馬車』(1923年/監督:ジェームズ・クルーズ)からの使いまわしだからですね。独自に撮影しているのは、ラストでクーパーが河に流した灯油に火をつけてインディアンを撃退するシーンくらいかなァ。

戦後(1957年)、『激斗の河』という邦題で、短縮版で再上映されていますが、場末の三流館や地方の映画館で公開されたため、あまり話題にならなかったようで〜す。

 

『牧童と貴婦人』(1938年/監督:ヘンリー・C・ポッター)

ストレッチ(ゲーリー・クーパー)はモンタナのカウボーイで、ロデオ仲間と合コンに出かけ、メアリー(マール・オベロン)という女性に恋をする。メアリーは、上院議員の娘だったが、ストレッチの好みが働き者の女性だったので、家政婦と偽ってストレッチと仲良くなったのだ。二人は結婚するが、メアリーは真実を告げることができないまま……

“素朴で、純真で、あたたかく、いつもかすかなハニカミをたたえた男”であるクーパーの魅力だけが取り得の作品です。金持ちの深窓の令嬢が、たった一夜、出会っただけの牧童に恋をして結婚するなんて、とてもありえない話ですが、相手がクーパーなので納得感があるんですよ。

合コンするロデオ仲間の一人としてウォルター・ブレナンが出ているのですが、一瞬、誰かと思ったくらい若作りをしていました。当時44歳、実年齢より若い役のブレナンを初めて見ました。

 

『無宿者』(1945年/監督:スチュアート・ヘイスラー)

メロディ・ジョーンズ(ゲーリー・クーパー)とジョージ・フュリー(ウィリアム・デマレスト)は、やって来た町で、手配書の特徴と頭文字が同じだったことから駅馬車強盗のモンテ・ジェラード(ダン・デュリエ)に間違えられる。ジェラードの恋人チェリー(ロレッタ・ヤング)は、追手の目をくらますために二人を町から逃がすが、チェリーに一目惚れしたメロディはチェリーの家に引き返す。チェリーの家には負傷していたジェラードがおり……

クーパーが自らプロデュースした西部劇。鼻歌は得意だけど射撃が下手くそという主人公は、他のプロデューサーでは天下の西部劇ヒーローであるクーパーに演じさせられなかったでしょうね。

スチュアート・ヘイスラーの演出は凡庸で見るべきところはあまりないのですが、クーパーは天然演技でコミカルな味を出していました。

「私が撃って当てたら、それが狙ったマトなの」と言って、クーパーと結ばれるロレッタ・ヤングは魅力的です。

後は、う〜ん……

 

『コルドラへの道』(1959年/監督:ロバート・ロッセン)

観察将校のソーン少佐(ゲイリー・クーパー)は、叙勲のためにパンチョ・ビラ軍との戦いで活躍した5人の兵士(タブ・ハンター、ヴァン・ヘフリン、リチャード・コンテ、ディック・ヨーク、マイケル・カラン)と基地のあるコルドラに向かう。反乱軍に協力した女牧場主ギアリー(リタ・ヘイワース)も基地へ連行することになり……

最初に戦闘シーンがあるだけで、馬を放してゲリラから逃れた後は延々と歩くだけ。第一次大戦への参戦をひかえ、PR用の英雄を作る必要のあった国家の思惑と、戦場の勇気について問題提起した異色作ですが、ダラダラしすぎて退屈してきます。はっきり言って失敗作ですね。

でもって、厳密にいうと西部劇といえるか疑問の作品です。淀川長治さんは、クーパーの西部劇を26本あげていますが、その中には含まれていません。私はメキシコ革命も西部劇と思っているので、含まれると考えていますけどね。

 

 

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