西部小説


『コールドマウンテン(上・下巻)』(新潮文庫)

チャールズ・フレイジャー:著(土屋政雄:訳)

2004年4月1日 第1刷発行

 

ロマンス小説に毛の生えた程度のものかと考えていたのですが、これが中々の優れもので、1997年度全米図書賞を受賞したのがわかります。

通常の小説に比べて会話部分が極端に少ないですが、心情描写は南北戦争当時の風物を巧みに取り入れて見事に活写されています。西部劇ファンにとっては詳細な風物描写がたまらなく嬉しいのです。訳者があとがきに書いているように、140年前のアメリカに浸りきり、その雰囲気を堪能できました。

それにしても、この小説に出てくる風物は資料としても役立ちま〜す。

 

『ジェロニモ』(めるくまーる)

フォレスト・カーター:著(和田穹男:訳)

1995年12月25日 初版発行

 

ジェロニモの一代記を通して、白人文明の野蛮によって蹂躙されたインディアンの痛惜の念が語られています。それは、酔って騎兵隊員を殺した老インディアン(妻子はサンドクリークで殺されている)の裁判での言葉によく現れています。

「最後の木が切られちまったら……最後のバッファローが死んじまったら……最後の金塊が掘り出され、最後のインディアンが殺されちまったら……それから先、あんたら何をするつもりなんだ? きりのない欲でもって何をするつもりなんだ? 子どもたちにもあんたらを見習わせるのかね? 最後には何も残らなくなっちまうぜ……」

 

『ジェシー・ジェームズの暗殺』(集英社文庫)

ロン・ハンセン:著(上岡伸雄:監訳)

2007年12月20日第1刷発行

 

1983年に発表された著者のデビュー2作目です。ブラッド・ピット主演で映画化され、2008年1月に公開が決まったので慌てて翻訳された感じですね。上岡伸雄氏を含む4人が分担して翻訳し、上岡氏が最終的に訳文のチェックと文体の統一を図って出版されており、訳文が全体的に粗いのは否めません。はっきり言って読みづらいです。西部劇の好きな私としては楽しみながら読みましたが、ジェシー・ジェームズ(西部劇でお馴染みの伝説的物語)を知らない人にとっては面白い小説とは思えません。

著者のデビュー作『Desperados』も実在した西部の無法者・ダルトン兄弟を扱った西部小説らしく、読みたいと思いますが、ジョニー・デップあたりの主演で映画化でもされないかぎり翻訳されることはないでしょうねェ。

 

『ヴァージニアン』(松柏社)

オーエン・ウィスター:著(平石貴樹:訳)

2007年7月15日初版発行

 

西部劇の資料には必ず名前の出てくる小説なので、読んでおかなくてはと決心して読みはじめたのですが、760ページは長かったァ。

書かれたのが100年以上も前の1902年なので、現在の小説と比べて冗漫なところは否めないです。だけど、開拓時代の西部の雰囲気(東部と異なる生活・風習)が活写されており、西部小説のモデル(リアルな西部と異なるフォクションの西部)となったのは納得がいきましたよ。

主人公は南部(ヴァージニア)訛りがあるので、ヴァージニアンと呼ばれているのですが、小説でもオーエン・ウィスターは母音を引き伸ばして間延びさせた会話表現していたそうです。訳者も“おれン”とか“あんたン”といった表現で南部訛りのニュアンスを伝えようとしていますが、そこまで日本語訳でする必要があったか疑問です。会話部分が読みづらくなりましたからね。

私が観た映画の中(ゲーリー・クーパー、ジョエル・マックリー、ビル・パクストンがヴァージニアンを演じている)ではトランパスは、どの作品でも自信満々の悪党でしたが、小説ではあの有名なセリフ「日暮れまでに出て行け!」を言った後、後悔しているんですね。言ったてまえ、自分から逃げ出すわけにいかず、死の恐怖をまぎらすために酒を飲んで決闘に臨みます。映画にない味があって、面白いと思いました。

 

 

トップへ    目次へ   次ページへ