左膳雑記

丹下左膳について種々雑多なことを、メモ代わりに記録していこうと思っています


幻の丹下左膳

丹下左膳映画は、中村錦之助が主演した1966年の『丹下左膳・飛燕居合斬り』が最後ですが、錦之助の後に映画史では永遠に出てこない丹下左膳のポスターがあるんですよ。

 

“トラック野郎”シリーズで大ヒットを飛ばした東映の天尾完次プロデューサーと鈴木則文監督が菅原文太主演で企画したものです。

社長を説得するために、ポスターまで作っているんですね。ポスターで評判を立て、映画を作らざるを得ない状況へもっていく作戦だったようです。

当時“トラック野郎”シリーズで東映のドル箱スターになっていた文太の映画ですから、うまくいくと考えたのでしょうが、「こんなもん、いまどき」の社長の一言でつぶれたそうです。

 

   隻眼隻手、おぼろ月夜にうつる影

    姓は丹下、名は左膳……と

    大見得きりてェところだが

    そこは文太、昔ながらの剣戟ものに

    おさまりかえる了見は

    これっぽっちもありゃしねェ!

  いいなあ、この惹句。

 

※『惹句術』(ワイズ出版)より                           (2000年1月)

 

福本清三と丹下左膳

豊悦の『丹下左膳・百万両の壷』に、日本一の斬られ役・福本清三さんが出演しています。ラスト近くの立回りに登場するのですが、あっさりと見事に斬られています。

ところで、清三さんは丹下左膳になったことがあるんですよ。といっても、五社英雄監督の『丹下左膳・飛燕居合斬り』で中村錦之助のスタンドインをしただけなんですが。

寛永寺での立回りシーンで、縁側廊下の欄干を飛び越えた時に頭から落ちて周りの人が皆ビックリしたとか。片腕が使えないので、バランスを崩したそうです。五社監督は、その時の努力に報いるためか、テレビの時代劇スペシャルの『丹下左膳・剣風!百万両の壷』(仲代達矢:主演)で清三さんに重要な役を与えています。

『剣風!百万両の壷』は『飛燕居合斬り』をそのまんまリメイクした作品で、冒頭で仲代左膳の油断を見すまして右腕を斬り落とす侍なんです。普段はセリフもなく斬られてばかりですが、この作品ではセリフもあって、堂々たる見せ場になっていました。

(2004年6月)

 

山中貞雄DVDボックス

終戦直後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の検閲があり、各映画会社が既存のフィルムを提出しました。日本人が復讐心や暴力的思想を持たないように、GHQは仇討やチャンバラシーンをズタズタにカットしたんですね。

山中貞雄監督の『丹下左膳餘話・百萬両の壷』もその洗礼を受けていて、ラスト近くに、左膳とごろつきたちの乱闘場面が2分強あるのですが、現在のフィルムには残っていないんですよ。ところが、山中貞雄DVDボックスで発売された『丹下左膳餘話・百萬両の壷』のDVDには、たった20秒ほどですが、最近見つかったその乱闘シーンが特典映像としてついています。

山田宏一さんが、その場面を的確に表現していますので、そのまま引用しますね。

“ドスを構えた6〜7人のやくざに迫られた左膳が抜く手も見せずひとり斬ったかと思うや、キャメラが1本の木をはさんで斬り込むように移動し、最初に斬られたひとりが倒れたときには、すでに3〜4人斬り捨てて奥の方へ駆け抜けていく左膳を「縦の構図」でとらえた鮮やかな山中タッチが見出される”

どうです、観たくなったでしょう。

(2004年7月)

 

テレビ版丹下左膳

録画していた6月30日放送の中村獅童の『丹下左膳』を観ました。

安っぽいセット(予算がないのなら、江戸城のシーンなんか撮らなきゃいいのだ)に、ありふれた物語展開。左膳が片目片腕になった経緯なんてどうでもいいことなのに、どうして入れたがるんですかね。

原作の左膳は、櫛巻お藤とチョビ安の二人をのぞいて、世間の誰からも化け物として嫌がられている根性のひねくれたアウトサイダーなんですよ。なにかというと走り回って斬りまくる、捕方だろうとなんだろうと相手かまわずの危険人物なところに魅力を感じるわけで、何故そうなったかなんて必要ありません。獅童はイイ線いっていたのに、余分なことをしたため、つまんなくなりました。

それにしても、柳生源三郎と萩乃のドヘタ演技には観ていてシラケました。ダイコンでもオーラを感じる美男・美女ならガマンできるのですが、それもないし……

 

 

CATVの“時代劇専門チャンネル”で、五社英雄:演出、仲代達矢:主演の『丹下左膳・剣風!百万両の壷を観ました。

昔フジテレビの時代劇スペシャルで観た時は、メチャ面白かった記憶があるのですが、今回観直すとウ〜ン。

五社監督の『丹下左膳・飛燕居合斬り』(1966年・東映)のリメイクで、映画より先に観たために印象が強かったのでしょうね。仲代左膳は陰気でスカッとしたところはないし、立回りはスピードも豪快さもなくヘナヘナ。

最後のテレビ出演作品となった夏目雅子の萩乃(やつれた感じは病気の影響か)、オッパイ丸だし演技の松尾嘉代のお藤、西村晃の愚楽、夏八木勲の蒲生泰軒が良かっただけに、余計に仲代のヨタヨタした見るに耐えない立回りが興ざめとなりました。

記憶なんて、あてにならないや。

(2004年7月)

 

 

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